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第20話:黒鉄のかまどと、煙の消えた台所

朝霧が木々の梢を撫で、森がゆっくりと白藍色の夜明けから目覚めていく。

古民家の奥納戸、真鍮の鍵を胸元で握りしめた真昼は、いつものように押し入れの襖を引いた。

ひんやりとした針葉樹の芳香と湿り気を含んだ大気が肌を撫でる。ふかふかの苔の絨毯を踏みしめ、ベルが真昼の足元を軽やかに先導していく。

昨日の豚バラ大根の一件で、あの頑固一徹な鍛冶師バルトは「専属鍛冶屋にしてくれ」と魂の叫びを上げて去っていった。嵐のような男だったが、包丁の刃先は見違えるほどに研ぎ澄まされ、今朝も試し切りした紙を音もなく切り裂くほどの輝きを放っている。

あの職人気質の親父さんのことだから、また近いうちに顔を出すかもしれない――そう思っていた真昼だったが、まさかこれほど早いとは思っていなかった。


――ガラガラガラッ! ドガタプッ、ギィィィッ!


木立の小道を抜けてログハウスの広場が見えた瞬間、真昼は思わず足を止めた。

静謐であるはずの早朝の森に、荷車の車輪が軋むけたたましい音と、男たちの威勢のいい野太い掛け声が響き渡っていたのだ。


「オーライ、そこで止めろ! 馬を繋いで輪留めを噛ませ! レンガを崩すんじゃねえぞ、角が欠けたら叩き割るからな!」

「へ、へい親方! 鉄板、こっちに下ろします!」

「馬鹿野郎、そいつは二人がかりで運べって言っただろうが! 腰を言わすぞ!」


広場の中央には、二頭立ての頑丈な輓馬(ばんば)に引かれた巨大な荷車が二台、どっしりと居座っていた。

荷台の上に山積みにされているのは、赤茶色に焼き締められた分厚い耐火レンガの山、青黒い光沢を放つ巨大な黒鉄の天板、そして職人の手で美しく筒状に成形された耐火煙突の部材の数々。

その中央で、筋骨隆々の太い腕を振り回して指図を飛ばしていたのは、牛革のエプロンを纏った鍛冶師バルトその人だった。

その後ろには、同じような作業着を着た若い見習い鍛冶師たちが四人、汗だくになりながら資材をウッドデッキの前へと運び下ろしている。


「ば、バルトさん……!? これ、一体なんの騒ぎですか!?」

真昼が駆け寄ると、バルトは太い眉を跳ね上げ、豪快に髭を震わせて笑った。


「おう、真昼の嬢ちゃん! 早いお出ましだな! 見ての通り、約束を果たしに来たのさ!」

「約束って……これ、全部建築資材ですよね!?」

「当たり前だ!」

バルトは胸板をドスンと叩き、ログハウスの扉を親指で指し示した。


「昨日、あの台所をつぶさに観察させてもらったがな……あの黒い箱、青い火を吹く魔道具(※カセットコンロのこと)は確かに便利だ。ありゃあすげえ技術だよ。だがな、あんな薄っぺらい安物の台座に頼ってちゃいけねえ! あの程度の火力じゃあ、大きな鉄鍋やぶ厚い土鍋を二つ同時にガンガン炊き上げるにゃあ熱量がまるで足りねえんだ! 最高の飯炊きには、薪の強火を余すところなく受け止め、自在に操る『最高の火床』が必要不可欠なんだよ!」

「最高の火床……」

「そうだ! あの部屋の隅にある古くせえ暖炉を解体して、俺が最初から組み直してやる! 嬢ちゃんが立ったまま思い通りに腕を振るえる、特製の二連かまどだ!」


バルトの瞳には、職人としての純粋な情熱の炎がメラメラと燃え盛っていた。

そこへ、広場の奥から薪を両腕いっぱいに抱えたジークフリートが姿を現した。

いつものように糊のきいた真っ白なリネンエプロンをきっちりと身に纏い、背筋をピンと伸ばした騎士団長。彼は荷車とバルトの姿を見るやいなや、青氷の瞳をわずかに細めた。


「バルト。朝一番から弟子総出で押し寄せるとは何事だ。真昼の平穏を脅かすような真似は許さんと言ったはずだが」

「へっ、お堅い騎士団長様のお出ましだな! 脅かすどころか、生活の根幹を補強してやろうってんだよ! おいジークの坊主、手隙なら遊んでねえでそこの耐火レンガを運べ! お前さんのその無駄に鍛えた筋肉なら、一度に十個は持てるだろうが!」

「……無駄とは心外だな。だが、真昼の厨房がより快適になるというのなら、資材運びなど造作もない」


冷徹な騎士団長は、嫌味をさらりと受け流すと、エプロンの裾をさっと払って荷車の横へと歩み寄った。

そして、大人が両手で抱えるような重たい耐火レンガを、片手で軽々と五個ずつ、計十個も持ち上げてログハウスの中へと運び込み始めたのだ。

見習いの弟子たちが「う、嘘だろ……団長閣下が怪力でレンガを運んでる……」「しかも白前掛け着けてるぞ……」と小声で怯えながら囁き合っている。

足元ではベルが「わふ」と一声鳴き、邪魔にならないようウッドデッキの隅の日だまりに座り直して、職人たちの作業を見守り始めた。


***


そこからのバルトの仕事ぶりは、まさに圧巻だった。


「よし、野郎ども! 旧式の暖炉を解体するぞ! 梁と床板を傷つけんじゃねえぞ、慎重かつ迅速にやれ!」

「「「へいッ!!」」」


ガガガガンッ! カツン、カツンッ!

