第8話:黄金の出汁巻き卵と、消える白米
緑茶の最後の一滴を飲み干したジークフリートが、名残惜しそうに湯呑みを両手で包み直したのを見届けて、真昼は立ち上がった。
テラスの木製ベンチでは、すっかり警戒を解いたベルが、ジークフリートの長い脚に身体をぴたりと寄り添わせ、初夏の木漏れ日を浴びながらうとうとしている。森最強の騎士団長が、両手に収まるほどの小さな神獣に足元を押さえられ、身動きひとつ取れずに緊張した面持ちで固まっている姿がたまらなく愛らしい。
「それじゃあジークさん、本格的に朝ごはん作ってきますね。ベルと留守番、お願いできますか?」
「あ、ああ……任せてくれ。森の害獣はおろか、風の木の葉一枚たりともこの小屋には寄せ付けん」
「ふふ、そんなに気負わなくて大丈夫ですよ。リラックスして待っててください」
真昼はクスリと笑い、足取りも軽やかにログハウスの扉をくぐり、押し入れゲートを越えて現代の古民家へと戻った。
***
古民家の台所に立つと、真昼の背筋が自然とすっと伸びる。
会社員時代、毎朝コンビニのおにぎりを胃に流し込んでいた頃には考えられなかった、料理に対する静かな高揚感が胸の奥を満たしていた。
誰かのために、心を込めてあたたかい朝食を作る。
それが、こんなにも自分自身の心を潤してくれるものだとは知らなかった。
「よし、まずはご飯から!」
真昼は米びつから、地元の契約農家が育てたコシヒカリを計量カップで三合すくい取った。
ジークフリートの昨日の食べっぷりからして、二合では到底足りないことは明白だった。成人男性、それも日々過酷な任務で全身の筋肉を酷使している騎士の胃袋を満たすのだ。三合でも足りるかどうか怪しいくらいである。
陶器のボウルに米をあけ、井戸水を一気に注ぎ入れる。
最初の一杯目は、乾燥した米粒が表面のヌカ臭さを吸い込んでしまわないよう、指先でさっとひと泳ぎさせてから、躊躇なく捨てる。
二杯目からは、指を軽く立ててシャカシャカとリズミカルに研ぐ。力を入れすぎず、米粒同士が優しく擦れ合う程度の力加減。三度ほど水を替えて白濁が薄らいだところで、しっかりとザルに上げて水を切る。
そして、祖母が大切に使い込んできた黒光りする『萬古焼の二重蓋土鍋』へと米を移した。
内側の目盛りに合わせて清らかな井戸水を注ぎ、浸水させること三十分。
米粒が十分に水分を吸って、芯まで真っ白に不透明になったところで、二重蓋をきっちりと閉め、ガスコンロの強火にかけた。
コトコト、と土鍋の中で小さな対流が始まる。
やがて、土鍋の蓋の小さな穴から、勢いよく白い蒸気が噴き出し始めた。
プシューッという小気味のいい音とともに、台所いっぱいに広がるのは、炊き立ての米だけが持つ、青い稲穂と太陽の温もりを凝縮したような甘い香り。
穴から吹きこぼれる泡が澄んできた瞬間、真昼は火を極弱火へと絞り、じっくりと十分間。
最後に五秒間だけ強火にして鍋肌の余分な水分を飛ばし、パチパチという香ばしいお焦げの兆候を耳で捉えてから、火を止めた。
あとは二重蓋の重みで、内部に熱い蒸気を閉じ込め、十五分間の蒸らしに入る。
「ご飯を蒸らしてる間に、おかずを仕上げちゃおう」
続いて取り出したのは、銀色に輝く新鮮な塩鮭の切り身が二切れ。
皮目に斜めの飾り包丁を細かく入れ、表面に浮き出た余分な水分を清潔なキッチンペーパーで丁寧に拭き取る。このひと手間で、魚特有の生臭さが完全に消え去るのだ。
魚焼きグリルをあらかじめ強火で温めておき、網に薄く油を塗ってから鮭を並べ入れた。
