初めての掃除
今日は快晴。窓からは明るい光と心地よい風がふわりと吹き込んでくる。
絶好の掃除日和だ。
「それじゃあ始めようか」
窓から視線をずらして伝えれば、夫は真面目な様子でコクリと頷いた。
今日は久々に二人の休みが重なった日だ。
前々から家の掃除の話は出ていたのだが、なかなか時間が取れず今日までできずにいたのだ。
どちらかが休みのときに少しずつやればよかったのだが、住み始めて間もないということと、やり方を確認しながら、やるなら徹底的に、ということで今日になった。
「一旦水は二階に持っていきましょうか?」
「そうだね。それじゃあ頼むよ」
掃除をするなら掃き掃除も拭き掃除もしたほうが良いだろうということで、ユーリスが先に水を汲んできてくれた。
掃除用の布も用意してあるので、本当に本格的な掃除になりそうだ。
冒険者パーティの拠点で暮らしていたときには考えられなかったことだ。
二人揃って二階に上がって、まずは掃き掃除だ。
はたきで家具の上のホコリを落とし、箒で掃き出す。それを一部屋ずつ行う。
「ふー……、とりあえず掃き掃除はこれぐらいかねえ……」
ずっと同じ姿勢で作業をしていたからか、背中が張っている。
道具を置いて大きく伸びをすると心地よい痛みが走る。
「一度休憩にしますか?」
そんな様子を見ていたのだろう。
すかさずユーリスが訊ねた。
「いや、二階だけでも一気に終わらせないかい? 後回しにすると億劫になりそうだし」
「わかりました」
ユーリスはそのまま布を水に浸して、一枚ずつ絞る。
そしてその一枚を私に手渡した。
「ありがとう。こっちの部屋は私がやるから、隣の部屋を頼めるかい?」
「もちろんですよ」
そうしてそれぞれが部屋の拭き掃除を行う。
私はまず初めに窓枠から始めた。
隣が畑ということもあって、土が縁に溜まっていた。
それらを手で払いながら拭き上げていく。
「外側も少しはやっておいたほうが良いかねえ……。よっと……」
窓から頭だけでなく腕も出す。
そして掃除をしようと思っていた場所に視線を動かす途中で、ユーリスと目があった。
「「あ……」」
二人揃って同じことをしようとしていたらしい。
全く同じ姿勢だったことをお互いに凝視した後、見計らったかのように同時にはにかみあった。
■■■
二階の掃除を終えた私たちは、一階に移動して居間で少し休憩した。
その後すぐに掃除を再開した。
「キッチンはすぐに汚れるからねえ……」
見渡せば炉は毎日の料理で発生する煙で真っ黒、台の周りは落としてそのままになっていた水汚れでシミができている。
手始めに炉の煤を落とす。
手箒で壁を削るつもりでこびり付いた煤を落とせば、黒ずんでいた壁面も少しずつきれいなレンガの色が戻ってきた。
そして落ちた煤は灰と一緒に桶に集める。
灰は洗濯に使うのでとっておくのだ。時間があれば灰汁を作っても良いかもしれない。
炉の掃除が終われば、次は床だ。
まずは箒で細かな塵を掃き出す。
そして濡らした布で水拭きをするのだが、なかなか落ちない。
住み始めてそれほど日数は経っていないのだが、それでこの頑固さ。
水回りの掃除は毎日しなければいけないなと、少し気が遠くなった。
ひたすらゴシゴシと床を拭き続ければ、窓から差し込む光も橙色に変わっていた。
ずいぶんと頑張ったはずだが、シミはまだその跡が残っている。
だがこれ以上拭いたところであまり変わらないだろう。
額から流れ落ちる汗を拭いながら立ち上がり、掃除の片付けをすることにした。
「お疲れ様でした。浴室と居間の掃除は終わっていますよ」
掃除をしたついでに水浴びもしたのだろう。
ユーリスの髪がわずかに濡れていた。
「ごめん。随分広い場所を任せてしまったね」
「いえ、これぐらいお安い御用ですよ。それよりもリーゼさんも水を浴びてきてください。その間に俺はお茶を用意しますから」
とにかく早く行けと言わんばかりにユーリスに背を押されて浴室に連れて行かれた。
すでに浴室には拭き布が用意されている。
用意の良い夫だなあ、と思いながらも、別にそんなに急かす必要もないだろうとも思う。
とはいえここまで来てしまったのだから、と私は貯めてあった水を浴びた。
すると流れ落ちるのは真っ黒に染まった水。
別に浴びた水が汚れているわけではない。
むしろ貯めてある水は底が見えるほどに澄んでいる。
「……………………」
なぜだろう、と首を傾げてしばらく。
「…………。あ、煤かい……」
炉の掃除で煤を被ってしまったのだろう。
それで真っ黒になっていた私を見て、水浴びを勧めたということなのかもしれない。
「真っ黒になった私って、一体どんな感じだったのかねえ……」
そんなことを考えながら冷たい水に身を震わせるのだった。
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次回「初めての洗濯」
「誰もいませんね。これなら失敗しても迷惑をかける人がいません」
「失敗する前提なのかい?」
——頼れる夫、洗濯は弱腰……?




