↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘告? そっちがその気なら一か月でその唇奪ってみます  作者: 幻影


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/29

第15話 会う理由なんてなくても

交際十四日目、日曜日。午前九時。


俺はリビングのソファでスマートフォンを見ていた。特に予定はない。


拓真から昼過ぎにゲームでもしようと誘われているが、それ以外は完全に暇だった。昨日は莉奈が彩花姉たちと買い物へ行っていた。


俺抜きで。最初に聞いたときは変な感じがしたが、帰ってきた彩花姉と凛はかなり楽しそうだった。


『莉奈ちゃん、普通に可愛い』


『お兄ちゃんにはもったいない』


『それ何回言うんだよ』


そんな会話を昨夜したばかりだ。スマートフォンが震える。


莉奈。


『起きてる?』


俺は少しだけ姿勢を変えた。


『起きてる』


すぐ既読。


『今日何してる?』


『昼から拓真とゲームするかも』


送ると、少し間が空いた。


『かも?』


『まだ時間決めてない』


また少し間。今度は返信が来ない。


二分、三分。俺は意味もなくトーク画面を閉じて、また開いた。


ちょうどその瞬間。


『じゃあ午前中暇?』


『暇』


即答していた。送ってから少し考える。


何の話だ。莉奈から次のメッセージ。


『駅前来れる?』


俺は画面を見る。今日。


今から。昨日会っていないだけだし、学校では毎日会っている。


それなのに。


『行けるけど』


『じゃあ11時』


『何する?』


既読。少しして、


『決めてない』


と返ってきた。


「……決めてない?」


思わず口に出す。そこへキッチンから母さんが顔を出した。


「何が?」


「何でもない」


「莉奈ちゃん?」


なぜ分かる。


「なんで?」


「顔」


最近、家族全員がそれを言う。俺はスマートフォンを見る。


『決めてないなら何で呼んだの?』


そこまで打って、送信する直前で止めた。消す。


代わりに、


『了解』


だけ送る。すると、


『昨日買った服着る』


と来た。昨日、彩花姉に選んでもらった服。


『楽しみにしとく』


昨日そう返した。覚えている。


莉奈も覚えていたらしい。少しだけ。


本当に少しだけ、十一時が楽しみになった。


「母さん」


「何?」


「ちょっと出てくる」


「はいはい」


母さんは何も聞かなかった。そこへ階段から凛が降りてきた。


「どこ行くの?」


「駅前」


「誰と?」


「水瀬」


凛が止まる。


「今日も?」


「今日もって何だよ」


「昨日、莉奈さん私たちと一日いたよ」


「俺は会ってない」


言ってから、自分でも少し変だと思った。凛の口元が上がる。


「ふーん」


「何」


「別に」


最近みんなその言い方を使う。


「莉奈さんから?」


「何が」


「誘ったの」


「そうだけど」


凛の顔がさらに楽しそうになる。


「へえ」


「何だよ」


「何でもない」


絶対何かある。でも聞いたら負けな気がする。


部屋へ戻り、着替える。クローゼットを開けると、以前なら黒いTシャツを適当に取って終わっていた。


今日は一度手を伸ばし、止めた。その横にある、先週彩花姉に買わされた服を見る。


数秒迷って、結局そちらを取った。


「……何やってんだ」


莉奈が昨日買った服を着ると言ったから、俺も少しくらいちゃんとした方がいい。それだけだ。


髪も整える。最近、理由をつけるのが上手くなった気がする。


駅前に着いたのは十時五十二分。待ち合わせ場所にはまだ莉奈はいない。


俺はスマートフォンを見る。


『着いた』


『あと3分』


近い。周囲を見る。


日曜なので人は多い。先週、初デートでここに立っていたことを思い出す。


あのときは緊張していた。今も少ししている。


でも種類が違う。初デートだからではない。


莉奈がどんな服で来るのか。それが気になっている。