中火でじっくりと焼き始める。
じゅわじゅわ、パチッ。
鮭自身の持つ豊かな脂が熱によって溶け出し、網の下へと滴り落ちて爆ぜる音が響く。
立ち上る煙は、芳ばしい焼き魚の匂いとなって換気扇へと吸い込まれていく。皮目はカリッと香ばしい濃い狐色に焼き上げ、身はふっくらとジューシーな桜色を保つ。
その間に、祖母のおろし金を取り出し、冷たい井戸水に浸けておいた大根の先端をすりおろす。繊維を断ち切るように円を描いておろした大根おろしをザルに広げ、自然に余分な水気を切っておく。
そして、今朝の真打ち――『出汁巻き卵』の調理にかかる。
真昼が吊り棚から下ろしたのは、祖母タエが生前何十年も使い込んできた、長方形の『純銅製玉子焼き器』だった。
内側の錫引きは美しく手入れされ、外側の銅は深い飴色の光沢を放っている。
熱伝導率が極めて高い銅鍋は、卵液を流し込んだ瞬間に均一に熱を伝え、短時間でふんわりと焼き上げることができる、料理人の至宝だ。
「よし、一番出汁は完璧」
ボウルに、今朝引いておいた昆布と鰹節の黄金色の一番出汁を百五十ミリリットル。
そこへ、新鮮な平飼い卵を四個、割り入れる。
調味料は、薄口醤油小さじ一杯、本みりん小さじ一杯、そして粗塩をほんの二つまみ。
甘みを強くする関東風の厚焼き玉子ではなく、出汁の旨味と塩気で卵の豊かな風味を最大限に引き立てる、関西風の出汁巻き卵だ。
菜箸をボウルの底に当て、白身のコシを切り裂くように左右に素早く動かす。決して泡立ててはならない。空気が入りすぎると、焼いたときに気泡ができて断面が粗くなってしまうからだ。
白身と黄身、そして黄金出汁が完全に一体化し、さらりとした薄黄色の卵液が完成した。
出汁の分量が極めて多いため、普通のフライパンでは絶対に固まらず、崩れてしまうほどの配合比率。だが、この銅鍋と真昼の腕があれば大丈夫だ。
油壺から油引きを取り出し、熱した銅鍋の隅々までサラダ油を薄く馴染ませる。
菜箸の先に卵液をつけ、ジュッと心地よい音が鳴るのを確認して、第一陣の卵液を鍋底一面に薄く流し入れた。
――ジュワァァッ……!
瞬時に甘く香ばしい香りが立ち上り、鍋の縁から卵がふわりと縮むように膨らみ始める。
菜箸で大きな気泡を素早く突き破り、表面が半熟のうちに、奥から手前へと手首のスナップを利かせて巻き込んでいく。
芯となる最初の層は、多少形が崩れていても構わない。
巻いた卵を奥へと滑らせ、空いた手前側に再び油を薄く引く。
そして、第二陣の卵液を流し込む。奥の卵を菜箸で軽く持ち上げ、その下にも卵液をくぐらせる。
半熟になったところで、手前へと巻き重ねる。
これを四回、五回と繰り返す。
回を重ねるごとに、出汁をたっぷりと抱き込んだ卵はみるみるうちに厚みを増し、まるで黄色いシルクの布団のようにふっくらと丸みを帯びていく。
熱い蒸気が立ち上るたび、凝縮された鰹節の燻製香と昆布のまろやかな旨味が、卵の甘い匂いと混ざり合って台所を満たしていく。
最後の巻きを終えた瞬間、真昼は清潔な竹製の『巻き簾』の上に熱々の出汁巻き卵を滑り落とした。
すだれで優しく包み込み、輪ゴムで両端を留めて形を整える。
余熱で中心までじんわりと熱を通しながら、綺麗な長方形の形を落ち着かせるのだ。
「よしっ、全部できた!」
土鍋の蒸らしも完了した。
真昼は大きな木製のお盆に、すべての器を並べていく。
