第7話:翌朝の薪の山と、待機する男
ジリリリリ、と枕元の目覚まし時計が鳴り響く直前、真昼はすっと自然に目を開けた。
柱時計の長針が天を指し、短針が五の文字を捉えている。午前五時ちょうど。
かつて都会のマンションで暮らしていた頃は、三つも四つもセットしたスマートフォンのけたたましいアラームに無理やり叩き起こされ、鉛のように重い身体を引きずりながら「まだ死んだように眠っていたい」と枕に顔を埋めていたものだった。
けれど今朝は、驚くほど頭の芯が冴え渡っていた。
薄い掛け布団を静かにめくると、足元で丸まっていた白い毛玉――ベルが、ふわりと尻尾を揺らして目を覚ます。
「くぅ……ん」
喉の奥で甘えたような微かな声を漏らし、前足をぐっと伸ばしてあくびをひとつ。
昨日の出来事は、果たして夢ではなかったのだろうか。
白銀の甲冑を纏った冷徹な騎士団長。限界を迎えて倒れ込み、真昼が差し出した熱々の豚汁と塩むすびを貪るように平らげ、大粒の涙をぼろぼろと零したあの美貌の青年。
結局あの後、ジークフリートはお代わりの豚汁を二杯、塩むすびをさらに三つ平らげ、土気色だった顔にすっかり赤みを差して宿舎へと帰っていったのだ。去り際、彼は耳の付け根まで真っ赤に染め上げながら、「……明朝、必ずや礼をさせてもらう」と硬い声で言い残していたけれど――。
「お礼なんて、本当に気にしなくていいのにね」
真昼はクスリと笑いながら敷布団を畳み、居間の雨戸を静かに開けた。
サァッ、と庭の青々とした竹林を渡る初夏の朝風が吹き込み、薄暗かった古民家に清々しい暁の光が満ちていく。
洗面所へ向かい、蛇口を捻って冷たい井戸水で顔を洗う。掌に受ける水は澄み渡り、肌の引き締まる感触が心地いい。手ぬぐいで水気を拭い、髪を後ろでひとつに束ね、動きやすい薄手のスウェットに祖母の形見の木綿の割烹着を重ねる。
首元に手を当てると、服の下に忍ばせた真鍮の鍵が、確かな重みをもって皮膚に触れていた。
「よし、ベル。あっちのログハウスの様子を見に行こうか」
「わふっ」
真昼の足首にすり寄っていたベルが、軽快に短い尻尾を振りながら、奥納戸へ向けてトコトコと先導するように歩き出す。
薄暗い納戸の奥。
南京錠の外された押し入れの前に立ち、真昼は息を吸って襖を横に引いた。
――ガタ、カラリ。
敷居の向こう側から流れ込んでくるのは、古民家の朝とはまた異なる、しっとりと冷涼な針葉樹と深い苔の芳香だ。
すっかり慣れた足取りで敷居をまたぎ、ふかふかの苔の絨毯へと降り立つ。
朝霧が木々の足元を白く漂い、梢の隙間からは淡い金色の朝日が幾筋も差し込んで、森全体を神々しいエメラルドグリーンの光で満たしていた。
鳥たちの澄んださえずりに耳を澄ませながら、小道を抜けてログハウスへと向かおうとした――その時だった。
――スパーンッッ!!
