21.食後の運動
かき氷を食べ終え、空になったカップをゴミ箱へ入れる。
「美味しかったね」
「あぁ。次こそは食後の運動か?」
「覚えてた?」
「俺が言ったんだが」
「そうだった」
辺りを見回す。
「あ」
小さな白い犬のキーホルダーが、景品の中に立てかけられていた。
……シロみたい
その下には、コルク銃が並んでいる。
「じゃあ――射的しよっ」
屋台まで駆け寄り、代金を払う。
コルク銃を受け取って、レインへ向き直る。
「まずは私がお手本見せてあげる」
「ほう」
コルクを詰めて、狙いを定める。
パンッ。
「……」
外れた。
「今のは試し撃ち」
「そうか」
パンッ。
「……」
また外れた。
「……風が」
「屋台の中だぞ」
「……うるさいわよ」
もう一度狙いを定める。
パンッ。
今度は白い犬のキーホルダーに当たった。
「よしっ!」
けれど――
ぐらりと揺れただけで、倒れない。
「……え?」
「ねえちゃん、惜しかったねぇ」
屋台のおじさんが笑う。
「当たっただけじゃダメなんだよ。落とさないとねぇ」
「むぅ……」
コルク銃を見つめていると、隣から手が伸びた。
「貸してみろ」
「え?」
レインが代金を置く。
そのまま銃を受け取ると、景品へ視線を向けた。
「ここに入れればいいんだな」
レインがコルクを詰める。
「そうそう。持ち方も大事だから――」
パンッ。
「え」
白い犬のキーホルダーが、ころんと台から落ちた。
「えぇ!?」
レインが銃を下ろす。
「……私の教えが良かったんだわ」
「――ふっ」
「おー、彼氏やるねぇ!」
屋台のおじさんが笑いながら景品を拾い上げる。
「彼氏じゃない!!」
「ふむ。花嫁だったか?」
「もっと違う!!!」
「ははっ。ほら、景品だ。大事にしてやんな」
屋台のおじさんからキーホルダーを受け取る。
「……あれ?」
よく見ると、白い犬が二つ入っていた。
「じゃあ……」
一つ取り出して、レインへ差し出す。
「はい」
「俺に?」
「二個あるし」
レインはキーホルダーを受け取ると、口元をわずかに上げた。
「へぇ?」
――何その顔……って、お揃い?
「……」
いやいや。
二個入ってたから渡しただけ。
「……あのさ、レイン――」
「返さんぞ」
「……っ!」
レインが白い犬を指先で揺らす。
「もう……行くよ」
射的の屋台を離れる。
気づけば、空は少しずつ橙色に染まり始めていた。
「そろそろ花火の場所、行こっか」
「あぁ」
人の流れに合わせて、海の方へ歩き出す。
ふわっと、焼きとうもろこしの香ばしい匂いが漂ってきた。
「美味しそう」
「……まだ食べる気なのか」
「流石に、席の確保するまでは我慢するわよ?」
「……」
赤い提灯の並ぶ道を進んでいると、波の音が聞こえてきた。
「海、もうすぐかな」
レインがこちらを見て小さく笑った。
「……何よ」
「声が弾んでる。……本当に好きなんだな」
「うん!小さい頃から海が好きでさ。いつか――」
レインが足を止める。
「どうしたの?」
「見ろ」
少し先に、見覚えのある提灯が揺れていた。
その隣には、さっき通ったはずの焼きとうもろこしの屋台。
「あれ?……ここ、通らなかった?」
「そうだな」
「道、間違えた?」
「いや」
レインの表情から、笑みが消える。
「囚われたな」
そう言われて周りを見る。
「……見た目はおかしくない、けど霊力の通りが気持ち悪いような……?」
うーん……
怪異だよね?
何も今じゃなくてもいいじゃん。
とは、思うけど。
でも。
「……よし」
もう一度、先の道を見る。
「まずは――」
二人が同時に口を開く。
「情報整理だな」
「走らないと」
「……」
「抜けられるかもしんないじゃん。善は急げ、だよ!」
そう言う頃には身体はすでに動き出していた。
「とりあえず真っ直ぐ行ってみる!」
……早くしないと。
始まっちゃうじゃん。
人混みを縫って走る。
けれど――
「……やっぱり戻るか」
また、同じ提灯。
同じ焼きとうもろこしの屋台。
そして、見覚えのある黒い髪。
「単純に抜けるのは無理、かぁ」
「そのようだな」
レインが隣へ並ぶ。
「今ので分かったことは三つある」
レインは指を一本立てる。
「一つ目。結菜は前へ走っていった。だが、後ろから戻ってきた。つまり、時間ではなく空間が繋がっている」
「なるほど」
「二つ目。俺たちだけが先に影響を受けている」
レインが人の流れへ視線を向ける。
「私たちだけ?」
「あぁ。これだけ走っているのに、誰一人見向きもしなかった」
……ほんとだ。
「周りは気づいていない。おそらく俺たちのことも見えてないか、或いは意識されてないな」
それはまず良かった――って。
「……先に?」
「時間の問題だろうな」
「ダメじゃん!」
つい大きな声を出してしまうが、やっぱり誰も気づかない。
「……三つ目は?」
「結菜が言った通りだ。単純に進むだけでは抜けられない」
その瞬間。
ドンッ――。
海の方から、大きな音が響いた。
「……」
屋台の向こうで、空が一瞬だけ赤く染まる。
「……始まった」
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