第二十四節 2023/8/19 ホーム 対柏レイソル 1対1
「今日はチャンスですね」
「なんの?」
「柏戦ですよ」
「もう言わなくていいよ」
「村田さんは本当に意固地ですね」
「小林さんが執念深いだけだと思うよ」
でも、小林さんの言わんとすることは理解できる。だが、自分を理性が縛り付ける。
小林さんは宿題に答えを出し、ずいぶんさっぱりとした表情だ。
私がなぜ生きるのか?
そのあまりに深い問いに、自分で答えを出せる気がしない。今までそんなこと考えずに生きてきた。社会のレールを走ることで精一杯だった。
おそらく出せる気がしない事に、問題があるのだろう。ふと、小林さんに問いかけてみる。
「小林さんはなんで生きてるのかなんて考えたりしたの」
「普通、考えません?」
「僕の中の普通では考えはするけど考えるだけ無駄ということで、切り捨てちゃうんだよ・・・」
少し小林さんが考え込み、私に質問をする。
「村田さんは、なんで陸上を始めたんですか?」
「向いてたからだね」
「好きだったからじゃないんですか?」
「嫌いとまでは言わないけど、好きではないね」
「その感覚は私はおかしいと思います」
「おかしいかな」
「おかしいです。向いてるだけで、好きでもないものを選べるなんて」
「私からみると村田さんは自分はこうあるべき、あらねばならぬの意識が強すぎます。だから、今日は」
「脱がないよ」
小林さんがふふっと笑う。
「まあいいです。理性から解放された村田さんに、私は期待しています」
試合は後半終盤の大迫のゴールで追いつき、1対1のドローだった。
「ゴー!サコゴッル!」
「小林さんはご機嫌だね」
「はい!村田さんは違うんですか?」
「試合中は楽しいんだけどね。終わると色々考えてしまうね」
「村田さんの中にある生きづらさを、一度丁寧に考えて見たらいいんじゃないですか」
「生きづらさか」
私はじっと左手首を見る。
私の生きづらさの象徴。手首の傷。
次の試合で、一度小林さんに話してみよう。そう思った。




