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嘘告? そっちがその気なら一か月でその唇奪ってみます  作者: 幻影


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12/29

第12話 彼女が家に来ました

交際十日目、水曜日。朝から空は曇っていた。


天気予報では夕方から雨。家を出る前、母さんに傘を持っていけと言われたので折り畳み傘を鞄に入れてある。


いつもの場所へ着くと、莉奈はすでに待っていた。


「おはよ」


「おはよう」


今日の莉奈を見る。髪、イヤリングなし。


髪留めも昨日と同じ。特に変わったところは――。


「何?」


莉奈が怪しそうに俺を見る。


「いや」


「今、探したでしょ」


ばれた。


「何を」


「今日どこ変えたか」


「変えてるの?」


「今日は何も変えてません」


少し得意そうに言う。


「ひっかけ?」


「毎日変えると思った?」


「昨日、自分で考えてただろ」


「なんで知ってるの」


知らない。適当に言っただけだ。


「顔に書いてあった」


「昨日会ってないじゃん」


失敗した。莉奈がじっとこちらを見る。


「高瀬、たまに適当だよね」


「ばれた?」


「ばれます」


二人で学校へ向かう。十日目。


一緒に登校することにも、かなり慣れた。最初は何を話せばいいのか考えていたのに、今は会話が途切れてもあまり気にならない。


付き合って十日。普通の恋人なら、このくらい自然なのだろうか。


考えてからやめた。俺たちは普通ではない。


少なくとも始まりは。


「高瀬」


「何?」


「今日雨降るんだっけ?」


「夕方から」


「傘持ってきた?」


「折り畳み」


莉奈が止まった。


「私、忘れた」


「朝曇ってただろ」


「家出るとき降ってなかったし」


「天気予報見ろよ」


「朝そんな余裕ない」


「何時に起きてんの」


「七時十分」


「遅くない?」


「高瀬が早いの」


いつもの言い合いをしながら校門へ入った。その時点では、雨のことなんて大した問題ではなかった。


放課後。予報は当たる。


しかも思っていたより強い。帰りのホームルームが終わるころには、教室の窓を叩くくらいの雨になっていた。


「最悪」


莉奈が窓を見ながら呟く。真帆が鞄を持つ。


「私、傘あるよ」


「入れて」


「方向逆じゃん」


「駅まで」


「私今日、駅じゃない」


「薄情者」


「傘忘れた人が悪い」


正論だ。陸も蓮も傘は持っているらしいが、帰る方向が違う。


由依は迎えが来るという。莉奈が窓を見る。


「少し待てば弱くなるかな」


俺はスマートフォンで雨雲を見る。


「一時間くらい無理そう」


「うそ」


「見る?」


画面を見せると、莉奈が嫌そうな顔をした。


「本当だ」


「どうする?」


「コンビニで傘買う」


「ここからコンビニまで濡れるだろ」


「走る」


「結構降ってるぞ」


真帆が俺を見る。それから莉奈を見て、少し口元を上げた。


嫌な顔だ。


「高瀬と入れば?」


莉奈が止まる。俺も止まる。


「折り畳みだぞ」


「二人くらい入るでしょ」


「入るけど」


莉奈が俺を見る。


「……嫌?」


「嫌じゃない」


反射的に答えた。真帆の口元がさらに上がる。


「じゃあ決まり」


「真帆、楽しんでるでしょ」


「全然?」


絶対嘘だ。結局、俺と莉奈は一緒に帰ることになった。


昇降口で傘を開く。二人用ではない普通の折り畳み傘だから、並べば当然近い。


「狭いね」


「だから言っただろ」


「高瀬もうちょっとそっち」


「そっち行ったら俺が濡れる」


「彼女濡らす気?」


「その言葉便利すぎない?」


最近、本当に何でもそれで押してくる。仕方なく少し莉奈側へ傘を傾ける。


「高瀬、肩出てる」


「平気」


「平気じゃないでしょ」


莉奈が傘の柄に手を伸ばし、俺の手の少し下を持つ。


「真ん中」


「俺持ってるからいいよ」


「高瀬が私の方寄せすぎなんだって」


莉奈が傘を中央へ戻す。そのせいで、さらに距離が近くなった。


肩が触れる。今度はどちらも離れられない。


雨の中、狭い傘で肩が触れたまま歩く。映画館で指が当たっただけで固まっていた俺には、難易度が高すぎる。


「高瀬」


