01.お化け公園でイケメン皇子(?)にナンパされました
私の名前は白崎結菜。
23歳。
職業、公園管理人。
――とは言っても、ただの公園管理人ではない。
何でって?
「おい」
私の職場のおむすび公園。
おむすびの形をした滑り台がかわいいと評判だ。
「おい」
土日ともなれば、親子で賑わうファミリー向けの公園。
だけどこの公園――
「聞いてるのか」
……うるさいわね。
低い声に振り向くと、男が馬に跨っていた。
「……っ!」
すっと通った鼻筋に、黒曜石みたいな瞳。
なんて綺麗な顔。
イケメンすぎてキラキラしたオーラまで見える――
……って、うん?
本当に光ってるじゃん!
それに馬!
公園に馬で乗り込んでくる人なんて、この辺りじゃ見たことないよ。
日本中探しても、見つかるかどうかじゃない?
……絶対、普通じゃない。
――どう見ても、お化けでしょ。
「……はぁ」
そう。この公園には、お化けが出る。
専門的には怪異というらしいが、とにかくお化けが多い。
キラキラは馬を降りると、ゆっくりこちらへ近づいてきた。
「誰に声をかけても返事すらせんから、言葉が通じてないのかと思ったが」
私のすぐそばで立ち止まる。
「どうやらお前には通じてるようだな」
こういうお化けを何とかするのも私の仕事。
だけど、今だけは後回しだ。
「悪いんだけどさ。後にしてくれる?」
「ほう?」
「この後、彼氏に会いに行くんだよね」
苦節23年、初めてできた彼氏。
そんな彼氏から“大事な話”だよ?
そりゃ行くっしょ!
このキラキラ、今のところ危険な感じもしないし。
「そんな訳で急いでるから!」
「――おい」
キラキラを置いて走る。
待ち合わせ場所は、すぐそこ。
正面入り口の時計台の下だ。
とはいえ、遅れる訳にはいかない。
なんせ大事な話。
これはもしかすると、けっこ――いやいや。
物事には順序があるからね。
さすがにその時は、一度断るしかないわね。
そんなことを考えているうちに、待ち合わせ場所に着いた。
よし、間に合った!
「――結菜」
ちょうどそのとき、後ろから声が掛かる。
振り向くと、やけに深刻な顔をした彼氏が立っていた。
何よ、そんな深刻な顔して。
あ、そうか。
私の方が早かったからね。
「大丈夫。今来たところだよ」
「結菜。別れよう」
「え、何で」
「何でって、お前といると怖いんだよ! 物が勝手に動くし、写真には変なのが映るし!」
そう言うと、私の彼氏……いや元彼は走り去っていった。
あ……。
初めてできた彼氏だったのに。
まだ手すら繋いでなかったのに。
その場に崩れ落ちる。
この体質のせいだ。
私のおばあちゃんが、霊感とか強い人で、そのせいなのか私も結構強い。
普通に見えるし、触れる。
なんなら、向こうから寄ってくる。
……ほんと、勘弁してほしいんだけど。
そのせいで恋愛は上手くいかないし、仕事はすぐクビになる。
歩く怪奇現象だって。
……なんて言い草だ。
もはやここまでくると、恋愛なんてものは諦めた方が良い気がする。
「彼氏とやらは、ずいぶん勢いよく逃げていったようだが」
顔を上げると、さっきのキラキラが立っていた。
「……見てたの」
「悪かったな。見るつもりはなかったんだが、目立つ場所だったんでな」
……そうだよね。
そりゃ見えるよね。
こんな入り口で白昼堂々、振られたんだもんな。
いや、今は夕方だから白昼とは違うか。
「ところで、一つ聞きたいことがあってな」
キラキラが言う。
――あぁ。
「何で私にだけ聞こえるかって?」
「それもあるが、それよりも――」
「あんたがお化けだからじゃない?」
「……」
「私、お化け見えるの。普通に話せるし、触れるし」
「そうか」
「そうよ」
さては信じてないわね。
自分がお化けだと気づいていないタイプか。
たまにいるんだよね。
それにしても、馬に見慣れない服装……ね。
どう見てもこの辺の人じゃない。
「あんた、“穴”から来たんでしょ」
「俺が通ってきたものを穴と呼ぶのなら、そうだろうな」
この公園にお化けが出る原因の一つが、“穴”。
時々、ここではないどこかと繋がって、お化けまで連れてくる厄介なやつだ。
前任者の資料じゃ、黄泉だの異界だの色々書いてあった。
当の本人はもう辞めちゃってるから、詳しいことは分からない。
……退職かぁ。
まさか結婚を機に、とか?
