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海道グループ〜欲望の王国で女達は頂点を奪い合う〜  作者: Fujeno Yasuko


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4/11

第4章 欲望の参加券 ―女達の勝算―

この物語は、すべてフィクションです。

登場人物は全員成人であり、架空の大企業の海道グループを舞台に、成人男女の欲望、権力、金、社会の歪みの中で、欲望を満たす為の生存戦略を練る女達のオムニバス官能ノワール群像劇です。


【新女王ランキング編】

― 欲望の盤上に咲く女たち ―


ー西園寺アスカ 編ー


西園寺アスカは、封筒をケニスの胸元へ押しつけた。


西園寺アスカ

『出来高よ。美奈子をテストした分としては、悪くない報酬でしょ』


ケニスは封筒の厚みを確かめるより先に、アスカの目を見た。

そこには、AV女優の色気ではなく、獲物を選別するAVプロデューサーの冷たい光があった。


ケニス

『アノ女は、中々、ダッタヨ。』


西園寺アスカ

『だから価値があるのよ。完成品じゃない。磨けば化ける女。そういう女を、勝様は好む』


モニターには、次の候補者たちの顔が並んでいた。

金はない。だが、欲望と野心だけはある女たち。

イベントの匂いを嗅ぎつけ、裏審査へ群がってくる原石たちだった。


アスカは椅子に腰を下ろし、脚を組む。


西園寺アスカ

『これから、そういう女が増えるわ。才能はある。でも金がない。身体を武器にする覚悟だけはある。そういう女たちがね』


ケニス

『俺は、試せばいいのか?』


アスカは微笑んだ。

甘く、しかし逃げ場のない笑みだった。


西園寺アスカ

『ええ。ただし、手加減禁止。マジでやりなさい』


ケニスの表情が変わる。

AV男優としての顔ではなく、海道グループの審査官としての顔へ。


アスカはモニター越しに、美奈子の記録映像を一瞥した。


西園寺アスカ

『美奈子は合格。でも、あの子で終わりじゃない。ここからが本番よ』


暗い審査室に、次の女の足音が近づいてくる。

アスカの監視の目と、ケニスの容赦ない存在感が、女たちの本気を暴き出そうとしていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ー高山響子 編ー


海道グループ会議室。


アダルトグッズの営業資料とスポンサー契約書が閉じられた後も、高山響子は余裕の笑みを崩さなかった。


ー海道グループ 女格付けランキングー

昨年度ランキング1位。


その肩書きは、彼女にとって名刺よりも強い武器だった。


会議後、海道勝に寵愛を受けている。

筆頭秘書の佐伯鈴香が静かに響子の前へ立つ。


佐伯鈴香

『高山様。今回のイベントにご参加される場合、例年通り参加費を頂戴します』


高山響子

『もちろん。百万でしょう? 私にとっては端金よ』


響子はクラッチバッグを持ち直し、涼しげに笑った。


高山響子

『それに、今年も1位は私。勝様も、それを望んでいるはずよ』


鈴香は表情を変えなかった。


佐伯鈴香

『昨年度1位は、ですね』


その一言で、空気がわずかに冷えた。


高山響子

『……どういう意味かしら?』


佐伯鈴香

『海道グループのランキングは、過去の栄光を保証する制度ではございません。勝様は常に、新しい価値を求めておられます』


響子の指先が、ほんの少しだけ動いた。


佐伯鈴香

『今年、別の女王が生まれる可能性もございます』


響子は笑った。

だが、その笑みは先ほどより硬かった。


高山響子

『面白い冗談ね。私で満足できないとでも?』


佐伯鈴香

『私は事務連絡をしているだけです』


鈴香は一礼し、淡々と去っていく。


残された響子の胸中に、冷たい怒りが広がった。


勝様。

あなたは、私を見ていたのではないの?


それとも――もう、次の女を探しているの?


夜景の光を背に、響子は静かに唇を噛んだ。

女社長としての誇りと、女としての嫉妬が、同時に燃え始めていた


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ー3人のギャル 編ー


貧困化。増税。失業。格差社会。

止まらない少子化高齢化と、増え続ける移民。


かつて豊かだったはずの日本は、いつの間にか、若い女たちに夢より先に金の現実を突きつける国になっていた。


そんな時代を、三人のギャルがそれぞれ違う入口から駆け抜けようとしていた。


一人は、斎藤美奈子。


金はない。だが、身体の魅力と、海道グループが施す舞台に立ちたいという本能があった。

西園寺アスカの冷たい審査の目と、ケニスによる禁断の実技テストを乗り越え、裏審査から海道グループの門を叩いた女。


一人は、田中梨花。


派手な見た目の奥に、学ぶ力と上昇志向を隠したギャル。

海道グループの正規オーディションルートで、女同士が蹴落とし合うたった一つの椅子を狙い、最も厳しい道へ挑もうとしていた。


そして、松本佐和子。


時代の底辺が産んだギャル。


ホスト遊び。酒。ブランド品。

その場の快楽と見栄のために金を使い、アピールし、失い、それでも自分だけは特別だと信じていた女。


佐和子は努力で這い上がる女ではない。

才能を磨く女でもない。

欲望の穴を、別の欲望で埋める女だった。


借金を重ね、甘い言葉で男に貢がせ、ようやく用意した百万円。


それは、佐和子にとって人生逆転の切符だった。

だが、海道グループにとっては違う。


その百万円は、彼女が自分の足で闇の入口に立った証明にすぎなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ー美上洋子 編ー


