↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/25

12.見える子の生き方

見慣れた部屋を見回す。


築年数だけは立派なこのアパートにも、少しずつ慣れてきた。


住めば都とはよく言うが、そんな気持ちも分かってきた気がする。


それはそれとして――


「狭くない?」


私のベッドの横には、足の踏み場に困るほど堂々と布団が敷かれている。


……いつのまに敷いたのよ。この馬鹿でかい布団。


その真ん中では、シロが丸くなっていた。


「狭くないさねぇ」


おばあちゃんはそのまま布団へ潜り込むと、少し身体を起こして言った。


「おばあちゃんはスペースあるけどね!?」


「ベッド出しても良かったんだけどねぇ」


そう言うや否や、手を振って“穴”をつくる。


「もっと狭くなるじゃん!?」


「天蓋付きがいい?」


「そういう問題じゃないからっ!」


おばあちゃんは昔からこうだ。


……だけど、不思議と安心するんだよね。


シロがもぞりと布団の真ん中で寝返りを打った。


「こうやって一緒に寝るのも久しぶりだねぇ」


「……そうだね」


おばあちゃんと一緒に寝たのって、あのときがはじめてだった。


……そう、小学校に上がったばかりの頃だ。


あの頃の私は――


「結菜ー。早く用意しないと、遅刻するわよ」


お母さんの声がドア越しに聞こえる。


「やだ……」


「結菜?」


「やだっ!」


布団を握りしめながら、叫ぶようにして答える。


「結菜?」


お母さんは部屋に入ってくると、ベッドの端へ腰掛ける。


「どうしたの?」


「……」


「お腹痛い?」


首を振る。


「じゃあ学校で何かあった?」


また首を振る。


お母さんが困ったように息を吐いた。


「じゃあ、どうして?」


言っていいのかな……。


変な子だと思われちゃうかな。


でも……。


「……いるの」


「え?」


「外に……」


お母さんが首を傾げる。


「おばけがいるの!」


私がそう言うと、お母さんは何かを考えるように黙り込んだ。


やがて――


「もしかして……」


お母さんがぽつりとつぶやいた。


「ちょっと待ってて」


お母さんは部屋を出て行った。


しばらくして戻ってくると、布団にくるまる私の前にしゃがみ込む。


「結菜、おばあちゃんのところへ行こうか」


「おばあちゃん?」


「うん」


お母さんは優しく頭を撫でる。


「大丈夫、大丈夫」


こうして、私はおばあちゃんの家へ預けられることになった。


おばあちゃんの家までは車で行った。


この日はお父さんまで仕事を休んで来てくれた。


高速道路を走り続ける。


いつもならワクワクする車も、途中のサービスエリアも、今日は何も楽しくなかった。


だって……変なのがいるんだもん。


それに、目が合うと付いてくるときだってある。


だからずっと目を閉じたままにした。


もうやだ……。


私は目を閉じたまま、シートへ身体を預けた。


お母さんはそんな私の頭をずっと撫でてくれた。


気が付くと車が止まっていた。


ガチャッ。


「ほら、結菜。着いたよ」


ドアの開く音に続いて、お父さんの声がした。


「おいで。怖かったら目を閉じたままでいいからね」


そのままふわりと身体が浮いた。


お父さんの匂いが鼻先を掠める。


抱っこしてくれてるんだ。

そう思っていると、お父さんの声が耳元に落ちた。


「結菜。ここはいいところだぞぉ。自然がいっぱいでなぁ。大きな家があるんだ。お父さんも久しぶりに来たなぁ」


「結菜の大好きな海だってあるし、夜は星が綺麗に見えるのよ」


お母さんの声もすぐ横から聞こえた。


でも、ほとんど頭に入ってこない。


目を開けたら、またいるかもしれない。


ぎゅっとお父さんの服を掴む。


すると――


「連れてきたよ」


横を歩くお母さんがそう言った。


すると、聞いたことのない声が返ってくる。


「ああ。あんたが結菜かい」


不思議な声だった。


でも、何だか安心する。


「怖かっただろうねぇ。もう大丈夫だから、目を開けてごらん」


そう言われて、おそるおそる目を開けると――


目の前には優しそうな目で私を見つめるおばあちゃんがいた。


「……あれ?」


いない?


周りを見てみても、どこにもいない。


あるのは、大きな古い家と広いお庭。


後ろを見てみる。


山が近い。


もう一度前を向く。


……やっぱりいない。


ついきょろきょろしてしまう。


家の周りには畑が広がっていて、その間に家がぽつぽつ建っている。


家々の向こうに海まで見えた。


……すっごい田舎。


でも――それだけ。


目をぱちくりさせていると、


「いないさねぇ」


おばあちゃんが笑った。


「少なくとも、この家の周りにはね」


「何でいないの?」


「どうやって?」


「私にもできる?」


次々と言葉が飛び出す。


おばあちゃんは肩を揺らして笑った。


「焦らんでええさねぇ」


そう言って、しわだらけの手が私の頭に乗る。


「できるようになるまでおったらええ」


「……ほんと?」


「ああ」


おばあちゃんは頷いた。


「結菜はそれでええか?」


「うん!」


そこまで言って、はっとする。


「……お父さんとお母さんは?」


振り返ると、お母さんが少しだけ寂しそうに笑った。


「お母さんたちは帰るよ」


「えっ」


急に胸の奥がぎゅっとなった。


「やだ……」


お母さんが困ったように笑う。


そのときだった。


「それじゃ駄目なんだよ」


おばあちゃんが口を開いた。


「え?」


「結菜はねぇ」


おばあちゃんは私の頭をぽんぽんと叩く。


「これから、自分で立つ練習をするんだ」


「自分で……?」


「そうさ」


おばあちゃんは頷く。


「親ってのは守ってくれるもんだ」


お父さんとお母さんは静かに聞いていた。


「でもねぇ」


おばあちゃんは少しだけ笑う。


「ずっとは守れん」


「……」


「だから今のうちに覚えるんだよ」


「おぼえる?」


「ああ、見える子の生き方をさね」


「……うん」


私がそう言うと、


「結菜」


お母さんがしゃがみ込んだ。


「おばあちゃんの言うこと、ちゃんと聞くのよ」


「……うん」


「大丈夫よ」


お母さんは笑った。


「お母さんが一番信頼してる人だから」


そう言うと、お母さんはおばあちゃんの方へと顔を向けた。


お父さんと一緒に小さく頭を下げた。


「結菜をお願いします」


おばあちゃんは一つ頷いた。


「任せときな。泣かせることはあるかもしれんけどねぇ」


えっ。


「死なせはせんよ」


えぇっ……。


こうして私とおばあちゃんの日々が始まった。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


続きも読んでみたいと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。