少しして、人混みの向こうから莉奈が歩いてきた。すぐ分かった。


昨日彩花姉が選んだという服。淡い色のトップスに、すっきりしたスカート。


派手ではないが、莉奈によく似合っている。髪も少しだけ巻いていた。


俺を見つけると、少し歩く速度が落ちる。俺も何も言わず見ていた。


莉奈が前まで来る。


「……何?」


「いや」


「何その反応」


「見てた」


「だから何を」


「服」


莉奈が少しだけ姿勢を正した。


「どう?」


来た。昨日から用意されていた質問。


たぶん。


「似合ってる」


莉奈が俺を見る。


「それだけ?」


また採点が始まった。


「彩花姉が選んだんだろ?」


「そう」


「水瀬に合ってると思う」


少し考える。


「先週のデートの服より、今日の方が好きかも」


言った瞬間、莉奈が完全に止まった。俺も気づいた。


今の言い方。まずかったか。


「……何?」


莉奈が聞く。


「いや」


「今、普通に言ったよね」


「何を」


「今日の方が好きって」


「服の話だろ」


「分かってはいるけど」


莉奈が髪を触る。顔が少し赤い。


「そういうの急に言わないでよ」


また言われた。


「じゃあ何て言えばいいんだよ」


「もうちょっと……」


「もうちょっと?」


「知らない」


無茶苦茶だ。でも、莉奈は少し嬉しそうだった。


「で」


俺が聞く。


「今日何するの?」


「……まだ決めてない」


「本当に何も決めずに呼んだの?」


「悪い?」


「悪くないけど」


「じゃあいいじゃん」


莉奈が歩き始める。俺も隣へ並ぶ。


「何か買いたいものある?」


「ない」


「映画?」


「今日はいい」


「昼?」


「まだ早い」


「じゃあ何するんだよ」


「適当に歩けばよくない?」


デートのときとは違う。目的がない。


予約もない。予定もない。


俺は少し不思議だった。


「水瀬」


「何?」


「本当に暇だっただけ?」


聞くと、莉奈の足が少しだけ遅くなる。


「……そうだけど」


「ふーん」


「何その反応」


「いや」


俺は深く考えなかった。莉奈も暇だった。


俺も暇だった。だから会う。


彼氏と彼女なら、それくらい普通なのかもしれない。駅前を歩く。


店をいくつか覗きながら、莉奈は昨日彩花姉たちと来た場所を教えてくれた。


「ここ、昨日入った」


「服買った店?」


「違う。そこはもう少し向こう」


「美咲姉とはどこで会ったの?」


「あっちのカフェ」


「何話した?」


莉奈が少し考える。


「高瀬の悪口」


「絶対嘘」


「半分くらい」


「半分もあるの?」


莉奈が笑う。


「美咲さん、優しかった」


「怒らせなければね」


「まだ言ってる」


「本当に怖いんだって」


「でも高瀬のこと、すごく心配してたよ」


「美咲姉が?」


少し意外だった。家ではそんな雰囲気を出さない。


「何て?」


「秘密」


「俺の姉だぞ」


「私と美咲さんの話だから」


いつの間にそんな関係になったんだ。


「凛とも秘密あるし」


「何話してんの」


「教えない」


「彩花姉とも?」


「ある」


「俺、家族全部取られてない?」


莉奈が吹き出した。


「取ってないよ」


「最近みんな水瀬側なんだけど」


「日頃の行いじゃない?」


「昨日まで会ったことなかったのに?」


「人望」


「俺の家族だぞ」


笑いながら歩く。特に何もしていない。


それなのに、先週の初デートより気楽だった。俺はふと気づく。


前回は、莉奈を楽しませることや失敗しないこと、ちゃんとデートすることばかり考えていた。今日は何も考えていない。


行き先すら決まっていない。でも楽しい。


彩花姉が言っていた。


『デートは接待じゃない』


今さら少し分かった。


「高瀬」


「何?」


莉奈が雑貨店の前で止まる。


「入っていい?」


「いいよ」


中へ入る。莉奈は文房具や小物を見て回り、俺はその後ろを適当についていく。


しばらくして、莉奈がスマートフォン用の小さなストラップを手に取った。