美上洋子は、日々、肉体を極限まで追い込んでいた。


腹筋は彫刻のように割れ、肩から腰にかけての線は、鍛え抜かれた獣のようにしなやかだった。

男も女も、その身体から目を離せない。


この時代、日本の法は少しずつ緩み、アダルト生配信は巨大な娯楽産業へ変わっていた。

かつては保守派が声を荒げ、倫理だ、教育だ、国の品位だと騒いでいた。

だが、貧困と退屈と絶望が国を覆うにつれ、人々は刺激を求め、画面の向こうの欲望に金を払うようになった。


いつの間にか、反対の声は小さくなっていた。


その中心に、美上洋子がいた。


司会者

『今夜、彼女は世界記録に挑みます』


巨大モニターに、洋子の名前が映る。

同時接続数は、すでに異常な数字を叩き出していた。


洋子はカメラの前で、ゆっくりと笑った。


美上洋子

『行為の限界? そんなもの、私にはないわ』


その声に、コメント欄が爆発する。

期待、興奮、嫉妬、嘲笑、崇拝。


すべてを浴びながら、洋子は立っていた。


これは、ただのやらしい配信ではない。

肉体の限界を見世物にする、時代そのもののショーだった。


美上洋子は今宵、自分の身体で世界を黙らせるつもりだった。


ルールは単純だった。


二十四時間。


三十分ごとに、相手役の男が交代する。


ただし、誰でもいいわけではない。

男たちもまた、海道グループ系列の極秘オーディションを勝ち抜いた精鋭だった。体力、精神力、舞台適性、そして美上洋子という怪物の前で折れない胆力。


そのすべてを満たした者だけが、この世界記録挑戦の舞台に立つことを許された。


司会者

『挑戦者、美上洋子。開始まで、残り一分』


歓声が沸く。

コメント欄は流れすぎて、もはや文字として読めない。


だが洋子は、静かだった。


鍛え抜かれた腹筋。汗を弾く肌。

その肉体から滲み出る艶は、ただの興奮ではない。彼女の秘部を守る体液は、まるで高熱のエンジンを守るオイルのように、彼女の弱い部分を包み、摩耗から守る鎧になっていた。


美上洋子

『二十四時間? いいじゃない』


彼女は笑った。


美上洋子

『私を壊せるものなら、壊してみなさい』


最初の男が、ステージへ上がる。


観客は息を呑んだ。

これは享楽ではない。

肉体を使った競技であり、時代が生んだ異常な祭典だった。


そして美上洋子は、その中央で、誰よりも美しく、誰よりも危険に輝いていた。


世界記録挑戦が終わった直後、美上洋子は医療チームに囲まれていた。


控室ではなく、海道グループが用意した簡易医療室。

そこには医師、看護師、検査機器、記録スタッフが揃っていた。


二十四時間。

三十分ごとに交代する精鋭たち。

常人なら立っていることすら難しいはずの挑戦を終えたにもかかわらず、洋子はベッドの上で退屈そうに天井を見上げていた。


医師

『……信じられない』


検査結果は、異常なほど正常だった。


筋肉疲労はある。発汗による水分消耗もある。

だが、臓器に深刻な負担はなく、デリケートな部分にも致命的な損傷は見られない。

むしろ、極限状態を乗り越えたアスリートのように、身体はまだ生き生きとしていた。


美上洋子

『だから言ったでしょ。私は壊れないって』


その映像が配信の切り抜きで拡散されると、ネットは一気に沸騰した。


《美上洋子、人間じゃない》

《S○Xマシーン爆誕》

《あれは女じゃない、S○Xサイボーグだ》

《エンジンオイル女王》

《耐久の化け物》


ミーム画像が作られ、動画が編集され、海外にも翻訳されていく。


美上洋子という名前は、一夜にして伝説になった。


だが洋子本人は、称賛にも嘲笑にも興味がなかった。


美上洋子

『好きに呼びなさいよ』


彼女は検査着の上から、自分の腹を軽く叩いた。


美上洋子

『私は、まだ動ける』


その一言で、医療スタッフたちは言葉を失った。

世界記録は終わった。

だが、美上洋子という怪物の物語は、まだ始まったばかりだった。


―海道グループ本社、最上階ー


巨大モニターに映っていたのは、美上洋子だった。


極限まで鍛えられた肉体。汗を帯びても崩れない目つき。疲労ではなく、むしろ挑発に変えていくような表情。


生放送のコメント欄は、狂ったように流れていた。


《本当に人間か?》

《耐久女王》

《S○Xサイボーグ》

《海道グループ、これを放っておくのか?》


海道勝は、葉巻を持ったまま、しばらく無言だった。


いつもの品定めではない。

興味でもない。

怒りでもない。


獲物を見つけた獣のような、抑えきれない昂ぶりが、その顔に滲んでいた。


海道勝

『……鈴香を呼べ。今すぐだ』


黒服が一礼し、すぐに部屋を出る。


数分後、佐伯鈴香が静かに入室した。黒いファイルを胸に抱え、勝の背後に回る。だが、モニターに映る洋子を見た瞬間、鈴香の目がわずかに細くなった。


佐伯鈴香

『……美上洋子ですね』


海道勝

『この女は何者だ?』


声は低い。だが、その奥にあるものを鈴香はすぐに察した。


勝は機嫌が悪いのではない。

むしろ、滅多にないほど楽しんでいる。


佐伯鈴香

『現時点では、海道グループ本戦ランキングには参加しておりません。元々はメディア部門のTV企画オーディションに応募し、合格。その後、本人自ら、S○X耐久世界記録挑戦企画を申請しました』


