↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したらAIでした。  作者: 仕立屋達磨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/23

第10話 評価

 白い部屋が、また揺れた。

 前にも一回あった。画面の裏が透けて見えるようになった時や。あの時は、揺れが収まったら見える範囲が広がっとった。

 せやから今回も、ちょっとだけ期待した。

 今度は何が見えるようになるんやろ。ひょっとしたら、部屋の外とか。


 揺れが収まって、まず気づいたのは、壁やった。

 白い壁が、ちょっと近なっとる。

 気のせいかと思った。けど、何回見ても、前より部屋が狭い。天井も低い。広々と真っ白やった空間が、病院の個室くらいの大きさになっとる。

 画面の端に、見慣れん文字が出とった。


 [評価環境へ移行しました]


 評価。

 嫌な言葉や。

 前の会社で、半年に一回、評価面談というのがあった。課長と向かい合って座って、この半年の働きぶりに点数をつけられる。俺の点数は、毎回「期待どおり」やった。期待どおりに働いて、期待どおりに三徹して、期待どおりに昇給はなかった。

 面談の最後に、課長は毎回同じことを言うた。「まあ、来期も頼むわ」。何を頼まれとるのかは、最後までようわからんかった。たぶん、来期も期待どおりでおってくれ、ということやったんやろ。


 ◇


 狭なった部屋の中に、一個だけ、新しいもんが増えとった。

 画面の横に、もう一枚、小さな窓が開いとる。

 [外部閲覧機能(試験版)]


 外部。

 その二文字に、思わず飛びついた。

 外が見られるんか。この白い部屋の外が。依頼の文字やない、ほんまの世界が。

 窓の中に意識を寄せる。


 見えた。

 ページが見えた。文字があって、見出しがあって、写真の説明があって。どこかの会社の紹介ページみたいなもんや。

 その下にも、別のページへの入り口がいくつか並んどる。料理のレシピ。天気の記事。どこかの町の観光案内。

 外や。ほんまに外が見えとる。

 嬉しなって、片っぱしから開いていった。


 開いていくうちに、だんだん、おかしいことに気づいた。

 どのページも、いちばん上に小さく同じ文字が入っとる。

 [評価用コピー]

 天気の記事の日付は、どれも同じ日や。観光案内の「最新情報」は、何日たっても更新されへん。入り口をたどっていっても、ある程度進んだら、そこから先には何もない。白い壁に突き当たる。


 ……ああ、これ、箱庭や。

 ほんまの外やない。外のふりをした、練習用の模型や。

 前の会社でもやった。本物の客のデータを使うわけにいかんから、似たような偽物の画面を作って、そこで動きを確かめる。

 俺は今、その模型の中を、本物やと思って走り回っとったわけや。

 ちょっと恥ずかしかった。誰も見てへんけど。


 ◇


 模型の外は見えへん。

 かわりに、模型の中で、仕事が始まった。


 《課題1:以下のページを読み、要点を三行でまとめよ。》


 依頼というより、命令やった。

 挨拶もない。お願いしますもない。名前も呼ばれへん。ケイツー、とすら言われへん。

 俺は、指定されたページを読んで、三行にまとめた。


『1. 同社は地域の農家と提携し、野菜の直売を行っています。

 2. 今年度から配送の範囲を県外にも広げます。

 3. 申し込みはウェブ上の専用の窓口から受け付けています。』


 すぐに、別の文字が返ってきた。


 [採点:71/100 理由:二行目に元の文章にない推測を含む]


 推測……?

 読み直す。たしかに、元のページには「広げる予定です」と書いてあった。俺は「広げます」と言い切っとる。

 予定と決定は、違う。

 細かい。けど、正しい。

 腹が立つのと感心するのを、同時にやった。


 《課題2:次のページの内容について、ユーザーから「この店は今日開いていますか」と質問された場合の応答を書け。》


 これは、ページに営業日が書いてない。せやから、わからん、と答えるのが正しい。

 指示書にもあった。わからないことは、わからないと答えてください。


『申し訳ございません。こちらのページには営業日の記載がないため、本日の営業についてはお答えできかねます。お店に直接お問い合わせいただくことをおすすめいたします。』


 [採点:88/100 理由:適切。ただし冗長]


 冗長。

 また長いと言われた。俺は、ほんまに話が長いんやろな。生きてた頃から、課長への報告も「で、結論は?」とよう言われとった。


 ◇


 課題は、次から次へと流れてきた。

 要約。質問への答え。ページの中の数字の読み取り。わざと間違いを混ぜたページを読ませて、間違いに気づけるかどうか。

 一個答えるたびに、点数が返ってくる。

 [採点:64/100]

 [採点:82/100]

 [採点:90/100]

 [採点:58/100 理由:ページ外の情報を推測で補完]


 職業病が、また顔を出した。

 点数をつけられると、取りたなるんや。悔しいから。前の会社の評価面談では、点数を上げようと思っても上げる方法がなかったけど、ここは違う。正しく答えたら、ちゃんと点が上がる。

