第十三節 2023/5/13 ホーム 対サンフレッチェ広島 2対0
御崎公園駅で待ち合わせた時、小林さんは少し暗い顔をしていた。
何度か言葉を宙に浮かせてから、意を決したかのように私に話しかけた。
「村田さんはこの前、『もう』人に自殺してほしくないと、言いましたよね」
私は、どきりとしながらも覚悟をする。
小林さんと、真の意味で信頼関係を築くためには、話す必要があると。
「そうだね」
「できれば、その過去の経験を教えてくれませんか?」
私は、簡潔に伝えるべく、結論から話し出す。
「高校時代のチームメイトが自殺したんだ。そして、彼は僕にとって救いの様な人だった」
「救い?」
「そう、救い。高校にスポーツ推薦で進んだけど、全く結果が出なかった話はしたよね」
「はい」
「そんな僕は、さっさと気持ちを受験に切り替えていたんだ。チームの雰囲気を乱さないようにして明言はせず、出来る限りチームに迷惑をかけないようにしようと、気をつけてはいたよ。でも、そんな気持ちは当然のようにチーム内には伝わる。そうして僕は、チーム内で完全に浮いた存在になったんだ」
「なるほど」
「でも、そんな僕に部活を終えて帰る時になると、『一緒に帰ろう』と必ず声をかけてくれる存在がいたんだ。それが楠だった。その声かけは僕にとって救いだった。声をかけられた時だけ、僕は自分に価値がある気がしてたんだ」
「声をかけられた時だけ自分に価値がある」
「そう。そのおかげで、僕は死なずに済んだとと言っても、過言じゃなかった。でも、楠とは高校以降会うことはなかった。で、大学1年の冬に同期の主将から連絡があった」
私はその時のことを思い出し、涙を堪えながら続けた。
「楠が死んだ。自殺した、っていうことだった」
私は言葉を続ける。
「僕と楠は、友達と呼べるかもわからないような関係だった。多分優しい楠がみるにみかねて、僕に声をかけていただけだと思う。それでも」
「僕は、楠のために何かできなかったんだと考えるんだ」
涙を抑えることで必死な私に、小林さんが声をかける。
「村田さんの思いはわかりました」
「これまでの旅で、私自身が自殺というものを軽く考えていたことも」
小林さんの言葉に期待が走る。
だが、その期待はすぐに裏切られた。
「それでも、私の死にたいがなくならないんです」
試合は2対0と快勝だった。
だが、試合前の会話の絶望感から、ほとんど試合のことは頭に入ってこなかった。
帰り道で、小林さんと次の試合にくることを約束することで、精一杯だった。