羨ましいわ!
「おい」
……はっ。
「あ。ごめん、何?」
キラキラが呆れたように私を見る。
「……お前、人の話を聞かないと言われるだろう」
「よく分かったわね」
「まさに今、目の前で聞いていなかったからな」
「聞いてるよ。それで、何の話だっけ?」
「……お前なぁ」
「冗談よ」
立ち上がり、服についた砂を軽く払う。
「今から穴を閉じに行くからさ。戻るなら今のうちだよ」
「……ふむ」
「池で合ってる?」
キラキラが頷く。
「よく分かったな」
「穴ができるの、大体池だからね。半分勘だけど」
そう言って歩き出す。
少し遅れて、キラキラもついてきた。
当然、白馬もついてくる。
……なんだこの一行。
木々と草花に囲まれた池が見えてくる。
まわりには、ゆったり歩ける散策路が続いているが、人っ子一人いない。
水面を覗くと、風もないのにゆらゆらと揺れていた。
「あそこね」
池の縁まで歩いていく。
「じゃあ、閉じるよ」
落ち葉をどかして、縁に塩を撒く。
水面に軽く手を入れて、流れを作る。
――おことわり。
揺れが、すっと収まった。
しばらくすれば繋がりは切れる。
「じゃあ戻ってくれる?」
「……やりたいことができたんでな。すぐには、な」
「……そっか」
腕を回しながら、拳を握る。
「何をしている?」
「時間もないし、無理にでも還ってもらおうかなって」
お化けを、元いた場所へ帰す。
それを“還す”って言うんだけど。
素直に還ってくれるなら、それが一番。
でも、たまにいるんだよね。
どうしても言うことを聞かない奴が。
そんな時は――殴って還す。
それも私の仕事。
「何を――」
一歩踏み込む。
「お・こ・と・わ・り」
拳を振り抜く――が、当たる直前で止まった。
「……え?」
キラキラの手が、私の拳を掴んでいた。
……受け止められた?
そのまま、しばらく見つめ合う。
黒曜石みたいな瞳が、すぐ目の前にある。
近くで見ると、さらに綺麗な顔。
……じゃなくて!
「一つ、聞いていいか?」
「……何聞きたいのよ」
キラキラは私の拳から手を離した。
「――名前は」
「は?」
名前?
……今?
そこでようやく気づく。
もしかして。
さっきから聞こうとしてたことって――
キラキラは、その場に跪いた。
「私は、レイン・エル・リミナリア」
顔を上げる。
「リミナリア皇国の皇子だ。どうか――名前を教えてくれないだろうか」
「ほえ?」
な、ナンパ……??
何この急展開!?
さっきまで殴り合ってたよね!?
……いや、殴ったの私だけだけど!
てか、皇国?
皇子!?
んなわけ――いや、落ち着くのよ。白崎結菜。
相手はお化け。
そう、お化けなんだから。
気にすることなんて何もない。
「わ、私は白崎結菜……」
「結菜、か。いい名前だ」
満足そうに頷いた。
レインはそのまま懐から懐中時計を取り出した。
「本当はもう少し話をしたいところだが――そろそろ時間切れだな」
「え?」
「結菜。また来る」
「来なくていいわよ!」
レインは小さな笑みだけを返すと、白馬へ跨った。
そして、そのまま池の方へ向かう。
「ちょっ――」
次の瞬間、馬ごと水面に沈むように消えた。
「……」
しばらく、水面を見つめる。
「……また来る、って」
え、待って。
お化け公園でイケメン皇子(?)にナンパされました??