「何」


「また緊張してる?」


「してない」


「返事早い」


「雨で歩きにくいだけ」


「へえ」


絶対信じていない。莉奈も少し笑っている。


駅へ向かう途中、雨がさらに強くなった。風まで出てきて、足元もかなり濡れている。


「これ駅まできついな」


「さっきより降ってない?」


「降ってる」


ちょうどそこからなら、俺の家の方が近い。歩いて十分もかからないが、駅まではまだ二十分近くある。


一瞬迷った。昨日の話が頭に浮かぶ。


姉ちゃんたち、母さん、父さん。そして莉奈自身も、いつか家族に会うかもしれないと言っていた。


でも、まさか今日になるとは思わなかった。


「水瀬」


「何?」


「うち、近いけど」


莉奈がこちらを見る。


「え?」


「雨少し落ち着くまで来る?」


言ってから、少し緊張した。俺の家。


つまり姉ちゃんたちがいる可能性がある。莉奈も意味を理解したらしい。


「高瀬んち?」


「うん」


「今から?」


「嫌なら駅まで行くけど」


莉奈は雨を見て、俺を見て、少しだけ考えた。


「……行く」


決まった。まずい。


何がまずいのか分からないが、とにかくまずい。歩きながら母さんへLINEする。


『今から水瀬連れて帰る。雨宿り』


数秒で既読。


『分かった』


それだけ。母さんらしい。


すぐにもう一件来る。


『彩花と凛いるよ』


最悪だ。いや、最悪ではない。


ただ絶対うるさい。


『余計なこと言わないように言っといて』


少しして返事。


『無理じゃない?』


母親が諦めている。


「誰?」


莉奈が聞く。


「母さん」


「何て?」


「彩花姉と凛がいるって」


莉奈の足が少し止まった。


「え」


「嫌ならまだ戻れる」


「嫌じゃないけど」


明らかに緊張している。さっきまで俺をからかっていたのに。


「そんな怖くないよ」


「高瀬がいつも怖いって言ってるじゃん」


「美咲姉はいない」


「そういう問題?」


たぶん違う。家へ近づくほど、莉奈の口数が減った。


これは少し面白い。


「緊張してる?」


さっきのお返しに聞く。


「してない」


「返事早い」


「うるさい」


完全にさっきの俺だった。玄関前へ着く。


傘を閉じると、二人とも少し濡れていた。特に俺の右肩。


莉奈がそれを見る。


「やっぱり濡れてるじゃん」


「これくらい平気」


「私の方に寄せすぎなんだよ」


「彼女濡らしたら怒るだろ」


何気なく言った。莉奈が少し黙る。


「……まあ」


「何」


「別に」


またそれだ。玄関を開ける。


「ただいま」


一瞬遅れて莉奈が言った。


「……お邪魔します」


奥から母さんの声。


「はーい。タオル持ってくからそこで待ってて」


普通だ。助かる。


数秒後、母さんがタオルを二枚持ってきた。


「いらっしゃい。水瀬さん?」


「はい。水瀬莉奈です。急にすみません」


「いいのよ。すごい雨だもの。髪濡れてるから拭いて。悠斗も」


「ありがとう」


莉奈は少し緊張したまま頭を下げた。


「ありがとうございます」


そこへ。


「莉奈ちゃん?」


来た。リビングから彩花姉が顔を出し、後ろには凛がいる。


莉奈が固まった。


「彩花姉。こっち凛」


「紹介雑!」


彩花姉が言う。


「もっとあるでしょ」


「知ってるだろ」


「私は写真も見てないんだけど?」


そうだった。彩花姉が莉奈を見る。


莉奈も見る。数秒。


「……可愛い」


「姉ちゃん」


「何。感想くらいいいでしょ」


莉奈が困ったように笑う。


「ありがとうございます」


凛も莉奈を見ていた。こっちは彩花姉ほど遠慮なく近づかない。


「初めまして。凛です」


「初めまして。莉奈です」


「年下だから敬語いらないですよ」


「じゃあ……凛ちゃん?」


「はい」


凛が少し笑い、その瞬間、莉奈の表情も少し柔らかくなった。


「会ってみたかった」


莉奈が言う。凛が俺を見る。


「お兄ちゃん、何話してるの?」


「妹が生意気だって」


「最低」


「嘘。そこまで言ってない」


「言っただろ」


莉奈が笑う。緊張が少し抜けたらしい。


母さんが言った。


「とりあえず中入りなさい。制服濡れてるでしょ」


リビングへ移動する。莉奈はソファの端に座り、俺も隣へ座ろうとしたら、彩花姉と凛が向かいに並んだ。


