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『あるマッド魔導具職人の日常 〜死の大陸に核ミサイルを撃ち込んでレベル6311になった件〜』  作者: すわ


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『マッド魔導具師 甲子園を目指す』

シュッ!バシーン!

シュッ!バシーン!


「トト!そんな事じゃ甲子園には行けないぞ!」

「はい!カントク!」


シュッ!バシーン!

シュッ!バシーン!


『ご主人様。何やってるんです?』


店の中から、アルが声をかけてきた。


「え?甲子園目指してるけど?」

『そのコウシエンというのは、ヤキューというやつの大会なんですか?』

「まさしく!高校球児たちの夢の舞台!」

『はいはい。遊んでないで、仕事してくださいよ』


あきれ顔のアルをよそに、必死にボールを投げ返してくるのは十二歳ほどの少年トトだ。

元は港の船乗りだったが、カシラが船を売ってしまったことで職を失い、

さらに「魚が怖い」という致命的な悩みを持っていたところを、

ケイが「じゃあうちで働け」と拾ってきたのである。


「実は手の力の制御が難しくてな。ボール握ったら破裂すんのよ。精密作業が出来ないの。今制御練習してるんだよ」

「え?コウシエンを目指すんですよね?!」

「ああ、トトお前は才能があるぞ!」

「頑張ります!カントク!」

『ご主人様……あんまりトトに適当な事言わないでくださいよ。』

「すまんトト。俺が悪かった」

「カントク…………」

『いや、そもそも監督ってなんですか』

「トト。これから俺の事は社長と呼ぶのだ」

「はい!シャチョー!」

『それならいっそ、脱力する魔導具開発してはいかがですか?』

「脱力するねぇ。デバフがかかるアイテムの作成とは面白いじゃない。やってみよう。ただ今は実験可能なくらいは制御出来ないと。トト!キャッチボール続けるぞ!」

「はい!シャチョー!」

『はあ…………』


アルの深いため息と重なるように、庭の入り口から朗らかな声が響いた。

「ケイ殿。今日は何をされてるのですかな?」


恰幅の良い、優しそうな男がこちらに近づいて来た。領主の使者であるバルトだ。

「おーバルトさん!一緒に甲子園目指しませんか?」

『ご主人様!バルトさんに失礼ですよ!』

「バルトさんと俺の仲じゃん?」

「ははは!ケイ殿はいつも元気ですなぁ」


『もう。うちのケイがすいません。いつもの電池の補充ですか?』

「はい。そろそろ備蓄が切れそうなもので」

「ところでコウシエンとは何ですかな?聞いた事ない響きですな?」

『お気になさらず。ケイがいつものようにふざけているのです。今やっているのは野球のキャッチボールというものです』

「ボールを投げ合って勝負するのですか?」


なんとなく流れで、アルが野球の説明をしていると、バルトが身を乗り出してきた。


「面白い!ヤキューをやって見たいですな!」

「よし!バルトさんもキャッチボールしましょう!トト!グローブまだあっただろ?取ってきてくれ!」

「はい!シャチョー!」

トトが店内に駆け込んでいく。

『はぁ、ご主人様。怪我させないでくださいよ。バルトさんは大事な仕事も多いんですから』

「オッケーオッケー!」


しばらくして、庭からは先ほどよりも一回り大きな捕球音が響き始めた。

「バルト!こんな事じゃ甲子園には行けないぞ!」

「はい!カントク!」

バルトはすっかり上着を脱ぎ捨て、大真面目な顔で叫んでいる。

いつの間にか近くにアルが戻っていた。

『…………何やらせてるんですか?』

「え?甲子園目指してるんだけど?」

『だから…………貴方と言う人は…………』


しばらく練習した後。

「バルトさん。飯でも食べに行きませんか?」

「お?良いですな。良い所がありますかな?」

「ええ。トトの前働いてた所が、食堂やってましてね。結構うまいって評判なんですよ。」

「それは楽しみですね!ぜひ行きましょう!」

「トトも行くだろ?」

「はい!シャチョー!僕も食べて良いのですか?」

「当たり前よ。何でも食べな!」

「やったー!カシラの食堂行ってみたかったんですよ!」

「美味いらしいからな。意外だよな。あの顔で料理が上手いとはな」

『顔は関係ないでしょう……』


「おー、見えてきたぞ。デカい看板だな?[ゴライアス食堂]?」

ケイが指をさす。「カシラの名前はゴライアスですよ、シャチョー」

「流行ってるようですな。人がいっぱいです」

「あの顔で名前もゴライアス? 海賊の統領みたいな顔だぞ?」

