6.「ランキング二位のクラン代表の頼み事(※曇らせ回(後半部分))」
「県警の者です」
僕が復活した直後、警察の人たちがやってきた。
「彼らの身柄は我々が拘束しますので。犯罪者の逮捕に御協力頂きまして、感謝致します」
敬礼する彼らに、僕も敬礼で返す。
彼らは、レオたち三人を抱えて連行していった。
「警察官の人たちもヒーローだよね! 悪を成敗する姿、格好良いなぁ!」
僕が頬を紅潮させていると、ミシロが首を傾げた。
「あれ? 確かダンジョン内は、警察の人たちは入れないんじゃ……?」
※―※―※
「助けてもらって、本当にありがとうございましたっす!」
人質に取られていたカエに怪我はないか聞いて、大丈夫だったので安堵した僕は、みんなで一緒に地上まで彼女を送っていった。
ちなみに、その最中、配信用ドローンが空中に投影したコメント欄は、お祭り騒ぎだった。
〝サク、格好良かったぞ!〟
〝あのレオをぶっ倒してくれてありがとう!〟
〝いやぁ、スカッとした!〟
〝まぁ、ちょいと人外じみてたが、今更だな! ヒーローってのは何かしら突き抜けてるもんだしな!〟
「ありがとう、みんな! 嬉しいよ!」
※―※―※
なお、三日前の巨大毒蜘蛛との対決と今回のレオたちとの戦闘を経て、ミシロ、ルリ、そしてユミは、遠距離攻撃の必要性を感じたらしい。
元々光魔法で聖光を放てるミシロも、効果範囲を絞った細い光線を飛ばせるようになりたいとのことで、炎魔法の潜在能力があることが分かっていながら全く鍛えていなかったルリと、せっかく光精霊魔法が扱えるのに小さな照明しか生み出せなかったユミと共に、遠距離攻撃用に魔法の修行を行うとのことだった。
三人とも格好良い!
彼女たちの魔法を見られるのが、今から楽しみだ!
※―※―※
<残り24日>
翌日。
いつも通り、N市ダンジョンにて、解呪アイテムを探しつつ、ダンジョン自殺をしようとする女の子をモンスターから助けた後。
「ちょっと良いかな? 緋色サクタロウ君」
突如、軽鎧を装備した青色ポニーテールの妙齢女性から話し掛けられた。
僕が反応するよりも早く、ミシロが驚いて声を上げる。
「クランランキング二位に位置するライジングエアを率いるヨノカさん!?」
「光栄だね、知ってくれているなんて」と、ヨノカさんが爽やかな笑みを浮かべる。
「改めて。あたしはヨノカ。レオの馬鹿を倒すところ、見たよ」
「あ、そうなんだ! ありがとう!」
嬉しくなった僕が破顔していると、ヨノカさんが真剣な表情を浮かべた。
「サクタロウ君。折り入ってお願いがあるんだ。どうか、ビクトたちを助けてもらえないだろうか?」
※―※―※
話を聞いたところ、どうやらヨノカさんはビクトさんの彼女らしくて、レオの毒のせいで東京の病院に入院している彼を、僕の解毒薬で救って欲しいらしい。
「レオの毒を食らっても平気で、仲間たちに解毒薬を作ることさえ可能な存在なんて、サクタロウ君以外にいないんだよ! お願いだ! 頼む!」
声を震わせながら頭を下げるヨノカさんに、僕は二つ返事で頷いた。
「僕で良ければ、是非やらせて!」
「本当か!? ありがとう! 本当にありがとう! 御礼に、あたしが払えるだけの金額を、どれだけでも払うから!」
「え? 別にお金は良いよ」
「そうはいかない! あたしの我がままに付き合ってもらうんだ。絶対に受け取ってもらうからね!」
頑として譲る気は無いらしい。
「……分かった。じゃあ、ありがたく頂戴するね!」
「ああ! 本当にありがとう! 恩に着るよ!」
ヨノカさんは、僕の手を握り、何度もそう繰り返した。
※―※―※
<残り23日>
翌朝。
「心配だから」と、ミシロたちがついてくる中、僕はヨノカさんと共に新幹線で東京へ向かった。
大きな病院に着くと、地下に案内された。
幾つもの分厚い扉を超えた先にあったのは、他の病室からは完全に隔離された集中治療室だった。
広い部屋の中、他の精鋭たち二十人と共に、ビクトさんは病床に伏していた。
「……やぁ、初めまして。わざわざ来てくれてありがとう、感謝するよ」
プラチナブロンドヘアの青年は、全身が紫色に変色していた。
毒に侵されて常に吐血と激痛に苛まれているであろう彼は、そんな素振りは微塵も見せない。
「横になったままですまないね」「いえ、気にしないで」とやり取りした後、「では、早速始めるね」と、僕は解毒薬の水まんじゅうを作ろうとした。
けど。
「あれ? ……作れない」
調子が悪いのか、精製出来なかった。
「しょうがない。じゃあ、抜き取っちゃうね!」
僕は左腕を自分で切断、増殖させると、スーッと飛ばして、二十一人全員の胸に同時に触れた。
「こっちにおいで!」
僕の声に呼応して、彼らの毒が僕の腕へと移動。
紫色だった彼らの肌が、元の健康的な色に戻った。
「す、すごい!」
「動ける!」
「奇跡だ!」
次々と立ち上がる患者たち。
代わりに紫色になった僕の前腕を、彼らの方に毒が戻らないように封じ込めようと、僕は一本に合体させた上で、上腕にくっつけて元に戻した。
「また歩ける日が来るだなんて……ありがとう!」
ベッドから降りて自身の足でしっかりと床を踏み締め、笑顔を輝かせるビクトさんに、ヨノカさんが抱き着く。
「ビクト! ビクトおおお! 良かった! 良かったああああ!」
「……心配掛けたね、ヨノカ」
本当に良かった!
