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嘘告? そっちがその気なら一か月でその唇奪ってみます  作者: 幻影


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16/29

第16話 友達の距離、彼氏の距離

交際十五日目、月曜日。朝の待ち合わせ場所へ行くと、莉奈はいつも通りスマートフォンを見ながら待っていた。


昨日も夕方まで一緒にいたのだから、特別話すことなんてないはずなのに、顔を見ると少し安心する。


「おはよう」


「おはよ」


莉奈は俺を見ると、最初に髪を確認した。


「今日も大丈夫」


「毎朝検査する気?」


「私が気に入ってる髪なんだから、ちゃんとしてもらわないと」


普通に言ってから、莉奈自身が少し止まった。


「……何?」


「いや。今、自分で言ってちょっと変だと思った」


「何が?」


「何でもない」


またそれだ。並んで学校へ向かう。


昨日は予定もないまま駅前を歩き、昼を食べ、公園で話して帰った。デートと呼ぶほど何かをしたわけではないが、それでも初デートより自然で、気づけば拓真との約束まで忘れていた。


「昨日さ」


莉奈が言う。


「うん」


「黒瀬くん、怒ってなかった?」


「全然。凛がいないって言ったら許された」


「基準そこなんだ」


「最近あいつ、俺より凛目的で家来てるから」


莉奈が笑う。


「凛ちゃん、本当に全然相手にしてないよね」


「昨日もLINEしてた?」


「したよ」


「俺の知らないところで?」


「LINEってそういうものでしょ」


正論だった。


「何話した?」


「教えない」


「また?」


「女同士の秘密」


二日前に会ったばかりなのに、完全に仲間になっている。しかも最近、凛から俺への当たりが少し強くなった気がするので、たぶん何か吹き込まれている。


学校へ着くと、真帆たちはすでに教室にいた。俺と莉奈が一緒に入ると、真帆がすぐこちらを見る。


「おはよ。昨日どうだった?」


莉奈が止まった。


「何が?」


「何がって、昨日」


「なんで知ってるの?」


「聞いたから」


「誰に?」


真帆は笑って俺を指さした。俺も止まる。


「俺?」


「昨日の夜、莉奈から急に呼ばれたって拓真が愚痴ってた」


「黒瀬くん経由?」


「そう」


俺たちの情報網、広がりすぎではないか。由依も少し笑っている。


「二日連続だったんだね」


「土曜は高瀬いなかったでしょ」


莉奈が言う。


「日曜は?」


「暇だったから」


真帆の口元が上がる。


「二人とも?」


「そう」


「だから会った?」


「そうだけど」


「へえ」


莉奈が睨む。


「何」


「何でもない」


最近、本当にみんなこれを使う。そこへ陸と蓮も来た。


「何の話?」


陸が聞く。真帆が即答する。


「昨日、莉奈が高瀬呼び出してデートしてた話」


「デートじゃない!」


莉奈の否定が早い。俺は少しだけ引っかかった。


昨日、本人はデートだとは言わなかったし、俺もそう呼んではいない。でも、否定されると、なぜか少しだけ気になる。


「違うの?」


陸が聞く。


「ただ会っただけ」


「二人で?」


「うん」


「それ普通にデートじゃね?」


「違うって」


莉奈が俺を見る。


「高瀬も何か言ってよ」


「俺?」


何を言えばいい。少し考える。


「俺は別に、どっちでもいいけど」


「どっちでもいい?」


莉奈の眉が動いた。答えを間違えたらしい。


「いや、楽しかったし」


「それ聞いてない」


「じゃあ何て言えばいいんだよ」


陸が笑う。


「朝から彼氏彼女してんな」


「してない!」


莉奈が言う。でも、その否定にも少し違和感がある。


俺たちは付き合っていることになっているのだから、彼氏彼女しているのは当然ではないのか。その横で、蓮だけは笑っていなかった。


「昨日も会ってたんだ」


莉奈を見る。


「うん」


「急に?」


「うん。ちょっと服見せたくて」


俺は蓮を見る。ほんの一瞬だけ、表情が止まった。


「そっか」


それだけだった。やっぱりこいつは莉奈が好きだ。


分かっているからこそ、胸の奥に少しだけ出たこの嫌な感じも、攻略相手の周りにいる男だから気になるだけだと思いたかった。昼休み。


いつもの六人で机を寄せる。昨日、蓮から話があった放課後の予定も、その場で決めることになった。


「駅前のボウリング行かない?」


陸が言う。


「急にボウリング?」


真帆が聞く。


「六人いるしちょうどいいじゃん」


「私下手だよ」


由依が言う。


「俺も下手」


俺も答えた。莉奈がこちらを見る。


「高瀬、何でもできそうなのに」


「なんで」


