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第十話 みんな優しい

「まず瑠璃子と珊瑚と瑪瑙は憑かれてる」


「ふむむ」


「金美と銀美にも遭遇した、あの二人もだ」


「うんうん……ははあ、なるほどな。それで? 君は悪魔憑きにはあってないのかい?」


 意識を取り戻した狼子に説明をしていれば狼子は赤い鼻をさすりながら頷き。

 

 垂れている鼻血に気づけばハンカチで拭った。

 

 問われた琥珀は目を瞬かせると、屋敷を見上げ。


「僕のせいじゃない」


「どういう?」


「……僕のせいなんかじゃ、ないからね!」


 琥珀は呟くと脱兎し、そのままその場からいなくなる。

 

 狼子は頭を掻きむしると、ふはーっと興奮を露わに大笑いした。


「いいね、最高だよ! 謎一杯それっぽい人いっぱいの屋敷! みんな思わせぶりだ!」


「満足してくれたら結構だが。それでも、虚言が分かるか、お前」


「うん? 私は何となく察しはついているんだ。君にあの夜市に連れて行ってもらったのが、でかいね」


「なんだって? いったいなんでそれが……」


 「さっきのお嬢さんを。あの夜市で見かけたからだ。だから何か彼女が原因なのは、本当だろうね。


 正確には彼女と言うより、西園寺家の家紋つきの着物を着た女性だ。多分、彼女だと、思う」


「夜市で買った物のせいでへんてこな事件になってるってえことか」


「さて問題は、何を買ったかだ。彼女が何を手に入れたくて。そして虚言は何のためにつかれたか。

 

 それから、玻(・)璃(・)サ(・)ン(・)は(・)何(・)故(・)い(・)つ(・)ま(・)で(・)も(・)い(・)な(・)い(・)の(・)か(・)だ」


 よく分からないなと目を白黒させていれば、狼子はきひっと笑い。

 

 立ち上がると腰の砂や草をどけるようにぱんぱんと尻を叩いて払った。


「みんな、優しいんだね。此処の人は。いいさ、明日頑張ろう鴛鴦様。次は気絶しないぞ」


 狼子の言葉に、俺はよく分からなくて首を傾げるだけだった。


 *


 次の日になれば屋敷の住人は何事もなかったかのように朝を迎える。

 

 狼子は朝支度を調え終わったのかつやつや顔で食堂へ来る。

 

 狼子に昨日の話をしたくても、狼子はしばらく屋敷のあちこちをうろつき、何かを調べている様子だった。

 

 使用人にも聞き込みをしていて。

 

 その間暇だった俺は、ピアノの間にいってもう一度あのピアノの霊力を調べたかった。

 

 ピアノに触れていれば、このピアノに術を込めた人物を特定できた。こういうときは霊力の高い自分をお得に思う。


「あとは、どうして、か」


 呟いていると美少女がピアノの間に近づいてくる。


 美少女は俺に気づくと、ピアノに近寄って席へ座り。俺に合わせて倭国の花を象徴した音楽を紡いだ。

 

 残り一人の美少女となれば、玻璃だろうか。

 

 琥珀そっくりだから琥珀かと勘違いしそうになる。この二人も双子なのだろうか。


「どなたが虚言かわかった?」


「全員本物に見える。どうしたって親父さんは虚言がいるって分かったんだろう」


「きっとそうであってほしいの。全員悪魔憑きなんて、考えたくもないはずよ」


 軽やかなピアノは心地よくて眠りを誘われる。

 

 カウチソファーでとろんと瞳が微睡んでいくと、玻璃はより心地の良い音色を奏で始めた。

 

 玻璃の声自体も鳥のように癒やしで、落ち着く。


「お父様はきっと、止めて欲しいのあたしたちを」


「そりゃそうだろう、皆嫁入りできなくなる」


「そうね、珊瑚も縁談がきてる頃だった。悪魔憑きの話がきて流れちゃった。可哀想」


「……そもそも、祟られるほどの。なにをしたっていうんだ」


「……ねえ、好きな人いる?」


「ああ?」


「好きな人と、一つになれたら幸せよね。うちは、みんながみんな大好きでひとつになれたら幸せなのよ。それが祟り」


「それはどういう……」


「あかおさん。少しお話していい? 昔ね、みんな仲の良い姉妹だったのよ、いつもみんなで演奏会へ遊びに行ったわ、あの頃が忘れられない。あたしだけがずっとその頃を追い続けている」


「……玻璃さん」


「……今も、きっとなかがいいの。瑠璃子お姉様がお嫁に行ってもね。それだけよ、きっとうちの罪は」


 玻璃は俺を放って演奏にのめり込む。

 

 気づけば俺は眠っていて、瞬くと夕方だった。

 

 昼餉を食べ損ねた俺への気遣いに、サンドイッチが置いてある。

 

 気の利く女だ。


 狼子がやってくる。俺の食べているサンドイッチを見れば、目を輝かせる。


「ねえ、ついてきてほしいところがあるんだ!」


「おお、いいぞ、どこだ」


「この家には地下座敷があるんだって。何処から行くと思う? あの温室に地下へ繋がる扉があるんだと」


「それはまた……」


 

 サンドイッチはバターのきいたパンへ、若干の塩をいれたマヨネーズ和えの卵。

 

 それからハムとキュウリ。ドライトマトとチーズと、洒落ている。

 

 片手で食べられるには便利だが、俺としては握り飯が恋しくなっている頃合いだ。

 

 どうしたって味噌汁は飲みたいし、漬物だって食いたい。

 

 醤油味がたりねえんだ、醤油味が。


 

 俺は食べ終わると狼子に連れられて一緒に、地下座敷を目指して、温室の地下室へ繋がる扉を開く。

 

 地下室への扉は開けたままにしておこう。少し怖いぞ。

 

 明かりがないのも不服だった。ので、俺が手元に炎を使う。

 

 初めて見る鬼の術に狼子は目を見開き大喜びした。



「これが君の言う炎か! 綺麗だな」


「これは神聖な火だからありがたがるように」


「ははーっ! しかし、なんだね。先の階段は随分長そうだ。こんなに深いなんて聞いていないな」


「まて……奥の方で何かうめき声が聞こえる」


「何だろう、行ってみよう」


 階段を降りていくごとに潮の香りが、少しだけ漂った気がした。


 

 

 


 

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