4.「vsレオ(その1)」
<残り25日>
「会いたかったぜぇ、てめぇら!」
「さ、サクさん……! ご、ごめんなさいっす……!」
部下だろうか、長髪と坊主の男二人を左右に従えたレオは、カエの首元にナイフを突き付けて人質に取り、下卑た笑みを浮かべながらミシロたちに命令した。
「ミシロ、ルリ、ユミ。コイツの命が惜しくば、てめぇら全員軽鎧を外して服を脱げ」
「「「!」」」
ミシロたちが思わず両手で自身の身体を抱き締める。
僕は怒りで声を荒らげた。
「その子を放せ!」
「あ? てめぇはお呼びじゃねぇんだよ。女どもを侍らせやがってムカつく野郎だが、てめぇを甚振るのは後だ。まずはそのアマどもを全裸に剥いて凌辱してから――」
「その子を放せ!」
「だから、てめぇの出る幕じゃねぇって言ってんだろうが! 俺様がそいつ等を犯すところを大人しく指でも咥えて見――」
「その子を放せ!」
「botかてめぇは!? 話聞けよ!」
レオは、「ムカつくなてめぇ!」と顔を歪めた後、口角を上げた。
「ああ、良いぜ! まずはてめぇから嬲り殺しにしてやる! ドラゴンを倒していい気になってるようだが、まぐれで調子に乗ってんじゃねぇよ! 良いか、てめぇはそこから一歩も動くなよ? こっちには人質がいることを忘れんじゃねぇぞ?」
左側の部下の男にカエを手渡したレオが、僕に対して手を翳す直前に。
「ぐぁっ!」
「サク君!?」
「サク!?」
「サクサク!?」
僕は、まるでトカゲの尻尾のように、自ら左腕を途中から切断、地面に落とした。
「ギャハハハ! 俺様が手を下すまでもなく、勝手に腕が千切れやがった!」
「傑作ですね!」
「だからF級なんですよ、アイツは!」
哄笑を上げるレオは、「腕を自ら斬り落として、命乞いのつもりか? あめぇんだよ。てめぇが差し出して俺様を満足させられるのは、その生首だけだ」と、氷のように冷たい双眸で僕を見据えた。
「まずは俺様のユニークスキルで血反吐吐かせてやるぜ。『アルティメット――』」
ユニークスキルを発動しようとしたレオだったが。
「――ちょっと待て。てめぇ、腕をどこにやりやがった!?」
ようやく異変に気付いたようだ。
僕の左腕は新たに生えてきたが、斬り落とした古い腕は、地面から消えている。
「マズい! てめぇら、避け――」
「がはっ!?」
「ぐはっ!?」
地中を移動しながら増殖した僕の左腕が、レオの部下二人の足下から一本ずつ飛び出したかと思うと、瞬時に彼らの顎を正確に殴打、気絶させて倒す。
「がぁっ!」
同様にレオにも食らわせたのだが、攻撃に気付いていた彼は、僅かに身体を捻って直撃を避けており、ふらつかせはしたものの、意識は刈り取れなかった。
「サク君! カエは私に任せて!」
その隙に、スピード特化型のミシロがまるで飛ぶように移動、カエを抱き抱えると素早く離脱して距離を取った。
「人質がいなくなればこっちのもんなの! 食らうのッ!」
ユミが数本の矢を射出、まだ足元がおぼつかないレオの両目をその正確無比な軌道で貫かんとするが。
「『アルティメットポイズン』!」
「そんな!?」
レオが翳した手からどす黒い霧が生まれたかと思うと、それに触れた瞬間に、矢は朽ち果てた。どうやら、先ほど僕が放った三本の腕も、同様に始末されたようだ。
「それなら! 『聖光』!」
ミシロが光魔法を発動、邪を滅する光線は、しかし――
「この期に及んで、俺様を殺さずに無力化しようとしやがったな? 手加減して勝てるほど俺様は甘くねぇんだよ! もしかして、三年前に俺様が毒を使わなかったから、そのお返しってことか、あ? じゃあ、御礼にブチ犯してやらねぇとな! ギャハハハ!」
「!」
『アルティメットポイズン』の黒霧にぶつかり、掻き消されてしまう。
「もらったああああッ! おらああああッ!」
後方に回り込んでいたルリが跳躍、巨大棍棒で必殺の一撃を狙う。
「俺様の毒は、自動防御システムでもあるんだぜ?」
「!?」
先ほど出現した黒霧が敵を感知、既にスーッと後方へと移動して、迎撃態勢に入っていた。
「くっ! マズ――」
「ルリ!」
ルリの動きに合わせて跳躍していた僕は、彼女の目の前に身を投げ出した。
「ごぼっ!?」
「サク! あああああッ!」