静謐な森の大気を切り裂くように、乾いた、凄まじく小気味のいい破裂音が響き渡った。
真昼の肩がビクッと跳ね上がる。
「な、なに……!?」
――スパーンッ! コロン。
――スパーンッ! コロン。
一定のリズム。機械の正確さを思わせる、寸分の狂いもない一定の間隔で打ち鳴らされるその音は、破壊的な轟音というよりも、熟練の職人が奏でる澄んだ打楽器の音色に似ていた。
ベルは驚く様子もなく、むしろ「やれやれ」とでも言いたげに耳を伏せ、テラスの方を向いて小さく鼻を鳴らしている。
小走りで木立を抜けた真昼は、広場に出た瞬間、あまりの光景にその場に縫い止められた。
「……う、そ……でしょ……?」
開いた口が塞がらなかった。
ログハウスの軒下。
昨日はただ吹き溜まりの落ち葉と湿った土が広がっていたはずのテラスの壁際に、異様な構造物が忽然と出現していたのだ。
それは、壁一面を天井の軒下ギリギリまで埋め尽くすように、幾何学的なまでに美しく積み上げられた――『薪の山』だった。
一本一本の長さが寸分違わず完全に切り揃えられ、太さも均一。皮の向きまで綺麗に揃えられた薪が、まるで古代の石垣のように強固に、整然と組み上げられている。
その量は、尋常ではなかった。
小柄な真昼の背丈を遥かに超え、幅は十メートル近くに及んでいる。これだけの量があれば、冬の厳しい寒風が吹き荒れようと、ゆうに二冬、いや三冬は暖炉と薪ストーブを絶やさずに暮らせるのではないかという圧倒的な物量。
丸太の木屑ひとつ落ちていない。周囲の地面は驚くほど綺麗に掃き清められ、まるで最初からそこにあった美術品のように森の木漏れ日を浴びていた。
そして。
その巨大な薪の城の真横に、ひとつの人影が佇んでいた。
「…………」
昨日の白銀の全身甲冑姿ではない。
身につけているのは、厚手の丈夫な濃紺のリネンで仕立てられた、騎士団の活動服だった。
無駄な装飾の一切を省いた機能的な隊服は、鍛え上げられた無駄のない筋肉の隆起を浮き彫りにしている。両袖は肘の上まで無骨に捲り上げられ、日焼けのない白い前腕には、力仕事の直後であることを物語る男らしい青筋が幾筋も浮かんでいた。
右手には、刃こぼれひとつない重厚な鉄の薪割り斧。
金糸の髪が朝風にサラサラと揺れ、彫刻のように端正な横顔には、早朝の汗がわずかに光っている。
シルヴァ辺境警備騎士団長、ジークフリート・フォン・ヘスラー。
彼は斧の柄を地面に突き、直立不動の姿勢で、まるで閲兵式に臨む軍人のように微動だにせずそこに立っていた。
「だ、団長さん……!?」
思わず叫んだ真昼の声に、ジークフリートの肩がピクリと跳ねた。
氷河の底のように透き通った青氷の瞳が、ゆっくりと真昼の方へと向けられる。
昨日のあの土気色だった顔色や、激痛に顔を歪めていた痛々しさは完全に消え去り、そこには凛とした、圧倒的な威厳を放つ若き将の美貌が戻っていた。
だが。
真昼と完全に視線が交錯した瞬間――。
「ッ……」
ジークフリートの端正な顔が、目に見えて強張った。
冷徹無比なはずの瞳が泳ぎ、視線が右へ左へと彷徨う。
そして、白磁のような彼の肌が、首筋から耳の先端にかけて、みるみるうちに林檎のように真っ赤に染め上がっていったのだ。
昨日、人前で大号泣しながら豚汁を貪り食い、彼女の手ぬぐいで涙を拭ったという記憶が、朝の冴え渡った脳裏に鮮烈に蘇ったに違いなかった。
ジークフリートは誤魔化すようにゴホンと大きく咳払いをひとつすると、直角に向き直り、胸当てに右拳を当てる騎士の礼をビシッと取った。
「……おはよう、真昼殿。昨日は……その、甚だ見苦しい姿を晒した」
低く、重厚な美声。