※―※―※
<残り22日>
次の日。
N市に戻った僕らが、いつも通り四人で解呪アイテム探しとダンジョン自殺防止活動をした後。
「うぐっ!?」
「サク君!?」
「サク!?」
「サクサク!?」
突然目の前が真っ暗になって、僕は倒れた。
「あれ? 松明が全部消えちゃったのかな? 何も見えないや」
近付いてきた気配がしたと思ったら、ルリの声が聞こえた。
「サク……あんた、眼球が両方とも落ちてるし……」
「え?」
そうか、だから真っ暗だったんだ。
「力が入んないや……ハイポーションは効かないし……悪いけど、目玉を拾って入れ直してくれないかな、ルリ?」
ごくりと唾を飲み込む音がした後。
「……分かったし。あーしに任せるし!」
ルリが、僕の肩に触れた。
「そ、それじゃあ、入れるし」
「うん、お願い!」
どうやら眼球を拾ってくれたらしいルリが、緊張で声を上擦らせる。
ルリが右目を僕の眼窩に入れる。
「ぐぁっ!」
「い、痛かったかい?」
「ううん、大丈夫!」
ちゃんと中の神経や血管と繋がった。
お陰で、見えるようになった。
続いて左目も入れてくれたんだけど。
「あれ? 落ちちゃう」
何度入れてもらっても、左目は入ってくれない。
「あ、そっか!」
分かった。
ビクトさんたちの毒を全部まとめたのが、目の裏側に保管されてたんだ。
それが内側から圧迫するから、目が落ちちゃうし、嵌めようとしても上手く嵌まらないんだ。
レオの普通の毒なら抗体もあるし耐性もあるから即座に解毒出来るけど、二十一人分を一気にまとめて吸い取っちゃったからね。それに、そもそも本調子じゃなかったのもあって、直ぐには解毒が出来ず、溜まっちゃったんだ。
時間を掛けて、やっと解毒は出来たし、触っても何の問題もないんだけど、黒紫色の塊が目の裏側にへばりついていて、そのせいで左目が入らないってことだね。
「えっとね、実は――」
僕は、事情を説明した。
その上で。
「ルリ。目の裏から、レオの毒の塊を外に掻き出してくれないかな?」
「!?」
ルリが言葉を無くす。
「ちょっと時間は掛かったけど、ちゃんと解毒は出来たし、触っても何の問題もないからさ。そうしたら、左目もちゃんと嵌まると思うんだ」
「そ、そうだよな……サクが左目が見えないとか、左目を失うとか、そんなのは嫌だし……こ、これは必要なことだし……」と、必死に自分に言い聞かせた後。
「わ、分かったし! やってやるし!」
ルリは、決意を固めた。
「い、良いか? 行くぞ?」
ルリの右手が、僕の左の眼窩に入ってくる。
「がぁっ!」
「ご、ごめん!」
「大丈夫だよ! 声が出ちゃうけど、気にせずに続けて!」
冷や汗を垂らしながら、ルリは慎重に右手を侵入させる。
「こ、これだな。の、脳味噌とかは大丈夫なんだよな?」
「うん! 隅に寄せてるから大丈夫! 今触ってるのは、毒の塊だよ!」
「思いっきり引っ張って! 掻き出して!」と、僕が言うと、ルリは息を吸い込み、意を決して掴み、力を入れた。
ブチブチッ
「ぎゃあああッ!」
「ヒッ! サ、サク!? サク!!??」
命そのものを引き千切られるような激痛に、思わず叫んでしまう。
脳味噌は痛みを感じないと言うけれど、どうやら毒の塊は脳全体に深く根を張っていて、神経や血管、更には骨にまで侵食しているらしい。
「……だ、大丈夫だよ! ちょっぴり痛かったけど、平気だから! 続けて!」
「ううっ……サク……ごめんな……」
ルリの頬を涙が伝う。
ブチブチッ
ブチブチブチッ
ブチブチブチブチッ
「ぎゃああああああああッ!」
毒の塊の根を僕の体内から引き剥がす度に僕は悲鳴を上げる。
「ごめん……ごめん……本当にごめんな……サク……ごめんな……ごめんな……」
ルリの両目から、とめどなく涙が溢れる。
「はぁ、はぁ、はぁ……やっと……取れた……これで、大丈夫かい?」
震える手で左目を嵌めると。
「あ! バッチシ!」
今度はちゃんと繋がった。
「ありがとう、ルリ! 助かったよ!」
いつも棍棒で戦うワイルドな姿を見ていたから、体内から毒の塊を引っ張り出すなら、ルリしかいないって思ったんだ!
期待以上だったよ!
やっぱりルリはすごいや!
「……どう……致しまして……ううっ……」
美しい瞳から光を失ったルリに、僕は白い歯を見せて笑った。




