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嘘告? そっちがその気なら一か月でその唇奪ってみます  作者: 幻影


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17/29

第17話 手をつなぐ理由

交際十六日目、火曜日。朝、いつもの場所へ着くと、莉奈はすでに待っていた。


俺を見つけると手を上げたが、昨日までより少しだけ反応がぎこちない。


「おはよう」


「おはよ」


並んで歩き始める。昨日の帰り道、俺は莉奈に言った。


蓮が気になる。でも、それが嫉妬なのか自分でも分からない。


選して莉奈は、


『蓮のこと、そういう意味で好きじゃないよ』


と言った。あれから一晩経ったが、結局答えは出ていない。


ただ一つ分かったのは、その言葉を聞いた瞬間に安心したということだ。


「高瀬」


「何?」


「今日静かじゃない?」


「水瀬もだろ」


「私は普通」


「俺も普通」


二人とも嘘だと思う。莉奈は前を向いたまま歩き、少ししてから口を開いた。


「昨日のこと気にしてる?」


「どれ?」


「……蓮のこと」


やっぱりそこだった。


「少し」


「まだ?」


「自分でも分からないって言っただろ」


「そうだけど」


莉奈は鞄の持ち手を握り直す。


「別に、気にしなくていいからね」


「何を?」


「蓮」


「なんで?」


「だから……」


莉奈がこちらを見る。


「私、蓮のことそういう意味で好きじゃないって言ったでしょ」


また言われた。昨日聞いたばかりなのに、二回目でも妙に安心する。


「覚えてる」


「ならいいじゃん」


「うん」


「何その返事」


「分かったって意味」


「だったらもっと普通に言って」


難しい。その後は学校まで、いつものような話をした。


昨日のボウリングの点数、陸が最後に投げた変なフォーム、真帆が勝手に撮っていた写真。でも昨日までと同じように見えて、どこか少し違う。


俺もたぶん莉奈も、昨日の会話をまだ引きずっていた。教室へ入ると、真帆がすぐ莉奈を見る。


「おはよ」


「おはよ」


「昨日どうだった?」


莉奈の動きが止まる。


「何が?」


「帰り」


「普通」


「高瀬と二人だったよね?」


「いつも通り」


真帆が俺を見る。


「高瀬?」


「何?」


「昨日、帰り何かあった?」


「何かって?」


本当に何を聞きたいのか分からない。莉奈が慌てたように口を挟む。


「何もないから!」


「私、高瀬に聞いたんだけど」


「同じでしょ」


「同じなんだ?」


真帆の顔が楽しそうになる。莉奈が睨む。


「朝から面倒くさい」


「何もないならいいじゃん」


「ない」


由依も席からこちらを見ていた。


「莉奈」


「何?」


「顔赤いよ」


「赤くない」


昨日から、莉奈は否定する速度だけ上がっている気がする。俺は自分の席へ向かう。


そこへ拓真が来た。


「おはよ」


「おはよう」


俺の顔を見るなり、少し眉を上げる。


「何かあった?」


「お前まで何なんだよ」


「いや、何となく」


「何もない」


「水瀬と?」


「なんで水瀬限定なんだよ」


拓真は椅子を引いて座った。


「お前が最近悩む原因、九割水瀬だから」


反論しようとしてやめた。否定できない。


「昨日、蓮と一緒だっただろ」


拓真が言う。


「いたけど」


「何かあった?」


「別に」


「その『別に』最近多いな」


俺も使うようになってきたらしい。少し迷ったが、拓真には嘘告のことまで話している。


昨日の話くらい隠す理由もない。


「蓮が水瀬のこと好きなのは知ってるだろ」


「まあな」


「昨日ちょっと気になった」


「何が?」


「二人が話してるの」


拓真が俺を見る。


「それ嫉妬じゃん」


「やっぱり?」


あまりに簡単に言われた。


「何で疑問形なんだよ」


「俺もそうなのかなと思ったけど、攻略相手の近くにいる男だから気になるだけかもしれないし」


拓真が数秒黙る。それから、ものすごく面倒そうな顔をした。


「悠斗」


「何?」


「お前、恋愛相談向いてないわ」


「知ってるよ」


「他人のなら分かるのにな」


「自分のは分からない」


「本当にポンコツだな」


また言われた。


「でもさ」


拓真は少しだけ真面目な顔になる。