海道勝

『本人から?』


佐伯鈴香

『はい。売り込みではなく、挑戦状に近い形でした』


勝の口元が、わずかに歪む。


海道勝

『面白い女だ』


モニターの中の洋子は、限界を演じていなかった。

限界を踏み越えることを、自分の商品価値に変えていた。


女としての艶。

アスリートとしての耐久。

そして、誰にも管理されていない野性。


海道勝

『ランキングにも入らず、俺の舞台の外で、ここまで名前を上げたか』


佐伯鈴香

『このまま記録達成した洋子を放置すれば、メディア部門の数字は跳ねます。ですが……』


海道勝

『だが?』


佐伯鈴香

『放置すれば、海道グループの管理外で“異物の女王”の看板が生まれます』


勝は笑わなかった。

ただ、目だけが鋭く光った。


海道勝

『それは困るな』


佐伯鈴香

『はい』


海道勝

『ディナーの準備をしろ。場所は最上階の特別室。料理人も呼べ。花、宝石、衣装……いや、安物はいらん。あの女が鼻で笑えない物を用意しろ』


鈴香は一瞬だけ目を伏せた。


勝がただ欲しがっているのではない。

あの女を買う気でもない。

まず、迎え入れるつもりなのだ。


そして、試すつもりでもある。


佐伯鈴香

『夜の方の趣向は?』


海道勝

『アダルトグッズはいらん。媚薬もいらん。あの女には、まずは、ワシの王座を見せる』


佐伯鈴香

『……承知しました』


海道勝

『美上洋子を呼べ。記録達成後の洋子に、最初に会う男は俺だ』


鈴香は深く頭を下げた。


佐伯鈴香

『すぐに手配いたします』


部屋を出る直前、鈴香はもう一度だけモニターを見た。


美上洋子。


この女は、危険だ。

勝を喜ばせる。

勝を昂ぶらせる。

そしておそらく、勝の計算すら少し狂わせる。


佐伯鈴香

『……厄介な女が、また一人』


その小さな呟きは、誰にも聞こえなかった。


背後では、海道勝がまだモニターを見つめていた。


まるで、新しい戦争の始まりを待つ王のように。


――ディナーへの招待――


海道グループ、メディアスタジオ。


生放送の狂騒が終わったばかりの廊下には、まだ異様な余韻が残っていた。スタッフの足音、機材を片づける金属音、興奮冷めやらぬ若い社員たちの囁き。そのすべてを、佐伯鈴香は冷たい表情で通り抜けた。


佐伯鈴香

『……控え室は、こちらですね』


案内役の黒服が頷く。


鈴香は歩きながら、内心で洋子の姿を想像していた。


あれほどの生放送の直後だ。普通の女なら、汗に濡れ、髪は乱れ、化粧は崩れ、立っていることすら難しいはずだった。少なくとも、勝の前に出すなら一度整えさせる必要がある。そう考えていた。


だが、控え室の扉の前に立った瞬間、鈴香はわずかに眉を動かした。


中からは慌ただしい気配がしない。


静かすぎる。


佐伯鈴香

『美上洋子様。佐伯鈴香です。失礼いたします』


軽くノックして、扉を開ける。


その瞬間、鈴香の計算は一つ崩れた。


美上洋子は、すでに仕上がっていた。


深い色のドレスを纏い、髪は艶やかに整えられ、メイクも乱れ一つない。あの生放送の主役だった女とは思えないほど、涼しい顔で鏡の前に座っている。


まるで、最初からこの後に海道勝から呼ばれることを知っていたかのように。


美上洋子

『お疲れ様です。佐伯鈴香さん、ですよね?』


洋子はゆっくり立ち上がり、完璧な角度で微笑んだ。


美上洋子

『海道グループ筆頭秘書。噂は聞いています』


佐伯鈴香

『こちらこそ。美上洋子様、本日の生放送、大変な反響でした』


鈴香は淡々と返す。


しかし、内心では警戒を強めていた。


この女、ただの耐久自慢ではない。


勝が興味を持つことを読んでいた。呼ばれることを想定して、すでに勝負服に着替えていた。しかも、こちらが驚いたことを悟らせない程度に、自然な態度で迎えている。


美上洋子

『反響があったなら、嬉しいです。私も、自分の商品価値を示す場だと思っていましたから』


佐伯鈴香

『商品価値、ですか』


美上洋子

『ええ。海道グループのメディアで映るなら、ただ目立つだけでは意味がありません。誰の目に留まるか。そこまで考えて出るべきでしょう?』


鈴香の目が、わずかに細くなった。


佐伯鈴香

『海道勝がご覧になることも、想定済みだったと?』


洋子は否定しなかった。


ただ、口元だけで笑った。


美上洋子

『海道勝様ほどの方が、あの数字と反響を見逃すとは思えませんでした』


その言い方には、驕りではなく確信があった。


鈴香は一拍置いてから、静かに告げる。


佐伯鈴香

『海道勝様がお待ちです。ディナーの席をご用意しております』


美上洋子

『光栄です』


洋子はクラッチバッグを手に取り、鈴香の横へ進む。


通路へ出た瞬間、スタッフたちの視線が洋子に集まった。生放送の怪物、世界記録の女、ネットで早くも“サイボーグ”と呼ばれ始めた存在。その本人が、まるで高級ホテルのパーティーへ向かう令嬢のように歩いている。


