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 色とりどりな服を纏い、煌びやかな空気の中で談笑している者達を眺め、シキは大きなため息をつく。


 自身も青を基調とした軍服に近い正装を纏っているが、着慣れていない分肩が重いと感じてしまう。さらにそれが借り物であることも拍車をかけていた。


 (さっさと帰って寝たい……)


 グラスの中のシャンパンをちびちびと飲み、再び周囲へと視線を巡らせた。すると見慣れた二人の姿が目に留まる。


「慣れてるな……」


 頬を赤く染めている多数の女性に囲まれているゼロと、同じように多数の男性に囲まれているリュイがいる。


 ゼロの鍛えられた体躯は、ショート丈の深紅のベルベットのフロックコートに包まれている。縁取りは金糸で刺繍が施されており、下のウェストコートはベロア地の黒、コールズボンはライトグレイ、袖を彩るカフスは鮮やかな大粒のルビーと、そこにいるだけで見事な存在感を放ち見る者を魅了させていた。


 リュイはフロアー丈トレーンのハートネックラインをしたイブニングドレス。色は淡いペールグリーンで、彼女の白い肌と合わさってエルフの神秘的な雰囲気そのままを体現したかのようだった。


 二人ともそれぞれ慣れているようにまとわりついている存在達をあしらっている。


 (リュイはリアルセレブだったし、ゼロもそれっぽいな)


 遠くから二人を見ると、明らかに同等の似た空気をシキは感じていた。


「シキさん!」


「フィン」


 呼ばれた名前がした方向を見れば、同じように礼服をまとったフィンが笑顔でそこにいた。彼の後ろには居心地悪そうにしているパーティのメンバー達がいた。今のシキには彼らの気持ちがとてもわかる。


「なんか、すごいですね。あの二人」


「あの二人は社交性が高いからな。そう言う所は素直に尊敬する」


「シキさんだって別に社交性がないわけではありませんよね?」


「さすがに、ああいうのを捌くのは無理だ」


「僕も無理です」


 お互い苦笑しながら談笑していると、いかにも貴公子然とした男がフィンの名前を嬉しそうに呼ぶ。だがフィンの眉が一瞬顰められたのをシキは見逃さなかった。


「ああ、フィン殿! お会いしたかった!」


「……殿下、お付きの方はどうされたのですか?」


「供などという無粋なものは我らの逢瀬に必要ないでしょう?」


 (……ああ、ダメだこいつ。オレには無理だ。というか、たぶんオレを認識してないな、こいつ)


 会話すると疲れてしまうのはこちらだと判断し、シキは会話に加わらないことを決める。そして予想通り、殿下と呼ばれた男はまったくシキやフィンの仲間たちに視線一つ向けることなく、フィンだけを見ている。


 このままフェードアウトしようかと足を踏み出そうとしたのだが、その前にフィンがにっこりと笑ってシキの腕を取った。


「殿下、申し訳ありません。知人を紹介したいのですがよろしいでしょうか?」


 (逃げられなかった……)


「知人?」


「ええ。今回王女の」


「そんなものはどうでもいい。価値ある者ではないのだから」


 シキは周囲が固まる音を聞いた気がした。


「殿下……!」


 フィンの米神に青筋が浮いているのを見て、シキはここらで止めないと大変なことが起きるような気がしてフィンの肩を軽く叩く。


「フィン、落ちつけ。オレは気にしていない」


「でも」


「価値観、というか感覚が違うんだ。理解しようという気がない人を気にしていたらストレスがたまる一方だぞ」


 感覚の違いというものは互いに理解しようとしない限り平行線をたどるだけだ。それをシキは社会人生活の中で何度も味わってきていた。


 (そういえば誰かが言っていたな。恋愛を長く続けるコツはある程度のラインで妥協することだと)


「昔何かあったんですか、と聞きたくなるんですが……」


「気にするな」


 困惑の表情を浮かべるフィンを宥めつつ、不意に視線を感じてそちらに顔を向ければ、殿下と呼ばれた男が眉を顰めてシキを見ていた。


「……何か?」


 ゆっくりと男の口が開いて言葉が紡がれる。


 瞬間、シキの頭が真っ白になる。


 ガラス一枚隔てたような視界の先で、衛兵らしき者達が今にも武器を手に取りそうな勢いで警戒し、人々は青白い顔でシキから距離を取っていた。


 (ああ……少しやばいな。止められないかもしれない)