完全に面接だ。


「姉ちゃん、見すぎ」


「だって初めて会ったんだもん」


母さんがキッチンから聞く。


「莉奈ちゃん、飲み物何がいい?」


「あ、何でも大丈夫です」


「何でもが一番困るやつ」


凛が言う。莉奈が笑った。


「じゃあお茶で」


「はーい」


こういうところは母さんがいると助かる。妙に構えず、普通に客として扱っている。


彩花姉が莉奈を見る。


「昨日、悠斗の服どうだった?」


いきなりそこ。


「姉ちゃん」


「私が選んだんだから聞いていいでしょ」


莉奈が少し驚く。


「全部彩花さんが?」


「ほぼね」


「すごく似合ってました」


彩花姉の顔が変わる。


「でしょ? もっと言って」


「調子乗るな」


莉奈が笑う。


「本当に学校と全然違って、最初分からなかったです」


「でしょ! この子、素材殺して学校行ってたの!」


「素材って言うな」


「だってそうじゃん」


凛も頷く。


「お兄ちゃん、学校だと本当に何もしないから」


莉奈が俺を見る。


「やっぱりわざと?」


「面倒だっただけ」


「でも女の子に色々気づいても言わなかったんでしょ?」


凛が聞く。莉奈が反応する。


「そうなの?」


余計なことを。


「凛」


「だって本当じゃん」


莉奈が俺を見る。


「じゃあ私が髪切ったのも、前から気づいてた?」


「まあ」


「言わなかっただけ?」


「そう」


「なんで?」


答える前に凛が言った。


「好きでもない女の子に、彼氏みたいなことするなと言われてたから」


莉奈が止まった。俺も止まる。


彩花姉が凛を見る。


「それ今言う?」


「ダメだった?」


「いや……まあ、本当だけど」


莉奈はしばらく俺を見ていた。


「じゃあ今は?」


嫌な質問が来た。


「何が」


「今は色々言うじゃん」


「彼女だから」


いつもの答え。莉奈が少しだけ視線を落とす。


「……そっか」


何か変だった。でも理由を考える前に、彩花姉が笑う。


「悠斗、そればっかり」


「本当のことだろ」


「はいはい」


母さんがお茶とお菓子を持ってきた。


「莉奈ちゃん、ご飯食べていく?」


俺が止まる。莉奈も止まる。


「お母さん、急すぎない?」


「雨まだ降ってるし、お腹空くでしょ」


普通。本当に普通に言っている。


莉奈が窓を見て、スマートフォンで時間を見る。


「でも家に連絡しないと」


「連絡して大丈夫ならでいいわよ」


母さんはそれ以上押さない。莉奈が俺を見る。


「いいの?」


「俺に聞く?」


「だって高瀬んちだし」


「母さんがいいって言ってるなら」


少し迷ったあと、莉奈は家へ連絡した。数分後。


「大丈夫だって」


母さんが笑う。


「じゃあ食べていきなさい」


「ありがとうございます」


決まった。雨宿りだけのはずが、夕食まで。


話が早すぎる。


「莉奈ちゃん」


凛が言う。


「LINE交換しない?」


さらに早い。


「いいよ」


莉奈も普通にスマートフォンを出す。


「ちょっと待って。何でそんな早いの?」


凛が真顔になる。


「何が?」


「会って十分くらいだぞ」


「同じ高校生だし」


「学校違うけど」


「だから?」


莉奈まで笑う。


「高瀬、何が嫌なの?」


「嫌じゃないけど」


「じゃあいいじゃん」


俺の知らないところで連絡網が増えていく。彩花姉もスマートフォンを出した。


「私も」


「姉ちゃんまで?」


「何か問題ある?」


「ないけど」


莉奈が笑いながら彩花姉とも交換する。まずい。


非常にまずい。何がまずいのか、もう分からない。


ただ、一か月後に簡単に終わらせられる人間関係ではなくなっている。そのとき玄関が開いた。


「ただいまー」


父さん。最悪のタイミングだ。


俺は立ち上がる。


「莉奈、一個だけ言っとく」


「何を?」


「父さんの言うことは半分くらい聞き流して」


「どういうこと?」


説明する前に、父さんがリビングへ入ってきた。俺、彩花姉、凛、母さん、そして莉奈を見る。


止まる。


「……おお」


嫌な予感。


「悠斗」


「何」


「父さん、今日は外で食べてこようか?」


「余計な気遣いするな」


莉奈が吹き出した。


「初めまして」


立ち上がって頭を下げる。


