大型犬系ワンコな夫と最強槍使いな妻のほのぼの新婚生活 〜レフェス夫妻の日常〜
朝、目が覚めて上体を起こす。そして大きく伸びをする。
腕の動きに合わせて長い赤髪がするりと動いた。
鎧戸から漏れ出る微かな光で浮かび上がる室内にはいまだに慣れていない。
「ん……」
そろそろ朝の支度をしようかと動こうとすると、腰に腕が回された。一緒に黒髪がシーツの間から覗いている。
すこしシーツをずらせば、幸せそうな寝顔が現れた。
どうやら寝ぼけているようだ。そんな彼の髪を梳くと短く声を漏らした。
「ユーリス、まだ寝てて良いけど離してくれるかい?」
このまま彼を撫で回していても良いのだが、時間は有限だ。
休みのうちにやらないといけないことは多い。そろそろ起きて朝食の準備はした方がいいだろう。
なので、腰に回された腕に触れながら、腕の主に声をかけた。
腕はそのままにゴソゴソと蠢く夫。やがて、シーツからその顔が出てきた。目はしっかり閉じたままだ。
「ん……。おはようございます……」
まだ眠いのだろう。少し掠れた声でそう言った彼はまだ目を開けそうにない。
「おはよう。これから朝食の準備をするから、まだ寝ていて良いよ」
「いえ……。俺も手伝いますよ……」
ごそごそと体を動かしてそう言うが、やはりまだ眠そうだ。そんな姿に微笑む。
「良いよ。できたら呼びにくるから」
そう言いながら頭をゆっくり撫でれば、すやすやと寝息を立て始めた。
昨夜も遅くまで仕事をしていたのだ。非番の日ぐらいゆっくりして欲しい。
そっとベッドから降りて身支度をすると、部屋を出る。
音を立てないように階段を下り、一つ一つ鎧戸を開ければ、気持ちの良い朝日が室内に差し込んだ。
「さてと、それじゃあ始めようか」
明るくなった居間を抜け、キッチンに入る。
使い慣れた槍に魔力を流し、炉に火を入れる。その脇で手早く食材を刻む。刻んだものとミルクを鍋に入れ、それを火にかける。
煮ている間にパンを出して居間の食卓に並べておく。
あとは鍋の中身の味を見つつ沸くのを待つだけだ。
しばらくかき混ぜていれば、食欲をそそる香りが立ち上り始めた。
味見をすれば出来は上々。見た目は普通。そんなスープが出来上がった。
鍋を火からおろして、ユーリスを起こしに二階に向かった。
「ユーリス、できたよ」
そっと扉を開けて中を覗けば、シーツを抱きしめて眠っている夫の姿があった。
その表情はやはり幸せそうだ。いったいどんな夢を見ているのだろうか。
少し可哀想な気もしたが、出来立ての温かいものを食べてもらいたいので、意を決して肩を揺する。
「ユーリス、起きて」
「んん……」
ぼんやりと開かれた目と目が合う。
おはよう、ともう一度言えば、その目はみるみる見開かれていき、ガバッとユーリスが飛び起きた。
「すみません! 俺、手伝うって言ったのに!」
慌てふためきながら着替え始めるユーリスの姿に思わず笑みが溢れる。
どうやら、寝ててと私が言ったことは覚えてないらしい。
「良いんだよ。昨日は遅かったんだし」
「いえ、あとで何か代わります! 片付けでも掃除でも!」
些細なことなのにユーリスは必死だ。それに耐えられなくなってついに肩が震えてしまった。
「ふ、ふふ……。ユーリス、大げさ」
そんな私の様子にさらに驚いた様子になるユーリス。
それでもやはり申し訳なさが優っているのか、まだ何か言おうとしている。
「わかったよ。それじゃあ、後で水汲みをお願い」
「──! もちろんです! 任せてください!」
とても嬉しそうな夫の姿にもう一度笑んで、私たちは階下へ降りていく。
少し時間が経ってしまったけれど、まだまだ温かいスープを取り分けて、一緒に食卓を囲む。
他愛のない会話をしながらの朝食は終始笑い声に満ちていた。
「リーゼさん、食器片付けますね」
立ち上がってそう言ったユーリスは空になった皿と籠を手に取ろうとした。
そんな様子に私は首を振る。
「ユーリス、水汲み」
片付けるにしても、食器を洗う水が必要だ。それなら皿を下げるのは私がやって、先ほど頼んだ水汲みに行ってもらった方がいいだろう。
その意図を察したのか、飛び上がる勢いでユーリスは肩を跳ねさせた。
「──そうでした! すぐ行きます!」
慌てて家を出ていくその背に手を振る。
素直で誠実なところが彼の良いところだ。それを体現するような行動に口元が緩んでしまう。
しかし、見送ったのも束の間、扉が音を立てて勢いよく開かれた。
扉を開けたのは息を切らせたユーリスだ。
「……どうかしたのかい?」
「水桶を忘れました……!」
騎士であるユーリスが息を切らせているのだから、井戸の近くまで着いてから気付いたのだろう。
本人は至って真面目な様子だが、水桶を持たずに水を汲みに行ったという状況のおかしさについに耐えられなくなった。
「っぷ……、あははははははっ!」
突然笑い始めた私に、ユーリスはおろおろとしたままだ。
このままでは何も進まないので、笑いを堪えながら移動する。
部屋の隅に置いてある水桶を渡して、私はもう一度ユーリスを見送るのだった。
これが私たちの何気ない、けれどかけがえのない日常の朝。
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