7.秘密の会議2
王都でも有数の高級ラウンジ。
その一室に集められた名のある貴族達は、誰もが難しい顔をしていた。
机の上には高価な酒や料理が並んでいるが、それらに手を付ける者はほとんどいない。
それほどまでに現状は深刻だった。
莫大な金を投じて魔塔の主を呼び寄せた結果、判明した事実は貴族達の期待を大きく裏切るものだったからだ。
王太子アイル。
そして側近達。
彼らは魅了にかかっていなかった。
禁忌魔法の被害者ではなかった。
つまり――。
ただ一人の少女に夢中になり、婚約者を捨てた愚か者だったということだ。
部屋の誰もが頭を抱えた。
魅了ならまだよかった。
禁忌魔法という外的要因なら言い訳もできた。
だが現実は違う。
王太子と上位貴族の令息達が、自らの意思で婚約者を捨てた。
ただそれだけだった。
ただ、よかった点は一つある。それは魔塔主の気まぐれにより莫大な支払いがなくなったことだった。
「笑えませんな。」
一人の侯爵が苦々しく呟く。
「結果として王太子殿下も側近達も、ただの愚か者だったという訳です。」
「しかも相手はただの平民ですからな。」
「いや、ただの平民ではないでしょう。」
別の貴族が鼻で笑った。
「男を誑かす才能だけは超一流だ。」
何人かが頷く。
シャーロットの身辺調査は徹底的に行われた。
敵国との繋がりはない。裏組織との接点もない。禁忌魔法の痕跡もない。どこまでも普通の平民だった。
ただし、恐ろしいほど男受けが良かった。
「結局のところ。」
「王太子殿下と側近達は小娘の魅力に溺れただけ。」
「小娘は小娘で男を利用するのが上手かった。」
「なんとも情けない話ですな。」
ため息が広がる。
そして一人の貴族が視線を向けた。
「どうですかな、アレスター公爵。」
部屋の奥。
無表情で座る男へ。
「貴殿の娘が魅了にかかっていた件について。」
ディアナ・アレスターの父。
アレスター公爵は眉間に深い皺を刻んだ。
「魅了だったとしても変わらん。」
冷たい声だった。
「アレはもう私の娘ではない。」
部屋が静まり返る。
「婚約者を捨てた王太子に執着し。家族を罵倒し。公爵家の名を地に落とした。そんな無様な娘など我が家には存在しない。」
誰も反論しなかった。
魅了の被害者だと分かっていても、ディアナが起こした騒動は大きすぎた。
「冷たいですなぁ。」
一人が苦笑する。
「冷たくもなるでしょう。」
「魅了されていたとはいえ、アレスター嬢の言動は酷かった。」
「公爵閣下も被害者ですからな。」
アレスター公爵は何も答えない。
ただ酒を一口飲んだ。
その横顔は疲れ切って見えた。
「そうだ!」
一人の伯爵が突然声を上げた。
「いいことを思いつきました!」
貴族達が視線を向ける。
「いっそ魅了の件を公表してはどうです?」
「公表?」
「そうです。」
伯爵は笑みを浮かべる。
「アレスター嬢を悲劇のヒロインに仕立て上げるのです。」
部屋が静かになる。
「魅了によって人生を狂わされた公爵令嬢。愛する婚約者を失い。名誉を失い。家族との関係も壊れた。そういう話にすれば世論は同情に傾くでしょう。」
「しかし・・・・。」
一人が難しい顔をした。
「禁忌魔法の被害者が王国内にいたなど公表して大丈夫なのですか?」
「今更でしょう。」
伯爵は肩を竦める。
「既に王家の評判は地に落ちています。」
誰も否定できない。
王太子が平民に夢中になり婚約破棄。
その側近達まで集団婚約破棄。
国内外に広まったこの醜聞は止められない。
「確かに。」
「むしろ別の話題が必要ですな。」
「国民の関心を移すほど大きな話題が。」
「その通りです。」
伯爵は満足そうに頷いた。
「小娘と王太子殿下と側近達には悪役になっていただきましょう。」
その言葉に何人かが笑う。
「側妃と共謀して、公爵令嬢を魅了を使って散々利用した挙句に捨てた愚かな男。」
「実に分かりやすい構図ですな。」
「国民も飛び付きそうだ。」
「女性達の支持も得られるでしょう。」
「アレスター公爵。」
伯爵が問いかける。
「よろしいですかな?」
公爵はしばらく沈黙した。
やがて酒杯を置く。
「好きにしろ。」
短い返答だった。
「私はもうアレに期待していない。」
その言葉に何とも言えない空気が流れる。
だが反対する者はいなかった。
こうして貴族達は新たな方針を決定した。
王太子とシャーロットと側近達を愚かな悪役に。
ディアナ・アレスターを悲劇のヒロインに。
そして失われた王国の威信を少しでも取り戻そうと動き始めたのであった。
もちろん――。
当のディアナ本人が、その会議の存在すら知らないまま。