「水瀬莉奈です。急にお邪魔してます」


父さんも少し姿勢を正した。


「悠斗の父です。いつも息子がお世話になってます」


まともだ。意外すぎる。


「こちらこそ」


莉奈も頭を下げる。数秒。


父さんが俺を見る。


「可愛いじゃないか」


「お父さん!」


俺、彩花姉、凛の声が重なった。母さんだけがため息をつく。


「健司」


「褒めただけだろ!」


莉奈は笑っていた。よかった。


夕食が始まるころには、最初の緊張はかなり消えていた。父さんは予想どおり何度か余計なことを言い、彩花姉と凛に止められた。


「悠斗、家ではモテたことないからな」


「家でモテるって何だよ」


「小さいころ美咲の友達に可愛いって言われて――」


「お父さん」


「はい」


凛が止める。莉奈はずっと笑っている。


「高瀬、家だと全然違うね」


「何が?」


「学校より喋る。あと、結構いじられてる」


「見れば分かるだろ」


「学校だともっと落ち着いてるのに」


彩花姉が笑う。


「外面いいのよ」


「違う」


「家ではこんなもんだよね」


凛まで言う。父さんが頷く。


「悠斗は昔から姉妹には弱いからな」


「お父さんもだろ」


言うと、全員が黙った。父さんだけが少し考える。


「……確かに」


母さんが笑った。食事が終わるころには雨も少し弱くなっていた。


莉奈が帰ることになり、俺は駅まで送る。玄関で莉奈が靴を履き、母さんに頭を下げた。


「今日はありがとうございました」


「またいつでも来てね」


「はい」


あまりにも自然に母さんが言う。彩花姉も続く。


「今度買い物行こうね」


「行きたいです」


莉奈も普通に答えた。凛は、


「LINEするね」


「うん」


もう友達みたいだ。父さんが最後に口を開く。


「莉奈ちゃん」


「はい」


「悠斗のことよろしく」


一瞬だけ、空気が止まった。俺は父さんを見る。


莉奈も少し驚いた顔をしていた。でも父さんはふざけていない。


莉奈は数秒黙ったあと、


「……はい」


と答えた。玄関を出る。


雨は小雨になっていた。俺と莉奈は一つの傘で駅へ向かう。


「ごめん」


「何が?」


「家族うるさかっただろ」


「全然。楽しかった」


またその言葉。初デートのときと同じ。


「本当に?」


「うん」


少し歩く。


「高瀬のお母さん、優しいね」


「普通だよ」


「お父さん面白い」


「あれは無視していい」


「彩花さん、思ってた通りだった」


「どんな想像してたんだよ」


「凛ちゃん可愛い」


「本人に言うと調子乗る」


「もうLINEした」


「早くない?」


莉奈が笑う。楽しそうだ。


その顔を見て少しだけ嬉しくなると同時に、胸の奥に別のものが残った。一か月後、この関係が終わったら。


莉奈と凛のLINEはどうなる。彩花姉との買い物の約束は。


母さんの『またいつでも来てね』は。父さんの『悠斗のことよろしく』は。


そこまで考えて、やめた。まだ二十日ある。


「高瀬」


「何?」


莉奈が前を向いたまま言う。


「また行っていい?」


俺は答えるまで少し時間がかかった。断った方がいい。


本当なら、これ以上家族と関わらせない方がいい。一か月後のことを考えるなら。


分かっている。なのに。


「……いいよ」


そう答えていた。莉奈がこちらを見る。


「ほんと?」


「母さんも言ってただろ」


「高瀬は?」


聞き返された。母さんがいいと言ったからではなく、俺自身がどう思っているのか。


「俺も。また来ればいいと思う」


莉奈が笑った。


「じゃあ行く」


簡単に決まった。駅へ着き、莉奈が傘から出る。


「今日はありがと」


「うん」


「また明日」


「また明日」


莉奈が改札へ向かう。俺はその背中を見送った。


スマートフォンが震える。凛から。


『莉奈さんいい人じゃん』


続けて彩花姉。


『私は好き』


さらに母さん。


『今度は雨じゃなくても連れてきなさい』


早い。家族が早すぎる。


最初に水瀬の嘘告を知ったとき、姉ちゃんたちには絶対に言えないと思った。水瀬を嫌いになると思ったから、黙った。


今は、もっと言えなくなった。理由は逆だった。


姉ちゃんたちがもう、莉奈を好きになり始めていたから。


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