第八話 水切り占い
夕食を食堂でとることに。
出てきたのはタレたっぷりの西洋料理。
変わった匂いや見目の料理に目が点となっていると、瑠璃子が可笑しそうにするので咳払いした。
テーブルマナーは少し疎くて困っていると、隣に座っていた瑠璃子が教えてくれる。
瑠璃子のお陰で食べられそうだ。向かいの席の狼子も珊瑚に習っていた。
少しの量でも提供される時間によって味わいを感じる時間が長く、腹一杯に感じる。
スイーツの時間には、さっぱりめのぶどうのシャーベットがブドウ本来の味が変わらず馴染みあるものだから、少しだけほっとした。
食事の時間には姿を現すかとおもった琥珀と玻璃は顔をだす訳でもなく。
自室に食事が運ばれている様子だった。
食事は和気藹々というわけでもなく、ただ食べるだけのための時間といった感じだ。
食事中に喋るのはあまり好ましく思われていない様子だった。
食事が終わるとそれぞれ立ち上がり自室に帰っていく中、珊瑚が残って俺と狼子に興味を示す。
「ねえ、ちょっと水切り占いしない?」
「水切り占い?」
「うちにきた人はみんなしていくわ。滝の間っていうのがあってね、そこは水で整えている占い専用の部屋なの。
大きな水鏡があって、それで占うの」
「占いを信じるのか、意外だな。あの親父さんもっと現実的だとおもっていた」
「うちは玄武の加護も信じて、玄武の最高位の巫女から祝福も毎年貰っているのよ、属性は?」
この国で生まれたときから朱雀、玄武、白虎、青龍のどれかから祝福を貰っているのがふつうだ。
玄武の祝福を主にしているのなら、相性が悪いのは白虎だろう。白虎じゃなければ占いは可能だと告げているのだ。
狼子はいたく好奇心をそそられた様子で大賛成だった。
「いいね、ぜひにだよ! 君も占って貰おう!」
「占いの解釈は、きっとあたし手伝えると思うから。案内がてらしてもいいわ」
「……じゃあしてみるか」
占いは少し遠慮したいものだったが、狼子がしたがるのに拒否するのも可哀想だろうとついていく。
案内された滝の間は、中が鏡張りのような美しさで水壁となっていて。
鯉の漂う池が小分けにされていて。石庭の中央に、大きな人工的な滝でできた水鏡があった。
滝のような激しさはないけれど、水を流しっぱなしにここまで綺麗さを維持できるのだから経済力を思い知る。
狼子はそわそわしながらけんけんぱしていって、水鏡に立ってみる。
「どうすればいいのだね」
「そこで手を伸ばして、水に触れて。触れてから手を離して目を閉じて、今一番気になるものを思い描いて」
狼子は言われた通りに念じる。
するとどうだ、水鏡にはまず真っ青な豪炎の鳥が叫ぶ姿が映り。狼子を覆うように鳥から変化した青年が守っている。
狼子によく似た青年の影が浮かび、此方と目が合うと微苦笑していた。目が合うだけでも悲痛なものを感じる。
どうか諦めないで、と告げたくなるほど諦観を浮かべた青年だった。
青年は水色の光る鳥となり、空へと飛んでいった景色が浮かび上がった。
「……まず貴方は朱雀の強い加護があるわ。それこそ自分の身を傷つけかねないほど大きな力の加護」
「おお……それから? それから?」
狼子は景色が見えないからかわくわくして大人しく目を閉じて聞いている。
水色の鳥を籠で捕らえた醜い化け物が、薄ら笑いを浮かべていた。そこで映像は切れる。
珊瑚は眉間にしわを寄せ解釈を続けて、話し続ける。
「何か大事な者が、貴方の大事な人は案外貴方のそばにいるわ」
「ほほう、どうしてだね」
「青い鬼が、貴方の側でずっと見守っていて、貴方がミスをするのを待っているから。
貴方がミスをすれば貴方は致命的な未来になり、大事な者は解放されるけど、青い鬼が口を開けて待っているわ。
青い鬼は、貴方の妹にも興味があるみたい」
狼子はばっと顔をあげて、俺を振り返るがどうみたって俺は赤毛なので赤鬼だと分かる。
角の存在を思い出しても赤毛である事実さえ見れば、俺が青鬼ではないと明白だ。
狼子はふむ、と真っ青な顔色で考え込み、今度は戻ってきて俺をぐいぐいと押す。
「君の番だ」
あれだけ明確に何かが写るのでは、心配になる。
俺の鬼である物事が写らない程度の霊力に抑えながら、真似をして目を閉じる。
「最近大事な人を亡くしたのね。ああ、奥様なの。あたしが慰めてあげたあい……」
「そ、んなことまで分かるのか」
「この水鏡のまえでは嘘はつけないわ。炎が揺れてる、貴方にとって炎は大事であり、疎む者なのね」
「……もういいか? 俺は占いたいことなど、」
「貴方たくさん大事な人を自分のせいで亡くしたみたいだけど、不思議ね。誰一人貴方のこと、恨んでいないみたいよ。
みんな、貴方のこと愛していたって。幸せだったって」
思わず目を開けて確かめたくなる。
顔をあげて水鏡を見上げれば、一瞬だけ寧音やかつての妻達の顔がよぎって皆笑顔で消えていく。
ああ、ああそうだな。
お前たちは、俺をひとつも恨んではくれなかった。
恨んでくれたことの方がまだ、楽だった。
それでもお前たちは強く生きろと、自分の油を……。
水の匂いが強くなる、鯉がいるからだろうか。水の匂いに口元を抑える。牙が出ないように。
感情を抑えろ、抑えろ。駄目だ冷徹になれ、霊力を抑えろ。
素性がばれてしまう。
それでも、目から涙が零れる。
寧音、寧音。こんな情けない姿になっても、まだ笑っていてくれていたのか。
思わず水鏡越しに抱きしめるが、体が濡れるだけ。ぱしゃんと水が跳ねて、人工的な滝は俺を打ち付ける。
水の温度は、ぬるい。ぬるさに我に返った。
帽子が流れ落ちる。角が露わになる。
「貴方」
珊瑚の声が震える。
「鴛鴦様なのね」
水鏡には、感情を揺さぶられた結果霊力を抑えきれない情けない俺の、本質的な鬼の姿が映っていた。




