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嘘告? そっちがその気なら一か月でその唇奪ってみます  作者: 幻影


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20/29

第20話 名前で呼んで

交際十九日目、金曜日。朝、いつもの場所へ着くと、莉奈は俺を見つけてすぐにスマートフォンを鞄へしまった。


昨日は一緒に帰れなかった。たった一日なのに、今日は少し久しぶりに二人で歩くような感じがする。


「おはよう」


「おはよ」


並んで歩き始める。昨日の夜、莉奈から『帰りも一緒ね』と念を押された。


だから今日は、放課後の予定まで最初から決まっている。


「昨日、真帆たちと何話してたの?」


聞くと、莉奈が少しだけこちらを見る。


「まだ気にしてたの?」


「朝からずっと変だったから」


「女子の話」


「それは聞いた」


「じゃあそれでいいじゃん」


やっぱり教える気はないらしい。


「俺の話もした?」


莉奈の足がほんの少し遅くなる。


「……ちょっと」


「何を?」


「言わない」


「悪口?」


「違う」


そこだけはすぐ否定した。


「じゃあ何」


「高瀬には言えない話」


「俺の話なのに?」


「本人だから言えないの」


ますます気になる。でも、莉奈はもう話すつもりがないらしく、前を向いたまま歩いている。


無理に聞くのも違うと思い、それ以上はやめた。少しして莉奈がこちらを見る。


「高瀬は昨日何してたの?」


「拓真が家来た」


「あ、凛ちゃん目当て?」


「最初から隠してなかった」


莉奈が笑う。


「どうだった?」


「映画断られて、ご飯断られて、買い物も散歩も断られてた」


「全滅じゃん」


「最後はブロックするって言われて黙った」


莉奈が声を出して笑った。


「凛ちゃん強い」


「だろ?」


「でも黒瀬くんもすごいよね」


「何が?」


「全然諦めないところ」


確かに。普通なら何度か断られたところで、少しは引くと思う。


拓真はその気配がほとんどない。


「好きだからって言ってた」


何気なく言うと、莉奈の笑顔が少し止まった。


「黒瀬くんが?」


「うん。俺が何でそんな前向きなんだって聞いたら、普通に」


莉奈は少し黙る。


「……すごいね」


「何が?」


「好きって、そんな普通に言えるの」


その声が少しだけ違った。俺は横を見る。


「水瀬は言えないタイプ?」


「何を?」


「好きって」


莉奈がこちらを見る。一瞬。


明らかに固まった。


「……朝から何聞いてんの?」


「拓真の話からそうなっただけだろ」


「普通彼女に聞く?」


言われて気づく。確かに。


付き合っている相手に『好きって言える?』と聞くのは少し変だ。


「じゃあ今のなし」


「遅い」


莉奈は前を向く。耳が少し赤い。


「高瀬は?」


逆に聞かれた。


「俺?」


「好きって普通に言える?」


考える。誰かを恋愛として好きだと、今まで言ったことはない。


そもそも言う相手がいなかった。


「分からない」


「またそれ?」


「経験ないから」


「理論はいっぱいあるのに?」


「それとこれとは別」


莉奈が小さく笑う。


「知ってる」


最近、それを一番理解しているのは莉奈かもしれない。学校へ着く。


教室へ入ると、陸と蓮が先に来ていた。真帆と由依はまだいない。


「おはよ」


陸が手を上げる。


「おはよう」


俺が答える。莉奈も、


「おはよ」


と返し、自分の席へ向かおうとした。そのとき。


「莉奈」


蓮が呼んだ。


「何?」


「これ昨日言ってたやつ」


プリントのようなものを渡す。


「あ、ありがと」


何でもないやり取り。たぶん授業か何かの話だ。


