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嘘告? そっちがその気なら一か月でその唇奪ってみます  作者: 幻影


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24/29

第24話 好きになったのに、言えない

交際二十二日目、月曜日。朝、目が覚めた瞬間から、莉奈は昨日の写真を見ていた。


二人で並んで笑っている写真。その前には、悠斗が自分だけを見ている一枚がある。


昨夜、自分の中でようやく認めた。悠斗が好き。


もう罰ゲームの相手でも、彼氏役でもない。本当に好きな男の子になっていた。


認めてしまえば、今まで曖昧だったことが全部つながる。ほかの女子に話しかけられると嫌だったこと。


休日に会いたくなったこと。手をつないで離したくなかったこと。


名前で呼ばれるだけで嬉しくなったこと。全部。


好きだったから。


「……最悪」


ベッドの上で呟く。好きになったことが最悪なのではない。


もっと早く、自分が何をしているのか考えなかったことが最悪だった。最初の告白は嘘。


一か月付き合って、悠斗が本気になったところで罰ゲームだったと明かす。そんな話を、みんなで笑いながら決めた。


その相手を。今は自分が本気で好きになっている。


スマートフォンが震えた。悠斗。


『8時でいい?』


いつもの確認。莉奈は画面を見る。


昨日までは、この一文だけでも嬉しかった。今日は少し苦しい。


『うん』


送る。少し迷って、もう一件。


『おはよう、悠斗』


すぐ既読。


『おはよう、莉奈』


名前で返ってきた。胸が温かくなる。


同時に。もっと苦しくなった。


朝八時。いつもの場所へ行くと、悠斗はすでに待っていた。


「おはよう」


「おはよ」


顔を見る。昨日までと同じ。


でも。莉奈の中では、もう違う。


好きだと認めた相手が目の前にいる。それだけで、まともに顔を見られない。


「莉奈?」


二人きりなので名前で呼ばれる。


「何?」


「今日、なんか眠そう」


「ちょっと寝るの遅かった」


「何してたの?」


「写真見てた」


言ってから。止まる。


悠斗も少し黙った。


「昨日の?」


「……うん」


「俺も見た」


「どれ?」


聞いてしまう。悠斗は少し考えた。


「二枚目」


やっぱり。自分を見ている写真。


莉奈は前を向く。


「何回?」


「何回って?」


「見た回数」


「数えてない」


「結構見た?」


「まあ」


それ以上聞くと。期待してしまう。


「そっか」


二人で歩き始める。少しして、悠斗が普通に手を出した。


昨日までと同じ。莉奈も握る。


でも今日は。その手を握った瞬間、好きという言葉が頭に浮かんだ。


「……」


「何?」


「何でもない」


「今日それ多くない?」


まだ一回目だ。


「悠斗こそ」


「俺何も言ってないけど」


「顔」


最近よく使われる言葉を返す。悠斗が笑う。


「俺、そんな分かりやすい?」


「最近は」


「莉奈にだけ言われる」


違う。家族にも言われているはずだ。


感情でも。


『莉奈にだけ』


その言葉だけ拾ってしまう。


「……そうなんだ」


「何?」


「何でもない」


今度は本当に二回目だった。学校が近づくと、いつものように手を離す。


その瞬間。少し寂しい。


でも今日は、その感情から逃げなかった。悠斗と手をつないでいたい。


それは。好きだから。


教室へ入ると、真帆が莉奈の顔を見た瞬間に眉を上げた。


「莉奈」


「何?」


「ちょっと来て」


「どこに?」


「いいから」


腕をつかまれ、由依まで一緒に廊下へ連れていかれる。


「何なの?」


人気の少ない階段近くまで来たところで、真帆が止まった。


「昨日、高瀬と会った?」


莉奈も止まる。


「……なんで?」


「顔」


今日二回目。由依が少し笑う。


「莉奈、分かりやすくなったね」


「何が」


真帆は莉奈の顔を見る。


「会ったんだ?」


「会ったけど」


「二人で?」


「うん」


「何した?」


「普通に出かけただけ」


「手?」


「つないだ」


もう隠す意味がない。真帆が小さく息を吐く。


「キス?」


「してない!」


思わず声が大きくなる。由依が笑う。


「そこはまだなんだ」


「まだって何」


「じゃあ何があったの?」


真帆が聞く。


「何もないって」


「写真」


由依が突然言った。


「え?」


「昨日、莉奈がアイコン変えようか迷ってるって言ってた写真」


莉奈はスマートフォンを見る。昨夜、三人のグループLINEに写真を一枚だけ送っていた。


三枚目。二人で普通に笑っている写真。


真帆が言う。


「どう見ても普通のカップルだった」


「付き合ってることにはなってるんだから普通でしょ」


「そこ」


真帆の声が少し変わる。


「まだ『ことにはなってる』って言う?」


莉奈は答えられなかった。由依も何も言わず待っている。


昨日。一人で認めた。


悠斗が好き。でも。


人に言うのはまた違う。


「莉奈」


真帆が少しだけ声を落とす。


「昨日、何か分かった?」


