↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/36

第二十節 2023/7/7 アウェイ 対アルビレックス新潟 1対0

「着いたねー新潟。小林さんからすると雪国仲間だね」

「そうですね」

 ふと、少し踏み込んで、小林さんのバックボーンについて尋ねてみる。

「小林さんって一人っ子?」

「そうです」

「両親とは仲良いの?」

「答えるのが難しいですね。腫れ物のように扱われてます」

 両親から腫れ物か。それはしんどいと思う。

「村田さんは、兄弟はいるんですか?」

「姉が一人ね」

「関係はどうなんですか?」

「普通だね。統合失調症になった時はショック受けてたみたいだけど、普段はコミュニケーション取れることで安心しているみたい」

「両親とはどんな感じですか?」

「姉と同じ感じかな。取り立てて怒られることも褒められることもなかった感じ。小林さんは怒られてた?褒められてた?」

「どちらもなかったです。あっ、ネグレクトってわけじゃないですよ。ただ、私が何も取り柄がないし、かと言って問題児でもなかったんで・・・」

「で、生きる意味を考え始めたんだ」

「はい」

 多分、普通のご両親なんだと思う。だからこそ、小林さんの抱える深い悩みに付き合うこともできないのだと思う。

 ならば、私は付き合えているのか?

 不安になり尋ねてみる。

「僕は小林さんの悩みに付き合えているのかな」

「付き合えてますよ!というかこんなに深く付き合ってもらえたことないです」

 小林さんの言葉に安心する。

 まだチャンスはある。そう思えた。

「実家には帰らないの?」

「もう、帰ることはないと思います。会話もないですし」

「入院した時両親は来なかったの?」

「来ました。泣かれました。でもそれだけでした」

 『それだけでした』という言葉の端に、両親への期待をうっすら感じる。

 両親が、小林さんの求める答えを、持っているのではないかと。

 でも、多分両親は深入りするのを、恐れてるんだろうと思う。

 気持ちはわかる。

 はっきり言って、小林さんは重い。

 でも、この旅の中で21歳の明るい女性であることが、わかってきた。

 だが、希死念慮(きしねんりょ)があると言うことは、明るさ全てを覆い隠すほどの重さがある。

 『死にたいがなくならないんです』

 改めて、この前の言葉を考えてみる。

 おそらく、小林さんは生きようとしているのだと思う。それは間違いない。

 それでも、ふと訪れる『死にたい』に、絶望してるんだと思う。

 私も高校時代、死にたかった。でも、卒業すればという思いがあった。ゴールがあった。だから乗り切れた。

 同時に、じっとリストカットの痕の残る左手首を見る。

 私にも、きっとまだ『死にたい』があるんだろう。

 でも、本当に死にたいんだろうか?

 手首を切ったところで、死ねるはずないではないか。

 そんなことを考えてると、小林さんから声がかかる。

「村田さん。私を置いて、自分の世界に入らないでください」


 試合は前半早々の大迫のゴールで、なんとか逃げ切った。


「何だか最近、汰木(ゆるき)より大迫の方がかっこよく見えてきました」

「小林さんもスポーツファンらしくなってきたね。今日は汰木も良かったと思うけど」

「それにしても、あのアイシテルニイガタってチャントいいですね」

「あれはいいね」

 そんなことを喋りながら、家路につく。

 『死にたいがなくならない』この言葉の意味を深く深く考えながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。