11.「六年越しの対峙(その1)」
「いやあああああああッ!」
「サク! サクうううううう!」
「きゃあああああああッ!」
「サクタロウ君!」
ミシロたちの悲鳴が遠く聞こえる。
「終わりっす」
「がはっ!」
僕の喉に突き刺した手刀を左に水平移動して端まで斬ったカエは、今度は右へと薙ぎ払った。
「安心するっすよ、みんな。ちゃんと全員殺してやるっすから」
今まで見たことのなりニタリとした不気味な笑みを浮かべるカエだったが。
「ふぅ。危なかった」
「なっ!?」
何事もなく汗を拭う僕を目にして、彼女が驚愕に目を剥く。
「ば、馬鹿な!? 残機は1だったはずっす! もう復活は出来ないはず――」
「え? 復活なんてしてないよ」
「はい!?」
「再生しただけ。こんなこともあろうかと、首を攻撃されても切断されないように、皮一枚残してギリギリまで自分で首を斬ってそこから再生する練習をずっとしてたんだ」
「!?」
僕の隠れ家であるダンジョン上層のあの秘密の部屋が血塗れだった理由がそれだった。切断された端から即座に再生していけば、左右または前後のどこから切断され始めたとしても、完全に斬首されることはなく、死なないのだ。
「別に僕は不死身だから死んでも良いんだけどさ。仲間たちからもう死なないでって言われてたから。もう悲しい顔させたくなかったし」
「サク君!」
「サク!」
「サクサク!」
絶望に染まっていたミシロたちが、顔を輝かせる。
「チッ! 自分で首切断未遂しまくって訓練とか、頭おかしいんすか、あんた!?」
その問いには答えず、僕は首を傾げた。
「何でカエがそんなことするの? そっちの男だったら分かるけど」
カエは、僕の問いに嘲笑を返す。
「フフッ。何で? それは勿論――」
男の身体がカエに引き寄せられたかと思うと――
「このワタシ――磨特裏ソウが、この女の意識を乗っ取っているからですよ。ヒヒヒッ!」
「!」
――カエと融合した。
否、正確には寄生と表現した方が良いだろうか。
カエの肩からソウの頭部が生えている。
カエの表情は虚ろに変わり、代わりにソウが僕らを氷よりも冷たい双眸で見据えた。
「改めて。お久しぶりですね、サクタロウ君。ワタシが殺してあげてから転生したとのこと。おめでとうございます」
「やっぱり! あの時の通り魔だったんだね!」
僕以上に怒りを露にしたのは、仲間たちだった。
「貴方! あの時の! 絶対に許さないわ! 世界一尊いサク君になんてことを!」
「ハッ! 漸く姿を見せたね、この腐れ殺人鬼が! 覚悟しな!」
「サクサクが受けた苦痛の一億倍を味わわせて殺してやるの!」
と、そこに、ソウの背後から、ビクトさんのクランの精鋭二十人が近付いてくる声がする。
「どうやら、チェックメイトのようだね」
油断なく長剣を構えるビクトさんの指摘にも、ソウは動じない。
「ヒヒヒッ! 脱獄してこのダンジョンに逃げ込んだワタシは、生き延びるために、モンスターを生きたまま喰いまくったのですよ」
「!」
「倒せば消えるモンスターどもですが、生きたままなら死ぬまで消えませんからね。どうやら、一定以上食べたことで、ワタシは食べた相手の能力をコピー出来るようになったようでして。その結果、こうやって身体の乗っ取りや精神操作も行えるようになりました。あとは、こんなことも出来るようになったのですよ」
ソウが「『結界』」と呟くと。
「これは!?」
「俺たちの剣技でもビクともしないだと!?」
「くっ! 最上級魔法も通用しない!」
高い人工空の天辺まで届く巨大な結界が出現、近付いてきていた精鋭二十人のそれ以上の接近を強制的に防いだ。
「そうそう。ダンジョン自殺を流行らせたのはこのワタシです」
「!」