「水瀬が蓮を好きじゃないって聞いて安心した?」


俺は答えるまで少し間が空いた。


「した」


「じゃあ、それでいいんじゃね?」


「何が?」


「今すぐ名前つけなくても」


意外だった。もっとからかわれると思った。


「珍しくまともだな」


「俺を何だと思ってんの?」


「凛に相手にされない人」


「話戻すぞ」


そこへ凛の話を持ち出すと面倒なので黙る。拓真は机に肘をついた。


「好きかどうか分かんないなら、分かるまで普通に付き合えばいいだろ」


「普通に?」


「今のお前ら、かなり普通に付き合ってるじゃん」


その言葉に少し引っかかった。俺たちは嘘から始まっている。


一か月で終わる予定だ。なのに最近、周りから何度も同じことを言われる。


普通に付き合っている。俺自身も、一昨日そう感じた。


昼休み。いつものメンバーで机を寄せた。


昨日のボウリングの話になり、陸が自分のスコアを盛ろうとして真帆に即座に訂正されている。


「百四十七だったって」


陸が言う。


「百二十七」


真帆がスマートフォンを見ながら答える。


「記憶違い」


「写真あるから」


「消して」


「嫌」


そんなやり取りを聞きながら弁当を食べていると、蓮が莉奈に話しかけた。


「莉奈」


「何?」


「昨日の写真送っとく」


「ありがと」


普通の会話。昨日までなら、それだけで少し気になったかもしれない。


今日は違った。莉奈が蓮を好きではない。


そう聞いているから。自分でも分かるくらい、昨日より気持ちが軽い。


その瞬間。莉奈がこちらを見た。


目が合う。なぜか少し笑った。


俺も何となく笑い返す。


「何?」


真帆が俺たちを見る。


「何でもない」


莉奈が答える。


「今、目だけで会話した?」


「してない」


「高瀬は?」


「してない」


「息合ってきたね」


陸が言う。莉奈が反論しようとする。


でも途中でやめた。


「……まあ、付き合ってるし」


小さな声だった。俺は聞こえた。


たぶん真帆にも。由依にも。


でも誰も何も言わなかった。莉奈は弁当を食べながら、こちらを見ない。


俺も何も言わなかった。ただ。


少し嬉しかった。放課後。


帰り支度をしていると、莉奈が俺の席へ来た。


「高瀬」


「何?」


「今日、一緒に帰る?」


「うん」


最近は聞く必要がないくらい一緒に帰っている。それでも毎回確認する。


校門を出て、駅へ向かう。今日は特に寄り道する予定もない。


いつもの道を並んで歩きながら、授業や先生の話をしていた。途中、大きな交差点へ出る。


夕方なので人が多い。信号が青になると、一斉に人が動き始めた。


「水瀬」


「何?」


「こっち」


人とぶつかりそうだったので、少し内側へ寄せる。その瞬間。


莉奈が俺の制服の袖をつかんだ。一瞬だけ見る。


「何?」


「人多いから」


「迷子になる距離じゃないだろ」


「うるさい」


袖をつかんだまま歩く。昨日までなら、これだけでも十分意識したと思う。


でも今日は。その先があった。


横から人が入ってきた。俺と莉奈の間を抜けようとする。


莉奈の手が袖から離れた。次の瞬間。


俺の手に触れた。そして。


握った。俺の足が一瞬止まりそうになる。


莉奈の手。俺の手。


つながっている。


「……水瀬?」


「何?」


前を向いたまま答える。


「手」


「人多いから」


「袖でもよかっただろ」


「手の方が離れないじゃん」


正論のような。違うような。


信号を渡り終える。人が少なくなる。


でも。莉奈は離さない。


俺も何も言えない。手をつないだまま歩く。


映画館で指が触れただけで固まった。昨日、ポテトを取ろうとして指が触れたときも緊張した。


今は偶然ではない。完全に。


手をつないでいる。


「高瀬」


「何」


「手汗すごかったらごめん」


「それ今言う?」


莉奈が少し笑う。


「高瀬も緊張してる?」


「してる」


今回は否定できなかった。莉奈がこちらを見る。


「正直」


「これは無理だろ」


「何が?」


「普通に緊張する」


莉奈も少し顔が赤い。


「私」


その一言で。さらに意識する。


「じゃあ離す?」


俺が聞いた。莉奈の手が一瞬だけ緩む。


感情。離れない。


「……別に、このままでよくない?」


心臓に悪い。


「水瀬がいいなら」


「高瀬は?」


また聞かれた。最近、これが多い。