だが、その声音には隠しきれない動揺と羞恥が滲んでいた。
真昼は呆気にとられたまま、テラスの階段を上がり、彼の背後にそびえ立つ薪の巨壁を見上げた。
「あ、おはようございます……。あの、団長さん。これ、一体なんですか……?」
「薪だ」
ジークフリートは至極真面目な顔で、斧の切っ先を薪の山へと向けた。
「見れば分かると思いますが! どうしてこんな、ひと冬どころか数年分ありそうな量が、一晩で積み上がってるんですか!?」
「昨日の恩義を返すためだ」
ジークフリートは背筋をこれ以上ないほどピンと伸ばし、視線を真昼の頭上五センチあたりに固定したまま、滑らかな口調で語り出した。
「私はヘスラー公爵家の三男であり、シルヴァ辺境警備騎士団を預かる身。騎士たる者、見ず知らずの女性から無償の施しを受け、そのまま看過するなどという不義理は万死に値する。貴殿がこの小屋を拠点とするにあたり、最も労力を要する燃料の確保を代行することは、受領した温情に対する最低限の責務であると判断した」
「最低限って量じゃないですよこれ!?」
真昼がツッコミを入れると、ジークフリートはわずかに眉を寄せ、困惑したように視線を薪の山へと落とした。
「……多すぎたか? 周辺の風倒木や枯損木を剪定し、火持ちの良いナラの類を選別して割ったのだが……。繊維の目を読み、正確に刃を落とせば、この程度は三時間もあれば片付く」
「三時間でこれを……!? あなた、一体何時にここに来たんですか!?」
「午前四時前だ」
「早すぎます!!」
思わず叫んだ真昼に、足元で座り込んでいたベルが「ふぁぁ」と大きなあくびを重ねた。
呆れ果てて額を押さえる真昼の姿を見て、ジークフリートは自分の行いが何か不手際だったのではないかと不安になったのか、青い瞳をわずかに揺らした。大柄な騎士が、叱られた大型犬のようにほんの少しだけ身を縮こまらせる。
「……迷惑、だっただろうか。勝手に敷地へ立ち入り、騒音を立てたことは謝罪する。不要であれば、隊の宿舎へすべて運び出すが……」
「あ、いえ! 迷惑なんてとんでもないです! すごく助かります! 私ひとりじゃ、小枝を集めるのが精一杯でしたから……本当に、ありがとうございます」
真昼が慌てて手を振って笑顔を向けると、ジークフリートの表情がパッと明るくなった。目に見えてホッとしたように胸を撫で下ろす仕草が、普段の冷徹な佇まいとの凄まじいギャップを生み出していて、真昼は胸の奥がくすぐったくなる。
「役に立てたのなら重畳だ。……森の木々は豊富にある。必要であれば、いつでも割増しで補充しよう」
「いや、当分はこれで十分すぎますから!」
真昼が笑うと、ジークフリートは再びコホンと咳払いをし、居住まいを正した。
斧を壁際に丁寧に立てかけ、紺色の隊服の襟元を正すと、真昼の正面へと歩み寄ってくる。
その顔は、まるで領主へ重要機密の報告を行うかのように、極めて厳格で、真剣そのものだった。
「……真昼殿。ついては、折り入って提案がある」
「はい? なんでしょう」
「此度の薪割り、ならびにこの小屋周辺の害獣の掃討、および警備巡回を、今後私の日課として毎朝引き受けたい」
「えっ? 毎朝ですか? でも、団長さんのお仕事があるんじゃ……」
「私の朝の鍛錬と哨戒の範囲を、この森の深部まで拡大するだけだ。公務に何ら支障はない。……だが、無償の奉仕は双方の均衡を崩す」
ジークフリートはそこで一度言葉を切り、ごくりと喉を鳴らした。
そして、彫刻のような美貌を極限まで真面目腐らせ、とんでもない要求を堂々と口にしたのだ。
「ついては……その労役の代金代わりに。今朝の、貴殿の手による朝食を所望したい」
