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18.守護霊とやら

やばいやばいやばい。


いつもなら安心できるはずのおばあちゃんを見て、それしか出てこない。


さっき見たばかりの光が、頭をよぎる。


拳に集まった霊力。


そして――


『一つ間違えると、消しちゃうことだってある』


……私がなんとかしないと。


「いや、違くて!」


とっさに出た言葉が、それだった。


「――ほう? 何が違うんだい?」


おばあちゃんの穏やかな声とは裏腹に、心臓が忙しく動いている。


足元で、シロが小さく首を傾げた。


「この人は、お化け」


一度レインを見て言う。


隣から息の漏れる音がした。


レイン。


ため息は悪手よ。


だけど、気持ちはわかるわ。


きっと不安なんでしょう。


――私がなんとかしてあげるからね。


決意を胸に、言葉を紡ぐ。


「それは分かってる。でも、教えてもらったの」


おばあちゃんは黙ったまま、続きを促す。


「そう。守護霊なの」


おばあちゃんは私を見る。


「教えてもらった……ねぇ」


続けてレインを見る。


「……待て。俺は――」


「――レイン」


レインの言葉を遮る。

おばあちゃんに下手な口答えは逆効果。


ここは、長年の信用を培った私が喋るのが最善手よ。


――だから任せて。


レインに目でそう伝える。


おばあちゃんはその様子を黙って見ていた。


やがて。


「なるほどねぇ」


よし。


伝わった。


「だから――」


トンッ。


「え?」


おばあちゃんが杖を地面へついた。


その瞬間。


レインの足元に黒い点が浮かんだ。


「……これは」


レインの眉が少し動いた。


同時に、黒い点が一気に広がる。


穴。


レインの身体が沈んだ。


「レイン!?」


「ワフッ!」  


レインの姿が、そのまま穴の中へ消える。


あっという間だった。


「おばあちゃん!?」


「大丈夫さね」


おばあちゃんは何事もなかったみたいに穴の縁へ立った。


「ちょっと話をするだけさ」


「話って――」


おばあちゃんが、にやりと笑う。


「守護霊とやらにねぇ」


そのまま、おばあちゃんまで穴へ足を踏み入れる。


「ちょ、待って!」


「結菜はそこで待ってな」


「何で――」


言い終わる前に、おばあちゃんの姿も穴の中へ消えた。


次の瞬間。


穴が閉じる。


「……」


シロがさっきまで穴のあった場所へ駆け寄った。


何もない。


本当に、ただの地面だ。


「いやいやいや」


しゃがみ込んで、さっきまで穴があった場所へ触れる。


土。


草。


「……」


レイン。


大丈夫よね。


当然、返事はない。


⸻


薄暗い空間。


少し先には、すでに坊やが立っていた。


周囲へゆっくりと視線を巡らせている。


「さて」


杖に両手を重ねる。


「妙な気配の坊や」


声に合わせて、視線がこちらへ戻る。


「悪いけど、話が終わるまではここから出られないよ」


「ふむ」


「こちらとしても、そのつもりだったのでな。ちょうど良い」


「よく落ち着いていられるねぇ?」


改めて見ても、妙な坊やだねぇ。


突然こんな場所へ落とされたというのに、焦る様子がまるでない。


それどころか、こちらを真っ直ぐ見返している。


「結菜を守るための行動だと分かるからな」


「……ほう」


「焦る理由は一つもない」


「守るため……ねぇ。本当に守護霊のようなことを言う」


杖を握る手にわずかに力を入れる。


「けどね。あたしには、そうは見えないよ」


叩きつけるように霊力を解放する。


「……」


あたしの圧を平気な顔で受け止める……か。


この男――レインと言ってたかい。


相当やるねぇ。


だからこそ――


「何のつもりで、結菜に近づいた?」


レインは少しだけ考えるように目を伏せた。


「何のつもり、か」


そう言うと、レインは顔を上げた。


「それを答える前に、一つ聞きたい。結菜の親類で間違いないか?」


……顔立ちというよりは、霊力の波長を読み取ったかね。


「そうさねぇ。あたしは結菜の祖母だよ」


あたしは、杖を軽く床へ当てた。


「それに――あの子を守る立場でもある」


そして、わずかに笑みを消した。


「さぁ答えな。返事次第じゃ、ただじゃおかないよ」


レインは一度だけ頷いた。


「ふむ。結菜の保護者であるならば、礼を尽くすべきだな」


間を置く。


「結菜に惚れた」


「……」


「それだけだ」


「……惚れた、ねぇ」


しばらくレインを見つめる。


「結菜の霊力が目当てだったら、残念だけど他をあたりな」


だが、その返答をレインは鼻で笑った。


「笑止」


「……ほう?」


「確かに、霊力――我々でいう魔力の高さを重んじる者もいる」


レインは続ける。


「だが、俺には関係ない」


そこで一度言葉を止める。


「俺が見てるのはそんなとこではない」


静寂。


そして。


「……くっくっく」


思わず肩を揺らす。


少なくとも嘘をついてる気配はない。


本心なら――


「あたしは一体何を聞かされてるんだろうねぇ」


けれど、すぐに目を細めた。


「だがねぇ。あの子は色恋に疎いところがある」


「だろうな」


「あの子はねぇ、その馬鹿みたいな霊力のせいで、昔から色々あった子さ。泣かしたら、ただじゃおかないよ」


「泣かすとしたら、嬉し泣きだけだ」


「……大した自信だねぇ」


「当然だ」


さて、一番聞きたいことは聞けた。


……とはいえ、聞きたいことはいくらでもある。


この妙な気配も。

この坊やがどこから来たのかも。


けれど――


それは今、あたしが聞くことじゃないかねぇ。


「くっくっく。そうかい」


杖を軽く鳴らす。


「なら勝手にしな。あたしは手伝わないよ」


「無論だ」


「そういえば、老婆」


「なんだい?」


「こちらの貨幣を持っているか」


「そりゃ持ってるさねぇ」


レインが懐から、金色に輝く硬貨を一枚取り出した。


「これと替えてくれ」


受け取り、指先で摘まんで光にかざす。


この質感。

霊力の通り方。


……金だね。

それも、かなり質が良さそうだ。


はて。


この模様――……。


「何かの紋章かい?」


「古くから伝わる我が国の紋章だ」


「……そうかい」


「どうした?」


「いや。気のせいだね」


金貨を懐へしまう。


「それにしても、こんな大層なもん持ち出して。何に使うんだい?」


「結菜と出かけたい」


「くっくっく。なるほどねぇ」


財布を取り出す。


「ざっくりになるけど、いいかい?」


「問題ない」


「ほらよ」


「感謝する」


⸻


しばらくして。


「それはそうと」


「何だ」


「あんた、守護霊なんだってね?」


レインの眉が寄る。


「……俺は一度もそんなことは言っていない」


「やっぱりねぇ」


「結菜が勝手に言ってるだけだ」


「だろうと思ったよ」


「あいつはいつもそうだ」


レインが小さく息を吐く。


「初対面では、何を思ったかいきなり殴りかかってきた」


「……くっ」


「あのときも話を聞かなかった」


「くっくっくっ」


笑いを堪えながら杖へ身体を預ける。


「昔から変わらないねぇ、あの子は」


「……昔からなのか」


「昔からさ」


「……やはり芯が強い」


「なんでそうなるのさ」

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


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