「最近そういうイメージ」


「運動は普通」


「じゃあ勝負しよ」


「何を賭けるの」


「負けた方がジュース」


「いいよ」


俺と莉奈の話が勝手に進む。蓮が少し笑った。


「俺も入れてよ」


「三人?」


莉奈が聞く。


「いいじゃん。負けたやつが二人分」


「それ一番嫌」


陸が笑う。


「じゃあチーム戦にしようぜ」


そこから適当に二チームへ分けることになり、陸がスマートフォンのくじ引きアプリを使った。結果は、俺、真帆、由依。


莉奈、蓮、陸。


「お」


陸が笑う。


「バランスよくね?」


別に普通の組み合わせだ。それなのに、莉奈と蓮が同じチームになったことが少しだけ気になった。


「高瀬」


莉奈が俺を見る。


「何?」


「負けたらジュースね」


「チーム戦なのに?」


「個人スコアも見る」


「結局やるのかよ」


莉奈が楽しそうに笑う。その笑顔を見たら、さっきの引っかかりは少し消えた。


放課後、六人で駅前のボウリング場へ向かう。歩いている途中、真帆と由依が前を歩き、陸はその横。


俺は少し後ろを歩いていた。莉奈は蓮と話している。


昔からの友達だから距離が近く、蓮が何か言うたびに莉奈が笑い、時々その腕を軽く叩く。見慣れた光景のはずだった。


付き合う前から、あの二人は普通にああいう距離だった。でも、今は少し違って見える。


「悠斗」


横から声がした。真帆だった。


いつの間にか歩く速度を落としている。


「何?」


「何見てんの?」


「別に」


「莉奈?」


「違う」


「蓮?」


図星に近い。


「何でそうなる」


「分かりやすいから」


真帆が笑う。


「高瀬ってさ、莉奈のことになると本当に自分だけ分かってないよね」


また言われた。


「普通に見てただけ」


「はいはい」


真帆は前へ戻っていく。俺はもう一度莉奈を見る。


ちょうど目が合い、莉奈が少し首を傾げたので、俺は何でもないように前を向いた。ボウリング場へ着き、靴を借りてレーンへ移動する。


予想通り、俺は普通だった。上手くもないし、壊滅的でもない。


一ゲーム目の途中、莉奈が投げる。ボールは右へ曲がって七本倒れた。


「惜しい」


蓮が言う。


「今絶対いけたと思った」


「手首開いてるんじゃない?」


「分かんない」


蓮が莉奈の横へ立ち、軽く腕の動きを見せる。距離が近い。


俺はボールを拭きながら、それを見る。


「高瀬」


由依に呼ばれた。


「次だよ」


「あ、うん」


立ち上がって投げる。思いきり左へ逸れた。


三本。後ろから笑い声が聞こえる。


「高瀬、急に下手になった!」


莉奈だ。


「うるさい」


戻ると、真帆が俺を見る。


「集中しなよ」


「してる」


「へえ」


またその顔。二投目は六本倒した。


席へ戻ると、莉奈が楽しそうに笑っている。


「ジュース見えてきたね」


「まだ一ゲーム目だろ」


「焦ってる?」


「全然」


「さっき三本だったけど」


「たまたま」


蓮も笑う。


「高瀬、こういうの苦手なんだな」


「普通だよ」


「もっと何でもできるタイプかと思ってた」


「それ水瀬にも言われた」


「最近変わったからじゃない? 前はもっと目立たなかったし」


悪意はない。普通の言葉だ。


「そうだな」


俺も普通に返す。得意げではない。


でも、そのあと蓮が莉奈を見る。


「莉奈も最初、高瀬なら騙――」


止まった。ほんの一瞬だったが、俺は聞き逃さなかった。


莉奈の表情が変わる。真帆も、由依も、陸まで蓮を見る。


「何?」


俺は聞いた。蓮がすぐに笑う。


「いや、高瀬ならこういうの苦手そうって言ってたなって」


明らかに無理がある。でも俺は何も知らない顔をした。


「そう?」


「うん」


莉奈は黙っている。俺はボールを取りに行き、背中を向けたところで少し息を吐いた。


『騙されそう』


たぶん、それを言いかけた。分かっている。


最初から。今さら傷つく話ではないはずなのに、最近は少しだけ、その事実を忘れていた。


二ゲーム終わるころには、空気は元に戻っていた。結果は俺が百二十一、莉奈が百二十八。


七点差。


「勝った」


莉奈が手を出す。


「何その手」


「ジュース」


「今?」


「約束」


仕方なく自動販売機へ向かうと、莉奈もついてきた。


「何飲む?」


「ミルクティー」


「分かった」


買って渡す。


「ありがとう」


受け取った莉奈は、少しだけ俺の顔を見る。


「高瀬」


「何?」


「さっき……」


たぶん、蓮の言いかけた言葉だ。


「何?」


知らないふりをする。


「……何でもない」


やっぱり言わない。


「そっか」


俺も聞かない。莉奈はミルクティーを持ったまま、しばらく黙っていた。


「水瀬」


