第二十五節 2023/8/26 アウェイ 対FC東京 2対2
「国立だね」
「そうですね」
「なんかソワソワしちゃうな」
「そうですか?私はそんなに」
「なんか憧れの聖地に来た感じがあるよ」
「なるほど。だから珍しく色々写真撮ってたんですね」
「そうなんだよね」
「ところで村田さん」
「何?」
撮った写真を見返しながら答える。
「自分の生きづらさについて考えました?」
「原点については考えてみたよ」
「何ですか?」
「友達が欲しかったんだ」
「小学校の時、僕には友達がいなかった」
「だから、友達が欲しかった。それで、普通になれば友達が、できると思ったんだ」
「で、中学校になると急に友達が増えた」
「それは、自分の能力に惹かれての事だと思ったんだ」
「だから、普通になりたいという思いと、自分の能力を高めたいという思いが、共存するようになったんだと思う」
「なるほど。できる人も大変なんですね。でも小学校の時、なんで友達がいなかったんですか?」
「多分、自分が能力高いということへの自覚が、あったからなんじゃないかと思ってる。まあ、一言で言うと、鼻持ちならなかったんじゃないかと思う」
「まだ、なぜ生きたいかにはつながらないとは思うけど、今はそんなところかな」
「村田さんは、複雑にできてそうですからね。そうやって一歩ずつだと思います」
「あとは小林さんには言ってなかったけど」
5枚刃の剃刀で切った左手首のぐちゃぐちゃの傷口を見せる。
「僕は手首を切ったことがあるんだ。なぜ、そこまで追い込まれたかは、錯乱状態だったので覚えてないけど」
小林さんが、少し止まったようになってから答える。
「『死にたい』を人に言われると、こんな気持ちになるんですね。何だか反省します」
「別に反省はいいんだ。言わないより言った方がいい」
楠のことを思い出しながら、伝える。
「そう思ったから、僕も言うことにしたんだ」
試合は後半アディショナルタイムに3点が動き、2回にわたり追いつく死闘となった。
「今日は凄まじい試合だったね」
「そうですね。心臓が持ちそうになかったです」
「でも、ここまでなんとか優勝戦線に食い込んでる。正直この旅が始まる時には思いもしなかったよ」
「おかげで楽しいです。村田さんは楽しいですか?」
「楽しいね」
「楽しいだけでもいいと思いますよ」
「かもね」
自分で色々考えだしてみよう。
そんな小さな決意をした夜だった。




