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5.「vsレオ(その2)(※曇らせ回(後半部分)&ざまぁ回(前半部分))」

「チッ! 調子乗ってんじゃねぇぞ、クソ野郎が!」


 レオは、地面に伸びている部下の男二人の内、坊主頭の方の身体を蹴った。


「おらっ! おらっ! いつまで寝てやがる! 起きろ!」

「ぐはっ!? ……レオ様!?」


 何度も蹴られて吐血した坊主男が、意識を取り戻す。


「あのヒーロー気取りのクソ野郎の情報があんだろうが、出せ」

「じ、実は、あの男は、家族が誰もいなかったんです……」

「はぁ!?」

「それどころか、どこに住んでいるのかすらも分からず……」

「ふざけんなよ、クソが! 使えねぇな! おらっ!」

「がはっ!?」

「じゃあ、あの女どもの映像で良いから出せ」

「わ、分かりました……」


倒れたままの坊主男は配信用ドローンに手を上げて呼び寄せると、空中に投影された映像に触れて何かを操作した後、再び意識を失った。


「家族がいないから脅されないとでも思ったか? あめぇんだよ、クソ野郎が!」


 僕を睨み付け口角を上げるレオの頭上、ドローンから三つの映像が投影される。

 見ると、それぞれ別の場所の家が映し出されており、監視する黒服の男たちが複数人見えた。


「お父さん! お母さん!」


ミシロたちが悲痛な声を上げる。

僕は、「大丈夫。任せて」と、居ても立っても居られない様子の彼女たちを手で制した。


「これは、てめぇの大事な女どもの家族の家だ! 良いか、今この瞬間から、一切の抵抗を禁ずる。一ミリたりとも動くな。てめぇは、ただ俺様のサンドバッグになって、ズタボロになるまで殴られた後、惚れた女どもが俺様に凌辱されるのを絶望しながら見てやがれ! ギャハハハ!」


 深淵の人工的な天を仰ぎ高笑いするレオだったが。


スタスタスタ


「――って、何普通に歩いてきてんだよ!? 女の家族が殺されても良いってのか!?」


スタスタスタ


「クソが! 俺様が本気で殺さねぇとでも思ってんだな!? 良いぜ、やってやるよ! てめぇら! 今から女どもの家族を皆殺しにしろ!」


 腕時計型の端末に触れて命令を下すと、映像の向こうで黒服の男たちが『了解』と告げる。


「ざまぁみやがれ! これで何の罪もない善良な市民が死ぬ! てめぇのせいでな! ギャハハハ!」


 レオが哄笑を上げた。

 刹那。


『ごばっ!?』

『ぐぁっ!?』

『がぁっ!?』

『ごぼっ!?』

『ぐぼっ!?』


「――ハハ……ハ?」


 映像に映る黒服の男たちが、一斉に倒れた。


「な、何で……!? って、アレは……腕!? ま、まさか、てめぇ!?」

「うん、最初に左腕を自分で切断した時に、少し多めに腕を増殖させておいたんだ。地中を移動させたそれらを、N市全体に配置しておいたんだよ」


 驚愕に目を見開くレオに、僕は告げる。


「僕の腕は、悪を感知して自動追尾して倒す。この町で悪党に悪さなんてさせない!」


 地中を移動した僕の左腕たちは、黒服の男たちの足下から出現すると、カサカサと一瞬で身体を這い上がり、口から強引に体内へと侵入。


どうやら彼らは、今までに腕を飲み込んだ経験は無いようで、それだけで無力化出来た。


「くっ! バケモンが! でもまだ〝弾〟はあんだよ! 事務所の他の奴らも出ろ! 人数? んなもん全員に決まってんだろうが! 二百人総出で、ターゲットの家族どもを皆殺しにしろ!」