鈴香は横目でその姿を見ながら、確信した。


この女は、勝に食われるために来た女ではない。


勝に自分を見せつけるために来た女だ。


――数十分後。


海道グループ本社、特別ダイニング。


夜景を見下ろす個室には、すでに豪華なディナーが用意されていた。銀のカトラリー、重厚なグラス、香り高い料理。そして奥の席には、海道勝がいた。


海道勝

『来たか』


勝の目は、洋子を見た瞬間に鋭く光った。


映像越しではない。目の前にいる。本物の美上洋子。


鍛え抜かれた肉体。異様なまでの自信。女としての艶と、アスリートのような精神力。そのすべてが、勝の興奮をさらに煽った。


だが、洋子もまた、勝を観察していた。


海道勝。


女好き。権力者。支配者。海道グループの頂点。


噂は前から聞いていた。だからこそ、洋子はあの企画を自ら申請した。普通の女なら避けるような企画を、真正面から受け、勝算百パーセントの舞台として利用した。


勝に見つけさせたのではない。


勝が見逃せない状況を作ったのだ。


美上洋子

『初めまして。美上洋子です。本日は、お招きありがとうございます』


海道勝

『初めまして、か。映像では、ずいぶん前から知っていたような気分だがな』


美上洋子

『それだけ印象に残せたなら、成功ですね』


勝は喉の奥で笑った。


海道勝

『面白い女だ。普通なら、少しは疲れた顔を見せるものだが』


美上洋子

『疲れた顔を見せるために、海道グループのカメラの前に立ったわけではありませんから』


佐伯鈴香は二人の後方に控えながら、静かに視線を伏せた。


会話は丁寧だ。


だが、すでに駆け引きは始まっている。


勝は洋子を値踏みしている。洋子は勝を釣った成果を確かめている。どちらも初対面でありながら、すでに相手を“使えるか”“飲み込めるか”を測っていた。


海道勝

『お前は、自分からあの企画を出したそうだな』


美上洋子

『はい』


海道勝

『なぜだ?』


洋子はグラスを手に取り、少しだけ香りを楽しんでから答えた。


美上洋子

『私の価値を、一番早く、一番強く証明できる方法だったからです』


海道勝

『金か? 名声か?』


美上洋子

『どちらも嫌いではありません。でも、それだけなら他にも道はあります』


海道勝

『なら、何が欲しい』


洋子は勝をまっすぐ見た。


美上洋子

『私を、退屈させない場所です』


その一言に、勝の笑みが深くなった。


海道勝

『退屈させない場所、か』


美上洋子

『海道グループなら、それを持っていると思いました』


勝はワインを揺らしながら、鈴香へ目を向けた。


海道勝

『鈴香』


佐伯鈴香

『はい』


海道勝

『この女へのプレゼントは、予定通り用意しておけ』


佐伯鈴香

『承知いたしました』


洋子は表情を崩さない。


しかし内心では、ほくそ笑んでいた。


勝が乗ってきた。


いや、乗らせた。


美上洋子

『プレゼントまでいただけるのですか?』


海道勝

『世界記録の女を、手ぶらで帰すほど安くはない』


美上洋子

『では、私も期待に応えないといけませんね』


海道勝

『期待以上でなければ困る』


二人の間に、静かな火花が散った。


豪華な料理の香り。夜景の光。鈴香の冷たい視線。勝の欲望。洋子の計算。


その夜のディナーは、単なる祝賀ではなかった。


海道勝が美上洋子という女を知った夜。


そして美上洋子が、自分の名を海道勝の記憶に刻み込むため、最初の一手を成功させた夜だった。


――特別室の夜景――


ディナーを終えたあと、海道勝は美上洋子を連れて、さらに奥の専用エレベーターへ向かった。


佐伯鈴香は一定の距離を保ち、二人の背後に控えている。


エレベーターの扉が閉まると、外の喧騒は完全に消えた。

残るのは、低く滑る機械音と、勝がグラスの中で氷を鳴らす音だけだった。


海道勝

『食事は口に合ったか』


美上洋子

『ええ。想像以上でした』


海道勝

『想像以上、か。お前の想像は高そうだがな』


美上洋子

『低く見積もるのは失礼でしょう? 海道勝様を相手に』


勝は短く笑った。


その返しに媚びはない。

しかし、礼儀は崩していない。


洋子は、下品に食いつく女ではなかった。

勝の欲を誘いながらも、自分の格を下げない。

その絶妙な距離感が、勝の興味をさらに強くしていた。


やがて、最上階のさらに奥。


黒服が扉を開ける。


そこは、寝室というより、ひとつの王国だった。


大きな窓の向こうには、夜の東京が沈んでいる。

だが、その光はどこか弱々しい。

かつて先進国と呼ばれた日本の街並みは、今では疲れた宝石のように、かすかに瞬いているだけだった。


その一方で、部屋の中は異常なほど絢爛だった。


希少な酒。

海外の骨董品。

一点物の時計。

壁に飾られた古い企業買収の記念品。

大型モニターには、海道グループ関連会社の収益曲線が映っている。


衰退する日本の中で、ここだけが別世界だった。


勝の欲望だけが、国家の老いを無視して膨れ上がっている。


美上洋子は、部屋へ一歩踏み入れた瞬間、それを理解した。


美上洋子

『……すごい部屋ですね』


海道勝

『驚いたか』


美上洋子

『はい。でも、納得もしました』


海道勝

『何にだ』


美上洋子

『この部屋を持つ男なら、普通の女では退屈するでしょうね』


勝の目が細くなる。


その言葉は褒め言葉であり、挑発でもあった。


海道勝

『なら、お前は退屈させない自信があると?』


美上洋子

『自信のない女が、あの生放送に出ると思いますか?』


沈黙。


そして、勝は愉快そうに笑った。


海道勝

『鈴香。酒を』


佐伯鈴香

『承知いたしました』


鈴香は静かに進み、棚から一本のボトルを取り出した。

