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嘘告? そっちがその気なら一か月でその唇奪ってみます  作者: 幻影


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第7話 とうとう封印解いたのか

交際五日目。金曜日。


朝から拓真の視線がうるさい。別に何か言ってくるわけではない。


ただ、俺と莉奈が話すたびにこちらを見て、何かに納得したような顔をする。三時間目が終わった休み時間。


ついに我慢できなくなった。


「何なんだよ」


俺が言うと、拓真は笑った。


「何が?」


「朝から見てるだろ」


「見てない」


「見てる」


「自意識過剰じゃね?」


「お前にだけは言われたくない」


拓真は机に肘をつく。


「いや、ちょっと面白くてさ」


「何が」


「お前」


「俺?」


「とうとう封印解いたんだなって」


またそれか。ここ数日で何度聞いたか分からない。


「普通に話してるだけだろ」


「それが普通じゃなかったんだよ、お前の場合」


「意味分かんない」


「分かるって」


拓真は教室の斜め前を見る。莉奈は真帆たちと話している。


「前のお前なら、水瀬のリボンが曲がってても言わない」


「まあ」


「眠そうでも言わない」


「うん」


「髪切ってても言わない」


「それは言わない」


「怪我してる女子がいても気づいた顔すらしない」


「別に無視してたわけじゃない」


「分かってる。気づいても黙ってただけだろ」


そのとおりだ。拓真は昔から俺を知っている。


高瀬家にも何度も来ている。美咲姉から俺が説教されるところも、彩花姉に服を選ばれるところも、凛にLINEを添削されるところも見てきた。


学校では隠しているだけだということを、一番よく知っている。


「で」


拓真が俺を見る。


「何があった?」


「何って?」


「急にそこまでやる理由」


「彼女できたから」


「それだけ?」


「それだけ」


拓真がしばらく俺を見る。


「嘘だな」


即答だった。


「なんで」


「悠斗、お前さ」


拓真が声を落とす。


「水瀬のこと、付き合う前からそんな好きだった?」


俺は答えられなかった。鋭い。


「告白されたから付き合ったって言ってたよな」


「言った」


「まだ好きか分からないとも言ってた」


「お前にそこまで話したっけ?」


「顔に書いてあった」


「気持ち悪いな」


「幼馴染歴何年だと思ってんだ」


拓真は笑わなかった。


「なのにお前、最初からちょっと本気すぎない?」


本気。その言葉が引っかかった。


俺は仕返しをしている。水瀬を本気で惚れさせる。


そのために、今まで学校では使わなかったことを使っている。だから本気なのは間違っていない。


ただし。恋愛として本気なわけではない。


「放課後、時間ある?」


俺が聞くと、拓真の眉が上がった。


「あるけど」


「話す」


「何を?」


「今言ったこと」


拓真は一瞬黙った。それから頷いた。


「分かった」


昼休み。今日はいつもの六人で昼を食べる。


俺の隣は莉奈。昨日から自然とそこが定位置になっている。


「明日どうする?」


陸がパンを食べながら聞いた。


「何が?」


真帆が答える。


「駅前。新しい店できたじゃん」


「ああ、行く?」


「私は行ける」


由依も頷く。蓮も、


「俺も暇」


と言った。陸が莉奈を見る。


「莉奈は?」


莉奈は少し考える。


「明日は……」


なぜか俺を見る。何だ?