 「へッ! 見てろよ、てめぇ! 余裕ぶっこいてられるのも今の内だぜ!」と、勝ち誇るレオ。


「……って、やけに騒がしいな。アイツら、何やって――」


 レオが、ドローンに指示を出して、事務所とやらの映像に切り替えると。


『ぎゃあああああッ!』

『腕が襲い掛かって――ごべッ!?』

『ぐばっ!?』


 だだっ広い部屋の中に侵入した僕の左腕たちに体内に侵入され、蹂躙される黒服の男たちが映し出された。


銃を撃つ者も何人かいたが、素早く動く腕には当たらず、むしろ同士討ちを誘発している。


「は……!? え……!? はぁ!?」

「言ったはずだよ? 僕の左腕は、悪を感知して自動追尾して倒すって」


 「ま、まだだ! アイツがいる!」と、勢いに呑み込まれまいと、レオが声を張り上げる。


 最後の一人。

事務所の最奥には、日本刀を持った筋骨隆々で見事な髭を蓄えた中年男性がいた。


「ぬん!」


 僕の左腕たちが十本同時に襲い掛かるが、瞬時に全て一刀両断されてしまう。


「ギャハハハ! 見たか! てめぇの腕如きじゃ、アイツはやれねぇんだよ!」


 僕は、「強いね。じゃあ、増やそう」と頷くと、指を鳴らした。


 パチン


「ぬん!」


 百本にしたけど、それでもまた一瞬で解体されてしまった。


「しょうがないな、じゃあ、出血大サービス。百万本」


 パチン


 左腕を百万本に増殖。


「ぬ!? ぬおおおおおおおおおッ!」


 腕というよりもむしろ、〝肉の壁〟が迫ると言った方が良いような光景の中で、中年男性は頑張って切り伏せ続けていたが。


「ぬぐっ!? ぐうっ! ぐおおおおおおおおおッ!」


 多勢に無勢。

押し切られて、無数の腕に四肢を押さえ込まれた彼は、そのまま持ち上げられて、空中に磔にされた。


 そして。


「ぬぐおっ!? ぐごばっ!? ごぽっ!? ごぁっ!? ぐがぁ!?」


固く閉ざされた口を百本の腕で強引にこじ開けて、中に腕を十本入れて、それでも足掻こうとするため、体内で少々腕を激しく動かして暴れさせると、大量に吐血。意識を失い、やっと動かなくなった。


「そ……んな……アイツがやられるだなんて……」


 動揺を隠しきれないレオに、僕は指を翳す。


「じゃあ、同じことをしてあげるね。はい、百万本」


 パチン


左腕を切断、百万本に増殖して、波の如く押し寄せる大量の肉によって、レオを押し潰さんとする。


「舐めるなあああああああッ! 『アルティメットポイズン』!」


 レオが翳した両手から勢い良く噴射される毒霧によって、肉の波が次々と溶かされていく。


「ギャハハハハッ! さっきやられたのを忘れたのかよ!? 御自慢の腕攻撃も、俺様には効かねぇんだよ!」


 肉の波、そして、毒霧。

 それらを一気に突破した僕は。


「あがっ!?」

「うん。だから、直接君の体内に入れてあげるね」


 再び生えてきた左腕を直接レオの口の中に突っ込むと、切り離して体内に侵入させた。


「僕から分離された腕だと、帯びている魔力量が足りなかったみたいだね。でも、これなら毒霧に邪魔されず、体内に入れるよね」

「ふ、ふざけ――」

「三本」

「ぐおっ!」

「五本」

「げばっ!?」

「十本」

「ごぎゃべっ!?」


 レオの体内で腕を増殖させると、ボゴボゴッと身体が変形。


「……クソがッ……! ……ぜってー……殺すッ……!」


 まだ抗う元気があるようなので、彼の体内で、腕たちに軽く暴れてもらった。


「ごがぼッ! ぎゃぴゅぎょッ!? がはッ!!!」


 大量に吐血、レオは白目を剥いて失神した。


「サク君!」

「サク!」

「サクサク!」


 ミシロ、ルリ、そしてユミが駆け寄ってきた。


「お父さんとお母さんを助けてくれてありがとう!」

「うちはまだ幼い弟と妹がいるんだよ! 本当にありがとうな!」

「パパとママを助けてくれてありがとうなの!」


 良かった!

 こうやって救った相手から〝ありがとう〟って言ってもらえるのは、やっぱり嬉しいな!


 ヒーローは見返りを求めないものだから、そういう意味では僕は本当にまだまだだけど。でも、やっぱりありがとうって言われたら、すごく嬉しく感じちゃうや。


「どういたしまし――はっくしょん!」


 またくしゃみが出ちゃった。


「花粉症かな? 三月だしね。涙まで出ちゃって、せっかく悪を成敗したのに、締まらないよね。あはは」


 笑って頭を掻くと、頬にひんやりとしたものが触れた。


「サク君……それ、本当に涙だと思ってるの……?」


 それは、ミシロの細くしなやかな指だった。


 ミシロが小学校の頃に雪女と揶揄される原因の一つとなったもの。


 そんな彼女は、僕が『冷気系で戦うヒーローみたいで格好良い!』って言ったら、一瞬ポカンとした後、『もう、何それ!? 本当、何でもアリなのね。クスッ』って笑ってくれた。


「うん! だって、涙だし!」


 胸元から取り出したハンカチで僕の涙を拭いてくれるミシロ。

 本当に優しいなぁ!