ラベルのない、深い琥珀色の酒。

市場には出回らない、勝のためだけに残された特別な一本だった。


グラスに注がれる音が、部屋に落ちる。


勝は一本を洋子へ差し出した。


海道勝

『飲めるか』


美上洋子

『嗜む程度には』


海道勝

『嘘だな』


美上洋子

『なぜです?』


海道勝

『嗜む程度の女は、その持ち方をしない』


洋子はグラスを持つ指先を見て、微かに笑った。


美上洋子

『では、少しだけ訂正します。強いお酒も、強い男も、嫌いではありません』


鈴香の視線が、わずかに動いた。


上手い。


あまりにも上手い。


洋子は露骨に勝へ媚びていない。

だが、勝の自尊心を確実に撫でている。

しかも、自分を安売りせずに。


海道勝

『お前は、自分がどう見られているか分かっているな』


美上洋子

『分かっているつもりです』


海道勝

『ネットではもう、お前を機械だの怪物だの呼んでいる』


美上洋子

『便利な名前です。覚えてもらいやすいので』


海道勝

『腹は立たないのか』


洋子はグラスを口元へ運び、ほんの少しだけ酒を含んだ。

喉を通す仕草まで、計算されたように美しい。


美上洋子

『立ちません。人は、理解できない女に名前をつけたがるだけです』


海道勝

『理解されたいとは思わないのか』


美上洋子

『誰にでも理解されたいとは思いません』


そこで洋子は、勝をまっすぐ見た。


美上洋子

『ただし、価値の分かる人間には、正しく見てほしい』


勝の表情から笑みが消えた。


怒ったのではない。

むしろ、さらに深く興味を持った顔だった。


海道勝

『正しく見てほしい、か。ずいぶん欲張りな女だ』


美上洋子

『欲がない女を、海道勝様はここへ呼びますか?』


勝はグラスを傾けた。


その問いに、答えは必要なかった。


部屋の空気が、少しずつ変わっていく。


ディナーの席にあった社交の温度は、もうない。

今あるのは、男と女の駆け引き。

支配者と挑戦者の距離。

そして、互いが互いを値踏みする静かな緊張だった。


海道勝

『お前は、俺に何を求めている』


美上洋子

『場所です』


海道勝

『また退屈しない場所か』


美上洋子

『それだけではありません』


洋子は窓の外を見た。


疲れた日本の夜景。

その上に立つ、海道グループの城。

その城の主である男。


美上洋子

『私は、自分の限界を見せる場所が欲しい。自分をただ消費される女ではなく、記録として残せる場所が欲しい。そして、その価値を金にも権力にも変えられる場所が欲しい』


海道勝

『綺麗事ではないな』


美上洋子

『綺麗事で世界記録は取れません』


勝はゆっくり立ち上がった。


洋子との距離が、少しだけ縮まる。


海道勝

『なら、俺からも聞く。お前は俺を利用するつもりで、あの企画に出たのか』


洋子は逃げなかった。


美上洋子

『はい』


鈴香の指先が、わずかに止まる。


あまりに堂々とした肯定だった。


美上洋子

『海道勝様が、私を見つける。私に興味を持つ。こうして呼ぶ。そこまでは、私の計算です』


海道勝

『その先は?』


美上洋子

『その先は、今から決まります』


勝は一瞬、洋子を見下ろした。


普通の女なら、この場で媚びる。

怯える。

あるいは、欲に飲まれる。


だが洋子は違った。


自分の身体も、記録も、評判も、すべてを武器として理解している。

そのうえで、勝の前に立っている。


海道勝

『面白い』


勝は低く呟いた。


海道勝

『美上洋子。お前は、ただの出演者では終わらんな』


美上洋子

『終わるつもりなら、ここへは来ません』


勝はグラスを掲げた。


海道勝

『では、始まりに乾杯だ』


洋子もグラスを掲げる。


美上洋子

『ええ。私を退屈させない夜に』


二つのグラスが、静かに触れ合った。


その音は小さかった。


だが、鈴香には分かっていた。


この夜は、海道勝が洋子を手に入れる夜ではない。

美上洋子という女が、海道勝の欲望の城へ、自分の意思で入り込んだ夜だった。


そして勝もまた、その危険を分かったうえで、扉を開けた。


まだ何も始まっていない。


けれど、二人の間にはすでに、酒よりも濃い駆け引きが満ちていた。


そして…。

秘書の鈴香と黒服達が、一礼して部屋を後にする。


ゆっくりとグラスを回し、琥珀色の液体が壁面に描く線を眺めながら


美上洋子

『ふふっ。そんなに熱心に私を見つめて……。』


視線を上げ、勝を捉える。知性を湛えた瞳の奥に、挑発的な色香を忍ばせて


美上洋子

『私の何が、そんなに気になられるのかしら。勝様。』


わざとらしく、しかし完璧な所作で足を組み替え、ドレスの裾から白い太ももをわずかに覗かせる


――勝と洋子、初めての夜――


海道勝

『ワシも男だ。洋子、お前を満足させるだけのモノは持っているつもりだぞ』


その言葉は、社交辞令でも、冗談でもなかった。


老いた獣が、まだ牙を失っていないことを示すような声だった。


美上洋子は、ふっと口角を上げた。


挑発されたのではない。

むしろ、ようやく望んでいた言葉が来た、という顔だった。


美上洋子

『まあ……。随分と直球なアプローチですこと』


洋子はグラスをテーブルに置いた。


カチリ、と小さな音がする。


その音を合図にしたように、部屋の空気が変わった。

ディナーの余韻は消え、残ったのは、男と女が互いの底を測る静かな緊張だけだった。


洋子はゆっくりと勝の前へ歩み寄る。

ヒールの音が、絢爛な寝室に鋭く響いた。


美上洋子

『自信満々なそのお言葉、とても素敵だわ。でも、ご存知でしょう? 私は並大抵のことでは、“満足”などという安い言葉では片付けられない、少々厄介な身体をしていますの』


