3.「四人でのダンジョン探索初日(ミシロ・ルリ・ユミ視点)」
<サクタロウの残り時間:28日>
※―※―※
<ミシロ>
私とルリとユミは、翌日からサク君とのダンジョン探索を始めた。
深淵と違い、上層から深層までは、ダンジョンらしい石造りの迷宮が続く。
「登録者100万人!? しかも、同接10万人!? すごい!」
バズった自身のチャンネルに目を丸くするサク君。
その視線の先にあるのは、彼の配信用ドローンの横の空中に投影されたコメント欄の映像だ。
〝100万人おめ!〟
〝登録者数同接数共にまだまだ伸びてるぞ!〟
コメントが凄まじい速さで流れていく。
ミリオンくらい行って当然よね。
だって、サク君だもの!
「みんな、見に来てくれてありがとう! ヒーロー活動の応援、宜しく!」
〝おう、任せとけ!〟
〝サク、全力で応援するぜ!〟
〝頑張れ、ヒーロー!〟
サク君のチャンネルほどではないが、私たちの方もバズっていた。
「登録者50万人と同接5万人! みんな、ありがとう!」
〝ハーフミリオンおめ!〟
〝二窓してるが、こっちの勢いもすごいな!〟
「今日から私たちは、サク君のサポートをするための活動していくので、良かったらみんなも応援よろしくお願いね!」
〝分かったぜ、ミシロン!〟
〝推しを応援する推しを、俺たちが応援するんだ!〟
「嬉しいわ! ありがとう、みんな!」
数は力。
サク君を守るために、使えるものは何でも使わせてもらうわ。
※―※―※
「食らえなのッ!」
「「「「「ピギッ!」」」」」
ユミのクロスボウから射出された矢が、風を切る。
数匹のオークが、眼球から後頭部まで貫かれて絶命して消滅。
「ふっ!」
「「「「「――――ッ!」」」」」
陣形が崩れた所を、弾かれたように跳躍した私の両刃剣が狙う。
魔石を動力とする松明の光を反射した刃が左右に鋭い軌跡を描くと、悲鳴を上げる間もなく、オークの首が次々と宙を舞った。
「おらああああッ!」
「「「「「ピギィイイイイッ!」」」」」
直後、天井近くまで跳躍したルリが体重を乗せて振り下ろした巨大な棍棒により三匹を同時に粉砕、地面が大きく陥没した衝撃で残り全てが壁に叩き付けられて落命、オークの群れの討伐完了。
〝住民が何にでも赤味噌を掛けて食べる〟という都市伝説が生まれたことで有名なこのN市のダンジョンにて、私たちは、上層、そして中層と、危なげなく攻略を進めていた。
「みんな、すごい! めちゃくちゃ強いんだね!」
上気した顔で無邪気に拍手するサク君に、私の胸の奥から甘酸っぱい歓喜が溢れ出しそうになる。
が、一瞬で霧散。
代わりにナイフのように冷たい焦燥感が胸を突き刺す。
分かっているから。
そんな余裕などないことを。
だって、サク君は、私たちのせいでもう二度と復活出来なくなり、剰え寿命が一ヶ月を切ってしまったのだから。
――ダンジョン自殺未遂などという私たちの愚行のせいで。
「次は下層だね! 次こそは呪いのアイテムが見付かると良いな!」
自身の胸のウィンドウを直接・映像問わず唯一見られないために、私たちが告げた残酷な運命を優しい嘘だと信じて疑わないサク君が満面の笑みを浮かべる。
その笑顔が眩し過ぎて、ズキッと胸が痛む。
直視出来ない。
何故ダンジョン自殺などしようと思ったのか。
それは、三年近く前の事件に端を発する。
ダンジョン探索者育成学校に入学したての頃に、まだF級探索者だった私とルリとユミは、レイプされ掛けた。
父親がダンジョン庁長官という特権により十五歳という規定年齢よりも早くダンジョンに潜りたった一年でA級に到達した毒浅真レオたちのパーティーによって、強引にこのダンジョンに連れて来られて、人気のない場所に連れ込まれた。
『ギャハハハ! 俺様が気持ち良くしてやるぜ!』
『いやああああああッ!』
もう少しで服を剥ぎ取られて、強姦される。
絶体絶命に陥った私たちは、〝ヒーロー〟によって救われた
一瞬だけ現在の状況に思考が戻ってきた私は、朗らかな笑みを浮かべるサク君を見やる。
「あ、僕のヒーロー活動に関しては、心配しないでね! 僕は自然と困っている人が向こうからやってくる体質だから、ダンジョン自殺が流行っているこのダンジョンに潜っていれば、必ず遭遇出来るから! だから、呪いのアイテムの探索に集中しよう!」
