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02.あんたもお化けじゃん

私の仕事は、公園管理人。


朝は早くて、夜は遅い。


とても遅い。


……というか、私の場合は夜が本番だったりする。


昼は家族連れで賑わう公園も、夜になると別の顔を見せる。


「こんばんは」


おじいちゃんに声をかける。


「おぉ、嬢ちゃん。毎日ご苦労様じゃの」


こちらは重蔵おじいちゃん。

よく散歩している公園の常連さん。


「これもお仕事ですから。てなわけで、戻りましょうね〜」

「仕方がないのぅ」


常連さん……なんだけど、嬉しくはない。


だって――

おじいちゃんの家は、隣の“墓地”。


半分透けている重蔵おじいちゃんを連れて、夜の公園を西側の出入口へ向かう。


「はい、着きましたよ〜」


出口の先に広がる墓地を示す。


「おお、いつもありがとよ」


「お家どこか分かります? 一緒に行きましょうか?」

「大丈夫じゃ。そこまで朦朧しておらん」


そのとき。


「おぉ、重蔵。こんなとこにおったのか」


声が“空”から降ってきた。


「松五郎ではないか」


……おじいちゃんが増えた。


「姿を見んから成仏したのかと思ったぞ」


「何を言うか。まだまだ成仏せんよ」


早く成仏してくれ。


「はいはい。あとはお家でお願いしますね」


「そうじゃな。あぁ、そういえば……」


「……?」


「正面出入口の方で、気になるのを見たでな。見ておくとええかものぅ」


「ありがとうございます」


ぺこりと頭を下げる。


「おぉ。ここは変なのが多いよってに、気をつけるんじゃよ」


……変なのの筆頭が何を言うか、なんて野暮なことは言わない。


重蔵おじいちゃん。

期待した目で見るんじゃないよ。


「……変なのが多いからのぅ」


なぜ二回言ったし。


……。


……あぁ、もう!


「……変なのはおじいちゃんでしょ」


そう言うと、嬉しそうに口角を上げながら、墓地の方へ消えていった。


……ほんと、困ったおじいちゃんだ。


だけど――


くれた情報に間違いはない。


だてに毎晩散歩はしていない。


それはそれで困るんだけどね。


さて、正面って言ってたよね。


足を少し速める。


いつの間にか、さっきまで聞こえていた虫の声が消えていた。


出入口が近づくにつれて、空気が重くなる。


こういう時は、大体ろくでもないのが出てくる。


この辺が正面出入口……のはずなんだけど。


……見えない。


あるはずの柵も、道も、全部ぼやけてる。


代わりに――


黒く濁った空気が、ゆらゆらと揺れている。


……これは。


懐からお札を取り出す。


「おことわり」


黒い靄に向かって投げつける。


「くらえ!おばあちゃん特製お札!」


空気が震え、じわりと靄が揺れる。


少しずつ、晴れていく。


その奥に――


“それ”はいた。


ぼさぼさの髪の隙間から、口元だけが見える。


……笑ってる。


「あちゃー……暴走してないと良いけど」


女の顔が、ゆっくりとこちらを向いた。


その瞬間。


気づいたら、すぐ目の前にいた。


「うわっ」


思わず、引いてしまう。

けれど、女も同じだけ距離を詰めてくる。


なのに足音がしない。


というか――足が動いていない。


「どうやって来てんのよ」


返事はない。

代わりに、女の口元から音が漏れた。


「ヴォオアアアァアアア」


「無理無理無理!」


反射的に後ろへ飛ぶ。


「暴走してるじゃん!!!」


女が、滑るように距離を詰めてくる。


「ちょっ、だから足どうなってんの――!」


言い終わるより先に、女の腕が伸びる。


半歩身体をずらす。

すぐ横を、黒く変色した指がかすめた。


「うわ、触りたくないタイプ!」


懐からお札を取り出して投げつける。


お札が女の身体に張りつく。

動きが、わずかに鈍った。


「よし、効いて――」


言いかけた瞬間。


女の顔が、ぐにゃりと歪んだ。


「ヴァアアアアカカケケ」


……怒らせたー!!


触りたくないけど……そうも言ってられない。


でも距離は欲しいキック!


……変な必殺技みたいになってしまった。


思い切り蹴りを叩き込む。

女の身体が、そのまま弾き飛ばされた。


「よし――」


ドンッ。


地面に叩きつけられる。


「……どうだ!?」


ぐにゃり。

身体が崩れ、黒い何かが地面に広がる。


「……えっ」


それが、一斉に持ち上がった。


……うぇ。


もしかして――


バキ、ボキ、と音を立てながら、無理やり“人の形”を作り直す。


変異したー!!


そのまま、一直線に突っ込んできた。


……ちょっとまずいかもっ


咄嗟に避けようとしたとき、背後で微かな音がした。


横目に小さな影を捉える。


子犬だった。


いま避けたら――


考えるより先に、身体が動いた。


身を翻ると子犬を抱きかかえ、背中を丸める。


目を瞑り、衝撃に備える。


「……っ」


――来ない。


恐る恐る目を開ける。


女の黒い腕が私へ伸びている。


その手首を――


淡く光る手が、横から掴んでいた。


「ヴァァァァッ!!」


女が暴れる。


けれど、その手はびくともしない。


「待たせたな」


そこにいたのは――


昨日のキラキラだった。


二人を見比べる。


「……あんたもお化けじゃん」

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