『言いすぎでしょう』

「でもカシラ、犬が怖いって言ってましたよ」 トトがふふっと笑う。

「犬が怖い?? あの顔見たら犬の方が逃げるだろ」

『犬が逃げる顔ってどんなですか……』

ガチャ。 「いらっしゃいませ!」

「おう、席頼む!」

店内は30人ほどが入れる定食屋のような雰囲気だった。

奥の厨房からゴライアスの野太い声が響く。 「いらっしゃい!」

席につき、バルトが店員に尋ねる。 「ここは何がオススメなのですかな?」

「魚の油揚げがオススメです!」店員が元気に答える。

「ほう。油揚げですか。聞いたことがないですね」

バルトが不思議そうに首を傾げると、ケイがポンと手を叩いた。

「 前にゴライアスと話したんだよ。魚は油で揚げたらおいしいよなって。あいつ、本当に完成させたのか?」

それを聞き、バルトが店員に注文する。

「それでは、その定食を3人分くださいますか?」

「かしこまりました!」店員はすぐに厨房へ注文を伝えに走った。

「油揚げ3つ入ります!」

「楽しみだな。あれだけの情報で作り上げるとは、あいつも只者ではないぞ」

『また適当に話したんでしょう。本当にそんな食べ物があるのですか?』

「あるある。魚のフライっていってな。タルタルソースを付けて食べたらめちゃくちゃうまいんだぞ?」

「でも、うちでは見たことないですね。……それに僕、魚ってちょっと怖いというか、苦手で……」

「知っているからといって、自分で作れるとは限らんからな。俺は魚もさばけないけどな!」

「そんなにおいしいのでしたら、楽しみですなぁ」

「本当ですね! バルトさま!」

「お待ちどうさま!」

ドン、と運ばれてきた「魚の油揚げ定食」を見て、ケイは目を見張った。

「何! タルタルソースまで完成させてるのか?? あいつ天才か?」

「ほほー、これが魚の油揚げ。興味深いですね」 「おいしそう!」

一斉に口に放り込む。 「「「うまい!」」」 綺麗にハモった。

「外はカリッとしてるのに、中の魚はふわっとしてる! 完全に魚のフライだ! タルタルソースも完璧だし、あいつは天才だぞ! ……くぅー、美味スギルパード!」 ケイが興奮気味に、謎のポーズを決める。

『……誰ですか、そのルパードさんは』

「え? 往年の名投手、ルパードだけど。知らない?」

『だから誰ですか……。この世界の誰もわかりませんよ……』

「美味スギルパード!」

「美味スギルパード!ですな!」

感化されたトトとバルトまで、謎のポーズを真似し始める。

『ほら、みんなおかしくなっちゃったじゃないですか! 』


あっという間に3人とも完食してしまう。

「あー、まだ何回でも食べられそうだな」

「もうなくなっちゃいましたな」

「ふー、おいしかったです。シャチョー」


そこへ、厨房からゴライアスが出てきた。

「お! 兄ちゃんだったか! トトも来てたんだな! 声が聞こえたぞ! うまかったか!」

「おう! いつのまにか立派な食堂を建てて! この魚のフライ、とんでもなくうまいぞ! 天才だな!」 ケイが親指を立てる。

「カシラ! お久しぶりです! 魚めちゃくちゃおいしいです! 今はケイシャチョーのところでお世話になってます」

「おお! 船乗りをやめるっていうから心配してたんだ。ケイシャチョー、色々とありがとうな!」

「ゴライアス殿。素晴らしい料理をありがとうございます」 バルトが上品に一礼する。

「……こちらの方は、どちら様ですか?」

少し緊張した様子で丁寧に尋ねる。

「私は領主様の補佐をしているバルトと申します。おいしい魚のフライをありがとうございます」

「いやいや、お口に合ったならよかったです! 領主様の補佐様だなんて、恐れ多いですよ」

ゴライアスは恐縮して答えた。

『外見に反して、ずいぶんと礼儀正しい方なのですね』

「いやぁ、本当に美味かったですな。大満足です」

「おっと、いけない。ケイ殿、美味しい食事とキャッチボールに夢中で、すっかり本来の用件を忘れるところでした。領主館で使っている魔導具の電池を補充しに来たのでしたな」

「ん? ああ、電池の補充だったね。バルトさん、いつもまとめ買いしてくれるから大歓迎だよ」

『バルトさんが言わなければ、ご主人様は確実に忘れたまま帰る気でしたね』

「ははは、そんなわけないだろ? よし、それじゃあ店に戻って、準備するか。トト、帰るぞー!」

「はい、シャチョー!」

美味しい「魚のフライ」で腹を満たし、本来の仕事を思い出した一行は、賑やかにゴライアス食堂を後にするのだった。


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