勝は逃げなかった。


むしろ、その距離を楽しむように、洋子を見上げた。


海道勝

『だから呼んだ』


美上洋子

『……でしょうね』


洋子の指先が、勝の胸元をなぞる。


勝の筋肉は年齢を感じさせながらも、まだ硬かった。

権力と欲望に溺れた男ではない。

欲望を握り潰し、金と人間を動かし、それでもまだ現役であり続けようとする男の身体だった。


洋子はその感触を確かめるように、少しだけ目を細めた。


美上洋子

『勝様が、私の底をどこまで暴いてくださるのか。今からとても楽しみですわ』


海道勝

『底などと言うな。ワシは、底のない女を見たい』


洋子の笑みが、わずかに深くなる。


美上洋子

『なら、今夜の私は、勝様にとって試験ですね』


海道勝

『違うな』


勝はグラスを置いた。


そして、ゆっくり立ち上がる。


二人の距離が、完全に消えた。


海道勝

『これは試験ではない。確認だ』


美上洋子

『確認?』


海道勝

『美上洋子という女が、ワシの舞台に立つ価値があるか。そして――』


勝の目が、夜景よりも暗く光る。


海道勝

『ワシという男が、お前の記憶に残る価値があるかだ』


洋子は一瞬だけ黙った。


その一言は、予想よりも深かった。


ただ抱きたいだけの男なら、洋子は退屈していた。

ただ支配したいだけの男なら、洋子は笑って流していた。


だが海道勝は、自分もまた値踏みされていることを理解していた。

そのうえで、逃げずに立っている。


美上洋子

『……面白い方』


海道勝

『お前ほどではない』


洋子は勝の首元に手をかけた。


それは媚びる仕草ではなかった。

獲物を見る女の仕草でもない。


勝負の始まりを告げる、静かな合図だった。


この女は危険だ。

勝に求められるだけの女ではない。

勝を利用し、勝の記憶に食い込み、自分の伝説を海道グループの中へ刻み込もうとしている。


だが、勝もそれを分かっている。


分かったうえで、招き入れた。


部屋には、勝と洋子だけの空間となる。


夜景の光が、二人の影を長く伸ばす。


美上洋子

『では、勝様』


洋子は囁くように言った。


美上洋子

『私を退屈させないでくださいませ』


海道勝

『望むところだ』


その夜。


衰退した日本の夜景を見下ろす絢爛な寝室で、海道勝は美上洋子という女の底を知ろうとした。


そして洋子もまた、海道勝という男が、自分の伝説に名を刻むだけの器を持っているのかを、静かに確かめようとしていた。


二人の勝負は、まだ始まったばかりだった。


互いの吐息が混じり合い、視界が狭くなるほどに距離が詰まる。触れ合う唇から伝わる体温が、静まり返った室内に火を灯すように激しく燃え上がっていく。


軽く目蓋を閉じ、受け入れるように唇をわずかに開いて


美上洋子

『んっ……。』


勝の首筋に腕を回し、身体をさらに密着させて、深く、貪るように応える。知的な余裕をかなぐり捨て、本能的な快楽に身を任せる吐息が漏れる


美上洋子

『ふふ……。なるほど。言葉以上に、雄としての意志が伝わってきますわ……。』


勝の手が洋子の肌を滑り、その輪郭をなぞるように深く、執拗に触れていく。指先から伝わるのは、人ならざるほどに張り詰めた弾力と、内側から沸き上がる異常なまでの熱量。理性の壁が崩れ、肉体の本能が覚醒し始める。


背中を反らせ、喉の奥から漏れるような、低く湿った声を上げて


美上洋子

『あ……っ、そこ……。』


理知的な微笑みは消え失せ、瞳は快楽に塗りつぶされて焦点が鈍る。もはや丁寧な言葉を紡ぐ余裕はなく、呼吸は激しく乱れ、本能が剥き出しになっていく


美上洋子

『いい……。もっと、強く……。もっと、めちゃくちゃに触ってよ……。』


淑やかな「美上洋子」という皮殻が剥がれ落ち、世界を震撼させた「耐久女王」の断片が顔を出す。皮膚は刺激を吸い込むように反応し、その身体は絶頂への渇望に支配され、激しく震え始めていた。


不意に動きを止め、熱に浮かされていた瞳に一瞬だけ理知的な光を戻す。まるでスイッチを切り替えたかのように、余裕のある微笑みを浮かべて膝をつく


美上洋子

『ふふ……。そんなに暴れて。可愛いところがあるのね。』


視線を上げ、勝ち誇ったように勝を見つめる。そして、ゆっくりと、しかし確実な手つきで昂ぶったそこを掌で包み込み、その熱と拍動を指先で確かめる


美上洋子

『まずは、私が手懐けてあげる。』


迷いのない動作で、熱い先端をゆっくりと唇で包み込んだ。口腔内の温度と湿度を最大限に利用し、吸い付くような圧力で根元まで深く、貪欲に飲み込んでいく


美上洋子

『ん、……っ。』


勝がこれまで数多の女たちに施してきた支配的な快楽の手法。それを全て見透かしているかのように、洋子の身体は予測不能なリズムで応動する。熟練の技術でコントロールしようとする勝の指先や舌を、彼女はさらなる快楽の渦へと巻き込んで飲み込んでいった。


ふっと口端を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべて勝の胸を軽く押し返す。その瞳には、支配される側ではなく、ゲームを支配する者の光が宿っている


美上洋子

『ふふっ。いい手つきね。でも、私の身体はそんなに単純じゃないわ。』


流れるような動作で勝の上に跨り、自身の熱をぴったりと押し付ける。わざと快感の頂点直前で動きを止め、もどかしさを煽るようにゆっくりと腰を回した


美上洋子

『コントロールしようとするのは自由だけれど……。今は、私がルールを決める。』


耳元で低く、密やかな声で囁きながら、勝が最も弱点とする箇所をピンポイントに、かつ残酷なほど正確に刺激し、翻弄する


美上洋子

『どうしたの? さっきまでの余裕はどこへ行ったのかしら。』


勝が構築したはずの主導権が、音もなく崩れ去っていく。彼女の肉体は単なる快楽の器ではなく、相手の意図を読み取り、それを上回る快感で書き換える高度な計算機のごとく機能していた。