逃げられない。莉奈はしばらく黙った。


そして。


「……好き」


小さく言った。真帆も由依も黙る。


もう一度。今度は少しだけはっきり。


「悠斗のこと、好きになった」


口にした瞬間。胸が大きく鳴った。


でも。不思議と。


否定したいとは思わなかった。真帆がゆっくり息を吐く。


「やっと言った」


由依も少し笑う。


「うん」


「笑わないでよ」


「笑ってないよ」


「笑ってる」


「嬉しいだけ」


その言葉で。莉奈の表情が少し曇る。


「嬉しくないよ」


二人の笑顔が止まった。


「最初が最初だから」


言葉にすると、現実が重くなる。


「私が好きになったからって、なかったことにはならないし」


「うん」


由依は否定しなかった。莉奈は壁へ背中を預ける。


「むしろ前より言いにくくなった」


真帆が聞く。


「本当のこと?」


「うん」


「何で?」


「好きだから」


答えは簡単だった。


「嫌われたくない」


初めて。はっきり口にした。


「悠斗に知られたら、絶対傷つく。怒るかもしれないし、もう会いたくないって言われるかもしれない」


それだけではない。高瀬家の人たち。


美咲。彩花。


凛。千春。


健司。みんな自分を本当の彼女だと思って受け入れてくれた。


「家族にも嫌われると思う」


真帆が何も言えなくなる。由依が静かに聞いた。


「でも、このままなら?」


莉奈は顔を上げる。


「あと八日だよ」


分かっている。一か月。


もう八日しかない。


「最初の予定通りなら、八日後に言うんでしょ?」


「……うん」


「そのときの方が、もっと言いにくくない?」


何も返せなかった。八日後。


ここまで普通の恋人みたいに過ごして。手までつないで。


写真まで撮って。好きになって。


それから。実は最初の告白は罰ゲームでした。


そんなことを言うのか。


「無理」


思わず口から出た。真帆が聞く。


「何が?」


「八日後まで待つの」


二人を見る。


「無理だと思う」


由依が頷く。


「私も、その方がいいと思う」


真帆も今回は笑わなかった。


「莉奈。早い方がいいよ」


怖い。でも。


分かっている。


「……うん」


自分で始めたことだ。好きになったから終わりではない。


むしろ。好きになったからこそ。


ちゃんとしないといけない。


「今日?」


真帆が聞く。莉奈はすぐに答えられなかった。


今日。いきなり。


「まだ……」


言いかける。でも。


また先延ばしにしようとしているだけだと、自分でも分かる。


「少し考える」


結局そう答えた。教室へ戻る。


悠斗は拓真と話していた。莉奈が入ってきたことに気づく。


目が合う。少し笑う。


莉奈も反射的に笑い返す。好き。


そう思う。だから。


怖い。昼休み。


いつもの六人で机を寄せる。昨日のカラオケの話になり、陸が採点結果についてまだ文句を言っている。


「絶対機械がおかしかった」


真帆が即答する。


「高瀬に負けたから?」


「二点差だぞ」


「負けは負け」


「次やったら勝つ」


俺――悠斗が笑う。


「別に勝負してないけど」


「次はする」


「勝手に決めるな」


いつもの会話。莉奈も笑う。


でも。以前とは違う。


悠斗を見るたびに。あと八日。


その数字が浮かぶ。蓮が莉奈へ聞く。


「莉奈、昨日も高瀬と会ってた?」


莉奈の動きが止まる。


「何で知ってるの?」


「陸が写真見たって」


「俺?」


陸が驚く。


「真帆が見せたじゃん」


「真帆!」


莉奈が睨む。真帆は悪びれない。


「三枚目だけ」


「勝手に見せないでよ」


「ごめんって」


悠斗が少し驚いている。


「写真、陸たちも見たの?」


「見た」


陸が答える。


「普通によかったぞ」


「何が」


「カップルっぽくて」


悠斗が一瞬。莉奈を見る。


その顔が。少し嬉しそうに見えた。


胸が痛む。蓮も笑う。


「見せて」


「嫌」


莉奈は即答した。蓮が少し驚く。


「なんで?」


「二人の写真だから」


言ってから。教室が少し静かになった気がした。


実際には、周りは普通に騒がしい。感情でも。


この机だけ。少し止まった。


真帆が莉奈を見る。由依も。


悠斗も。蓮は少しだけ笑った。


「そっか」


「ごめん」


「いや。別に謝らなくていい」


普通の返事。でも。


少しだけ寂しそうだった。莉奈には分かった。


以前なら。蓮の気持ちに気づかないふりをしていた。


今は。悠斗が好きだと分かったから。


曖昧にしたくなかった。陸が空気を変えるように言った。


「じゃあ俺と真帆の写真撮ろうぜ」


「なんで」


「カップルっぽいやつ」


「絶対嫌」


「即答?」


「百円くれたら考える」


「安いな」


みんなが笑う。空気が戻る。


莉奈も笑った。その横で。


悠斗が小さな声で言った。


「ありがとう」


「え?」


「写真」


周りには聞こえないくらいの声。


「二人のって言ってくれたから」


それだけ。胸が苦しくなる。


嬉しい。でも。


嬉しいほど。隠していることが重くなる。


放課後。莉奈は悠斗と一緒に校門を出た。