でも。俺はなぜか、その会話の内容より別のところが気になった。


莉奈。蓮は普通に名前で呼ぶ。


陸も。真帆も由依もそうだ。


俺だけが。ずっと水瀬と呼んでいる。


付き合い始める前からそうだったので、何も考えていなかった。感情俺は一応、彼氏だ。


少なくとも周りから見れば。


「悠斗」


横から声がする。拓真だった。


「何?」


「今、神谷見てただろ」


「見てない」


「見てた」


最近こればかりだ。


「何?」


拓真が俺の机に寄りかかる。


「また嫉妬?」


「違う」


今回は本当に少し違う。


「じゃあ何」


「……蓮って水瀬のこと、前から名前で呼んでた?」


拓真が止まった。数秒。


「今さら?」


その反応で答えは分かった。


「前から?」


「ずっとだろ」


「そうだっけ」


「お前、本当に興味なかったんだな」


付き合う前なら、誰が莉奈を何と呼んでいるかなんて気にしていなかった。


「真帆たちも名前だろ?」


「うん」


「陸も」


「うん」


「神谷も」


「……うん」


拓真の口元が上がる。


「神谷だけ返事遅くない?」


「気のせい」


「へえ」


うるさい。そこへ真帆と由依が来た。


「おはよー」


「おはよう」


莉奈が二人に返す。


「莉奈、昨日の続きだけどさ」


真帆が普通に名前を呼ぶ。由依も、


「莉奈」


と続ける。気になる。


一度気づくと、妙に気になる。俺は自分の席へ座った。


拓真も隣へ戻りながら、まだ笑っている。


「悠斗」


「何」


「お前も呼べば?」


「何を」


「水瀬を名前で」


簡単に言う。


「急に変だろ」


「彼女だぞ」


「そうだけど」


「俺なんか凛ちゃんって呼んでる」


「お前と一緒にするな」


「何が違うんだよ」


全部違う。午前中。


自分でも馬鹿だと思うくらい、呼び方が気になった。授業中は当然関係ない。


でも休み時間になると、あちこちから聞こえてくる。


『莉奈』


『莉奈、それ貸して』


『莉奈、次移動だよ』


本人は普通に返事をしている。当たり前だ。


俺だって家では悠斗と呼ばれている。拓真にも。


それなのに蓮が『莉奈』と呼ぶたびに、ほんの少し引っかかる。昨日まで気にしたこともなかったのに。


昼休み。いつもの六人で机を寄せる。


「土曜、何時集合?」


陸が聞く。


「十一時でよくない?」


真帆が答える。


「カラオケ三時間?」


「三時間も陸の歌聞くの?」


「お前昨日から俺に厳しすぎない?」


真帆と陸が言い合う。由依が笑う。


蓮がスマートフォンで店を調べる。


「十一時からならフリータイム入れるかも」


「莉奈、どうする?」


蓮が聞く。また。


俺は弁当を食べながら顔を上げた。


「私は何時でもいいよ」


「じゃあ十一時でいいか」


普通の会話。何もおかしくない。


なのに。


「高瀬?」


莉奈に呼ばれた。


「何?」


「さっきから蓮のこと見てない?」


本人にばれた。


「見てない」


「見てるよ」


蓮までこちらを見る。


「俺何かした?」


「何もしてない」


本当にしていない。陸が少し笑う。


「またか?」


「何が」


「この前も莉奈と蓮が話してると気にしてたじゃん」


「気にしてない」


「じゃあ何?」


全員に見られる。言えるわけがない。


名前で呼んでいるのが気になるなんて。真帆が俺の顔を見る。


「高瀬」


「何?」


「嫉妬?」


「違う」


莉奈が少し笑った。


「返事早い」


一昨日と同じことを言われる。


「本当に違う」


「じゃあ何なの?」


莉奈まで聞いてくる。少し迷う。


でも、ここで言うのは嫌だ。


「あとで」


言うと。全員が止まった。


特に莉奈。


「……あとで?」


「帰りに」


