08.「迷子に対応する私」と「民と交流する皇子」
今日は土曜日。
おむすび公園は、賑やかな雰囲気に包まれている。
子どもたちの笑い声。
色とりどりのレジャーシート。
……こういうのって素敵だよね。
「ワフッ」
「シロも分かってくれる?」
そう言いながらシロの頭を一撫でする。
この景色を守るのが私の仕事。
ぐーっと身体を伸ばすと仕事に取り掛かる。
私の仕事は怪異の対応だけじゃない。
「うーん?少し緩んでるかな?」
遊具の安全点検や、植栽の管理。
それに……
「おねえちゃんっ!」
振り向くと、小さな女の子が泣きそうな顔で立っていた。しゃがんで目線を合わせる。
「どーしたの?」
「……おかあさんとはぐれちゃった」
……迷子の対応なんてものもやる。
「大丈夫だよ。お姉ちゃんと一緒に探そっか」
女の子の手を引きながら歩き出す。
「お名前教えてくれる?」
「さなっていうの。おねーちゃんは?」
「私?私は結菜っていうんだよ」
リードに繋がれたシロを手で示しながら言う。
「この子はシロ。よろしくね?」
「ワフッ」
「わー!!かわいい」
ナイスだシロ!
さなちゃんの不安そうな目が今だけは和らぐ。
……早くなんとかしてあげないとね。
「さなちゃんは何才なの?」
さなちゃんは手で数を示しながら言う。
「えっとね。六才だよ」
六才、ね。
この公園は県内でも有数の広さを誇る。とはいえ……六才の女の子の足だ。そこまで遠くはないはず。
それなら……
「白崎さーん」
後ろから気の抜けた声。
振り向くと、
缶コーヒー片手の中年男が手を振っていた。
「真壁さん」
この人は真壁誠さん。
市役所のみどり公園課の人で、まぁ、私の上司みたいな人。
土日は利用者が増えるから、真壁さんも時々様子を見に来る。
「おや?迷子?」
「です。保護者さんはまだ近くにいると思うんですけど」
「んじゃ放送かけとく?」
「お願いします」
「はいはーい。あ、先に行っとくから二人はゆっくりおいでねー」
真壁さんは気の抜けた返事とは裏腹に、さっさと管理棟の方へ向かっていった。
その背中を見送りながら、さなちゃんの手を握り直した。
「さっきの人、ゆいなちゃんのおともだち?」
「んー……お友だちっていうか、お仕事の仲間かな」
「ふーん」
シロがさなちゃんの足元をくるくる回る。
その様子に少しだけ笑いながら、ふと昔のことを思い出した。
今でこそ普通に働いてるけど、最初はかなり変な面接だったんだよね。
『君、“見える”んだって?』
初対面で、しかも面接で聞かれるなんて夢にも思わなかった。
なんでも前任者が辞めてから、おむすび公園の管理人が誰も続かなかったらしい。
遊具が勝手に動くとか、池の周りで人影を見たとか。
前の人は平気だったみたいなんだけどねぇ、と真壁さんは困った顔で笑っていた。
まぁ……普通は辞めるよね。
その前任者が特殊なんだと思うよ。おそらく“こっち側”の人かな。連絡日誌の内容を見ると余計にそう感じる。
そんなこんなで、おばあちゃん経由で話が回ってきた。
『あー、白崎先生のお孫さん? こういうの慣れてるの?よし採用!』
って。
超スピードで採用が決まった。
今思い返しても笑ってしまう。
「さて、私たちも行こっか」
「うん!」
さなちゃんと手を繋ぎながら管理棟へ向かう。
遊歩道を抜けると、小さな建物が見えてきた。
夜は走り回ることが多いのであまりいないけど、まぁ拠点みたいなところかな。
中へ入ると、真壁さんが機械にスイッチを入れるところだった。
「お、来た来た。今から放送するからすこーし静かにしててね」
そう言うと、口元をマイクに近づける。
『迷子のお知らせですー。六才くらいの女の子をお預かりしてまーす。お心当たりのある保護者の方は、管理棟までお願いしまーす』
……ゆるい。
「真壁さん、もうちょっと緊張感出してくださいよ」
「えー?でもこれくらいの方が怖くなくない?」
まぁ、分からなくはない。
さなちゃんはシロを撫でながら、少し落ち着いた様子で椅子に座っていた。
「ジュース飲む?」
「のむ!」
真壁さんが冷蔵庫から紙パックのジュースを取り出す。
……管理棟、普通に生活感あるんだよね。
掃除道具や連絡日誌など仕事道具はもちろん電子レンジや簡易のキッチンもある。
なんなら仮眠室、シャワー室もあるから暮らせるんだよね。
でも絶対に家に帰る!!
そんなことを思っていた、そのときだった。
「さな!!」
勢いよく扉が開く。
女性が飛び込んできた。
「おかあさん!」
さなちゃんが椅子から飛び降りる。
次の瞬間には、母親へ抱きついていた。
「よかったぁ……!」
お母さんの声が震えている。
何度も頭を下げながら、こちらを見る。
「ありがとうございました、本当に……!」
「いえいえ、大丈夫でしたから」
「おねーちゃん、ありがとー!」
さなちゃんが満面の笑みで手を振る。
「ワフッ!」
「シロもありがとー!」
「ワフワフ!」
こういう瞬間があると、
まぁ頑張ろうかなって気持ちになる。
大変なことも多いけどね。
そのまま親子は帰っていった。
静かになった管理棟で、ふぅと息を吐く。
「お疲れ、白崎さん」
「真壁さんもお疲れ様です」
「いやぁ今日も平和だねぇ」
「じゃあ真壁さん、今度は夜に来てくださいね」
「……絶対に嫌だよ」
「“平和”なんでしょ?」
「あはは」
あ、ごまかした。
そのとき。
外から子どもたちの騒ぐ声が聞こえてきた。
「すごーい!!」
「ほんものの王子様みたい!!」
……ん?
嫌な予感が……。
「ちょっと見てきます。シロはここで待っててね」
「はいはいー」
「ワフッ!」
外へ出て、声のする方へ向かう。
遊具のある広場へ繋がる遊歩道。
季節の花が植えられ、いくつかベンチが置かれている。
とは言っても人が集まるようなところではない。
……が、一つのベンチにだけ妙に子どもたちが集まっていた。
その中心にやたら姿勢の良い男が座っていた。
黒髪。
整った顔。
無駄にキラキラした雰囲気。
「……何してんの?」
レインがこちらを見る。
「民と交流している」
「交流しなくていいのよ」
子どもたちは目を輝かせながらレインを見上げていた。
「おにーさん王子様なんだよね」
「正確には皇子だが……まぁ子どもには難しいな」
そう言うレインと目が合った。
いや、合わせに来た。
「……何で私を見るの」
「“子ども”には難しいな」
「なんか含みのある言い方ね?」
「気のせいだ」
すると、女の子が不思議そうに首を傾げた。
「じゃあ、王子様?」
「まぁ、似たような立場だ」
「やっぱり王子様だー!!」
子どもたちから一斉に歓声が上がった。
「純情な子どもを騙さないの」
「騙してはいない」
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