家へ来てもいいか。また会ってもいいか。


そして今。手をつないでいてもいいか。


そのたびに。俺自身がどう思うかを聞かれる。


「俺も、このままでいい」


答える。莉奈は何も言わなかった。


ただ。少しだけ握る力が強くなった。


それから駅まで。ずっと手をつないで歩いた。


会話はしていた。でも何を話したのか、あまり覚えていない。


たぶん莉奈も同じだったと思う。駅前へ着く。


改札が見える。いつもならここで別れる。


二人とも少しだけ歩く速度が落ちた。


「着いたね」


莉奈が言う。


「うん」


まだ手はつながっている。


「高瀬」


「何?」


「いつ離す?」


そんなことを聞くな。


「水瀬からつないだんだろ」


「じゃあ高瀬が離して」


「なんで俺」


「なんとなく」


二人とも離さない。改札前。


これ以上は進めない。数秒。


莉奈が笑った。


「何してるんだろ、私たち」


「知らない」


「じゃあ」


ようやく手が離れた。急に片手が軽くなる。


それが少し物足りない。俺は自分の手を見る。


莉奈も同じように、自分の手を一瞬見ていた。


「また明日」


「うん。また明日」


莉奈が改札へ向かう。数歩進んだところで振り返った。


「高瀬」


「何?」


「今日のこと」


「うん」


少し迷う。


「真帆たちに言わないでね」


「なんで?」


「絶対うるさいから」


それは分かる。


「了解」


「あと」


「まだあるの?」


莉奈は少しだけ恥ずかしそうに視線を逸らす。


「次は高瀬からね」


「何が?」


「……知らない」


それだけ言うと、今度こそ改札の向こうへ行ってしまった。俺はその場に残る。


次は俺から。何を。


考えるまでもない。手だ。


「……無理だろ」


一人で呟く。つなぎ方は知っている。


タイミングも知識としてなら分かる。女の子が嫌がりにくい状況も、姉ちゃんたちから散々聞いてきた。


でも。自分から莉奈の手を握る。


想像しただけで緊張する。本当に。


理論と実戦は別物だった。その夜。


夕食を終えて部屋へ戻ると、スマートフォンが震えた。莉奈。


『今日はありがとう』


最近よく来る言葉だ。


『こっちこそ』


送る。すぐ既読。


少し間が空く。


『手』


そこで止まっている。何だ。


数秒後。


『別に嫌じゃなかったよ』


俺は画面を見る。嫌じゃなかった。


つまり。またでもいい。


そういう意味に見える。


『俺も』


送る。すぐ既読。


今度は返事が遅い。一分ほどして。


『ならよかった』


それだけだった。でも。


スマートフォンを置いても。右手の感覚が残っている気がした。


同じころ。莉奈も自分の部屋で、ベッドの上に座っていた。


スマートフォンの画面には、悠斗とのLINE。


『俺も』


短い返事。それを何度も見ている。


自分から手をつないだ。人が多かったから。


最初は本当にそれだけだった。袖をつかんでいたら、人が間に入りそうになった。


だから手を握った。そこまでは説明できる。


でも。交差点を渡り終えても離さなかった理由は。


説明できない。


『離す?』


そう聞かれたとき。離したくなかった。


ただ、それだけだった。スマートフォンが震える。


真帆から。


『今日高瀬と帰った?』


莉奈は画面を見る。少し迷ってから返す。


『帰ったよ』


『何かあった?』


勘がよすぎる。


『何もない』


送る。すぐに返信。


『怪しい』


莉奈はスマートフォンを伏せた。言えるわけがない。


絶対に騒がれる。手に。


自分でもまだ整理できていない。一か月だけの彼女。


最初はそうだった。彼女らしく見せるためなら、手をつなぐことだって演技と言えるかもしれない。


でも今日は。周りに知っている人はいなかった。


誰かに見せる必要もなかった。悠斗を騙すためなら。


交差点を渡ったところで離せばよかった。それなのに。


駅まで離さなかった。莉奈は右手を見る。


まだ悠斗の手の感触を覚えている。


「……演技じゃないじゃん」


小さく呟いた。その言葉を口にした瞬間。


胸が大きく鳴った。あと十四日。


一か月の半分を過ぎた。最初はまだ半分もあると思うはずだった。


でも今は。もう半分しかない。


その事実が。少し怖くなり始めていた。


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