でも、あの時はまだ、緋色の髪を逆立てたヒーローがサク君だとは気付かなかった(転生後の彼は、普段は黒くて長い前髪のせいで目が隠れており、胸のウインドウも表示されていなくて、同じ学校に通っているのに私たちが三年弱ずっと気付かなかった原因がそれだったのだが、この時は顔が見えたにもかかわらず彼を彼と認識出来なかった)。
レオたち三人を瞬時に気絶させて私たちを救った後、配信動画タイトルにてダンジョン自殺を事前告知していた少女を助けるために、サク君は直ぐにその場を離れてしまったというのが、理由の一つ。
あとは、髪が緋色だったし、小学校の頃に比べて六年分成長して大きくなっていたし、そもそも彼は死んでおり、まさか生き返っているだなんて思わなかったのだ。
サク君だと気付かなかった私たちは、危ういところを救われた喜びよりも、汚されたという絶望の方が大きかった。
ただ服の上から胸を揉まれただけ、ただ頬や首筋を舐められただけじゃないかと言う人もいるかもしれないが、男性経験が皆無で、尚且つ未だにサク君に想いを寄せていた私たちにとってそれは、強姦されたに等しい恥辱だった。
そのため、私たちは復讐を固く誓った。
『絶対にアイツらよりも強くなって、ぶっ倒すわ!』
その後、死に物狂いで己を鍛え、モンスターを狩り、レベルを上げた。
そのお陰で、もう直卒業というタイミングで、S級にランクアップ出来た。
当初天才と褒めそやされたレオたちは、その後はレイプ未遂を繰り返すばかりで、未だにA級のままだった。
勝てる。
確固たる自信と共に勝負を挑んだ私たちは、見事レオたちを追い詰めた。
――だが。
『これ、なぁ~んだ?』
配信用ドローンから空中に投影された三つの映像には、私たちの家がそれぞれ映し出されていた。
見ると、黒服に身を包んだ怪しげな男たちが複数監視しており、その佇まいや仕草から推測するに、恐らく胸やズボンに銃が隠されている。
『俺様に何かあれば、てめぇらの家族は皆殺しにされるって寸法だ! ギャハハハハッ!』
『『『!』』』
三年近く掛けて必死に積み重ねてきた復讐のための努力が、何の意味も無かったことをまざまざと思い知らされた。
レオは、ユニークスキルを使うことすらなく、私たちの心を絶望という名の毒で侵すことに成功した。
大好きなサク君は死に、その遺志を受け継いでヒーローになろうと門を叩いたら、クズにレイプされ掛けて、当初の目的を忘れてただ復讐のために強くなったのに、その復讐すら果たせなかった。
『……死にたい……。……アイツを社会的に殺した上で……!』
私たちは、ダンジョン自殺をすることにした。
そして――
『がはっ!?』
――再び、救われた。
小学一年生の頃、『や~い! 雪女!』と男子たちから揶揄された私の真っ白な髪を、『カッコ良い!』と褒めてくれたヒーローによって。
サク君は物事を全て〝カッコ良いかどうか〟を基準にして判断していた。
小学校入学前に、交通事故に遭い掛けたところを、見知らぬ男性が命を投げ出して助けてくれたことで、〝彼のようなヒーローなること〟がサク君の夢になり、それが価値判断に大きな影響を与えていたのだ。
話を戻すと、どうやら、私のように髪を始めとする体毛が全て白いヒーローがいるらしく(戦隊ものだろうか?)、それもあって、サク君は『カッコ良い!』と目を輝かせながら私を見詰めた。
『そういうヒーローがいるから格好良い』だなんて、何だか強引な肯定の仕方だと思われるかもしれないけど、彼は心の底からそう思ってくれていた。
女の子が『カッコ良い!』と言われて喜ぶべきなのかどうかは、分からない。
でも、少なくとも私はすごく嬉しかった。思わず泣いてしまう程に。
だって、家族以外で私のことを認めて受け入れてくれた男性は、彼が初めてだったから。
それだけではない。
実は小学校に入学した直後にも、私たちはサク君に救われていた。
ルリとユミと友達になった後、私たちは不良で有名な六年生の男子たちに目をつけられて、襲われそうになった。
まだ性的な知識すら無かった頃だが、身体の大きい上級生に迫られて、私たちは声も出せずただ震えることしか出来なかった。
『やめろッ!』
そんな私たちを地獄から救い出してくれた救世主は、まだ何の特殊能力も持ち合わせていない、同級生の普通の男の子だった。
『なんだこのチビ?』
『へへっ。生意気な奴だ! やっちまおうぜ!』
身体が大きいわけでも、喧嘩が強いわけでもない彼は、しかしどれだけ殴られても、決して退かなかった。
鼻血が出ようが、歯が抜けようが、倒れなかった。
私たちの眼前で両手を広げて庇う彼は、悪を睨み続けた。