何となくそう言っただけなのに、莉奈の顔が少し赤くなる。真帆が笑う。


「何それ」


「何でもない」


「私たちの前では言えないこと?」


「大した話じゃない」


本当に。たぶん。


でもなぜか今は、二人だけのときに話したかった。昼休みが終わるまで、莉奈は何度かこちらを見ていた。


放課後。約束通り、一緒に帰る。


昨日一日空いただけなのに、校門を出たところで莉奈が少し嬉しそうに見えた。


「高瀬」


「何?」


「昼の話」


忘れていなかった。


「もう?」


「もうって何。ずっと気になってたんだけど」


そんな大した話ではない。余計に言いにくくなる。


「歩きながらでいい?」


「いいけど」


二人で駅へ向かう。最初は学校の近くだったので、周りにも生徒が多い。


少し離れ、人が減ったところで莉奈がもう一度聞く。


「で?」


「何が」


「昼の」


「急かすなよ」


「高瀬があとでって言ったんでしょ」


そうだった。俺は少し考えてから聞く。


「水瀬ってさ」


「うん」


「みんなから莉奈って呼ばれてるよな」


莉奈が一瞬止まりそうになる。


「……それ?」


「うん」


「真帆も由依も蓮も陸も、そうだけど」


やっぱり蓮の名前が入ると少し引っかかる。莉奈は俺を見る。


「それがどうしたの?」


「いや」


ここまで来て何を言っているんだ、俺は。


「俺だけ水瀬だなと思って」


莉奈が黙った。数歩。


何も言わない。


「変なこと言った?」


聞くと、莉奈が小さく首を振る。


「違う」


「じゃあ何」


「今ちょっとびっくりしただけ」


「何で」


莉奈が前を向く。


「高瀬、そういうの気にするんだ」


「今日気づいただけ」


「蓮に呼ばれてるの見て?」


鋭い。


「……最初は」


答える。莉奈の口元が少し上がった。


「やっぱり嫉妬じゃん」


「名前の話だろ」


「蓮が名前で呼ぶの嫌だった?」


嫌。なのか。


少し考える。


「嫌っていうか」


「うん」


「俺より近い感じする」


口にしてから、かなり恥ずかしいことを言った気がした。莉奈も黙る。


顔を見ると。赤い。


「何」


「……高瀬」


「うん」


「それ結構ずるい」


「何が?」


「自分で分かってない?」


「分からない」


最近、本当にこればかりだ。莉奈は少し笑う。


「じゃあ、高瀬も呼べば?」


「何を?」


分かっているのに聞いてしまう。


「名前」


莉奈の声が少し小さくなる。


「私のこと」


心臓が一度大きく鳴った。ただ名前を呼ぶだけ。


それだけだ。何度も聞いている名前。


自分だって頭の中では莉奈と認識している。なのに本人を前にすると、急に難しくなる。


「……今?」


「今じゃなきゃいつ?」


「急だろ」


「高瀬から言い出したんじゃん」


正論だった。莉奈が少しこちらへ顔を向ける。


待っている。逃げられない。


「……莉奈」


言った。莉奈の足が止まった。


俺も止まる。


「何?」


「いや」


「嫌だった?」


「違う」


莉奈は片手で口元を押さえた。


「思ったより破壊力あった」


「何それ」


「もう一回」


「何で」


「確認」


何を確認するんだ。でも。


「莉奈」


二回目。今度は少し言いやすい。


莉奈は目を逸らす。


「……無理」


「水瀬が言わせたんだろ」


「今、水瀬って言った」


「あ」


莉奈がこちらを見る。


「戻さないで」


その言い方が。妙に嬉しい。


「分かった」


「本当に?」


「……莉奈」


三回目。莉奈が笑う。


「よし」


何の合格だ。また歩き始める。


少しして。今度は俺が気づいた。


「じゃあ水瀬は?」


莉奈が止まる。


「何が?」


「俺は莉奈って呼ぶんだろ?」


「……うん」