「ダンジョンに潜伏し始めてから三年ちょっとが過ぎたある日。モンスターからコピーした感知魔法で、ミシロ、ルリ、ユミ、貴方たち三人がこのダンジョンに入ってきたことに気付いたのです。あの時取り逃がした貴方たちを」
ソウは実に愉しそうに語り続ける。
「本当は直ぐに直接殺してあげたかったのですが、三年経って様々なモンスターの能力を既にコピーしてはいたものの、まだ力が安定しておらず、暴走してワタシ自身が死ぬ危険性もあったのです。そこで、仕方ないので、間接的に殺すことにしたのですよ。それがダンジョン自殺でした。でも、ただ流行らせようとしても、難しいでしょう。そこで、丁度ダンジョンの上層に探索に来ていたこの女を――カエを使うことにしたのですよ。ダンジョン自殺の先駆者とするために」
「なのに」と、忌々し気に彼は僕を睨み付けた。
「貴方が邪魔するから、結局誰一人としてダンジョン自殺させることが出来なかったではないですか!」
理不尽な怒りをぶつけるソウの視線を、僕は真正面から受け止める。
「でもまぁ、良いでしょう。おかげで、2000回貴方を殺して残機を減らすことが出来ましたから。ダンジョン自殺未遂をする大勢の者たちを強制的に庇わせる、という形で1000回。そして残り1000回は、このカエが毎日ダンジョン自殺未遂することで、ね」
狡猾な男だ。
ミシロたちが話していた残機の話を自分も取り入れて語ることで、僕を動揺させようとするだなんて!
「後は、モンスター化の呪いも、貴方たちの推測通り、このワタシによるものです。よく辿り着けましたね。褒めてあげます」
口角を上げるソウに、僕は怒りを抑え切れなかった。
「カエの心と身体を乗っ取って、みんなにダンジョン自殺をさせようとして、剰えモンスター化の呪いまでばら撒くだなんて! 絶対に許さない!」
「ふむ。どうやら絶望が足りないようですね」と、カエの身体から生やした自分の手で顎を触ったソウは、「では、こうしましょう」と言葉を継いだ。
「まずは二十人ほどに死んでもらいましょう」
「!?」
ソウは、「『結界』」と再び結界を張る。
精鋭二十人の周囲に、前後左右、更には上も塞いだ形で。
「『ポイズン』」
「!」
その内部に、霧状の毒が出現。
「ぐっ!」
「力が……入らない……!」
レオの毒とはまた別種のもののようで、吐血はしないものの、全員膝をつき、倒れていく。
「潰しなさい」
結界が小さくなっていき、彼らを圧死させようとした。
「させない!」
僕は左腕を切断、増殖させた上で同時に結界に殴り掛かるが。
「くっ! 間に合わない!」
僕が壁状の結界に罅を入れている間に、精鋭たちに襲い掛かる結界が手のひらサイズにまで圧縮。
「ヒヒヒッ! これでまずは二十人。みなさん、良いですよ、その表情!」
精鋭たちが消えた場所を見て、ソウが下卑た笑みを浮かべた。
刹那。
「ワーオ! 危機一髪だったわね!」
「余裕」
「楽勝ね」
「!」
外国人探索者部隊のメリカ・シアン・リンリンが登場。
見ると、精鋭二十人がいた場所には地面に穴が開いており、地中を進んで救助したらしい。
「みんな! ありがとう!」
「ノープロブレム! 借りを返しに来ただけよ! そんなことより、あなたはさっさとそいつをやっつけちゃって!」
ウインクするメリカに僕は背中を押されて、
「覚悟しろ! ソウ!」
元凶に対して向き直った。
「調子に乗るんじゃありませんよ、このガキが」
ソウは、「良いでしょう。ワタシの本当の力を見せてあげます」と、怪しげな微笑を浮かべると。
「はああああああッ!」
巨大化。
身体中の至る所から、ドラゴン、オーガ、オーク、ゴブリン、サイクロプス、フェンリル、キマイラ、ミノタウロス、ビッグポイズンスパイダーなどの頭部や四肢を生やしたキメラとなって。
「今度こそ完璧に殺してあげますよ。ヒヒヒッ!」
目を細めた。




