第十六節(台風による延期分) 2023/7/22 ホーム 対川崎フロンターレ 2対2
「今日は川崎戦だね」
「珍しいですね。村田さんの方から、対戦相手のことを言い出すなんて」
「うん。川崎は好きなチームなんだ。一時期はヴィッセルが弱すぎて川崎に鞍替えしようかと思ったくらい」
「へぇー、どういうところがですか?」
「マナーが良くて対戦相手へのリスペクトがあるところかな」
「なるほど。村田さんの好みそうなチームですね。でも」
少し言葉を溜め、小林さんが言う。
「村田さんに必要なのは、柏の様な部分だと思いますよ」
「あんな馬鹿そうなチーム嫌だよ」
「いえ。その部分が必要なんですよ」
「どこら辺が?」
「前も言いましたけど、村田さんって、ヴィッセルにハマるのをみっともないって思ってる」
小林さんがじっと私の目を見る。
「何かにのめり込まないようにしてる。多分、楠さんのことがあるからかもしれないけど」
楠のことをつかれ、私の心が微かに疼く。
「何かと距離を置くと、心は疲れないかもしれない。でも、得るものもないと思う」
小林さんが、急に私から視点を外す。
「この前、おすすめされたスラムダンク読んだんです。面白かった。バスケをしたくなりました。そして、思ったんです。なんでも、距離は置いちゃダメなんだって、たとえ怖くても何かを得るには、近づかないといけないんだって。だから村田さん」
急にニヤリとしながら小林さんが言う。
「今日はユニフォームを脱ぎましょう」
「面白がってない?」
「半分冗談、半分本気です。まあ、実際に脱ぐかは置いといて、村田さんは『みっともない』と言う概念から外れる必要は、あるかとは思います」
「『みっともない』から外れるか。まあ、もう普通のレールから外れちゃってるからね。大事なことかも」
「この旅をして思ったんですけど、コールリーダーの人たちって、これを何年も下手すれば何十年もしてるわけじゃないですか?。ある種、常軌を逸してるんだから。ヴィッセルにハマるって、そう言うことなんですよ。常識から外れないと」
「常識から外れるか」
大事なことかもしれないと思う。もう普通の幸せは手に入らないんだから。
試合は前半に2点を先制されたものの、後半に2点を取り返し同点に追いついた。
「今日は引き分けだったけどいい試合だったね」
「そうですね。大迫の2点目には興奮しました。ところで村田さん」
「どうしたの」
「脱ぎませんでしたね」
「脱がないよ」




