第六話 悪魔憑きの良家
うちよりは小さめだが、それでも大きな屋敷に馬車で着く。
狼子の家よりは大きいだろうか。うちと比較するのがおかしいのは自覚している。
人間の中では金持ちで大きな家持ちに値する。公爵家の本邸なのだから。
俺は身分を隠して角もかくし、瞳の色も術で変え。狼子の助手という形でやってきた。
「金はあるとこにはあるねえ! 流行の西洋作りだ」
「お前の家みたいな和風のほうが、好きだな」
「じゃあ私の家と君の家を交換しよう」
「冗談やめろ。薫の部下として俺たちはきた、そこを忘れないように」
「うむうむ、ああっ、ロマンが詰まっているなあ!」
「なんだってそんなに事件が好きなんだ」
「謎は好奇心を呼ぶ。知識欲のようなものだね、西洋占いでは双子座という属性に値する者は知識欲に飢えると聞いたよ」
「へえ双子座……六月の生まれなのか」
「そうだとも。そもそも私には兄がいたのだが、死んでしまってね。ずっと兄の加護を感じるよ」
有名な話だ。
御手洗家は双子の兄妹がいて、その後に妹が生まれたと。
御手洗家の兄は将来有望視されていたが、ある日神隠しにあい。後に形も見えづらい死体が見つかったと聞いた。
怪事件に幼い頃遭遇したとなれば、修羅場が日常となり事件に触れないと安心できない性質もありそうだなと感じる。
なんとなく頭を撫でてやれば、狼子は照れる様子もなく、にぱっと笑った。
小型犬っぽさを感じる。
「お前も苦労してるんだな」
「そうかな、この時代にはよくある話しだよ」
狼子の笑顔をそのまま信じて、この女は気丈な女であると信じて良いのだろうかと、何となく気が引ける。
身内が死んでいる話など、人間からすれば悲しい話であるのに、笑顔で話せるこの女の闇に触れた気がした。
(何か、隠してるのだろうか。まだ話せる関係性じゃないということか)
狼子をエスコートして馬車を降り、邸宅の呼び鈴を鳴らした後でてきた執事の案内のままに導かれる。
屋敷の中に入れば木造の香りもしながら、伽羅のお香が充満した室内。
立派な大黒柱に負けず劣らず華美な室内。彫像品はどれも成金趣味とは縁遠い、品質の良いものだけが滞在を許されている調度品。
ピアノの音が微かに聞こえる。バックサウンドにはちょうどいい柔らかな音程で、腕は確かだった。白さを基調とした屋敷で、使用人達はメイド服。
案内された先のカウチソファに座っていた男は、オールバックにスーツの出で立ちだった。
「怪異の探偵さんたちかね、西園寺 敏夫です」
「はい、そうですとも! 私は御手洗狼子といいます!」
「御手洗家といったら、朱雀の巫女家系の最高位じゃないか。そんな巫女がどうして、探偵に」
「事件解決のお助けにきました! こちらは助手のー、ええと。あかおです」
「……あかおです、宜しく。それで、事件の詳細を上司から聞かされてないのですが、どうしたんですかいったい」
「うちに悪魔憑きがいるんだ、誰か見抜いたらお祓いをしてほしい」
「お嬢さんが悪魔憑きと聞きましたが、特定されてないのですか?」
「七人もいたら特定もできない……うちは七姉妹なのだ」
「それはまた奥様と仲良しだったんですね!」
下卑た話しにすり替えて笑う狼子に品がない。
品のなさを気にした様子もなく敏夫さんは紅茶を口にして、話を続ける。
渾身のジョークが滑った狼子は俺に視線を合わせ、半笑いした。冗句が通じなかったときの空気は気まずさがすごい。
呆れながら狼子を撫でてやった。
「うちの家内曰く、七姉妹全員悪魔憑きだというのだが。私は虚言もいるのだと睨んでいる、術を扱えるものも姉妹の中にはいるともいうし」
「なるほど、七人全員だったらやばいですよね。分かりますお気持ち」
「夜になるとお陰でうるさいぞ。私は仕事が忙しくてな、家のことは家内に任せてある。何かあれば家内に言ってくれ。
家にあまり私はいない、明日か明後日にまた家に戻ってくる。解決するまで泊まっていい。報告を待っている」
「分かりました! お任せください! 事件が解決したら記事にしていいって本当ですか」
「醜聞だが、それが条件だというのだから引き受けるしかない。それぐらい、我が家が困っていると分かってくれ」
敏夫さんは時間がきたのか、お茶の一杯を飲み干す行為もせず、気もそぞろにそのまま出かけていった。
俺たちは見送り、狼子に視線を向けると狼子は紅茶をふーふーと冷ましながら茶菓子を美味しそうにバリバリ食べている。
七姉妹が全員悪魔憑き、か。悪魔憑きになるほどの恨みを買っているのか、それとも何か罰当たりな行為をしたのか。
そして何より、虚言がいる、というのが大問題だった。
人間界には狼子のほうが詳しい、悪魔憑きとはどういうときになるものなのだろうか。
「悪魔憑き、とは。切っ掛けが想像つくか?」
「そもそも祟りだね。簡易的に言うと。誰か、この家に祟られるほどの行為をしたやつがいて、それを庇ってるんじゃないかな虚言の子は」
「そもそもなんで虚言なんて……年頃の娘なのだから、縁談に響かないか?」
「縁談などが全てじゃないんだよ、結婚で全てを図るなんて前時代的だぞお! ナンセンス! 私を見給え、結婚など要らない!」
「お前の場合は結婚してくれないと困る」
「はっはっは、熱烈だなあ! 愛なんかないくせに!」
そうだな、愛なんてない。
真っ向から言われると少し後ろめたさに傷がつく。
狼子は気にした様子もなく、自分の手帳をぺらぺら捲っている。
「私が調べたところだと、悪魔憑きは体がおかしな方向にまがったり、おかしな呪詛を唱えたり。
まあ摩訶不思議な出来事が起きる」
「稲荷の祟りとは違うのか。あの親父さんが稲荷だと思わないのは何だろうな」
「決まってるだろう。商売人は稲荷の神様を大事にする、それくらいは心得ているはずだ、それほど大事にしている神様に祟られる覚えはないとおもうよ」
昔からの習わしで、稲荷からの祟りっていうものもあり。
それもいわば悪魔憑きの和風版みたいなものなのだが。稲荷からの祟りの場合は、稲荷の神様を蔑ろにしたり、おしっこを引っかけるなど罰当たりなことや。
恩恵があったのに御礼をしなかったときに発動されると聞く。
それとの違いも分からないし、今のところでは何故稲荷だと言わないのだろうと不思議だったが、狼子の言葉で商売人にとって稲荷の神様の重要性を思い出す。
確かに商売人が稲荷に祟られたとあっては、恥ずかしいものがあるだろう。そこの対策はしてそうだな、とはかんじた。
なるほど、だから対策をしている稲荷ではなく、対策の分からない悪魔憑きなのか。
なるほどと頷いたあたりで、お茶を飲み干し、席を立ち屋敷内を巡ろうと思案し。立ち上がると狼子へ手を差し出した。
狼子はきょとんとしてから、ああ、と気づいたように手を取り立ち上がる。
「女性に紳士的なのだね、この私を女性扱いする輩は兄上以外初めてだよ」
「お前も一応、花だからな」
たんぽぽという雑草種という、女性だけれど。