巻き簾を外した出汁巻き卵を包丁で分厚く六等分に切り分けると、断面から黄金色の出汁がジュワッと滲み出て、まな板の上を濡らした。それを青磁の平皿に美しく盛り付ける。
焼き上がった鮭の塩焼きは、皮目を上にして長皿に盛り、横にたっぷりの大根おろしを添え、生醤油を数滴たらす。
さらに、昨日の残りの出汁で作った豆腐とわかめのシンプルな赤だし味噌汁を木椀によそい、萬古焼の土鍋は鍋敷きごと、そのまま豪快にお盆に乗せた。
「ジークさん、待たせちゃったかな」
両手でお盆をしっかりと支え、真昼は奥納戸の押し入れゲートをくぐり抜けた。
***
ログハウスのテラスに戻ると、ジークフリートは先ほどと寸分違わぬ姿勢で、直立不動に近い形でベンチに座っていた。
膝の上には、真昼が置いていった手ぬぐいが綺麗に四つ折りにされて置かれている。
だが、真昼がお盆を抱えて扉を開けた瞬間、ジークフリートの端正な鼻梁がピクリと動いた。
朝風に乗ってテラスに押し寄せたのは、魚が香ばしく焼けた脂の匂いと、甘やかな出汁と卵の香り、そして何よりも、炊きたての純白の米が放つ圧倒的な生命の湯気。
ジークフリートの青氷の瞳が、吸い寄せられるように真昼の手元へと注がれた。
「お待たせしました、ジークさん! 朝ごはん、できましたよ」
テラスの中央にある木製の丸テーブルに、真昼はお盆を下ろした。
ことり、と器が並ぶ。
ふっくらと焼き上がった、鮮やかな山吹色の出汁巻き卵。
皮目がパリッと香ばしい狐色に焦げ、ジューシーな脂を滲ませる鮭の塩焼きと、純白の大根おろし。
そして、テーブルの中央に鎮座する、黒い萬古焼の土鍋。
「……これが、今朝の朝食か……」
ジークフリートは息を呑み、テーブルの上の光景をまじまじと見つめた。
派手な香辛料や、毒々しい色のソースで飾り立てられた王都の料理とはまるで違う。
素材そのものの色合いが、朝の木漏れ日の中で清らかに調和している。
「さ、冷めないうちにどうぞ! ご飯、よそいますね」
真昼が土鍋の重い蓋に手をかけ、そっと持ち上げた。
――ボワッ!
白い、濃密な湯気が、一気に天へと吹き上がった。
その向こうから現れた光景に、ジークフリートは思わず身を乗り出した。
土鍋の中に満ちていたのは、見事なまでに一粒一粒が垂直にピンと立ち上がり、朝光を浴びて真珠のように乱反射する白米だった。
潰れた米粒などひとつもない。完璧な対流によって炊き上げられた米は、表面に透明な薄い膜を纏い、湯気とともに甘く芳醇な香りを放っている。
「……美しいな。まるで、削り出したばかりの白銀の粒のようだ」
「ふふ、よく炊けてますよ。はい、どうぞ」
真昼は桜の木で作られたお茶碗に、ふんわりと空気を抱かせるようにして、山盛りのご飯をよそって差し出した。
ジークフリートは両手で恭しくそれを受け取ると、真昼の所作を見つめた。
真昼が胸の前で両手を合わせ、「いただきます」と小さく頭を下げる。
ジークフリートもそれに倣い、無骨な大きな掌を胸の前でぎこちなく合わせ、真剣な面持ちで口にした。
「……い、いただきます」
所作を終えると、ジークフリートは卓上の塗り箸を手に取った。
昨日の豚汁のときにも使ったが、異世界のフォークやナイフとは異なる、この二本の細い木の棒。最初はぎこちなかった指使いも、騎士特有の驚異的な手先の器用さで、すでにしっかりと箸先を揃えて扱えている。
彼が最初に箸を伸ばしたのは、やはり中央で存在感を放っていた『出汁巻き卵』だった。
箸先が、黄色い断面に触れる。
――ぷるん。
まるで生き物のように、出汁巻き卵が柔らかく震えた。