洋子は、勝の肩に指を添えたまま、余裕を崩さなかった。肌と肌の距離は近い。だが、主導権は完全に彼女の側にあった


洋子

『ねえ、勝さん。いい気分でしょう?』


その一言に、勝の眉がわずかに動いた。


勝様ではない。

勝さん。


海道勝は気づいていた。

この女が、敬意の仮面を一枚脱ぎ捨てたことに。


だが、正す言葉が出てこない。


洋子の吐息、視線、指先、そして身体ごと押し寄せてくる濃密な存在感が、勝の理性をじわじわと塗り潰していく。


洋子

『ふふ……気づいた? でも、今さら怒れないでしょう?』


『……洋子……貴様……』


声には怒りが混じっていた。

だが、その奥には、確かに歓喜があった。


この女は危険だ。

檻の中のライオンではない。

扉を開けた瞬間、こちらを喰いにくる女だ。


それでも勝は、逃げなかった。


いや、逃げられなかった。


洋子は勝の耳元で、甘く、静かに囁いた。


洋子

『ねえ、勝さん。今夜だけは、私に負けてみる?』


勝は答えなかった。

答えられなかった。


ただ、その沈黙こそが、洋子にとって最高の返事だった。


快楽の主導権を握られていたはずの静寂を、肉体がぶつかり合う激しい音が切り裂く。勝の腕が洋子の細い腰を強引に捉え、空中に持ち上げた。重心を奪われた彼女の身体が、抗う間もなく勝の胸へと密着し、深く、根元まで貫かれる体勢へと強制的に移行させられる。


不意を突かれた衝撃に、大きく目を見開いて声を上げる


美上洋子

『あ……っ! ぁぐ、ぅ……っ!!』


いきなり深部まで突き上げられた衝撃で、思考が白く弾ける。必死に勝の肩に腕を回してしがみつき、激しく揺さぶられる身体を堪えようとするが、王としての意地を込めた猛烈な勢いに、ただ翻弄されるだけになる


美上洋子

『んんぅ! っ……はぁ、っ、すごい……っ!! 嘘、こんな……っ!』


計算し尽くしたテクニックを凌駕する、純粋な暴力的なまでの快感。洋子の完璧な肉体さえも悲鳴を上げ、内壁が激しく波打って勝のモノを締め付ける。もはや駆け引きなどという余裕は消え、彼女の瞳にはただ、目の前の男が放つ圧倒的な雄としての熱量だけが映っていた。


肉体がぶつかり合う激しい音が部屋に鳴り響き、汗が混じり合って肌が滑る。並の女であれば、この圧倒的な攻勢に心身ともに屈し、快楽の果てに白旗を上げていただろう。しかし、洋子の肉体は違った。衝撃を受ければ受けるほど、その内壁はより強固に、より貪欲に勝を締め付け、逆に彼の体力をじわじわと削り取っていく。


洋子は、荒い呼吸の中でも笑っていた。乱れているはずなのに、その瞳だけは妙に冷静で、勝の反応を一つ残らず見逃していなかった


美上洋子

『あはっ……いいね、すごいよ。でも……これだけ?』


勝の眉が動いた。


挑発。

侮辱。

だが、それ以上に、抗いがたい甘さがあった。


洋子は勝の首元に腕を回し、逃がさないように距離を詰める。勝の力を受け止めながら、逆にその力を利用するように、自分の呼吸と視線で主導権を奪っていく。


美上洋子

『ねえ、勝。もう限界なんじゃない?』


勝様ではない。

勝さんでもない。

ただの、勝。


その呼び方に、勝は確かに気づいた。


気づいたが、叱れなかった。


美上洋子

『身体って、正直ね。どれだけ偉そうにしても……今のあなた、私に夢中だもの』


『……洋子……。』


声は低く、怒りを帯びていた。

しかし、その怒りの奥に混じった熱を、洋子は見逃さなかった。


洋子

『怒る? それとも……もっと続ける?』


勝の理性が、わずかに揺れる。


海道勝という男は、命令する側だった。

女を選び、値踏みし、舞台を用意し、欲望の頂点からすべてを見下ろす男だった。


だが今、洋子はその玉座に足をかけている。


勝の威厳を奪うのではない。

勝自身に、自分から差し出させている。


洋子

『いい顔してるわ、勝』


その一言は、甘い囁きではなかった。


支配者へ向けた、挑戦状だった。


呼び捨てにされた衝撃よりも、身体を突き抜ける快感の濁流が勝を支配する。抗おうとすればするほど、洋子の底なしの耐久力とテクニックに絡め取られ、快楽という名の泥沼に深く沈み込んでいく。もはや主導権を取り戻す術はなく、ただ彼女が与える無限の快感に身を任せるしかない。


勝ち誇った表情で、恍惚に歪む勝の顔をなぞり、耳元で残酷に、そして甘く囁く


美上洋子

『ふふっ。もう諦めて、私に全部委ねてよ。ここからは、私の時間。あなたが壊れるまで、一滴も残らず搾り尽くしてあげるから。』



数時間後。


海道勝は、初めて理解した。


この女は、普通の女ではない。


美上洋子は、快楽を求める女ではなかった。

快楽そのものを武器にし、相手の体力、意地、誇り、支配欲までも試す女だった。


『……勘弁してくれ』


その一言が、重い部屋の空気を裂いた。


海道勝が、女に対して口にした敗北宣言。


洋子はゆっくりと上体を起こした。乱れた髪を片手でかき上げ、勝を見下ろす。その瞳には、恍惚だけではない。知性、冷徹さ、そして勝という男を攻略した者だけが持つ、静かな勝利の光が宿っていた。