ただ私たちを救うために。
『はぁ、はぁ、はぁ……三人がかりでこんだけ殴ってるのに、何で倒れないんだ?……』
『……一体何なんだよ、お前は……?』
『ヤベッ! センコーだ!』
『ずらかるぞ!』
最後まで立ち続けて、私たちの無事を確認してから『良かった……』と、安堵の笑みを浮かべながら倒れて気を失った小さなヒーロー。
彼との出会いは、私の脳を焼くのに十分な衝撃だった。
世界一勇敢なあの小さな背中を、私は一生忘れないだろう。
私はサク君のために生きる。
それが、小学校六年間を経て自然と心に浮かんできた想いだった。
それなのに――
『……無事で……良かった……』
『いやぁああああああッ! サク君!! サク君!!!』
小学校卒業直前。
連続殺人事件を起こしていた通り魔〝磨特裏ソウ〟に襲われた私たちを庇ったサク君は、ナイフで何十回も刺されて死んだ。
またあの安堵の笑みを浮かべながら。
噂によると、収監された磨特裏ソウは数日で脱獄、このN市ダンジョンに逃げ込んだ。一ヶ月間ダンジョン入り口を封鎖した上で高ランク探索者たちによる討伐部隊が編制されたけど、結局見付からなかったらしい(モンスターたちは基本的に通常の銃火器が通用せず、魔力を帯びた武器や肉体または魔法で倒さなければならないため、警察官では対処出来ない)。恐らくソウは、とっくにモンスターに殺されていると推測される。
もしまたサク君と出会えたら。
今度こそ、私の全てを差し出そうと心に決めていた。
私の命を燃やし尽くしてでも、彼の力になるのだと。
それが叶わぬ夢だと分かってはいたけれど。
夢想でもしなければ、ただ生きることすら出来なかったのだ。
彼が存在しないこの世界は、あまりにも辛過ぎて……
でも、また出会えた!
奇跡だと思った。生まれて初めて神様に感謝した。
「『聖光』!」
「ガァアアアアッ!」
剣士の私だが、この〝光魔法〟だけは才能が有ったらしく、唯一使える。
下層の第三階層のボスであるキマイラのライオンの頭部と毒蛇の尻尾がそれぞれ吐く火炎と毒液を本体ごと浄化して屠りながら、血が出るほど拳を強く握り締めて誓う。
今度は、私がサク君を守ってみせるわ!
この命に代えてでも!
※―※―※
<ルリ>
あーしらは、下層の一番下である第四階層を突破、深層へと足を踏み入れた。
仲間たちと共に襲い来るモンスターたちを返り討ちにしながら、あーしは幼少時代のことを思い出していた。
あーしがサクと出会ったのは、小学一年生の頃。
ミシロ・ユミと友達になった少し後のことだった。
『あ、でか女が来たぞ! 逃げろー!』
『踏みつぶされるぞー! アハハハハハハ!』
男女問わず周りの誰よりも背が高かったあーしは、男子たちにからかわれた。
多分、生まれつき髪がピンク色で褐色の肌だったことでギャルっぽく見えるのに、中身は大人しかったから、それもあって揶揄しやすかったんだと思う。
当時のあーしは、背丈を気にしていつも猫背になって歩いていて、図体のでかさの割にとても気弱で、常にびくびくしていた。出来るだけ髪の毛が目立たないようにと、ショートカットにした上で。
でも、ある日。
アイツが言ってくれたんだ。
『背が高いの、カッコ良いじゃん!』
と。
好きなアニメに巨漢のヒーローが出てくるらしく、それが背の高さを肯定する理由と判明して、『アニメかよッ!』と思わずズッコケた。
けど、嬉しかった。
アイツに『カッコ良い』って言われて、震えるほど嬉しかったんだ。
それ以降、あーしは少しずつ堂々と振る舞えるようになっていった。
今じゃ、常に背筋がピンと伸びていて、「モデルみたい」って言ってくれる人たちまで出てくるようになった。
背丈が気にならなくなった後は、自然と髪色も受け入れることが出来た。
ただ、ショートカットは気に入ったから、今でもそのままだけど。
サクは、あーしらを襲おうとした上級生たちから守ってくれた。
背が高いあーしを『カッコ良い』って言ってくれた。
通り魔からあーしらを庇ってくれた。
あーしらを凌辱しようとしたレオたちから救ってくれた。
そして――
あーしらのダンジョン自殺を止めてくれた。
小学校六年生の時に170cmになって以降身長が変わっていないあーしと、現在のサクはほぼ同じだ。
まさかサクと同じ視線の高さで話せる日が来るだなんて、通り魔事件の時は思ってもみなかった。
またサクと語り合える日が来るだなんて……
サクはあーしが守るし!
