肆拾捌 雨弾
敵の攻撃は執拗だった。
4機の蒼武は距離を取って光弓や爆裂弾を撃ってくる。先ほどの戦いを見ていたのか、遠距離兵装がないことを看取っての対応だろう。
慎重すぎるとは思うが、戦法としては間違っていない。こうして消耗させた後にとどめを刺す。あるいは操縦者をまいらせて蒼武を奪おうとしているのかもしれない。
対するこちらの武器は一対の対蒼武格闘短刀のみ。近づこうにも、向かおうとした瞬間に銃撃が集中してさすがの鈴の操縦でも突破は不可能だった。本来なら装甲にあかせて突破も可能だったが、今はそれもない。
曹洪はなんとか起き上がり、走破モードで回避運動をするがその動きは心もとない。だがさすがは曹操軍か。心もとない動きでも敵の銃撃を回避し、直撃する弾は半ばで両断された重工剣で直撃を防いでいた。
離脱は難しい、だがなんとか回避し続けられている状況。あちらの銃弾が尽きるか、こちらが諦めるかのチキンレースと化していた戦場に、1機の蒼武が加わった。
『子廉!』
『惇兄!』
審判役の夏侯惇の蒼武が合流してきたが、それで状況が即好転するものでもなかった。彼も武装を外した状態で、決定打にはなりえない。
それでも蒼武が1体増えただけでも戦局は大きく異なる。敵の攻撃が分散し、突破の可能性が見えてくるのだ。
「そっち、頼みます!」
『むっ』
夏侯惇が反応して何かを言う前に、劉備は鈴に指示を出す。
「鈴、あっちだ! 右側、乾(西北西)の方向!」
「わ、分かった!」
鈴が祖帝号を動かす。横に広がる敵蒼武、その左端の右翼に進もうとする。一番外側から攻めれば、反対側の蒼武からの射撃は距離が遠くなり、同士討ちの可能性が出て撃てなくなる。そう考えての行動だ。
だが相手もさるもの。劉備らが狙う右翼の2機は後退、逆に右から左翼の2機が前に出てへの字になることで劉備の蒼武を前と横から半包囲しようとしてきた。
それが完成すれば、祖帝号はハチの巣にされていただろう。
だが相手の動きが鈍る。それは夏侯惇と曹洪の蒼武がそれぞれに動き始めたからだ。彼らは劉備の意図に気づき、独自に動き出した。すなわち夏侯惇が劉備とは逆側の右端へ。曹洪はそのど真ん中へそれぞれ攻める動きを見せたのだ。
(さすがは曹操の部下!)
打ち合わせもなにもない咄嗟の行動に対する最適解を打ち出すその判断力の良さと度胸に、劉備は舌を巻く。
夏侯惇機は武装を持たないが、蒼武自体が1つの兵器だ。体当たりだけでも敵に脅威を与えられるし、万が一組みつかれて銃器を奪われたら形勢が逆転する。
そうされてはかなわないと敵が動く。
敵の左翼の2機は劉備を狙うのを諦めると、夏侯惇と曹洪に向き直り、距離を取るために銃撃しながら後退を始めた。つまり3対4から1対2と2対2の戦局を作り上げた。劉備の方は不利だが、夏侯惇の方は互角。しかも一方的に撃たれる戦いから中距離での機動力にものを言わせる距離での戦いになる。
こうなれば何が起こるかは分からない。劉備はとりあえず相手の2機を引き付けることに専念しようと考える。
「鈴、一度距離を取って――」
「ううん、行ける!」
歯切れよく叫ぶ鈴に、劉備は一抹の不安を感じた。どこかやけになっていないか、と。
だがここで一度距離を取れば、目の前の2機が夏侯惇らに向く可能性があることに気づく。そうなれば2対4で包囲される。せっかく阿吽の呼吸で合わせてくれた2人を見殺しすることになるのだ。
それは彼の矜持として見過ごせるものではなかった。
「ああ、分かった! 行くぞ!」
「うん!」
鈴が答えると同時、彼女の脚が光ったのが見えた。
「鈴、それは――」
「行っくよぉ!!」
「わっ!」
問いただす暇もない。それほどの急加速が劉備を襲う。
(速い! これまでにないくらいに……これが祖帝号の力、いや、それを引き出す鈴。曹操の言っていた、龍綬の力なのか!?)