ジークフリートがわずかに力を込めると、箸が何の抵抗もなく、スッと吸い込まれるように卵の層へと沈んでいく。
その瞬間だった。
箸で圧迫された断面から、ジュワワッと、黄金色に透き通った出汁が滝のように溢れ出し、皿の底へと広がっていったのだ。
「……っ!? 汁が……卵の中から、溢れて……!?」
驚愕の声を漏らしながら、ジークフリートは崩れそうになる大振りのひと切れを、慎重に箸で挟み上げて口の中へと運んだ。
唇を閉じ、舌の上に乗せる。
「……………………ッ!!」
ジークフリートの全身が、ビクンと跳ね上がった。
青氷の瞳が、限界まで見開かれる。
噛む必要など、どこにもなかった。
舌と上顎で優しく挟んだだけで、ふんわりと幾重にも重なっていた卵の層が、まるで朝露のように儚く、ほろりと解け崩れていったのだ。
そして、解けた瞬間――。
卵の中に閉じ込められていた、信じられないほどの量の熱い出汁が、口いっぱいに洪水となって溢れ出した。
昆布の澄み切った上品な旨味と、本枯節の燻製の如き力強い薫香。
それが、新鮮な卵のまろやかなコクと混ざり合い、舌の味蕾という味蕾を優しく、だが圧倒的な力で満たしていく。
甘さはごく控えめで、醤油と塩のほのかな輪郭が、出汁の輪郭をくっきりと浮き彫りにしていた。
「……っ! 口の中で、汁が……ほどける……! 柔らかい……固形物のはずなのに、まるで出汁そのものを噛んでいるかのようだ……!」
ジークフリートは感動のあまり喉を詰まらせ、夢中で二口目を頬張った。
ジュワリ、ジュワリと、噛むたびに出汁が溢れ出す。
その芳醇な余韻が口内に残る中、真昼が微笑みながら声をかけた。
「ジークさん、すかさずご飯をかき込んでみてください!」
促されるまま、ジークフリートはお茶碗を持ち上げ、山盛りの白米を口元へと運んだ。
箸で大きめの塊をすくい、口の中へ放り込む。
――ハフッ、ハフッ。
熱い米粒が、舌の上で踊る。
出汁巻き卵の豊かな旨味が残る口内で、白米のデンプンが噛むほどに甘みへと変わっていく。
出汁の塩気と米の甘みが混ざり合い、得も言われぬ幸福感が脳髄を突き抜けた。
「う……美味い……! 米が、一粒一粒立っている……! 昨日のおむすびも凄まじかったが、この炊きたての熱い米は、噛むほどに甘みが溢れ出してくる……!」
ジークフリートの箸の勢いは、もはや誰にも止められなかった。
続いて、香ばしく焼き上がった鮭の塩焼きへと箸を伸ばす。
箸を入れると、パリッという快音とともに狐色の皮が弾け、中からふっくらとした桜色の身が現れた。脂がじわりと滲み出ている。
大根おろしをたっぷりと乗せ、身と一緒に口へ放り込む。
――ジュワッ、サクッ。
香ばしい焼き目の苦みと、鮭の凝縮された濃厚な塩気、そして鮭自身の脂の甘み。
そこへ、大根おろしの瑞々しい清涼感と生醤油の香りが加わり、脂っこさを一瞬でさっぱりとした後味へと昇華させる。
そして、その直後に待ち受けるのは、もちろん――白米だ。
鮭の塩気が口の中に残っているうちに、すかさず土鍋のご飯をガツガツとかき込む。
卵を食べては、米を喰らい。
鮭をかじっては、米をかっこむ。
合間にすする赤だしの味噌汁が、豆腐の滑らかな舌触りとともに喉を潤し、再び新たな一口への食欲を爆発させる。
まさに、無限の黄金ループ。
冷徹で知られ、王都の夜会でも一口の食事にすら眉を動かさなかったシルヴァ辺境警備騎士団長が、今や背筋を丸め、無我夢中で茶碗に顔を埋めていた。
