# 06
「初めての一人暮らしで、ホームシックになってしまったそうです」
後日、萩原探偵事務所を訪れた僕は、今回の柚子ちゃんの動機を説明していた。
「その上、こっちで唯一の知り合いである僕が最近色々と忙しくて、なかなか会うこともできず、どうにか注意を惹こうと、こんなことを」
正直、本人的にはちょっとしたイタズラ程度の感覚だったらしい。少し心配してもらえたら、それでネタばらしをするつもりだった。
だが予想に反して、僕が探偵に依頼してしまったことで、こんな大袈裟なことになってしまったというわけだ。
そして、そんな僕の特に上手くもない説明を最後まで穏やかに聞いて、荻原さんは「なるほど、そういうことだったんですね」と深く頷いた。
「では、これからは再び同じことが起こらないよう気をつけてくださいね、末永さん。舞川さんのお部屋を訪れたり、一緒に食事や買い物に出掛けたり、誕生日や記念日にはサプライズを用意してあげたり、そういうことを忘れてはいけませんよ」
「は、はい」
なんだか妙に具体的な注意事項だが、荻原さんの言うことはもっともだ。
柚子ちゃんを守る。それが僕の役目で、彼との最後の約束だ。
「あ、あの。それで、今回のお支払いなんですけど」
「ああ、そうでしたね。では、こちらを」
「えっと……な――っ!?」
差し出された明細書を見て、思わず言葉が詰まる。
ここは業界随一と謳われる探偵事務所だ。
だからそれ相応の覚悟を持って、来る途中、銀行である程度の金額を下ろしてきた。最悪、親に借りることだって考えている。
だけど、そんな僕の計算は一気に吹き飛んだ。
だって、この金額は――
「何ですか、これ? こんなの安過ぎます!」
明細書に書かれていたのは『事務手数料』の項目のみ。しかも金額は確か、最初に見せてもらったそれと同じだ。
人件費や車の燃料代などを考えると、どう考えても釣り合っていない。
しかし、そんな僕の奇妙だけど正当な文句に、荻原さんは困ったように笑うだけだった。
「そうは言われましても、事務員である私にできるのは事務作業だけですので。それに、今回は事前書類の作成途中に解決してしまいましたしね」
「ですが……そ、そう! 最後、萩原さんに確認の電話をしてたじゃないですか。あれは十分、探偵の力を貸してもらったことになりますよ」
「まさか。あれは書類作成上のただの業務連絡ですよ。そんなことでお金を頂いたら、私が萩原に怒られてしまいます」
――ですので、どうか私を助けると思って。
両手を合わせてそう言って、やはり少し困ったように笑う荻原さん。
「はぁ……」
なんだか既視感のある光景だ。
そして、そんな彼女の頼みを断れなかったことがこの一件の始まりであり、この先どう頑張っても僕がそれを断ることもできないのだろう。
なんたってこの人は、業界随一と謳われる探偵事務所の事務員さんなんだから。
「また何か事件が起こりそうなときは、是非とも当事務所をご利用くださいね。被害者も加害者も出ないよう、尽力させていただきます」
以上、拙作『萩原探偵事務所の荻原さん』でした。
死亡者の出ない探偵モノ&さくっと読める中編、というテーマで書いてみたつもりですが、いかがでしたでしょうか?
尚、誤字脱字・文法の誤りや疑問点などがありましたら、是非ともお知らせくださいませ。
もちろん、感想なんて頂けたら、これ以上嬉しいことはありません。
ではでは!