「高瀬、明日予定ある?」


突然聞かれた。


「俺?」


「うん」


「午前はないけど」


正確には昼から彩花姉に買い物へ連行される予定だ。


「午後は?」


「姉ちゃんと買い物」


真帆が反応する。


「デート?」


「姉ちゃんと」


「だから姉デート」


「その言葉やめて」


莉奈が少し笑った。


「何買うの?」


「服」


「高瀬が?」


「俺が」


なぜ全員そこに驚く。彩花姉が聞いたら怒るぞ。


「珍しい」


莉奈が言う。


「俺だって服くらい買うよ」


「でも自分からじゃないんでしょ」


「……まあ」


「やっぱり」


莉奈が楽しそうに笑う。それを見ながら。


ふと思いついた。明日、服を買う。


その次は。


「日曜」


俺が言った。


「え?」


莉奈が俺を見る。


「空いてる?」


一瞬。周囲が静かになった。


陸のパンを噛む音まで聞こえそうだった。


「私?」


「他に誰がいるんだよ」


「空いてるけど」


「じゃあどっか行く?」


莉奈が止まった。真帆が俺と莉奈を交互に見る。


由依も。蓮だけが一瞬目を細めた。


「それって」


莉奈が言う。


「デート?」


言われてから。俺も少し緊張した。


一緒に登校する。一緒に昼を食べる。


一緒に帰る。それらとは違う。


休日に二人だけで会う。明確なデート。


「そうなるな」


俺が答える。莉奈は少しだけ視線を落とした。


「いいよ」


声が小さい。


「何したい?」


「高瀬が決めて」


「丸投げ?」


「彼氏なんだから頑張って」


そう言って笑う。真帆が吹き出した。


「何その彼女感」


「付き合ってるんだから普通でしょ」


莉奈が返す。陸も笑う。


「高瀬、初デートじゃん」


「そうだけど」


「緊張してんの?」


「してない」


嘘だ。少ししている。


というか今からしている。蓮が口を開く。


「莉奈、日曜ならみんなで行けばよくない?」


一瞬だけ空気が止まった。


「なんで?」


莉奈が聞く。蓮はいつもの調子で笑う。


「駅前行くならさ。俺らも暇だし」


「それじゃデートじゃないじゃん」


莉奈は普通に答えた。蓮の笑顔がほんの少し固まる。


「まあ、そうだけど」


その変化に。俺は気づいた。


蓮は莉奈が好きだ。これはもう、ほぼ間違いない。


以前から莉奈を見る視線が少し違う。よく変化に気づく。


莉奈の話になると会話へ入る。昨日も前髪を切ったことに気づいていた。


そして今。二人きりのデートを避けさせようとした。


たぶん。俺と付き合っているのが嘘だと知っているから、まだ余裕がある。


一か月後には終わると思っている。


「じゃあ日曜ね」


莉奈が俺に言った。


「うん」


「あとで決めよ」


「分かった」


会話はそれで終わった。だが。


なぜか胸の奥に小さな違和感が残った。蓮が莉奈を好き。


その事実自体は何もおかしくない。莉奈は可愛いし、明るい。


好きになる男子がいて当然だ。なのに。


何となく面白くない。


「高瀬」


陸が俺を見る。


「何?」


「怖い顔してるぞ」


「してない」


「してたって」


「考え事」


「日曜のデート?」


「まあ」


そう答えて誤魔化した。放課後。


俺と拓真は学校近くの公園にいた。自販機で買った飲み物を持ってベンチに座る。


拓真は缶コーヒー。俺はミルクティー。


「で?」


拓真が缶を開ける。


「何の話?」


「お前が話あるって言ったんだろ」


「ああ」


言うかどうか、少し迷う。だが。


一人くらい知っている人間がいた方がいい。特にこれから状況が変わったとき。


「水瀬の告白」


俺は言った。


「うん」


「嘘なんだ」


拓真の手が止まった。


「……は?」


「罰ゲーム」


数秒。何も言わない。


「俺に告白して、一か月付き合って、俺が本気になったところでネタばらしする」


拓真が缶コーヒーをベンチの横へ置いた。


「ちょっと待て」


「うん」


「お前、それ知ってて付き合ったの?」


「そう」


「なんで」


「告白される前に、偶然話してるの聞いた」


「いや、そこじゃない」


拓真が俺を見る。


「なんで付き合ったんだよ」


予想どおりの反応だった。俺はミルクティーを一口飲む。


「腹立ったから」


「それは分かる」


「高瀬なら絶対信じるって言われてた」


「ああ」


「恋愛経験なさそうだとか、簡単に舞い上がるとか」


拓真の眉が寄る。


「で?」


「だったら逆に」


「逆に?」


俺は少し笑った。


「一か月で水瀬を本気で惚れさせようと思った」


拓真が黙った。長い。


十秒くらい。それから。


「お前」


「何」


「思ったより性格悪いな」


「知ってる」


「いや、知らなかった」


「学校じゃ猫かぶってるから」


「猫の種類違わない?」


拓真は頭を掻いた。


「つまり何?」


「何が」


「水瀬は、お前が全部知ってること知らない」


「知らない」


「お前は、水瀬が一か月後に別れるつもりなの知ってる」


「知ってる」