二人になり。名前で呼ぶ。


「悠斗」


「何?」


「今日、どっか寄る?」


「いいよ」


「どこ?」


「莉奈が決めて」


「また私?」


「昨日呼んだのも莉奈」


「それはそうだけど」


普通の会話。いつもの二人。


駅へ向かう途中、自然に手をつなぐ。莉奈はその手を見る。


今日。言うなら。


今かもしれない。でも。


口が動かない。


「莉奈」


「何?」


「今日、なんか変じゃない?」


やっぱり気づかれた。


「そう?」


「朝から」


「寝不足」


「それだけ?」


「……たぶん」


自分まで『たぶん』を使っている。悠斗が少し笑う。


「うつった?」


「何が?」


「たぶん」


「悠斗がよく言うから」


「俺そんな言う?」


「言う」


しばらく歩く。手はつないだまま。


信号待ち。横を見る。


悠斗。好きな人。


今言えば。全部壊れるかもしれない。


感情でも。言わなければ。


もっと壊れる。


「悠斗」


「何?」


莉奈は口を開く。


「私さ」


「うん」


ここまで。出た。


でも。その先が。


出ない。悠斗は急かさず待っている。


「……もし」


やっと続ける。


「もし?」


「もし、私が悠斗に言ってないことあったらどうする?」


悠斗の表情が少し変わった。心臓が痛いほど鳴る。


「内容による」


凛と同じ答え。


「嫌なことかもしれない」


「俺にとって?」


「……うん」


悠斗は少し考えた。


「言いたい?」


「分からない」


「じゃあ、言えるときでいいんじゃない?」


優しい。やっぱり。


優しい。だから余計に苦しい。


「怒らないの?」


「まだ何も聞いてないのに?」


「聞いたら怒るかも」


悠斗は少し黙った。それから。


「怒るかもしれない」


莉奈の手が少し強くなる。


「でも」


悠斗も握り返す。


「聞かないと分からない」


その言葉。逃げ道がない。


でも。正しい。


「……そっか」


「何かあるの?」


聞かれる。今。


言える。最初の告白は嘘だった。


全部知っていた。一か月の罰ゲームだった。


言えばいい。


「……ある」


初めて。そこまで認めた。


悠斗の表情が少し真剣になる。


「そっか」


「聞かないの?」


「莉奈が話したいなら聞く」


「今じゃなくても?」


「うん」


優しすぎる。本当は。


今言うべきだ。でも。


莉奈は怖かった。


「もう少しだけ」


言う。


「待って」


悠斗は数秒黙った。それから。


「分かった」


それだけ。責めない。


疑わない。問い詰めない。


胸が痛い。


「ごめん」


「何で謝るの?」


「……まだ言えないから」


「じゃあ言えるようになったら」


普通に返される。莉奈は前を向いた。


泣きそうになる。でも。


泣く資格なんてない。自分がやったことだ。


「悠斗」


「何?」


「ありがとう」


「まだ何もしてないけど」


「それでも」


駅まで。二人は手をつないだまま歩いた。


いつもより少し会話は少なかった。でも。


悠斗は手を離さなかった。改札前。


いつもの場所。手を離す。


「また明日」


悠斗が言う。


「うん」


莉奈も答える。少し歩く。


振り返る。悠斗はまだいた。


「悠斗」


「何?」


本当のことは。まだ言えない。


でも。これは言える。


「好きな人に、嘘つくのって最低だよね」


悠斗の表情が止まった。言ってしまった。


莉奈はすぐ後悔した。


「ごめん。今の忘れて」


「莉奈」


「また明日」


逃げるように改札へ入る。呼び止められなかった。


ホームまで歩いて。ようやく息を吐く。


心臓が苦しい。ほとんど。


言っているようなものだ。でも。


肝心なところだけ言えていない。スマートフォンを見る。


悠斗からLINEは来ていない。当然だ。


莉奈は自分から送ることもできなかった。一方。


改札前に残された悠斗は。しばらく動けずにいた。


『好きな人に、嘘つくのって最低だよね』


莉奈の言葉。俺は。


意味を知っている。たぶん。


莉奈は嘘告のことを言おうとしている。そして。


もう一つ。好きな人。


その言葉。誰のことだ。


普通に考えれば。かなり答えは近い。


でも。俺はそこで。


自分に都合のいい答えを選ぶのが怖かった。莉奈が俺を好き。


そう思って。もし違ったら。


かなり痛い。


「……他人なら分かるのにな」


一人で呟く。拓真に何度も言われた。


他人なら分かる。自分のことだけ分からない。


本当にその通りだった。ただ。


一つだけ。はっきりしたことがある。


莉奈は。嘘告のことを気にしている。


そして。俺も。


もう一つの嘘を抱えている。最初から全部知っていたこと。


仕返しするつもりで付き合ったこと。俺だけが被害者ではない。


今の莉奈に。本当のことを言わせるなら。


そのときは。俺も話さないといけない。


一か月の終わりまで。あと八日。


でも。たぶん。


そこまで待つ必要は。もうなかった。


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