「………………はい?」
真昼は目をパチクリとさせた。
朝食を所望したい。
威風堂々たる辺境警備騎士団長が。
毎朝の重労働と警備を請け負う交換条件として提示してきたのが、まさかの『朝ごはん』。
ジークフリートは真昼の返答を待つあいだ、じっと息を潜めていたが、沈黙に耐えかねたのか、耳を真っ赤にしたまま早口で補足を付け足した。
「も、もちろん、貴殿の負担になるような贅沢を要求するつもりはない! 昨日いただいたような、汁物一杯と米の塊ひとつで構わないのだ! ……宿舎の食事では、どうしても喉を通らんのだ。昨夜、宿舎へ戻ってからというもの、あの出汁の香りが……温もりが、頭から離れず……っ」
必死に弁明するジークフリート。
大きな体躯を強張らせ、真昼の顔色を伺いながら、まるで「ご飯をください」と懇願する捨て犬のような瞳でこちらを見つめてくる。
その姿のあまりの純粋さと、不器用すぎる真っ直ぐさに――。
「……ぷっ、あははははっ!」
真昼は堪えきれず、腹を抱えて吹き出してしまった。
朝の澄んだ森の空気に、真昼の澄んだ笑い声がカラカラと響き渡る。
「なっ……な、何を笑っているのだ、真昼殿! 私は至極大真面目に交渉を――」
「あはは、ごめんなさい! 怒らないでください! でも、団長さん、面白すぎます!」
真昼は目尻に浮かんだ涙を指先でぬぐい、満面の笑みでジークフリートを見上げた。
都会にいた頃の真昼の周りには、他人の成果を横取りし、理不尽に怒鳴り散らし、責任を押し付け合う人間ばかりだった。
こんな風に、山のような薪を割ってまで、ただ一杯の朝ごはんのために真っ直ぐ頭を下げてくるような人なんて、一人もいなかった。
なんて愛おしくて、なんてあたたかい人なのだろう。
「いいですよ。毎朝の朝ごはん、喜んで作らせてもらいます」
「……! 本当、か……?」
ジークフリートの青い瞳が、まるで宝物を見つけた子どものようにキラキラと輝いた。
「はい。その代わり、無理な薪割りは禁止ですからね。……今朝の朝ごはん、これから急いで作りますから。まずはこれでも飲んで、身体を温めて待っててください」
真昼はそう言うと、テラスを駆け下り、押し入れゲートをくぐって古民家の台所へと走った。
***
古民家の台所へ戻った真昼は、土間のかまど……ではなく、手早くガスコンロにやかんをかけた。
井戸水が沸くのを待つあいだ、食器棚の奥から祖母タエが愛用していた茶器を取り出す。
艶やかな黒褐色の萬古焼の急須。
そして、内側が真っ白で、外側に淡い染付が施された、小ぶりな湯呑み茶碗をふたつ。
茶筒の蓋を開けると、ふわりと立ち上ったのは、どこか懐かしく、清々しい緑の香りだ。
静岡産の、上質な深蒸し煎茶。
茶葉は細かく砕かれ、濃い深緑色をしている。
「お茶は、熱湯をそのまま注いじゃダメなんだよね」
昔、祖母が縁側で教えてくれた作法を思い出しながら、真昼は丁寧に手を動かした。
沸騰したばかりの熱湯を、まずはふたつの湯呑みへ均等に注ぐ。
湯呑みを温めると同時に、注がれた湯の温度を八十度前後の適温まで下げるためだ。急激な熱湯を茶葉にぶつけると、渋み成分であるタンニンが過剰に抽出され、繊細な旨みや甘みが消し飛んでしまう。
湯呑みが手で持てる程度の温かさになったところで、急須へティースプーン二杯分の茶葉を投入する。
そして、湯呑みの湯を静かに急須へと移し入れた。
蓋をして、じっと待つこと約四十秒。
深蒸し茶は茶葉が細かいため、抽出時間は短くていい。急須の小さな穴から、茶葉がゆっくりと開き、凝縮されていた甘みとアミノ酸が湯の中へ溶け出していく。
真昼は湯呑みを並べ、交互に、少しずつ注ぎ分けた。