「そう……これも、サク君にはちゃんと見えてはいないのね……」


 ミシロは、僕の胸に目を向けた。


「! サク君! 残り時間が、一気に減ってるわ! ……本来の時間経過よりも、一時間は多く減ってる!」


 時間?

 ああ、残りの寿命が一ヶ月とか言っていた、アレだね!


「多分無理したからよ! 遠隔攻撃が良くなかったのかしら……それとも、大量に腕を増殖させたから……? いずれにしても、どうかお願いだから、これからはもう無理しないで! そうじゃないと、死んじゃうのよ!」


 本当にどこまでも優しいよね!

 何て良い子なんだろう!


「分かった! 心配してくれて、ありがとう!」


 一度だって嫌なはずなのに、僕のために何度もそうやって優しい嘘をついて。


 僕は本当に幸せ者だ! 

ヒーロー活動を益々頑張って、その優しさに応えなきゃ!


 と、その時。


「げほッ!?」


 突如、咳が出た。


 思わず両手で口許を覆うと。


「あれ……? 何か、出てきちゃった」

「「「!?」」」


 それは、ドクンドクンと脈打つ血塗れの臓器――心臓だった。


 全身から力が抜けて、僕は前のめりに倒れてしまう。

 心臓が地面に落下。


「いやああああああッ! サク君!」

「サク! やっぱり、身体に負荷が掛かり過ぎて! あ、あああ!」

「サクサク! いやなの! 死なないでなの!」


 もう、大袈裟だなぁ、みんな。

 僕は不死身なのに。


 それに、再生だってするしね。


「……あれ……? 再生しない……?」


 すると、僕を仰向けにしたミシロが、震えながら胸元から小瓶を取り出した。


「そ、そうよ! ハイポーションがあるじゃない! 重症だけど、何本も飲めばきっと!」


 二本、三本、四本、五本。

 何本も飲ませてくれたけど。


「な、何で治らないの!?」


 何の変化も無かった。


「……僕は、なまじ再生能力が……あるものだから……ハイポーションは……一切効かないんだ……」

「そ、そんな!?」


ショックを受けるミシロに、僕は「一つだけ方法がある」と告げると、彼女は「そうなの!? 何でも言って! 私、何でもするわ!」と、食い付いた。


「ミシロ……僕の心臓を……直接胸に……戻してくれないかな? ……全然力が入らなくて、自分では出来ないんだ……」

「!」


 ミシロは「……わ、分かったわ!」と悲壮感漂う表情で頷くと、地面に転がっていた心臓を拾い上げた。


「でも、どうやって戻せば……」

「……僕の胸を、剣で……切り開いて……」

「え!?」


 ミシロの目が泳ぐ。

 全身が震える。


「駄目かな……?」


 僕が見詰めると。


「………………も、勿論大丈夫よ! 分かったわ……!」


 どうやらミシロは、覚悟を決めてくれたようだ。


 僕の服を脱がした後。


「ま、麻酔とか、そういうスキルはないのよね?」

「うん。でも、大丈夫! 痛いのは慣れてるから!」

「慣れて……」


 ミシロが絶句する。


 あ、もしかして、ちょっと格好良かったかな?

 感動してる?


 ヒーローって、痛みに慣れていて、どんな激痛を味わわされても、何度だって起き上がるもんね!

 本当、格好良いよね!


「じ、じゃあ、行くわよ?」

「うん!」


 両刃剣の切っ先が、僕の胸を切り開いていく。


「ぐっ!」

「ご、ごめんなさい!」

「大丈夫! 思わず声が出ちゃうけど、続けて!」


 僕が苦痛に声を上げる度に、ミシロの綺麗な瞳からポロポロと涙が零れ落ちる。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 胸が無事切開された。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……こ、これで良いかしら?」


 ミシロの手によって、僕の心臓が胸の中に戻された。


「……ありがとう。でも、それだけだとくっつかないみたいだから、何度もぎゅっぎゅって、押し込んでもらえないかな?」

「! ……分かったわ」


 ミシロが僕の心臓を何度も押し込む。


「ぐぁっ! がぁっ!」


 その度に僕は短い悲鳴を上げてしまう。


 血が噴き出して、ミシロの顔に掛かる。


「ううっ……ごめんなさい……サク君……! サク君……!!」


 どうやら心臓は他の血管と繋がり、元に戻ったらしく、胸の肉も再生した。


「ありがとう、ミシロ! おかげで、再生出来たよ!」

「……よ、良かったわ……ううっ……サク君……」


 本当、すごく優しいよね!

 僕のことをこんなに心配して、想いやってくれるだなんて!


 返り血で赤く染まり、虚ろな瞳で再び涙を零すミシロに、僕は満面の笑みを浮かべた。

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