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17/17

 朝もまだ早い中、裏森を歩く少年と、彼に手を引かれる赤い着物の少女がいた。


 小鳥の囀りが降って来る。


 常緑樹が立ち並ぶ、濃く、暗い色合いの中を歩く少女の赤は、眩しくともった炎のようだった。


 実った果実のようだった。


 密と渓の胸を占めるのは、同じ幸福だ。


 しかし密がそれを言えば、必ず渓は、自分のほうが幸福だと言い張るだろう。


 自分のほうが強く愛していると言って譲らない。


 そう言われたら密は降参する。


 その通りね、と笑いながら甘い喜びを感じる。


 木苺の繁みの横を通り過ぎ、二人は泉の上にせり出した小岩に辿り着いた。


 密と渓は並んで座り、両脚を小岩の下に垂らした。


 泉の水は今日も透明に澄んでいる。


 密は、美しい薔薇色の朝焼けに触れるように手を高くかざした。


 まろやかな光の洪水に、野鳥たちが飛んで来る。蝶が集う。


 渓も水を使役し、実寸大くらいの駆ける馬の像を形作り、密から拍手を送られた。


 水の馬はそのまま天高く駆け、昇って行った。


 どこかで小さな雨を降らせるのかも知れない。


 それから渓は昔のように、大きな虹色の泡で密と自分を包んだ。


 密の手の光に惹かれて来た鳥や蝶は突然現れた泡の檻に、戸惑うように羽ばたいた。


 ねえ、渓、と少女が言う。


 何、密、と少年が答える。


 密は渓にそっと耳打ちした。


 少女の言葉を聴いた少年は微笑んで頷き、少女の耳に囁き返す。


 密の手から溢れる洪水が輝きを増す。


 空が透き通った青に移り変わろうとしている。




 光の姫は、幸いに笑う。






                              終

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