「これ可愛くない?」


「うん」


「反応薄い」


「可愛いと思う」


「ほんと?」


「水瀬のスマホにはこっちじゃない?」


隣のものを指す。少し落ち着いた色。


莉奈が見る。


「また選ぶ」


「聞いたの水瀬だろ」


「そうだけど」


二つを並べる。


「どっち?」


「こっち」


俺が選んだ方を指す。莉奈は少し考えて、そちらを籠へ入れた。


「買うの?」


「うん」


「俺が言ったから?」


「違う。私が気に入ったから」


即答。でも少し笑っている。


レジを出たあと、莉奈は早速ストラップをつけた。


「どう?」


「いいんじゃない?」


「またすぐ気づいてよ」


「毎日テストする気?」


「高瀬なら気づくでしょ」


その言葉が、少し嬉しかった。自分でも単純だと思う。


昼になり、適当に見つけたファストフード店へ入った。前回みたいに店を三軒調べてはいない。


空いていたから入っただけ。莉奈はポテトを食べながら言う。


「今日の方が楽かも」


俺は顔を上げた。


「初デートより?」


「違う」


すぐ否定する。


「初デートも楽しかったけど」


「けど?」


「今日は何も決めてないから」


同じことを考えていた。


「俺も」


「ほんと?」


「前は結構考えてたから」


「三軒も店調べてたもんね」


「覚えてた?」


「覚えてるよ」


莉奈がポテトを一本取る。


「今日、何も調べてないでしょ」


「呼ばれたの一時間前だからな」


「それもそうか」


「でも」


俺は少し考える。


「こっちの方が普通っぽい」


莉奈の動きが止まる。


「普通?」


「付き合ってる感じ」


言ってから、またやったと思った。莉奈が俺を見る。


「高瀬」


「何」


「今日、急にそういうこと言いすぎ」


「何が」


「自覚ないの?」


「ない」


本当にない。思ったことを言っているだけだ。


莉奈は小さくため息をつく。


「ずるい」


「何が?」


「何でもない」


またそれ。俺はポテトを取る。


莉奈も同時に手を伸ばす。指が触れた。


二人とも止まる。一週間前、映画館でも同じことがあった。


あのとき俺は、それだけで映画の内容が入らなくなった。今も緊張する。


でも、前ほどではない。莉奈も手を引かない。


ほんの一秒。二秒。


先に俺が手を引いた。


「どうぞ」


「……ありがと」


莉奈がポテトを取る。少しだけ空気が変わった。


何となく、二人ともスマートフォンを見る。意味もなく。


俺は時間を確認する。午後一時過ぎ。


「拓真は?」


莉奈が聞いた。


「何が?」


「ゲームするんじゃなかった?」


忘れていた。スマートフォンを見ると、通知が三件。


全部拓真。


『何時から?』


『悠斗?』


『生きてる?』


「……忘れてた」


莉奈が笑う。


「最低」


「連絡する」


『ごめん。今日は無理』


送る。すぐ既読。


『女?』


早い。俺は迷う。


『水瀬』


送信。数秒。


『裏切り者』


続けて、


『凛ちゃんいる?』


結局そこか。


『今日は出かけてる』


『じゃあ許す』


何なんだこいつ。


「何て?」


莉奈が聞く。


「裏切り者って」


「かわいそう」


笑っている。


「水瀬のせいだろ」


「私?」


「急に呼んだから」


「嫌なら来なければよかったじゃん」


その言葉。俺は少し考える。


「嫌じゃないから来た」


また莉奈が止まった。今日はよく止まる。


「……そう」


小さく答える。それだけ。


でも、少し嬉しそうだった。店を出る。


午後二時。特に次の予定はない。


「どうする?」


莉奈は少し考えた。


「帰る?」


声が微妙だった。帰りたい人の言い方ではない。


「まだ時間あるけど」


「高瀬は?」


「俺も暇」


「じゃあ……もうちょっと歩く?」


「うん」


また歩く。理由もなく、目的もなく。


少しして公園が見えた。駅前から少し離れた、小さな公園。


「座る?」