圧倒的な加速で、敵の照準を振り切った。背後に光弓の着弾と爆裂弾の爆発する衝撃を感じる。
敵の左から回り込むように急接近。その数秒後には目の前に敵の蒼武が映る距離まで一気に近づく。
「劉兄ちゃん!」
「ああっ!!」
爆裂弾を構える相手の蒼武。無表情な機械の頭部だが、そこに怯えの様子をくっきりと見て取った劉備は、手にした対蒼武格闘短刀を一気に振り上げる。だが目測を誤った。これまで重工剣をベースに距離を感じて戦っていたが、対蒼武格闘短刀では長さが足りない。なんとか爆裂弾の砲身を切断したものの、相手は無傷。斬られた爆裂弾を放棄した敵は、後ろに下がりながら腰から重工剣を引き抜く。
その間にももう1機の敵が僚機の危機を救うために、左に回り込みながら光弓を連射してくる。
「鈴! 前へ!」
「うん!」
こういう時に敵機から離れるのが一般的だ。近接の敵と遠距離の敵の2機に挟まれた状態でいるよりは距離を取った方がいいと思われがちだが違う。
この場合は離れれば死ぬのだと劉備は直感していた。
「とにかく相手から離れるな!」
「分かった!」
爆裂弾を失ない、近接に切り替えた敵蒼武にぴったりとついていくように、鈴は相手との距離を詰めた。
そうなれば光弓を撃ってくる敵は、僚機への誤射を恐れて撃ってこれなくなる。当然、目の前の敵の近接戦にやられない、距離をとられずにずっとついていくという技量は必要だが、劉備は鈴に限ってれはないだろうと考えていた。
何より目の前の蒼武。その動きは今まで戦っていた曹洪に比べるとはるかに遅く、思いきりに欠けていた。敵を絶対に倒すという気概に欠けていたというべきか。
「遅い!」
一瞬の隙を突いて劉備は突き出した対蒼武格闘短刀を、相手の右肩に突き刺すと、そのまま上に振り上げる。蒼武の右手が宙を舞い、もう一本の対蒼武格闘短刀を相手の頭部に突き刺した。
火花が散り、敵の蒼武が行動不能になると、対蒼武格闘短刀を引き抜いてその場を即座に離脱した。僚機が倒されたもう1機の蒼武が光弓を乱射してきたのだ。
「鈴、大きく右に回り込みながら相手に近づき、一気に倒す!」
「了解!」
鈴のはきはきした口調に、劉備は心苦しさを感じる。けど今は生き残ることが大事だ。それ以外のことは後で考えればいいと、無駄な思考を排除した。
敵は一瞬で味方をやられたことに恐怖したのか、光弓を乱射するもその照準はでたらめ。一気に距離を詰めて仕留める。そう考えていた。
その時だ。
地面を突き上げるような激震が彼らを襲ったのは。
「きゃああああ!」
「ぐぅっ!!」
振動が劉備たちを襲う。直撃こそないものの、その面を破壊する攻撃は劉備たちにとって脅威だった。
(一体何機が!?)
今までの4機の砲撃を1とすれば、その数倍もの弾丸が彼らを襲った。単純計算すれば10機以上の蒼武がいることになる。
だがそれは不自然だ。4機と合わせればそれこそ劉備たちはひとたまりもなく吹き飛ばされていた。
(なのに何故……)
そう不可思議に思う劉備の疑問に答えたのは、銃弾をよけながらも視線を左右に走らせていた鈴だった。
「劉兄ちゃん、あれ!」
「!」
鈴に言われハッとする。
彼女が見ていた方向。確かにそちらから銃弾が飛んできた方向だ。そこに巨大な建造物があった。大きな箱型をした小さな砦。そこから砲撃がなされているようだ。
だが不自然だった。
あんなところに不自然な砦があれば、さすがの自分たちに気づかれる。多少の起伏はあるとはいえ、それほどに見晴らしの良い平地なのだ。
(それなら、あれは……)
「劉兄ちゃん、あれ、蒼武だ……」
「なに!?」
目を凝らす。すると鈴の言葉通り、そこにあったのは一機の蒼武。頭部があって、手がある。だがそれ以外が完全に違っていた。
砦と見間違ったのは距離があったにもかかわらずに目視できた巨大さ。蒼武自体は通常とほぼ同格(あるいは若干大き目)のものだが、その背後に装着されている格納庫が別格だった。巨大な格納庫から飛び出す無数の砲身から爆裂弾や光弓が発射される仕組みになっているらしい。しかもその格納庫には蒼武と同じような大きな車輪が取り付けられており、自走できるようになっている。
つまり蒼武というより巨大自走式砲戦用格納庫の補助動力として蒼武が使われているという、これまでの蒼武とは圧倒的に異なる運用方法によって開発された機体だった。
劉備たちは知る由もないが、黄巾党の首魁である張角、その弟の張宝の巨大蒼武はこの蒼武の発展型となっている。
ともあれ敵の巨大さに唖然となる劉備と鈴。
その耳に、その蒼武かららしい、外部音声機から発せられる音声が、戦場に木霊する。
『ふはははは! 取るに足らない雑魚どもめ! 天地大将軍区星様の御前だぞ、頭が高いわ!!』