「俺は高瀬のまま?」


分かりやすく困った顔をした。


「別にそれでもいいけど」


言うと、


「嫌」


即答だった。俺が驚く。


莉奈も自分の返事に驚いたらしい。


「いや、その……」


「嫌なんだ?」


「高瀬が名前で呼ぶなら、私も呼ぶ」


「何て?」


「分かってるでしょ」


今度は莉奈が逃げる番だった。


「聞きたい」


「性格悪い」


「水瀬に二回言わされたから」


「また水瀬って言った」


「じゃあ莉奈」


「……急に直さないでよ」


難しい。莉奈は少しだけ息を吐いた。


それから。


「悠斗」


呼ばれた。今度は俺の足が止まった。


なるほど。これは。


思ったより破壊力がある。


「……何その顔」


莉奈が笑う。


「いや」


「もう一回?」


さっきの仕返しだ。


「別に」


「じゃあやめる」


「それは」


言いかけて止まる。莉奈が完全に笑った。


「何?」


「もう一回」


仕方ない。認める。


莉奈は少し恥ずかしそうにしながら、


「悠斗」


と呼んだ。


「……うん」


「返事それだけ?」


「何て返せばいいんだよ」


「知らない」


二人で笑う。呼び方が変わっただけ。


本当に、それだけだ。でも。


さっきまでより明らかに距離が近くなった気がする。


「悠斗」


莉奈がもう一度呼ぶ。


「何?」


「練習」


「練習いる?」


「慣れないから」


「俺も」


「じゃあ呼んで」


「莉奈」


「はい」


なんだこれ。恥ずかしい。


でも。楽しい。


しばらく二人で意味もなく名前を呼び合い、途中で同時に恥ずかしくなってやめた。


「学校ではどうする?」


莉奈が聞く。


「何が?」


「名前」


考えていなかった。


「みんなの前でも?」


「私は別にいいけど」


「真帆に絶対言われるぞ」


「それは嫌」


即答。俺も同意する。


「じゃあ二人のときだけ?」


聞くと、莉奈が少し黙った。


「……それ、なんか特別っぽくない?」


「嫌?」


「嫌じゃない」


むしろ。その顔は少し嬉しそうだった。


「じゃあ当分それで」


「うん」


二人だけ。その言葉が残る。


秘密みたいで。少しだけいい。


駅前が近づく。昨日は手をつなぐことばかり意識していたが、今日は名前のことで頭がいっぱいになっていた。


それでも。信号待ちで並んだとき。


俺は莉奈の手を見る。今度は迷わなかった。


普通に握る。莉奈が一瞬こちらを見る。


「今日は早い」


「八十点目指してるから」


昨日のLINEの話。莉奈が笑う。


「採点覚えてたんだ」


「言ったの莉奈だろ」


名前で呼びながら手をつなぐ。言った瞬間、自分でも昨日までとの違いを感じた。


莉奈も少しだけ握る力を強くする。


「今のは加点」


「何点?」


「まだ秘密」


「また秘密?」


「最近多いね」


「莉奈のせいだろ」


「悠斗のせいでもある」


自然に名前が出た。二人とも少し黙る。


でも今度は止まらなかった。そのまま歩く。


名前で呼ぶ。手をつなぐ。


昨日まで一つずつ緊張していたことが、今日は少しずつ重なっていく。そして。


嫌ではない。むしろ。


このまま駅までの道がもう少し長ければいいのにと思った。改札前。


手を離す。莉奈が俺を見る。


「今日何点だと思う?」


「八十」


「自分で言う?」


「昨日より早くつないだ」


「それだけ?」


「名前も呼んだ」


莉奈が少し考える。


「八十五」


「五点しか増えないの?」


「明日以降の伸びしろ」


「まだ上あるの?」


「ある」


何をすれば百点になるんだ。聞こうと思ったが、やめた。


たぶん聞いても教えてくれない。


「じゃあまた明日」


「うん」


莉奈が改札へ向かう。二歩。


三歩。そこで振り返る。


