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20. 楽しみ方、伝授します

券売機の前。


横に立つレインの顔を見る。


ふと、一緒に行ったコンビニが頭をよぎる。


こいつ、金貨とか平気で出すからね。


一つ息を吐く。


仕方がない。払ってやるか。


そう思って財布を出そうとすると、レインの手には一万円札が握られていた。


「何で!?」


「いつまでも払ってもらう訳にはいかぬ故に、な」


……何そのドヤ顔。


改札を抜けると同時に、滑り込んできた車両を見て、レインが目を細める。


「……これが馬か?」


「違うよ! これは電車!」


「電車」


「これに乗ったら、自動で目的地まで連れてってくれるの」


「ほう。それは便利だな」


レインはしばらく電車を眺める。


「しかし、自動で動くなら“自動車”の方が正しいのではないか?」


「それは別!!」


電車の扉が開く。


人の流れに合わせて乗り込むと、レインも辺りを見回しながら続いた。


「ここに座ればいいのか?」

「空いてるしね」


並んで腰を下ろす。

ほどなくして扉が閉まり、電車が動き出した。


レインは流れていく景色をしばらく眺めていた。


「……速いな」


「でしょ?」


「いやしかし、ルークスの方が……」


「何張り合ってんのよ」


……ふふ。


なんだ子どもみたいで笑える。


子どもって純粋でかわいいよね。


目をキラキラさせてさ――って


「……あれ?」


「どうした?」


レインもとい――キラキラおばけ。


「あんた、長く居られないんじゃなかった?」


レインの視線が自分の手へ落ちる。


「あの老婆の術を見て、少し掴んだ」


「……おばあちゃんの?」


「あぁ。俺も魔力操作には自信があったが、視点が違う」


「なんてったって、おばあちゃんだからね」


「大したものだ」


そう言うとレインは拳を軽く握る。


「真似はできんが、参考にはなった」


レインは小さく笑った。


「少なくとも、夜までは持つ」


「……そ」


窓の外へ視線を戻す。


別に。


それならよかった、とか。


そういうんじゃないけど。


――海まで行って、すぐ戻られても困るし。


うん。


それだけ。


窓へ少し身を寄せる。


流れていた山の緑が、少しずつ開けていく。


「あ」


木々の隙間から、一瞬だけ青が見えた。


「海!」


思わず頬が緩む。


ほどなくして、電車が速度を落とし始めた。


ホームには、浴衣姿の人がちらほら見える。


「着いたみたい」


少し歩くと、道の両脇に屋台がずらりと並んでいた。


かき氷。りんご飴。わたあめ。金魚すくい。


浴衣姿の人たちが行き交い、あちこちから賑やかな声が飛び交っている。


「うわぁ……!」


思わず足が速くなる。


「レイン、見て! めっちゃある!」


「うむ。祭りとはこういうものだな」


「レインも祭り好きなんだね!」


「あぁ。祭りにはよく行く」


「そうなんだ!どんなのを見るの?」


「民の顔だな。ここは皆が明るい。国が安定している証拠だ」


「……えぇ」


思ってた反応と違う!!


「もっとこう楽しもうよ!」


「……自分が楽しむために祭りを見たことは無かったな」


「もったいな!!」


レインの王子様設定は今に始まったことじゃない。

……仕方がない。


「私が祭りの楽しみ方を伝授してあげよう!」


「――ふっ。ではお言葉に甘えてみようか」


「よろしい。では、まずは食べ物だー!」


そう言って、屋台を指差す。


「腹が減っては戦はできぬ!!!」


「……戦なのか」


「当然! さぁ、行くわよ!」


レインの腕を引いて、屋台の並ぶ通りへ踏み込む。


「まずは、これよ!」


目の前では、鉄板の上で麺が大きなヘラに混ぜられていた。


じゅうじゅうという音と一緒に、香ばしいソースの匂いが広がってくる。


「これは?」


「焼きそば!」


レインは鉄板をしばらく眺めたあと、わずかに目を細めた。


「……美味そうではあるな」


「何よ、その含みのある言い方」


「いや」


少し考えるように顎へ手を添える。


「最初から、これほど腹に溜まりそうなものを食べるのかと思ってな」


「どういうこと?」


レインは周りに並ぶ屋台へ視線を向ける。


「せっかく色々あるのだろう?少しずつ食べた方が、多く楽しめるのではないか?」


「…………」


正論だ。


なんかすごく正論だ。


祭り初心者のくせに。


「悪くはないわね」


「でも――焼きそばよ!」


「伝授すると言っておいて、お前が食いたいだけだろう」


「そうとも言う」


レインが小さく肩を揺らす。


「ふっ。結菜がそこまで推すなら食べるとしよう」


「よろしい!」


胸を張って、屋台のおじさんへ向き直る。


「焼きそば二つください!」


屋台のおじさんが威勢よく返事をして、手際よく焼きそばを容器へ詰めていく。


財布を出そうとしたときには、もう会計は終わっていた。


「これ、焼きそば代」


お金を渡そうとすると、レインが軽く手で制した。


「気にするな。前に出してもらったからな」


そう言って、受け取った一つを差し出す。


「今日は俺が出す番だ」


「……ありがとう」


空いてる場所を見つけ、レインと並んで腰を下ろす。


容器の蓋を開けたところで、レインが器用に箸を使い、麺を口へ運んでいるのが目に入った。


「……美味い。やはりこの国の食文化は――って、どうした?」


「箸、使えるんだなって……」


まじまじと手元を見る。


「さすが守護霊だね」


「お前の中で守護霊はどうなってるんだ」


祭りの賑わいを横目に、焼きそばを平らげる。


「さて」


レインへ向き直る。


「ご飯を食べたら、次はなんだと思う?」


「ふむ」


レインは少し考える。


「食後の運動か?」


「食後の運動……最高ね!」


「だけどね、問題がある」


私は人差し指を立てる。


「食はまだ終わってないわ」


少し先の屋台を指差す。


「……確かに。コース料理でも最後は――っておい」


話している途中のレインの腕を引いて、さっさと次へ向かう。


ふわふわの白いわたあめ。

真っ赤なりんご飴。


どれも美味しそうで目移りする。


「……よし、かき氷にしよ!」


選んだのは、ふわふわに削られたかき氷。


一口頬張る。


「んーっ!」


口どけ最高!!


顔を上げると、レインがこっちを見ていた。


「どうしたの?」


「いや。随分と幸せそうに食べると思ってな」


「まぁね」


もう一口、かき氷を頬張る。


美味しいものに、大好きな海。

花火だって、まだこれから。


それに――


レインの横顔が目に入る。


次は何をしようかな。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


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