ベンチへ座る。休日だが人は少なく、子ども連れの家族が少し離れた場所にいる程度だった。


風が吹き、莉奈の髪が揺れる。俺は何となく見る。


「何?」


すぐ気づかれた。


「別に」


「最近それ高瀬も使うよね」


「水瀬がよく言うから」


「真似しないで」


少し笑う。沈黙。


でも気まずくない。莉奈はスマートフォンを見ていた。


少しして画面が光る。何かメッセージが来たらしい。


確認した瞬間、表情が少し変わった。


「誰?」


俺は何気なく聞いた。


「蓮」


胸の奥。少しだけ何かが引っかかった。


「何て?」


聞いてから、自分でも少し驚いた。普段なら誰から何が来たかなんて聞かない。


莉奈も少し意外そうにこちらを見る。


「明日、みんなで放課後どっか行かないって」


「ふーん」


それだけ答える。別に普通だ。


蓮だけではない。みんなで、いつもの友人グループ。


何もおかしくない。莉奈がスマートフォンを操作する。


「行くの?」


また聞いてしまう。


「まだ分かんない」


「そっか」


何だ。この感じ。


莉奈がこちらを見る。


「高瀬も来る?」


「俺?」


「嫌?」


「嫌じゃないけど」


「じゃあ来れば?」


俺は少し考える。蓮もいる。


そのことが先に浮かんだ。なぜだ。


「行く」


答える。莉奈が笑った。


「じゃあ蓮に言っとく」


たぶん、


『高瀬も来るって』


と送ったのだろう。少しして、莉奈が画面を見る。


「何て?」


今度は俺から聞いていた。


「何が?」


「蓮」


莉奈の口元が少し上がる。


「気になるの?」


「別に」


「へえ」


何だその顔。


「『了解』だって」


「そっか」


それだけ。なのに、なぜか安心した。


意味が分からない。莉奈が俺を見る。


「高瀬」


「何?」


「もしかして」


「何」


少し間を置く。


「嫉妬?」


心臓が一瞬跳ねた。


「違う」


即答。莉奈が笑う。


「返事早い」


最近同じやり取りばかりしている。


「普通に聞いただけ」


「蓮が何て送ったか?」


「うん」


「なんで?」


「……友達だから」


苦しい。自分でも分かる。


莉奈がじっとこちらを見る。


「ふーん」


「何だよ」


「別に」


またそれ。俺は前を見る。


蓮。莉奈のことが好きな男。


それは分かっている。だから気になるだけ。


俺は一か月で莉奈を惚れさせる。その邪魔になる相手だから。


それだけだ。たぶん。


午後四時前、駅まで戻ってきた。今日はここで別れる。


「じゃあ明日」


「うん」


莉奈が少し笑う。


「今日はありがとう」


「呼んだの水瀬だろ」


「来てくれたから」


「暇だったし」


答えると、莉奈が少しだけ口を尖らせた。


「あ、そう」


何か違ったらしい。


「でも」


続ける。


「楽しかった」


莉奈がこちらを見る。


「俺も呼ばれてよかった」


今度は笑った。


「ならよし」


改札へ向かう。莉奈が数歩進み、そこで止まった。


振り返る。


「高瀬」


「何?」


「今日さ、本当は……」


また止まる。


「何?」


莉奈は数秒黙ってから言った。


「……昨日買った服、見せたかっただけ」


俺は少し驚く。


「それで呼んだの?」


「悪い?」


「悪くない」


むしろ、嬉しい。そう思った。


「見られてよかった」


莉奈が笑う。


「じゃあね」


今度こそ改札へ入っていった。俺はその背中を見る。


服を見せるため。それだけで呼ばれた。


つまり、俺に見せたかった。そこまで考えて、少し口元が緩む。


でもすぐに戻す。罰ゲーム。


彼女役。そういうことだ。


ただ、今日の誘い方は、誰かに言われたわけでも、彼女らしく見せる必要があったわけでもない。日曜日。


二人だけ。誰も見ていない。


そこで莉奈は、俺に会おうと言った。その事実だけは。


どう説明すればいいのか。少し分からなくなっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。