第13話 駄猫とレポート②
猫柳の自宅は大学から徒歩で15分ほどのところにあった。武藤のアパートとは違い、玄関ホールへの入り口にもオートロックがついている、小綺麗なマンションだ。家族住まいかと思ったが、聞けば単身者用のマンションで、猫柳も一人暮らしらしい。エレベーターで3階を押して、猫柳は部屋へと武藤を招き入れた。
しかし、マンションが小綺麗だからといって、『家の中』がそうであるとは限らない。
武藤の家と同じ、1LDKの部屋。面白いのがリビングにベッドが鎮座していることである。意味が分からない。
その隣の部屋は、勉強に使っているのだろう。机に椅子、あとは本棚ばかりだ。ここまではベッドのあるなしの差はあるが、武藤の部屋とあまり変わらない。違うのはたったひとつ。
「おい猫、俺はどこに座ればいいんだ……?」
「適当に座ってー」
「だから、その『適当』な部分が見当たらないんだ。これじゃあ資料をピックアップするどころか、まず見つけるのが難しいだろ」
「そう!そうなんだよ!!」
「威張るな!アホ猫が!!」
散らばる様々なレポート用紙、論文のコピー、本、冊子、資料。無事と思われるのは机の上ぐらいだろうか。そこだけは、ペン立てとタブレット、そしてレポート用紙。それらが置いてあるぐらいだ。しかしよく考えれば当然だ。机の上まで同じ状況なら、猫柳には作業をする場所がないことになる。
恐らく出したら出しっぱなしの性格なのだろう。散らばっている本の中にはレポートとは関係のない小説や、ファッション雑誌まである。一言で表すなら、これを混沌と呼ぶのだろう。
「これは……レポートの前に片づけが必要なやつじゃないか……?」
「いいよいいよ、その辺のものをこうやって隅にやって……」
無理やり武藤の座る場所を作ろうと、猫柳が床に散らばっていたものを、ズサーとまとめて両手で奥に押しやる。しかし、そこで武藤はとんでもないものを見つけてしまった。
猫柳に拉致され一緒に連れていかれたフィールドワーク。その先の神社で見つけた古文書。そのまま。そのもの。それが無造作に床にポイっとされていて、しかもつい今しがた、他の資料と共に猫柳にズサーとされていった。
「お、おい、猫……。なんでこれがここにある!?」
慌てて古文書を拾い上げて、武藤は猫柳に詰め寄った。
「ちゃんと村長さんの許可取って『借りて』きたんだよ?」
「だったらもう少し『借りてきたもの』扱いをしろ!放り出すな!!」
「……だって、武藤くんが読むの早すぎて、全部書きとれてなかったから。でも借りたはいいけど、やっぱり俺には読めなくてさぁ」
「俺を言い訳にするのか?」
「そうじゃないよ!そうじゃないけど、まだ全文が読めてないから、重要な部分が分かってない気がして……」
「もしかして、手伝えっていうのは……」
「うん。もう一度読んでほしい。今度は最後まで」
「…………。」
だったらもっと早くに頼めばいいものを。今の今まで何をしていたのだろうか、この馬鹿猫は。
いや、そもそもの問題は自分の方にあったのかもしれない。そう考えて、武藤は静かに口を開いた。
「俺は……そんなに声をかけにくいか?」
「え?」
思わず零れた言葉に猫柳が目を丸くする。
「分かってる。カタブツと呼ばれてるのも、自分自身がお堅い人間だっていうことも、ちゃんと自覚している。しかし、これは……駄目だろう」
「違うよ!そんな風に思ったことなんてない!ただ……うん、学部の違う友だちを巻き込むことじゃなかったなって、反省しちゃって……」
「それでこのザマか。本当に駄猫だな。お前に古文書が読めないことなんて、フィールドワークの時にもう分かっている。言えば断りなどしなかったのに」
「気を……使いすぎた?」
「そうだな」
「そっか……ごめん。じゃあ……読んでもらえる?そしてできれば、一緒にあのフィールドワークを思い出してほしいな」
「ああ。構わないぞ」
手にした古文書の埃を払って、武藤はそのページを捲ったのだった。
次回へ続く!!
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