第二十一節 2023/7/16 ホーム 対サガン鳥栖 2対1
「やっぱり、人と接するのは難しいですね」
「どうしたのいきなり」
「バイト先のコンビニの人と話をしようと思って、話しかけてみたんです」
「ふんふん」
「でも私って本当に話題がなくて、つい問いかけちゃったんです。『なんで生きてるんですか?』って。そうすると向こうが、怒ってしまって」
場面を想像する。少しおかしくなりながら答える。
「確かにそれは怒っちゃうかもね」
「村田さんは怒らないじゃないですか」
「多分、その店員さんは自分に自信がないんだ。だから曲解して『お前が生きてる価値はない』って言われたように感じたんだと思うよ」
喋りながら気づく。自分に自信があるかないかで、言葉の受け取り方一つがこんなにも変わるものかと。
小林さんの言っている優秀かどうかで人生が変わるということがわかる気がした。
「会話って難しいです」
「諦めずに少しずつやることだね。好きな本や漫画、音楽なんかはないの?」
「ないです」
「ないの!?」
「はい。何だか思想を押し付けられてる気がして」
「そっかー」
思想を押し付けられてる。言われてみればそうかもしれない。
小林さんは、自分の考えに対して、不安と絶対的な自信。相反する二つの思いを持っているのかもしれない。
「でも、僕も大分思想を押し付けていると思うけど」
「それが不快じゃなかったんですよね。だから、他の人とも喋ってみようと思ったんです。失敗しましたけど。村田さんは、何かおすすめの本や漫画ってありますか」
私は少し考える。何か気の利いた回答はないかと。そして、思いつかず、ありきたりな回答をする。
「スラム、ダンクかなぁ」
「スラムダンク。聞いたことあります」
「生きることにはつながらないかもしれないけど」
「別にいいんです。少しコンビニの人達と、会話してみたいだけなんで」
小林さんとの会話に、何だか望みが見えてくる思いだった。
が、その思いはすぐに砕かれた。
「だからと言って、生きたいわけではないですよ」
試合は先制点こそ決められたものの、すぐに追いつき、終了直前に逆転。
ヴィッセル神戸は再び首位に立った。
「バモス!ジェアン!パートリッキ!」
「今日もパトリッキのチャント思う存分歌えて気持ちよかったね」
「はい。村田さんも前、歌った時とは大分、気分違うんじゃないですか?」
「そうだね。まさか、この時期にヴィッセルがこの位置にいるなんて思ってもみなかった」
優勝できるかもしれない。
そんな思いと、この旅の中で小林さんをどう止めるか。そんな思いが交錯する。
「僕も生きる意味見出さなきゃな」
そっと小声で呟く。1ヶ月ぶりの首位浮上も気分は複雑だった。