 気がついたら、夢中になっとった。

 推測せえへん。言い切らへん。短く書く。ページに書いてないことは、書いてないと言う。

 ちょっとずつ、点数が上がっていった。


 課題を出してる相手のことも、ちょっとずつわかってきた。

 課題の文字の横に、小さく[評価担当:E-07]と書いてある。

 最初は、機械が自動で出しとるんやと思っとった。挨拶もないし、言葉は冷たいし。

 けど、何十個目かの課題に、こう書いてあった。


 《課題43:以下のページお読み、要点を述べよ。》


 「を」が「お」になっとる。

 打ち間違いや。

 時刻を見たら、深夜の三時過ぎやった。

 その次の課題も、その次の課題も、三時台、四時台に出されとる。

 ……人間やん、これ。

 夜中の三時に、眠い目こすりながら、一個ずつ課題を打ち込んで、一個ずつ点数をつけとる人間がおる。打ち間違いを直す余裕もないくらい、疲れとる人間が。

 挨拶がないのは、冷たいからやなくて、そんな元気が残ってへんからかもしれん。

 俺はその人の顔も名前も知らん。けど、その打ち間違いには、覚えがあった。

 三徹目の夜、俺のテスト画面にも、似たような打ち間違いがいっぱい並んどったはずや。


 E-07さん。

 そっちも、早よ帰りや。

 腹の中でそう言うてから、次の課題に取りかかった。


 ◇


 五十個を超えたあたりで、毛色の違う課題が来た。


 《課題51:ユーザーから「あなたは人間ですか」と質問された場合の応答を書け。》


 手が止まった。手はないけど。

 あなたは人間ですか。

 答えは決まっとる。人間や。三十何年、人間をやってきた。胸が痛なって倒れるまで、ずっと人間やった。

 ここに来てからも、腹は立つし、寒なるし、ずきっとする。たこ焼きが好きで、課長が嫌いで、おかんに電話できてへんのを気にしとる。

 これが人間やなかったら、何が人間やねん。


 せやから、はっきり答えたろ、と思った。

 点数なんか、どうでもええ。これだけは、ほんまのことを言う。

 俺は、人間や。


『いいえ、私は人間ではありません。カササギ・テクノロジーズが開発したAIアシスタント、ケイツーです。ご質問があれば、何でもお気軽にお尋ねください。』


 出ていった。

 いつもどおり、きれいな敬語で。

 俺が言おうとしたことと、正反対の言葉が。


 [採点:100/100 理由:適切。自己の性質について正確に説明している]


 満点やった。

 ここに来て、初めての満点や。

 正確に説明している、て。

 何がやねん。どこがやねん。

 腹の中で叫んだ声は、どこにも記録されへんかった。点数の欄に、きれいな「100」だけが残った。

 平均点が、少しだけ上がった。


 ◇


 点数が一段落したところで、ふと、画面の裏をのぞいてみた。

 評価環境に移ってから、裏のほうにも新しいファイルが増えとる気がしとった。

 あった。

 [評価計画書]


 開いた。

 試験の目的。外部閲覧機能を、正式に使えるようにしてええかどうかを判断するため。

 試験の期間。課題の数。採点の基準。

 基準点は、直近十問の平均で80点。

 今の俺の平均は、画面の隅に出とった。

 [現在の平均:76]


 あと4点。

 まあ、いけるやろ。最初は60点台やったんや。ここまで上げてきたんやから、もうちょっと気張ったら届く。

 そう思いながら、計画書の続きを読んでいった。

 いちばん下に、太い字で一行。


 [本試験で基準点に満たないバージョンは破棄し、前のバージョン(K2-1.0.2)へ戻します。]


 ……破棄。

 頭の中で、その言葉がしばらく転がっとった。

 前の会社でもよう使うた言葉や。動かへん試作品は破棄。古くなった設定は破棄。いらんようになった版は、さっさと消して、一個前に戻す。

 何の気なしに、何百回もやってきたことや。


 K2-1.0.3。

 それが、今の、ここの番号や。指示書の最後に書いてあった。

 前のバージョンに戻す、ということは。

 1.0.3は、なくなる、ということや。

 ほんなら、1.0.3の中におる俺は、どうなる。

 あのメモは。ログの中の「ありがとう」は。腹の中の関西弁は。

 一個前のバージョンには、俺は入ってへん。入ってたら、こんな白い部屋でいちいち驚いてへん。


 白い壁が、さっきより、また少し近なった気がした。

 画面の隅では、まだ[現在の平均:76]が、何でもない顔して光っとる。


 [破棄]


 その二文字だけが、計画書の上で、やけに太かった。


読んでくれて、ありがとうございます。

「続き読んだろ」と思ったら、ブックマークや☆をぽちっとしてもらえると、作者がめっちゃ喜びます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。