絶対に!
あーしが決意を新たにした直後。
ここを曲がれば、深層第一階層のボス部屋の前に辿り着くというT字路を曲がった瞬間。
「ギギギギィッ!」
黒紫色の巨大な蜘蛛が緑色のサイドテール少女を糸で捕縛、大口を開けて喰らおうとしていた。
「ビッグポイズンスパイダー!? 何でボス部屋から出てきてるし!?」
恐らく異常個体だろう。
救出せんと即座に駆け出すが、モンスターまではまだ距離がある。
「任せてなの! ――そんな!?」
精密射撃を得意とする後衛のユミは、既にクロスボウの矢を数本射っていたが、巨大毒蜘蛛は糸を吐いて迎撃、軌道を逸らされて当たらない。
あの子の精霊魔法は、まだ照明用の小さな光を出すことしか出来ず、攻撃魔法は使えない。
「くっ! あの子に当たっちゃうわ……」
矢よりも火力で勝るミシロの『聖光』は、だがしかし範囲が広過ぎて少女にも当たってしまうため、撃てない。
「間に合わないし!」
ただの神経毒であるキマイラのものと違い、致死性の毒液に塗れた牙が、少女の柔肌に突き刺さるかと思われたが。
「大丈夫! 僕が守るから!」
あーしの前を走っていたサクとミシロの内、前者の姿がフッと消える。
刹那、嫌な予感が脳髄を駆け巡り、あーしは叫んでいた。
「サク!」
瞬きする間に。
「ぐぁッ! ……ほら、ね。転生後の僕は、意識しなくても自動的に空間転移して庇えるようになってるんだ。でも、ルリの声のおかげで、咄嗟に身体を捻って死なずに庇えた。ありがとう……」
「サクうううううう!」
サクは少女とビッグポイズンスパイダーの間に出現、少女の代わりに左腕と腹部を半分ほど噛み千切られた。
※―※―※
<ユミ>
「サクサク! もうやめてなの! 内臓が飛び出てるの!」
ユミの眼前で、サクサクのお腹から鮮血と共に臓物がずるりと零れ落ちたの。
ユミの大切な大切な人が。
その時脳裏を過ぎったのは、今までの出会いだったの。
元々蒼と翠のオッドアイを持って生まれたユミは、身体がすごくちっちゃかったこともあって目立ってたの。
それが、十年前に世界中にダンジョンが出現したと同時に何故か金髪になって、耳が尖って、益々悪目立ちするようになっちゃったの。
人間扱いされず、男子たちから中傷される中。
サクサクだけは『カッコ良い!』って言ってくれたの。
『オッドアイで尖った両耳を持つ小柄なヒーローがいるから』って。
『そんなヒーローがいるの!? いくらなんでもピンポイント過ぎなの!』
思わず突っ込んだ後。
『ぷっ。あははは!』
吹き出しちゃったの。
毎日深く傷付いていたユミは、その時、久し振りに笑えたの。
あと、小さくて非力なのがコンプレックスだと知ったサクサクが、『じゃあ一緒に筋トレしよう!』と申し出て、毎日ユミと一緒にトレーニングしてくれたの。
少しずつ力がついていくのを実感出来て、コンプレックスが小さくなっていったの。
ただ、小学校卒業間近になった頃には、弓矢の才能があることが分かって、しかもダンジョンで取れる魔石を使った一種の魔導具であるクロスボウを扱うのに必要なのは膂力ではなく魔力であり、更にまだダンジョンに入ってもいないのに、精霊魔法も使えることが分かったの。
その時も、『せっかくの筋トレが無駄になっちゃってごめんなさいなの』と謝るユミに、サクサクはキラキラと目を輝かせたの。
『弓矢の才能! しかも、精霊魔法まで! カッコ良い!』
もう何でも良いんじゃん! って、流石に呆れたの。
どうせ、弓矢で戦うヒーローや精霊魔法を扱うヒーローもいるんでしょ? って。
でも、救われたの。
どんなユミでも、サクサクは受け入れてくれるし認めてくれるって改めて分かったから。
きっとユミが目立たなくて何の才能も無くても、サクサクは受け入れてくれるし、認めてくれる。
ダンジョン探索者育成学校に入学後も、まだユミたちがサクサクが生き返っていることに気付かなかった頃から、彼は毎日色んな人を助けていたの。
街中で困っているよぼよぼのおじいちゃんを何度も救っていたの。
大荷物を代わりに持って横断歩道を一緒に渡ってあげたり、ギックリ腰になって動けなくなっているおじいちゃんをおんぶして、家まで送ってあげたりして。
ユミも、出会った時から今まで、サクサクに何度も心と身体を救われたの。
だから、恩返ししなくちゃなの!
