14.気まぐれ少女と自由なおばあちゃん
あれから毎日のように畑仕事を手伝ったり、山へ行ったり、ご近所さんとも話すようになったりもした。
ご近所さんというには少しだけ……いや、それなりに歩くけど。
今日もなかなかの距離を歩いて、ご近所さんとお話ししたよ。
こんなに歩いてばっかりだったら、足だけムキムキマッチョになったらどうしよう。
……それから海にも行った。
そう、海にも行ったのだ!
水面にうつるキラキラした太陽はすっごい綺麗だった。
やっぱ海は好きだな。
いつか私にもお母さんみたいに私だけの王子さまと出会うのかなぁ。
そんな人と海に行くんだ。
……なんちゃって。
そんなことを考えながら、私はポケットから小袋を取り出した。
中には白い塩が入っている。
ぱらぱらと指先でつまみ――その瞬間だった。
「雑念が見えるねぇ」
おばあちゃんの声が横から飛んできた。
「ざつねん??」
「集中してないのが丸わかりさね」
「そ、そんなことないよ?」
「どうだかねぇ」
……なんで分かったの。さすがおばあちゃん。
「さて、そろそろ切り替えて集中しな」
「はーい」
目の前にはおじいちゃんのおばけ。
……うん。
怖くない。困ってるだけだからね。
「おことわり」
そう言いながら塩を撒き、道をつくる。
「ありがとうの」
「ちゃんと帰るんだよ」
「ほっほっほ」
おじいさんは笑いながら消えていった。
こんな風におばけを帰す機会も増えた。
「だいぶと慣れてきたねぇ」
おばあちゃんが感心したように言う。
「うん!困ってるって思ったらおばけが怖くなくなったかも!」
「……そうかい」
おばあちゃんは何か言うかのように口を開け――結局何も言わなかった。
「……?」
その後いくつかの場所を巡り、おばあちゃんと怪異を帰しているうちに空の色も暗くなってきた。
空を見上げておばあちゃんは言う。
「そろそろ戻ろうかねぇ」
「うん!」
しばらく歩き、おばあちゃんの家に続く道といくつか持っているらしい畑へ続く道との別れ道に差し掛かる。
「それじゃあたしは畑に寄ってから帰るからね。今日の夕飯は採れたての野菜だよ」
「わぁ!楽しみ!手伝うよ?」
「ありがたいけどねぇ。暗くなってきたからね。先に帰っておきな。寄り道せんと帰るんだよ」
「はーい」
おばあちゃんの声を背中に受けて歩き出す。
おばあちゃんの家へ来てもう一週間かぁ。
あっという間だったな。
今ごろは小学校も夏休みなんだよね。
ぎりぎりまではがんばったんだけどな。
終わるころには帰れるかな。
それはそれで寂しいような気もする。
とかなんとか言ってるうちにもうすぐおばあちゃんの家だ。
そのとき。
「小さいのに、ご苦労様だね」
かわいい声が後ろから聞こえた。
振り返ると、着物を着たかわいい女の子がいた。
……半分透けてるけど。
なんなら浮いてるけど。
「君も私と同じくらいじゃん」
「そう見える?」
女の子はくすりと笑うと、その場でくるりと一回転した。
「こう見えて、この辺りに数百年はいるけどね」
「え?」
思わず目を丸くする。
「びっくりした?」
「すごいおばあちゃんじゃん」
「あははっ」
女の子はお腹を抱えて笑った。
それから――
空気が変わった。
ふわりと風が吹く。
草木がざわめいた。
「……っ」
そのとき。
「おやおや」
聞き慣れた声に振り返ると、
「おばあちゃんっ!」
片手に籠を提げたおばあちゃんの姿が目に入った。
おばあちゃんの目が少しだけ細くなる。
「珍しいお客さんだねぇ」
女の子は空中で足をぶらぶらさせながら笑う。
「久しぶりー」
「相変わらず元気そうですね」
そのやり取りに目をぱちぱちさせる。
知り合いなの?
それよりも何だろう。
何かわすれてる気がする。
「……ところで、今日はどうして来たんです?」
おばあちゃんが尋ねる。
女の子は空中で足をぶらぶらさせながら、にっと笑った。
「若者が励んでたからねっ。つい声を掛けたくなっただけだよ。……それに少し“気になるもの”がいたからねー」
おばあちゃんの目がわずかに細くなる。
「……気になるものですか」
おばあちゃんが珍しく考え込むような顔をする。
けれど、女の子はそんなおばあちゃんを気にする素振りもなく、
「それじゃあねっ」
それだけ言うと、その場から姿を消した。
「……消えた」
おばあちゃんは私の頭に手を置いた。
「自由な子だからねぇ」
おばあちゃんを見上げながら尋ねる。
「そういえば、おばあちゃんの敬語ってはじめて聞いた」
おばあちゃんは苦笑しながら肩をすくめた。
「あたしを何だと思ってるんだい。敬う心くらいあるさね」
「そっか!あの子数百年のおばあちゃんだもんね!」
おばあちゃんの顔がぴたりと止まった。
「……間違ってもあの子に言うんじゃないよ」
「もう言っちゃった」
おばあちゃんは空を見上げた。
「おやまぁ。それでさっきの霊力だったんだねぇ」
「……?」
「まぁ、表裏の無いのは良いところとも言えるかね」
おばあちゃんは私の頭を軽く撫でた。
「とはいえ……いきなりおばあちゃんとか言われたらどう思う?」
「嫌……かな」
「だろう?相手を思いやる気持ちを忘れたらいけないよ」
「……今度会ったらあやまる」
「そうさね」
おばあちゃんはそう言うと、畑へ続く道へ視線を向けた。
「さて、あたしはもう少し寄るところがあるからね。結菜は先に帰っときな」
「また?」
「またさね」
「むぅ」
頬を膨らませる私に、おばあちゃんは目尻の皺を一層深くして言った。
「そんな顔しなさんな。夕飯までには帰るさね」
「……じゃあ野菜だけでも持って帰るね」
「助かるねぇ」
籠を受け取ると、おばあちゃんは手をひらひら振って歩いていく。
その背中をしばらく見送り、やがて見えなくなると息を吐いた。
……野菜以外に何の用事あるんだろ。
「自由なのはおばあちゃんも同じだよね」
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
続きも読んでみたいと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!
よろしくお願いします!




