第十一節 2023/5/3 アウェイ 対名古屋グランパスエイト 2対2
「ついただぎゃー」
小林さんは名古屋についてから、妙にハイテンションだった。
「テンション高いね」
私が指摘すると、素直な答えが返ってきた。
「飛騨の人間にとって、名古屋は憧れの大都会ですから。一度来てみたかったんですよ」
名古屋を憧れの大都会と評したところに、小林さんの年相応の軽さを感じ取る。
小林さんを軽く感じると私は安心し、重く感じると不安になる。
この旅を続けて時々思う。なぜ、私はこんなに小林さんに執着しているのだろうと、たかが入院中の病院で少し知り合っただけの人間じゃないかと。
でも、執着せずにはいられない。
私は人に自分で死んで欲しくないのだ。
そんなことを考えていると、小林さんからツッコミが入る。
「今、村田さん、名古屋を大都会と言ったことを心の中で馬鹿にしてたでしょう」
小林さんがむくれた。
「そんなことは・・・」
少し考えてから、考えの中にそういった節があったことを、感じ取る。
「あったかも」
「ほらー。まあいいです。スタジアムに向かいましょう。名古屋から、少し離れるんですよね」
「スタジアムの所在地は豊田市だからね」
「豊田市って、あのトヨタから来てるんですか?」
「そうだね」
「そういう一流企業に勤めるのって、どういう気持ちなんですか?村田さん」
「普通だよ。内定をもらった時はめちゃくちゃ嬉しかったけどね」
「一流企業出身なことは、認めちゃうんですね」
「認めちゃうよ。事実は事実だ」
「村田さんのそういうところ、もはや清々しくさを感じます・・・」
「で、それがどうしたの」
「私、そういう人たちって、私たちとは異次元に賢くて接するところがないのかなって思ってたんです」
「ふんふん」
「でも、村田さんと旅をして、私たちと変わらないんだなって。色々、悩みながら苦しみながら、生きてるんだなってそう思ったんです」
「私『たち』っていうのは誰を指してるの」
「自分を出来損ないだと感じてる人たちです。何をしてもダメな人たちです」
私は『出来損ない』の人たちの気持ちが、分からない。次の言葉を考えてると、小林さんから言葉が出てくる。
「ずっとそういう人たちが普通で、私たちが異端だと思ってたんです。でも村田さんと話して、それは違うなって思うようになりました。普通も異端もないんだって」
なんだか希望を見出せそうな言葉だった。
この旅は小林さんを確実に変えている。
思い切って突っ込んでみる。
「小林さんは出来損ないだから死にたいの」
「違います。私は何にも出来ないけど・・・だからと言って死にたいわけではないです」
「じゃあ、なんで死にたいの」
「生きる意味が見当たらないからです」
「それって小林さんの言葉なのかな」
「私の言葉?」
「そう。小林さんの。小林さんと話しているとすごく勉強になるし参考になるんだ。でも死にたい理由の部分がすごく空虚で人の言葉そのままなんだ。一度、なぜ死にたいかを自分の言葉で教えて欲しいんだ」
「自分の、言葉」
「そう自分の言葉で」
小林さんが考え込む。
「いつでもいいよ。この旅はまだ続くんだから」
その内にスタジアムについた。
試合は1点をリードしていたが、後半アディショナルタイムに追いつかれ、ドローとなった。
「あそこで追いつかれるようじゃやっぱり今シーズンはダメかも・・・」
小林さんがくすくす笑いながら、答える。
「村田さんって、本当にヴィッセルが好きですね」
私は、少し恥ずかしさを覚えながらも答える。
「なんだかんだ言って30年近く応援してるからね」
「好きなものがあることは、いいことですよ」
「小林さんには好きなものはないの」
少し溜めてから、小林さんが満面の笑みを浮かべながら、答える。
「ヴィッセルを好きになりかかってます」
帰りの新幹線では、小林さんは考え込んでいるようで、ほとんど会話をしなかった。
私は、小林さんをやり込めたようなやりとりに、ある種の罪悪感と希望を見出していた。




