↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/25

09.王子様が二人

休日のおむすび公園。


楽しげな声があちこちから聞こえる。


それはいつものこと。


……なんだけど、なんだこれは。


私がいるのは、遊具コーナーと豊かな自然が広がる散策路、その中間にある管理棟付近。


特に目立ったものがなく、用がなければ立ち寄るようなところでもない。


そんな場所のはずなんだけど、やたらと子どもが集まっている。


休日にはよく遊びに来る常連さんたちではあるんだけど。


「お城あるの!?」

「お馬さんいるの?」

「王冠は!?」


……ふふっ。


どこが皇子だ。


記者会見みたいだよ。


全部真面目に答えてるから、余計に質問が飛んでくるんだよね。


そろそろ助け舟を出してやるか、と思ったとき、もう一つ質問が飛んできた。


「なんで王子様なのに、公園にいるの?」


喉まで出かけた声が止まる。


「ふむ……花嫁を探しに、な」


レインは顎に手を添えながら答えた。


「きゃーー!!」


黄色い歓声が一気に広がった。


「それって、わたしでもいいの!?」


小さな女の子が目を輝かせながら身を乗り出す。


レインは少しだけ困ったように目を伏せた。


「悪いが、もう決めている」


「えぇー……」


レインの視線が、ゆっくりと流れる。


……待って。


なんでこっちを向いているの。


黒曜石のような瞳と目が合う。


そのままレインの口元が緩んだ。


「え!?えぇ!?」

「もしかして結菜ちゃん!?」

「結菜ちゃんがお姫様になるの!?」


「巻き込むなーー!!」


顔の前で手を振りながら続ける。


「そんな訳ないでしょ」


「でも完全に結菜ちゃんを見てたよ!」

「ね!絶対そうだよね!?」

「うわぁぁぁ!!」


子どもたちが近づいてくる。

気づけば、小さな包囲網が完成していた。


「あれ」


背後から穏やかな声が落ちた。


「結菜ちゃん?」


振り向くとそこには柔らかく笑う青年が立っていた。


「悠真さん!」


「どうしたの?困った顔してるよ」


「いやー……」


なんとも説明しづらくて、視線を泳がせていると――


「君が結菜ちゃんを困らせてるのかな?」


風が、すっと吹き抜けた。


さっきまで騒いでいた子どもたちが、なぜか少しだけ静かになる。


レインはベンチに座ったまま、悠真さんを見る。


「困らせているつもりはないが」


「そうかな?」


悠真さんは笑ったまま首を傾げた。


「結菜ちゃん、“巻き込むなー”って言ってたよ?」


レインは少しだけ考えるように目を伏せた。


「……“巻き込む”とは、本人の意思に関わらず、面倒事や争いへ引きずり込まれる状況を指す。……この場合、重要なのは結菜の意思だ」


その視線が、そのまま向けられる。


「結菜」


名前を呼ばれて、思わず肩が跳ねた。


「……嫌か?」


「え」


嫌かって。


そんなふうに聞かれると思ってなかった。


「……あーいや、別に嫌ってるとかではないけど」


レインは静かに頷いた。


「この通りだ」


そして悠真さんを見る。


「結菜は嫌がっている訳ではない。心配させてしまったようだが、気にする必要はない」


悠真さんは笑ったまま、少しだけ肩を竦めた。


「この状況じゃ、結菜ちゃんも言いづらいでしょ?」


その言葉に、レインの眉がわずかに動いた。


「笑止」


空気が、少しだけ止まる。


「結菜は芯がしっかりしている」


真っ直ぐな声だった。


「優しさこそあっても、流されている訳ではない」


そして、少しだけ目を細める。


「結菜を見誤るな」


「……そっか」


悠真さんの笑みが、ほんの少しだけ薄くなった。


「結菜ちゃんのこと、ちゃんと考えてはいるんだね」


レインは何も答えない。


風だけが、静かに吹き抜けた。


今度は悠真さんが私を見る。


「結菜ちゃん」


「ほぇ?」


急に名前を呼ばれて、思わず間の抜けた声が出る。


「もし嫌になったら、ちゃんと言うんだよ?」


少しだけ間。


「そのときは――なんとかしてあげるから」


柔らかい声だった。


なのに――


その瞬間。


「わーー!!」


子どもたちがまた一斉に騒ぎ始めた。


「結菜ちゃんお姫様だー!!」


「王子様が二人いるー!!」


「どっちと結婚するの!?」


「しないからね!?」


頭を抱えていると、子どもたちがさらに騒ぎながら身を乗り出してきた。


「うわ、ちょっ――」


そのとき。


「はいはい、そこまで」


柔らかい声と一緒に、悠真さんが一歩前へ出る。


自然な動作だった。


なのに、気づけば私と子どもたちの間に悠真さんが立っていた。


「結菜ちゃん困ってるでしょ?ほら、今日はおしまい」


「はーい!!」


「続きはまた今度ね」


子どもたちは名残惜しそうにしながらも、少しずつ散っていく。


その背中を見送りながら、小さく息を吐いた。


「……助かったぁ」


「お姫様は大変だね」


「茶化さないでください」


悠真さんは楽しそうに笑う。


「じゃあそろそろ行くね。また今度ゆっくりね」


「ゆっくりなんて言葉はこの公園には存在しません」


そんな様子をレインはただ黙って見ていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


続きも読んでみたいと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。