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第14話 駄猫とレポート③

 一、後年、元服の儀に至りては、定めたる順序に依りて鏡の裏の名を剥ぎ取るべし。正しく其の紙を手に収むれば、影は再び身へと還り、生涯を安寧に過ごすを得る。

 然れど、もし此の手順を誤り、或いは鏡の中の影と眼を合わせたる時は、名も姿も永久に鏡の裡へと呑まれ、現し身はただの空殻《うつせがい》と成り果つるもの也。故に、決して――――



「……ん?」

「どうしたの武藤くん。決しての後は?」

「それが……掠れてて判読がつかない。この先は掠れてたり、墨で上塗りされているところが多いな」

「えっ、なにそれ怖ッ」

「この部分は写真を印刷して貼りつけておけ。もうあと数枚だったんだが……なんとなく、見せたくない部分を意図的に隠しているような気がする」

「だから怖いこと言わないでよ~」

「……なぁ、猫」

「なに?」

「この古文書にはこれ以上踏み込まない方が良さそうだ。レポートはそういう感じでまとめて締めておけ」

 冊子を閉じると、疲れた目を休めながら武藤がそう言った。一応すべてのページを写真に収めているのでそれはできるが、なんだかモヤモヤしたものが猫柳の中で燻っていて収まらない。不完全燃焼という言葉が一番近いだろうか。

「村長さんに聞いても……分からないんだろうなぁ」

「案外知ってるかもしれないぞ。知っていて、隠している可能性もある」

「どうして武藤くんはそう怖いこと言うのかなぁ!?」

「可能性の1つとして提示しているだけだ。俺の言葉を聞いた上で、どうするのかはお前が決めればいい」

「……うん。武藤くんの言う通りにした方が賢明かもしれないな。もっと突っ込んで調べて来いって言われたら、今度はグループ全員で行くことにするよ」

「その方がいいな。ちなみに……この古文書だが」

「うん?」

 武藤は座っているすぐ横に冊子を置いて、椅子に座っている猫柳を見上げた。

「レポートが終わったらちゃんと返しに行くんだろうな?」

「もちろんだよ!」

「……信用できない。こればっかりは俺も一緒に行く」

「えっ?」

「きちんと礼をして、元あった場所に返すまで、俺が見張る」

「……うん」

 武藤の言葉に猫柳は頷いた。ちょっと信用が足りてないのが悔しくはあるけれども、もう一度、一緒に出かけてくれるということなのだから、そこは素直に嬉しい。

 少し跳ねている鼓動を感じて、猫柳は首を傾げた。なんだろう……喜んでるのか、楽しみなのか。

「じゃあ、レポートを出して……週末、時間ある?」

「そうだな……日を教えてくれれば、前日夜番で入って次の日は朝から動けるようにしておこう」

「あー……バイトか……。ごめんね、忙しいだろうに」

「そういえば、お前はバイトはしていないのか?」

「してないことはないけど……いわゆるスキマ時間にちょこっとやれる、アレだよ」

「ちっ、高等遊民が」

「舌打ち!?しかも高等遊民とか!!違うって、もう!!」

 そんなことを言ってはいるが、どうせ全部仕送りで賄って、遊ぶ金だけ短時間バイトで稼いでいるのだろう。

「なんか腹が立ってきた。蹴る」

「ちょ、ちょっと武藤くん?やめよう!?」

 がすがすと椅子の足を蹴る武藤に、猫柳が驚いて声を上げる。武藤がなんだか拗ねているような表情をしていて、ふっと猫柳は楽しそうに笑った。

「あはは、遊ぶ金なのは確かにそうだけど、こういうバイトの方が時間を作りやすいんだよ。今はいいけど、2年生とかに進級っていうのかな?そうしたら、フィールドワークに使う時間が増えてくるから。例えば……夏休みに1週間かけて、とか」

「……は?」

「だから、その時もまたレポート手伝ってね」

「ふざけるなよ、お前……」

「追って連絡しまーす」

 楽しそうに笑って言う猫柳に我慢ができなくなって、武藤は立ち上がると猫柳の頬を力いっぱいつねり上げた。

「いたたたた!」

「おい、ニコ柳」

「え、ニコ柳ってなに!?新しいんだけど!!」

「ヘラヘラ笑って周りに合わせて遊んでる暇があったら、この部屋をどうにかしろ。でないと俺は、二度とここには足を踏み入れないからな」

「ひどい!武藤くんも遊びに来てよ!もしくはレポート!!」

「だったらせめて足の踏み場を作れ!そもそも座る場所すらないんだぞ!」

「……じゃあ、分かった。次のレポートの時は武藤くんち行く」

「誰もそんな話……待て。次とか言ったか、おい」

「来月にまたフィールドワークの予定があるんだ。今度は1泊するの確定だから、日にち決まったら事前に連絡するよ」

 楽しそうな表情で「連絡先ちょうだい」と言ってくる猫柳に、武藤はわずかな頭痛を覚える。学習していないのか?それとも何も考えていないのか?

「ちょ、待て、お前、今までの話の流れ聞いていたか!?」

「うん。俺の部屋が散らかってるから、次は武藤くんの家使わせてくれるんだよね?ということは、次のフィールドワークにも付き合ってくれるってことだよね?」

 猫柳理論ではそういうことになるらしい。まったく理解できない。そもそもさっき「学部の違う友だちを巻き込むことじゃなかったなって、反省しちゃって」とか言ってなかったか?もう忘れたのか。鳥頭……いや、猫頭か。

「じゃあ決まり!よし行こう、さあ行こう!!」

「ちょ、ちょっと待て、俺はまだ行くとは……って、聞け!猫!!」

 嬉しそうな猫柳の顔を見て、どうしてこうなった!?と武藤は頭を抱えた。


「だめだ……コイツとは意思疎通ができてる気がしない……」






次回へ続く!!

☆面白かったときは評価や感想、レビューなどお待ちしています☆

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