ユミがサクサクを守るの!
――そして、今に至るの。
……守るって心に固く誓ったのに……
……また目の前でサクサクが傷付けられて……
ユミは如何に自分が無力なのかを思い知らされたの。
悲しみと後悔が波のように押し寄せてきて、心が押し潰されそうになる……
「残念だけど、その程度の毒じゃ僕には効かないよ!」
致死性の猛毒で恐れられるビッグポイズンスパイダーに対して、サクサクが明るく勝ち誇るの。
「一万年の修行の最中、神様に召喚してもらった数えきれない程のモンスターと戦う中で、多種多様な毒を持つモンスターに噛まれて、咬まれて、刺されて、抗体が出来て、耐性を持ったから!」
「それだけじゃないよ!」と、激痛と出血で本来ならば立っているのもやっとのはずのサクサクは、得意気に胸を張ったの。
「『毒凝縮』!」
「ギギィッ!?」
今度こそ完全に息の根を止めてやるとばかりに、再度噛み付こうとした巨大毒蜘蛛の大口がピタリと止まるの。
「ギ……ギィッ……!?」
全身を震わせて苦しみ出した〝毒の名を冠するボスモンスター〟は、毒攻撃を受けて見る見るうちに溶けていき、ドロドロになって――消滅したの。
「どうだ! 一万年の間に受けた毒を全て混ぜた猛毒を体内で精製して、凝縮した上で敵に食らわせるんだよ! 今回は左腕に仕込んでおいたんだ!」
パチン
再び生えてきた左手でサクサクが指を鳴らすと、毒蜘蛛を溶かした超猛毒が消えたの。
気付けば、腹部の傷も完全に癒えていたの。
「大丈夫?」
振り返ったサクサクが、毒蜘蛛が消えたことで糸の拘束から解放された少女に優しく語り掛けるの。
「はい! 大丈夫っす! また助けてもらって、ありがとうございましたっす!」
「……また?」
聞き捨てならない台詞にユミが反応すると、少女は慌てて頭を下げたの。
「じ、自分、思刷軸利カエっす! サクさんには何度も助けて頂いているっす!」
話を聞くと、情緒不安定な彼女は、今までに何度もダンジョン自殺を試みて、その度にサクサクに救われてきたらしいの。
他の子たちはみんな、自殺しようとしたところを助けてもらった後は、もう二度とそんな事はしようとしないというのに。
「分かってるの!? あなたのせいで、サクサクは何度も死んでるの!」
思わず声を荒らげてしまったの。
「ユミ、落ち着いて。僕は大丈夫だから」
「――――ッ! 大丈夫じゃないの!」
困ったように笑うサクサクに、胸が締め付けられる。
サクサクは、もう生き返れないって知らないから。
それどころか、もう寿命が一ヶ月も無いことにも気付いていない……
「も、申し訳ありませんでしたっす! もう二度とこんなことはしないっす!」
土下座するカエに、流石にそれ以上ユミも責めることは出来なかったの。
まぁ、あの様子なら、きっと大丈夫なの。
そう思ってたんだけど――
※―※―※
「会いたかったぜぇ、てめぇら!」
「さ、サクさん……! ご、ごめんなさいっす……!」
――三日後、深淵の第一階層にて。
レオの人質に取られたカエと、最悪の再会を果たしたの。