 冷めた思考の片隅でそう思う。


 少しでも動けば衛兵達が自分を取り押さえようと飛びかかってくるだろう。だが、パーティで騒ぎを起こすのは本意ではなく。


 (いや、すでに騒ぎを起こしてるな。どうしたものか)


「シキ」


 名を呼ぶ声と同時に、抱きしめるように腰に腕が後ろから絡みつく。ふわり、と漂う慣れた香りにシキの思考がゆっくりと通常の思考へと戻っていく。


「シキ」


「……ゼロ」


「落ちついてくださいませ」


「……リュイ」


 柔らかな感触に手が包まれる。ゼロとは違う甘い香りを認識すると、戻っていく思考と同時に視界もクリアになっていく。


 ようやく思考と視界が通常に戻ったと同時に体の力が抜けた。


「――何の騒ぎだ」


 集まっていた人の波が割れ、一際目立つオーラを放った男が三人の元にやってくる。シキにも見覚えがある人物だった。


「皇太子、殿下」


「貴方方は確かクリスタのために素材を取ってきたくれた冒険者でしたね。だとしても」


「違います! シキさんは悪くないです」


「そこの王子様がうちのシキに余計なことを言ってくれたみてぇだな」


「ヴァルターが?」


「……我ら竜族は、害もたらす滅びの一族。ゆえに早々に滅べ、と」


「っ!?」


 シキが発した言葉に皇太子はヴァルターと呼んだ男を振り返る。そしてフィンにゆっくりと視線を向け、フィンが頷いたのを見ると一気に顔色を青くする。


「……過去に、確かに人と竜が争った歴史もあります。ですが、そのすべてが害なすわけではなく、ましてや我らに早々に滅べなど、そのようなことを言われる筋合いはありません」


「ええ、もちろんです。この愚弟の戯言など気にする必要などありません。貴方方は我が妹に尽力を尽くしてくださった恩人。そのような方々になんと無礼を……」


 皇太子は衛兵にヴァルターを連れて行くように命じ、慌ただしい空気を払拭するように楽団へ演奏を命じ、招待客の気を逸らす。シキ自身もこれ以上パーティにいる気にもなれずその場を辞する。後ろからゼロとリュイがついてくるのを見て「まだパーティにいてもいいぞ」と言うが二人とも首を振る。


「パーティよりもシキのほうが大事だしな」


「そうですわ。わたくし達はちゃんと役目を果たしましたもの」


「……ありがとう」












 床に倒れ伏し、真っ赤に腫れあがった頬をヴァルターは押さえる。一人の少女が駆け寄ろうとするも、皇太子に制止され動けない。


「こ、の、馬鹿者が!!」


 部屋中に響き渡る怒号に少女がびくりと体を震わせる。


「竜族を、それもクリスタのために素材を取ってきた冒険者を愚弄しただと!?」


「侮辱のレベルですよ、父上。あの場であの方が理性的であられたことを、これほどまでにありがたいと思ったことはありません」


 皇太子が眦を吊り上げ、ヴァルターを見下ろす。


「貴様はわかっているのか、ヴァルター。お前の発言は世界に散らばる竜族を敵に回す発言だということを」


「お言葉ですが兄上、僕は間違っていませんよ。あんな異形の者など何の価値もありません」


「ヴァルター!」


「よい、エルンスト。この馬鹿には何を言っても無駄だ」


「父上」


「ヴァルター。一ヶ月の謹慎の後、ニブルヘム領領主への着任を命じる」


「なっ!?」


「そこで目に見える功績をあげるまで戻ってくることを禁ずる。よいな」


「お待ちください父上!」


 ヴァルターが縋るような視線と手を伸ばすが、皇帝は厳しい視線で見つめたまま踵を返し部屋から出て行く。続けて皇太子であるエルンストも出て行こうと、一緒にいた少女たる妹姫を伴おうとするが彼女は心配そうにヴァルターを見つめたまま動かない。エルンストは一つため息をついてうなだれる弟に声をかけた。


「ヴァルター、これはお前の自業自得だということを忘れるな。下手をすれば竜族と冒険者ギルドを敵に回しかねなかったのだから」


「……私は、間違っていない」


「……そうか。ならその考えを持ったまま破滅へと進んでいくといい」


「兄上!」


 エルンストは言葉を返さず、父親同様厳しい視線をヴァルターに向けたまま部屋を出て行った。






この一年音沙汰なしで誠に申し訳ありません。

これからは出来る限り、出来る限り更新を……!

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