「サク君!」
「サクサク!」
毒霧が凝縮されたかと思うと、僕の口を通って、体内へと入ってきた。
「ギャハハハ! 体内への侵入はてめぇの専売特許じゃねぇんだよ! 高ランク探索者だと、外側からだと魔力に弾かれて防御されることがあるからな。ビクトを始めとするブリリアントファルコンのクソ精鋭どもも、ドリンクに混ぜて飲ませてやったんだよ! 他の液体に溶かすと無色透明化して、しかも無味無臭だからな、俺様の毒は!」
勝ち誇るレオが、饒舌に語る。
「安心しやがれ。俺様の毒は吐血して滅茶苦茶苦しいが、死にはしねぇ。てめぇには、俺様がミシロたちを凌辱する一部始終を見てもらうからな! てめぇの女どもが俺様に犯されてヒーヒーよがってるのを散々見せ付けた後に殺してやるぜ!」
僕は、くの字に身体を折ると、吐血した。
「ぐはっ!」
「サク君! いやあああああああッ!」
「ギャハハハハハ! そうだ、苦しめ! 無様に地面に這いつくばれ! てめぇの頭を踏み付けながら、ミシロたちも毒で無力化して、その後じっくりと強姦してや――」
「もう解毒したよ」
「そうそう、もう解毒――へ!?」
完全に吐血が止まり、毒が抜けてピンピンしている僕の言葉に、レオが間の抜けた声を上げる。
「そ、そんな馬鹿な!? 国内最強クランの精鋭どもを全員病院送りにした俺様のユニークスキルだぞ!?」
「確かに初めて食らった毒だったけど、もう抗体は出来たし、耐性も得たよ」
「ふ、ふざけるな! 『アルティメットポイズン』!」と、レオが叫ぶと、その声に呼応して、またもや毒霧が僕の口から体内へと侵入してきた。
「ど、どうだ! これで今度こそ――」
「だから効かないって」
「はいいいいいいいいいッ!?」
顎が落ちそうなほどに大口を開けてショックを受けるレオ。
「こ、こうなったら、先に女どもだ! 『アルティメットポイズン』!」
今度は、毒霧がミシロたちへと飛翔、三人の体内に侵入する。
「ギャハハハ! 油断したな! これであのアマどもは全員無力化――」
「効かないわ!」
「ハッ! 効かないねぇ!」
「へっちゃらなの!」
「なんでえええええええッ!?」
素っ頓狂な声を上げつつ、レオが目を剥く。
「サク君の腕が飛んできて、私たちに透明な水まんじゅうみたいなのをくれたのよ!」
「ハッ! その腕が〝食べろ〟っていうジェスチャーしたから、食べたのさ!」
「あの短時間で抗体と耐性を獲得するための解毒薬を精製するだなんて、流石サクサクなの! 惚れ直したの!」
プルプルと震えるレオに対して、僕はヒーローらしく「覚悟しろ!」と、ビシッと指を指そうとしたが。
「覚悟し――はっくしょん!」
くしゃみが出てしまった。
どろりとした涙と鼻水、そして涎まで出てしまう。
「サク君!? 鼻と口と……目からも!? もう、限界なのよ……! 身体に負荷を掛け過ぎたせいで……。……どうか、それ以上無理しないで!」
ミシロが顔面蒼白になり、声を震わせる。
あちゃー。
やっちゃったな。
めちゃくちゃ格好悪かったよね。
もっと、ちゃんとヒーローらしく頑張らなきゃ!
今度こそ、と思って、僕は指を指そうとしたんだけど。
「あれ? 僕の右手、どこ……?」
「!? サク……!」
右腕が無かった。
視線を下に向けると、地面に転がっていた。
いつもは大体左腕を自発的に切断するんだけど(トカゲみたいに、「えいっ!」って自分で意識すれば、何かで斬ったりしなくても、切断出来るんだ! すごいでしょ! えっへん!)、どうやら無意識に右腕を切断しちゃったみたいだ。
「でも、大丈夫! 再生して……あれ? 生えてこない? まぁ、そういうこともあるよね」
「サクサク!?」
しょうがないので、左手で右腕を拾う。
ぴちゃぴちゃと血が滴る前腕を、上腕の切断面に合わせる。
みちみち、ぐちゅぐちゅ。
みちみち、ぐちゅぐちゅ。
みちみち、ぐちゅぐちゅ。
無理矢理くっつけると、レオに対して、改めて僕はビシッと指さした。
「これで終わりだ! 覚悟しろ、悪党!」
「……あぁ、サク君!」
「……うう、サク!」
「……サクサク! サクサクううううう!」
ミシロたちの歓声が聞こえる。
良かった!
今度はバシッと決まったみたいだ!




