表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたくしだけに魅了がかかっていた件  作者: 鈴木べにこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/23

2.魔塔からきた

「眠い……。」



王宮の会議室に入るなり、黒いローブの青年が大きな欠伸をした。


その場にいた貴族達の表情が引きつる。


彼らが国家予算にも匹敵する莫大な金額を支払い、はるばる魔塔から招いた人物。


世界最強の魔術師。魔塔の主。国一つを容易く滅ぼせるとも噂される規格外の存在。


それが目の前の青年だった。


だが、伝説の大魔術師というにはあまりにも気の抜けた様子だった。


眠そうな半開きの目。やる気の感じられない姿勢。緊張感の欠片もない。



「主、依頼人の皆様の前ですよ。」



隣に立つ青年がため息をつく。


彼は魔塔の主の右腕を務める男だった。



「ちゃんとしてください。」


「だって朝早いんだもん。」


「もう昼です。」


「魔塔では朝。」


「その理屈は通りません。」



右腕は慣れた様子で主をたしなめる。


一方の主は全く反省した様子もなく、ぼんやりと窓の外を眺めていた。


貴族達は顔を見合わせた。


本当にこの男が世界最強なのか。


疑いたくなる。


そんな彼らの心情を察したのか、右腕が苦笑した。



「申し訳ありません。」



深々と頭を下げる。



「主様はこのようなお方ですが、仕事はきちんとこなしますのでご安心ください。」


「安心してよ、ちゃんと働くよ。」



その軽い返事に、貴族達はますます不安になる。


しかし今さら後戻りはできない。


ここまで来るのに莫大な金を使ったのだ。



「依頼内容は全て確認しております。」



右腕が話を進めた。



「王太子殿下とその側近の方々が魅了の魔法にかかっているかどうかを調べてほしい、という内容ですね。」


「その通りです。」



侯爵の一人が頷く。



「まず一つ確認したいのですが。」



右腕は穏やかに微笑んだ。



「もし魅了が存在しなかった場合でも依頼料は返金できません。」



貴族達の顔が引きつる。



「それは・・・。」


「調査の依頼ですので。」



右腕は当然のように言った。



「結果が『何もありませんでした』でも調査は完了となります。」


「承知しております。」



実際、それは依頼時に説明されていた。


だが改めて言われると胃が痛くなる。


何もなければ莫大な金が消えるのだから。



「まあ。」



主がのんびりと言う。



「魅了ならすぐ分かるよ。」



その言葉に全員が顔を上げた。



「本当ですか?」


「うん。」



主はあっさり頷く。



「見れば分かる。」



あまりにも簡単に言うので冗談のようだった。


しかし右腕は真面目な顔で補足する。



「主様の眼から逃れられる魔法はありません。」


「そこまで断言できるのですか?」


「できます。」



即答だった。


会議室が静まり返る。



「では質問があります。」



伯爵の一人が恐る恐る口を開いた。



「我が国にも優秀な王宮魔術師がおります。」


「はい。」


「彼らは誰一人として魅了を疑いませんでした。」


「当然ですね。」



再び即答。



「禁忌魔法を甘く見すぎです。」



右腕の声から笑みが消える。



「禁忌魔法とは存在そのものが災厄です。」


「……。」


「一般的な魔術師が見抜けるなら禁忌とは呼ばれません。」



貴族達は思わず息を飲んだ。


彼らは魅了を危険な魔法だとは知っていた。


だがここまで特別なものだとは思っていなかった。



「だからこそ。」



右腕は微笑みを戻す。



「私達が呼ばれたのでしょう?」



その言葉に貴族達は頷くしかなかった。


世界中で禁忌魔法を扱える者など片手で数えられる。


その頂点に立つのが魔塔の主だ。



「それと。」



右腕が一枚の契約書を取り出した。



「こちらをご確認ください。」



紙を受け取った侯爵が目を見開く。



「なっ!?」



周囲の貴族達も覗き込み、次々と驚愕した。



「高すぎる!」


「話が違うぞ!」


「ぼったくりではないか!」



右腕はきょとんとした。



「何がでしょう?」


「解呪費用だ!」


「はい。」


「調査費用とは別なのか!?」


「当然です。」



右腕は首を傾げる。



「診察と治療は別料金ですよね?」



誰も反論できなかった。


正論である。正論なのだが高い。とにかく高い。



「たまに勘違いする方がいるのですが。」



右腕はにこやかに続ける。



「我々は魅了の有無を確認する依頼を受けただけです。」


「・・・・・。」


「解呪は別の仕事になります。」



貴族達は頭を抱えた。


だが今さら断れない。


もし本当に魅了だった場合、解呪しないという選択肢は存在しないのだから。



「まあいいじゃん。」



主が呑気に言った。



「魅了じゃなかったら解呪費用は払わなくて済むし。」


「主。」


「ん?」


「余計な事を言わないでください。」


「はいはい。」



右腕は大きなため息をついた。


そして気を取り直して言う。



「では当事者の方々の元へ案内をお願いします。」


「はい。」



侯爵が頷く。


本来ならば当事者に魅了の調査だと伝えたいところだが、しかしそんな事を言えば王家が反発する可能性が高い。


そのため表向きの理由は別に用意されていた。


世界的に有名な魔塔の主が、王太子アイルとシャーロットの婚約を祝福するために来た。


そういう設定である。


用意された祝いの品は巨大なルビーのネックレス。


貴族達が用意した高価な贈り物だった。



「じゃあ行こっか。」



主が立ち上がる。



「終わったらお昼ご飯食べたい。」


「仕事が先です。」


「分かってるよ。」



本当に分かっているのだろうか。


そんな不安を抱きながら、一行は玉座の間へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