トトト……トトト……。
『廻し注ぎ』。
濃度と温度を均一にするため、二つの湯呑みを行き来しながら注ぎ、最後の一滴――最も旨味が凝縮された『ゴールデンドロップ』まで、しっかりと落とし切る。
湯呑みの中に満たされたのは、息を呑むほどに鮮やかな、濃い若草色の水面だった。
透明感のある萌黄色の湯気が、ふわりと立ち上り、台所中を清らかな香気で満たす。
真昼は小さな竹の角盆に湯呑みをふたつ乗せ、急須とともに抱えて、再び押し入れのゲートをくぐった。
***
森のログハウスのテラスに戻ると、ジークフリートは言われた通り、木製のベンチに背筋をピンと伸ばして腰掛けていた。
その足元には、すっかり警戒を解いたベルが丸くなり、ジークフリートのブーツの先にあごを乗せて気持ちよさそうに目を細めている。神獣に懐かれ、身動きが取れずに固まっている騎士団長の姿が、なんとも微笑ましい。
「お待たせしました。お茶が入りましたよ」
「あ、ああ……すまない、真昼殿」
ジークフリートは恐縮したように身体を固くしながら、真昼がお盆を置くスペースを空けた。
真昼はテーブルに湯呑みをひとつ、ジークフリートの目の前へと滑らせる。
「緑茶っていう、私の故郷のお茶です。労働の後ですから、喉が渇いたでしょう。熱いので気をつけて飲んでくださいね」
ジークフリートは手袋を外した大きな掌で、湯呑みをそっと包み込んだ。
白磁の器に映える、鮮やかな若草色。
鼻腔をくすぐるのは、森のハーブとも王都の紅茶とも違う、深く蒸された茶葉が放つ、青々しくも温かい芳香。
「……綺麗な、色だな」
感嘆の声を漏らし、ジークフリートは湯呑みを口元へと運んだ。
フーフーと軽く息を吹きかけ、静かに一口、含む。
「…………ッ」
ジークフリートの喉仏が、小さく動いた。
青氷の瞳が、驚きに見開かれる。
まず舌を打ったのは、爽快なほろ苦さと、心地よい渋み。だが、それは一瞬で消え去り、直後に押し寄せてきたのは、信じられないほど濃厚な『甘み』と『まろやかさ』だった。
喉を通るたび、早朝の薪割りで乾ききっていた喉と肺腑が、清らかな潤いで満たされていく。
胃の腑に落ちると、温かい熱がじんわりと胸全体に広がり、張り詰めていた神経が、すうっと穏やかに解きほぐされていくのが分かった。
「……美味い……。苦みがあるのに、その奥から驚くほど甘い風味が広がる……。泥水のように渋い王都の茶とは、まるで別物だ」
「ふふ、良かったです。深蒸し茶って言って、茶葉を長めに蒸して作ってあるから、甘みがしっかり出るんですよ」
真昼も自分の湯呑みを手に取り、向かいの丸太椅子に腰を下ろして、ふぅと一口啜った。
五臓六腑に染み渡る、慣れ親しんだ日本の味。
目の前には、湯呑みを両手で大事そうに抱え、目を細めてお茶を味わう美貌の騎士団長。
足元には、のんびりと寝息を立てる伝説の神獣。
頭上からは、初夏の柔らかな木漏れ日が降り注ぎ、清々しい森の風が二人の間を吹き抜けていく。
「団長さん」
「……ジークフリートでいい」
湯呑みから顔を上げた青年が、少し照れくさそうに視線を落としながら言った。
「軍の肩書など、ここでは無用だ。……ジークと呼んでくれ」
「じゃあ、ジークさん」
真昼が微笑むと、ジークフリート――ジークは、嬉しそうに口元をわずかに緩めた。
「お茶を飲み終わったら、すぐに朝ごはん作りますね。今朝は……そうですね、卵とお魚と、炊きたての白いご飯にしようかな」
「……期待して、待っている」
静かな森の朝、緑茶の優しい湯気の向こうで。
ふたつの世界を結ぶあたたかな朝食の時間が、今日ここから、本当の日常として動き出そうとしていた。