「悠斗」


「何?」


周りには知らない人しかいない。だから。


「またね」


「またな、莉奈」


莉奈は笑って改札の向こうへ行った。俺はその背中を見送る。


好きかどうか。数日前まで。


まだ分からないと言っていた。でも今日。


蓮が莉奈と呼ぶことより。俺だけが特別な呼び方を持っていることが嬉しかった。


二人だけという言葉に、嬉しくなった。次に二人でカラオケへ行く約束までした。


そして。その約束が一か月後でも構わないと。


普通に思っていた。もう。


答えを分からないふりする方が。難しくなってきていた。


帰宅すると、珍しく父さんが先に帰っていた。リビングでは母さんと凛もいて、彩花姉はソファでスマートフォンを見ている。


「ただいま」


「おかえり」


母さんが答える。俺はそのまま部屋へ行こうとした。


「悠斗」


凛に呼ばれる。


「何?」


「今日機嫌いいね」


またか。


「普通」


「最近普通の基準変わってるよ」


彩花姉までこちらを見る。


「何かあった?」


「何もない」


父さんが新聞から顔を上げた。


「キスでもしたか?」


「してない!」


反射で答えた。全員が止まる。


しまった。父さんが少し笑う。


「まだ何も聞いてないけど」


「今キスって言っただろ」


「冗談だよ」


彩花姉の目が完全に面白がっている。


「『まだ』なんだ」


「何が」


「キス」


「違う」


凛まで笑う。


「お兄ちゃん分かりやすくなったね」


最悪だ。


「もう部屋行く」


逃げるようにリビングを出る。後ろから父さんの声。


「青春だなあ」


続けて母さん。


「あなたは黙ってなさい」


いつもの高瀬家だった。部屋へ戻り、ベッドへ座る。


スマートフォンを見る。莉奈からLINE。


『家着いた』


今までなら表示される名前は『水瀬莉奈』。連絡先を開く。


少し迷う。表示名を変える必要なんてない。


本名が入っているのだから。でも。


『水瀬莉奈』


その文字を見て。今日の会話を思い出す。


俺は少しだけ操作した。表示名。


『莉奈』


保存。画面へ戻る。


すぐにもう一件届いた。莉奈


『今日85点だからね』


少し変な感じ。でも。


悪くない。


『明日は90狙う』


送る。すぐ既読。


莉奈


『期待してます』


少しして。もう一件。


莉奈


『おやすみ、悠斗』


俺は画面を見た。それだけなのに。


今日一番効いた。しばらくして返す。


『おやすみ、莉奈』


送信。スマートフォンを置く。


一か月で莉奈を惚れさせる。最初は、そのために始めた。


でも今。俺が気にしているのは、あと何日で莉奈を惚れさせられるかではない。


明日。莉奈に会ったら、最初になんて呼ぶか。


そんなことだった。同じころ。


莉奈も自分の部屋でスマートフォンを見ていた。


『おやすみ、莉奈』


何度見ても同じ文字。なのに閉じられない。


今日。悠斗が蓮に嫉妬した。


少なくとも莉奈にはそう見えた。その理由が、自分だけ名字で呼んでいることだった。


そして。


『俺より近い感じする』


あの言葉を思い出す。胸がまた熱くなる。


真帆と由依に昨日言われた。好きって認めるのが怖い?


莉奈はまだ、その言葉を口には出せない。でも。


スマートフォンの連絡先を開く。


『高瀬悠斗』


少し迷って。編集。


『悠斗』


保存する。表示された名前を見る。


自然に笑っていた。もう。


高瀬だから気になるのではない。彼氏役だから会いたいのでもない。


悠斗だから。会いたい。


手をつなぎたい。名前を呼ばれたい。


そこまで分かっているのに。あと一つの言葉だけ。


莉奈はまだ、自分の中で認めるのが怖かった。


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