カチャカチャ、カチャカチャと、箸と茶碗が触れ合う小気味のいい音だけがテラスに響く。
あっという間に、山盛りだった一杯目の白米が消え去った。
茶碗の底に米粒ひとつ残さず平らげたジークフリートは、ハッと我に返ったように動きを止めた。
そして、空になった茶碗を両手でしっかりと握りしめ、耳を林檎のように真っ赤に染めながら、恐る恐る真昼を見上げた。
「……あ、あの……真昼殿……」
「はい?」
「……おかわりは……あるだろうか……」
消え入りそうな、だが切実極まりない声。
真昼は満面の笑みを浮かべ、土鍋の蓋をコトコトと鳴らした。
「はい、まだまだたっぷり炊いてますよ! 遠慮しないでどんどん食べてください!」
真昼が差し出された茶碗を受け取り、二杯目のご飯を大盛りに装うと、ジークフリートの青い瞳がパッと輝いた。
「感謝する……!」と短く礼を言うやいなや、彼は再び凄まじい勢いで箸を動かし始めた。
二杯目も瞬く間に胃袋へと吸い込まれ、皿の上の出汁巻き卵も鮭も、綺麗さっぱりと消えていく。
そして、信じられないことに――。
「……すまない、もう一杯だけ……お願いできるだろうか」
「はいっ、三杯目ですね!」
結局、ジークフリートは大盛りの白米を実に三杯、土鍋の底に張り付いた香ばしいお焦げまで綺麗に平らげたのだった。
「ふはぁ……っ……」
三杯目を完食したジークフリートは、空になった土鍋と皿を見つめ、まるで重労働を終えた戦士のように深く、満足げな溜息を吐き出した。
背もたれに深く身体を預け、お腹のあたりをさすりながら、夢見心地の表情で木漏れ日を見上げている。
その顔には、昨日までの険悪な影など微塵も残っていなかった。
「……ごちそうさまでした。……こんな美味い朝食は、我が人生で初めてだ。身体の芯から、力がみなぎってくる……」
「お粗末様でした! たくさん食べてもらえて、作り甲斐がありました」
真昼が嬉しそうに食器を片付け始めると、足元から「くぅん」と甘えた声が上がった。
見下ろすと、ベルが真昼の足首にすりすりと頭を擦り付けていた。
真昼は苦笑し、ポケットから小さな小皿を取り出した。
そこには、今朝の出汁引きの際に使った、削りたての本枯節の削り節が、ふんわりと山盛りに盛られていた。
「はい、ベルもお利口に待っててくれたもんね。ご褒美の鰹節だよ」
「わふっ!」
ベルは歓喜の声を上げ、小皿へと飛びついた。
サクサク、ハフハフと、小さな舌で極上の本枯節を夢中になって頬張る。
あっという間に小皿をピカピカに舐め終えたベルは、ふうと息をつくと、満腹でぽんぽこになったお腹を抱えてベンチの上へと飛び乗った。
そして、隣で満足そうに座っているジークフリートの顔をじっと見上げ――。
「ふぁぁぁぁぁ……」
まるで、「まったく、よく食う大男だな」とでも言いたげに、わざとらしく大きなあくびを一発かましたのだった。
「……な、なんだその目は。私は正当な労役の対価として朝食をいただいたのだぞ」
ジークフリートが真面目な顔で子犬サイズの神獣に言い訳をすると、ベルはぷいっと顔を背け、丸くなって眠り始めてしまった。
その微笑ましいやり取りを眺めながら、真昼はあたたかな笑い声を零した。
初夏の風が、森の木々を優しく揺らしていく。
美味しくて、あたたかくて、心もお腹も満たされる朝ごはん。
ふたつの世界を跨ぐこの小さな小屋で、真昼とジークフリート、そしてベルの穏やかな朝の日常は、こうして確かな絆とともに、一歩ずつ刻まれていくのだった。