「お互い騙してんじゃん」


「そうなるな」


拓真が大きく息を吐いた。


「めんどくさ」


それには同意する。


「姉ちゃんたちは?」


「知らない」


拓真の顔が変わった。


「は?」


「普通に告白されたって言った」


「お前、それ一番ヤバいやつじゃん」


「声大きい」


「いやいやいや」


拓真が身を乗り出す。


「美咲さんたち、水瀬を普通の彼女だと思ってんの?」


「そう」


「本気で応援してんの?」


「かなり」


拓真が両手で顔を覆った。


「終わった」


「何が」


「一か月後のお前」


「なんで俺」


「三姉妹全員騙してんじゃん」


「水瀬を守るためだよ」


「守る?」


「あの三人に嘘告だって言ったらどうなると思う?」


拓真が黙った。少し考える。


「……確かに」


「だろ」


「凛ちゃん怒るな」


「そこだけ声優しくすんな」


「凛ちゃんは怒っても天使だから」


「真帆に言ったら大変なことになるよ」


「だろうな」


拓真はため息をついた。全く反省していない。


拓真は再び缶コーヒーを持つ。


「でもさ」


「うん」


「それ、どこまでやるつもり?」


質問の意味が分からなかった。


「どこまでって?」


「惚れさせるって」


「そのままだけど」


「キスとか?」


「最終的には」


拓真がむせた。


「お前!?」


「違う。無理やりじゃない」


「当たり前だ!」


「向こうからキスしたいと思うくらい好きにさせる」


拓真は数秒俺を見た。朝の光の中で、


「お前、本当に美咲さんの弟だな」


「どういう意味」


「やり方が妙に理屈っぽい」


否定できない。


「でも」


拓真が続ける。


「一個だけ気になる」


「何?」


「お前の方は?」


「俺?」


「水瀬を好きになったらどうすんの?」


即答できると思った。そんなつもりはない。


一か月だけ。仕返し。


最初はそうだった。今も基本は変わっていない。


なのに。一瞬。


答えが遅れた。拓真はそれを見逃さなかった。


「今、止まったな」


「止まってない」


「止まった」


「考えただけ」


「何を?」


「質問の意味」


拓真が笑う。


「お前さ」


「何」


「他人のことなら本当によく分かるよな」


「急に何だよ」


「蓮が水瀬好きなのも気づいてるだろ」


今度は俺が拓真を見る。


「お前も?」


「分かりやすいじゃん」


「まあ」


「水瀬が昨日ちょっと嫉妬してたのも?」


「……たぶん」


拓真が笑う。


「やっぱ気づいてんじゃん」


「でもあれは彼女役としてだと思う」


「はいはい」


「何だよ」


「じゃあお前は?」


「何が」


「今日、神谷が水瀬のデートに入り込もうとしたとき」


言葉が止まった。


「お前、めっちゃ嫌そうな顔してたぞ」


「してない」


「してた」


「それは」


理由を探す。蓮が計画を邪魔する可能性があるから。


水瀬を惚れさせるには、二人の時間が必要だから。それだけ。


「攻略の邪魔になるから」


俺が言うと、拓真は呆れた顔をした。


「ゲームじゃないんだから」


「分かって we」


「本当に?」


「分かってる」


拓真はしばらく俺を見る。それから缶コーヒーを飲んだ。


「まあいいけど」


「何が」


「ただ一個だけ覚えとけ」


珍しく真面目な声だった。


「何?」


「お前が水瀬を本気にさせるつもりなら、自分だけ安全な場所にいられると思わない方がいいぞ」


意味は分かる。でも。


納得はできない。


「俺は最初から全部知ってる」


「だから?」


「一か月で終わるって分かって we」


「それで気持ち止められるなら、世の中もっと簡単だろ」


拓真らしくない言葉だった。俺が見ると、こいつは少し笑った。


「俺なんか何年凛ちゃんに相手されてないと思ってんだ」


「急に説得力なくなった」


「ひどい」


「というか諦めろ」


「それは無理」


「何で」


拓真は迷わず答えた。


「凛ちゃんは俺の天使だから」


「帰る」


「待てって!」


俺は立ち上がった。くだらない。


本当にくだらない。でも。


帰り道。拓真の言葉だけは妙に残った。


自分だけ安全な場所にはいられない。そんなことはない。


俺は全部知っている。これは嘘から始まった交際だ。


一か月後には終わる。その前に水瀬を惚れさせる。


ただそれだけ。スマートフォンが震えた。


莉奈からだった。


『日曜どこ行く?』


続けて。


『初デートなんだからちゃんと考えてよ、彼氏くん』


俺は立ち止まった。初デート。


その文字だけで、少し心臓が速くなる。


『任せて』


送信。すぐに返信。


『期待してる』


笑っているスタンプまでついている。俺は画面を見ながら、小さく息を吐いた。


「……大丈夫だろ」


誰に言ったのか自分でも分からない。少なくとも今は。


水瀬を本気にさせる側は、俺だ。そのつもりだった。


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