「何?」


「楽しかった?」


「え?」


「ボウリング」


急な質問だったらしい。


「うん。楽しかった」


「ならいい」


「何それ」


「別に」


俺が笑うと、莉奈も少し笑った。みんなのところへ戻る途中、蓮がこちらへ来た。


「莉奈」


「何?」


「ちょっといい?」


俺の足が止まる。莉奈も少し驚く。


「何?」


「少しだけ」


二人が少し離れたところへ行く。俺は見ないようにした。


でも、ものすごく気になる。


「高瀬」


陸が横へ来た。


「何?」


「あいつ、たぶん謝ってるだけだぞ」


「何を?」


「さっきの言いかけたやつ」


「俺、気にしてないけど」


「そう?」


「うん」


陸は俺を見たあと、少し間を置いた。


「お前さ。蓮が莉奈のこと好きなの、気づいてる?」


「気づいてる」


陸の目が少し大きくなる。


「そこは気づくんだ」


「分かりやすいだろ」


「じゃあ平気?」


何が、と聞き返そうとしてやめた。結局、


「何が?」


と聞く。


「莉奈と蓮」


陸が二人を見る。俺もつられて見る。


莉奈が何か言い、蓮が少し困ったように笑っている。長い付き合いだからこその距離。


「別に」


答える。陸がこちらを見る。


「ふーん」


「何だよ」


「いや、高瀬も大変だなと思って」


「何が」


「自分で気づいてないならいいや」


またそれだ。最近、みんな俺に同じことを言う。


数分後、莉奈が戻ってきた。


「高瀬」


「何?」


「帰るとき一緒でいい?」


普通の質問。でも俺は、ほとんど考えずに答えた。


「うん」


莉奈が少し安心した顔をする。その顔を見た瞬間、胸の奥の嫌な感じが少し消えた。


帰りは駅前でみんなと別れ、俺と莉奈は同じ方向へ歩く。しばらくして、莉奈が口を開いた。


「蓮ね」


「うん」


「さっき変な言い方してごめんって」


やっぱり。


「そっか」


「それだけ?」


「他に何言えばいい?」


「気にならないの?」


俺は少し考えた。本当は、何を話していたのかずっと気になっていた。


「少しは」


正直に答える。莉奈が俺を見る。


「少し?」


「二人で離れて話してたから」


「ふーん」


なぜか嬉しそうだ。


「何」


「別に」


「またそれ?」


莉奈が笑う。しばらく歩いたあと、俺は前を向いたまま聞いた。


「水瀬」


「何?」


「蓮と仲いいよな」


莉奈が少し驚く。


「昔から友達だし」


「どれくらい?」


「中学から」


「へえ」


知っている。たぶん。


でも聞きたかった。


「よく二人で出かけたりする?」


「前はあるよ」


胸の奥が少し重くなる。


「二人で?」


「うん。買い物とか」


「そう」


自分で聞いたくせに、面白くない。莉奈が俺の顔を覗く。


「高瀬」


「何?」


「やっぱり嫉妬してる?」


まただ。


「違う」


反射で答えかけて、止まった。莉奈も気づく。


「……何?」


俺自身も分からない。これを攻略上の警戒と言えば、今まで通りだ。


蓮は莉奈が好きなのだから、気にするのは当然。でも、莉奈と蓮が昔二人で出かけていたと聞いただけで、なぜ面白くないのか。


それは攻略と関係あるのか。


「分からない」


初めてそう答えた。莉奈が黙る。


「え?」


「自分でも分からない。蓮が水瀬のこと好きなのは分かってる」


莉奈の足が止まりかける。


「……知ってるの?」


「たぶん」


「いつから?」


「最近」


本当は結構早い段階から気づいていた。でも問題はそこじゃない。


「だから気になるだけだと思ってた」


「思ってた?」


「うん」


そこまで言って、俺は黙った。莉奈も何も言わない。


少し歩いてから、莉奈が小さく呼ぶ。


「高瀬」


「何?」


「私……蓮のこと、そういう意味で好きじゃないよ」


今度は俺が止まった。莉奈も止まる。


「……なんでそれ俺に言うの?」


聞くと、莉奈は一瞬困った顔をした。


「知らない」


「知らないって」


「言っといた方がいい気がしたから」


それだけ言って歩き始める。俺も追う。


胸の奥が、さっきよりずっと軽い。


「水瀬」


「何?」


「ありがとう」


「なんでお礼言うの」


「知らない」


今度は俺が同じ答えをした。莉奈が笑う。


「変の」


「水瀬に言われたくない」


並んで歩く。俺はまだ、自分が何を感じているのか分からない。


ただ、蓮が莉奈を好きだと知っていることより、莉奈が蓮を好きではないと聞いたことの方がずっと大きく残った。それだけは、もう攻略のためだけでは説明できない気がしていた。


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