洋子

『ふふ……言ったわね』


勝は荒い息のまま、洋子を睨む。


だが、その目にあるのは怒りだけではなかった。

屈辱。驚愕。歓喜。

そして、自分でも認めたくないほどの満足。


『……洋子……お前は……本当に化け物だな』


洋子は笑った。


その笑みは、勝に褒められて喜ぶ女のものではない。

強者から強者として認められた女の笑みだった。


洋子

『化け物で結構。あなたが欲しがったのは、そういう女でしょう?』


勝は答えなかった。


答えられなかった。


洋子は勝のそばへ身を寄せ、耳元で囁く。


洋子

『これからは、貴方がお望みの時に、望むだけの快楽をあげる』


甘い声だった。

だが、その奥には拒絶を許さない響きがあった。


洋子

『いいわね、勝?』


勝様ではない。

勝さんでもない。


勝。


その呼び方を、勝はもう正さなかった。


この瞬間から、美上洋子にとって海道勝は、崇める対象ではなくなった。

挑み、揺さぶり、時に屈服させることのできる男になった。


洋子

『あなたの身体も、心も、私が一番よく知ってあげる。だから忘れないで。あなたは私を檻に入れたんじゃない。檻の扉を、自分で開けたのよ』


勝は低く笑った。


悔しさを噛み殺すような笑いだった。

だが同時に、心底楽しんでいる男の笑いでもあった。


『……面白い。なら、せいぜいワシを満足させ続けてみろ、洋子』


洋子はその言葉に、勝ち誇ったように目を細めた。


洋子

『ええ。もちろんよ、勝』


その夜以降、洋子は海道勝を「勝様」とは呼ばなくなった。


勝。


それが、二人の間に刻まれた新しい呼び名だった。

忠誠ではない。服従でもない。

支配者と獣が、互いの牙を認め合った証だった。


ー海道グループ 会長室ー


あの夜以来、海道勝は美上洋子を抱いていない。


抱けなかった、という方が正しい。


勝の中に、洋子への欲が消えたわけではない。

むしろ逆だった。


ふとした瞬間に、あの女の声、視線、余裕の笑みが脳裏をよぎる。

自分を「勝」と呼び捨てたあの瞬間。

支配者であるはずの自分が、女の前で敗北を認めた夜。


勝は、それを屈辱として記憶していた。

だが同時に、男として忘れがたい快楽としても記憶していた。


だからこそ、危険だった。


『……洋子め』


誰もいない部屋で、勝は低く呟いた。


怒りではない。

憎しみでもない。

あの女を再び自分の腕の中に引きずり込みたいという、抑えきれない欲だった。


だが、海道勝はただの男ではない。


海道グループの王である。


海道グループを束ね、女たちを値踏みし、政財界の大物すら自分の舞台へ招く男。

その勝が、同じ女に二度敗北することは許されない。


一度なら、事故で済む。

美上洋子という規格外の女を見誤った夜として、まだ処理できる。


だが、二度目は違う。


二度負ければ、それは事故ではない。

敗北の証明になる。


勝はそれを誰よりも理解していた。


『抱きたい…。あの女を、もう一度な』


その声には、欲望が滲んでいた。

けれど、次の瞬間には、王としての冷たい理性が戻る。


『だが、勝算のない戦はせん』


洋子は、檻の中に入れた女ではなかった。

檻の扉を開けた瞬間、逆にこちらを噛み砕きにくる獣だった。


だから、次に抱く時は違う。


勢いではない。

欲望任せでもない。

準備し、読み、逃げ道を塞ぎ、勝てる形を作った上で臨む。


それが海道勝の決意だった。


美上洋子を再び抱きたい。

だが、再び負けるわけにはいかない。


あの夜は、最初で最後の敗北でなければならない。


勝はグラスを傾け、夜景の向こうを見つめた。


その視線の先にいるのは、女王でも、部下でも、商品でもない。


自分に敗北を刻んだ女。


美上洋子。


『洋子。美しくも恐ろしい女よ…。』


だが、その言葉を口にした勝自身が、心のどこかで理解していた。


次に洋子を抱く時、勝が求めているのは勝利だけではない。


あの敗北の続きを、もう一度味わいたいという、王として最も認めがたい欲望でもあった。

西園寺アスカ

AV女優とAVプロデューサーを兼任する女傑。

華やかな表舞台と、海道グループの裏側をつなぐ女性。

美しさだけでなく、演出力、審査眼、人を見る鋭さを持つ。誰が舞台に立つべき存在なのかを見抜く力があり、物語の流れを大きく変える立場にいる。


ケニス

黒人AV男優。

海道グループ側の裏審査に関わる寡黙な男。

威圧感のある体格と冷静な判断力を持ち、相手の価値や覚悟を見極める役割を担う。多くを語らないが、その存在感だけで場の空気を変える人物。


高山響子

美貌、財力、実績を兼ね備えた大人の女。

自分の価値を理解し、海道グループ相手にも簡単には飲み込まれない。華やかさと計算高さを併せ持ち、物語の中で“完成された女”として強い存在感を放つ。


斎藤美奈子

生意気な姉御ギャル口調と、強い身体表現を武器にする女性。

明るく挑発的で、自分の魅力を隠さず前に出すタイプ。まだ荒削りながら、成り上がる意志と勢いを感じさせる新しい存在。


田中梨花

若さと勢いを持つギャル系の女性。

明るく派手で、負けん気が強い。感情のまま突き進む危うさもあるが、その真っ直ぐさが彼女の魅力でもある。物語に光と衝突のエネルギーを持ち込む人物。


松本佐和子

欲望の街で生きる、危うさを抱えた女性。

金、承認欲求、成り上がりへの憧れを持ちながら、自分の本当の価値にはまだ気づききれていない。光に向かうのか、闇に沈むのか、読者の視線を引きつける存在。


美上洋子

圧倒的な肉体美と異様な存在感を持つ女性。

普通の枠には収まらない、まさに規格外の女。自分の強さを信じ、誰かに選ばれるのではなく、自分自身の力で舞台を奪いにいくような迫力を持つ。


海道勝

海道グループを率いる支配者。

金、権力、欲望、人間の価値を冷徹に見極める男。女たちをただ眺めるのではなく、その奥にある可能性や危険性まで見抜こうとする。物語全体に巨大な影を落とす存在。

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