小気味のいい鏨(たがね)と金槌の音がログハウス内に響き渡る。

煤で黒ずんでいた旧式の石積みが手際よく取り外され、不要な瓦礫が瞬く間に屋外へと運び出されていく。

バルトは水平器と墨壺を手に取り、床と壁の傾きを厳密に計測した。


「ここが吸気口だ。外壁の下部に風穴を開け、森の清涼な空気を直接火床の底へ送り込む。こうすりゃあ薪の燃焼効率が跳ね上がり、燃えカスも残らねえ」


手際よく調合された耐火モルタルをコテで塗り広げ、赤茶色の耐火レンガが一段、また一段と積み上げられていく。

その構造は、真昼の背丈に合わせて緻密に計算されていた。

しゃがみ込んで火の番をする必要がないよう、天板の高さは真昼の腰の位置にぴったり合わせられている。

そして中央には、頑丈な耐火レンガで仕切られた二つの独立した燃焼室――『二連の火床』が姿を現した。左側は強火で一気に沸騰させるための深型構造、右側は熾火(おきび)でじっくりと弱火を保つための浅型構造。それぞれに独立した空気調節弁が取り付けられている。


「おい、鉄板を持ってこい!」


弟子たちが青筋を立てて運んできたのは、厚さ二センチ、幅一メートル半を超える巨大な黒鉄の天板だった。

バルトが自らの工房で丹念に叩き締め、油焼きを繰り返して防錆加工を施した特注品。

天板には大小二つの丸い穴が穿たれ、段差のついた鉄の五徳リングが嵌め込まれている。小さな片手鍋から、大鍋、そして真昼の萬古焼土鍋まで、ガタつくことなく完全に水平に固定できる寸法だ。

ドスン、とレンガの上に据え付けられた黒鉄の天板は、鈍い重厚な光を放ち、まるで要塞の装甲のような頼もしさを醸し出していた。


極めつけは、排煙構造だった。

以前の暖炉は煙が室内に逆流しがちだったが、バルトは屋根を貫く煙突を一新した。

内側に煤がつきにくい滑らかな二重構造の黒鉄管を通し、風向きに左右されない特殊な排気笠を頭頂部に設置。室内の煙と熱気を吸い込み、真っ直ぐに森の上空へと逃がす完璧なドラフト(上昇気流)設計だ。


「よし……モルタルの乾燥を待つ間に、火床の焼き締めをやるぞ! ジークの坊主、細かく割った乾燥薪を二束持ってこい!」

「心得た」


ジークフリートが運び込んだ薪に、バルトが火を放つ。

フッと煙が立ち上った瞬間――。

驚くべきことが起きた。

煙は室内に漂うことなく、吸い込まれるように火床の奥へと引き込まれ、黒鉄の煙突を通って屋外へと一筋の煙となって吸い出されていったのだ。

下部の吸気弁を開くと、ゴォォォ……と心地よい重低音が響き、薪の炎が一気に鮮やかな紅蓮色へと跳ね上がった。

室内には煙の臭いなど微塵も残らない。ただ、心地よい薪のはぜる音と、黒鉄の天板がじんわりと熱を帯びていく温もりだけが満ちていく。


「……できたぜ!」

バルトは額の汗を腕で乱暴に拭い、腰に手を当てて胸を張った。

時計の針は、正午を少し回ったところだった。

わずか半日で完成したとは信じられないほど、完成度の高い『石造り二連かまど』。

重厚な耐火レンガの温かみと、黒光りする鉄の天板、そしてシルバーの吸気レバーが調和し、ログハウスのキッチンはまるで本職の料理処のような風格を漂わせていた。


「どうだ嬢ちゃん! これなら薪の火力を思いのままに調節できるし、部屋に煙も籠もらねえ! 大きな土鍋で飯を炊きながら、隣で鉄鍋を使って強火で肉を炒めることだって造作もねえぞ!」

「……すごいです……!」


真昼は目を輝かせ、吸い寄せられるように黒鉄の天板の前に立った。

指先をかざすと、天板全体から均一な柔らかい放射熱が伝わってくる。

カセットコンロの手軽さも捨てがたいが、このかまどが持つ圧倒的な熱量と懐の深さは別格だ。これなら、強い火力を必要とする中華風の炒め物も、じっくりコトコト煮込むおでんやスープも、同時に、ストレスなく仕込むことができる。

何より、真昼の身長と動線に合わせてミリ単位で調整されたこの配置は、作り手の身体を心底労わって作られた温もりに満ちていた。


「バルトさん、弟子のみなさん……本当に、ありがとうございます! こんなに素晴らしいかまどを作っていただけるなんて、夢みたいです……!」

「へへっ、職人冥利に尽きるってもんよ! ……で、だ」


バルトは照れ隠しに太い鼻を擦ると、急にそわそわとした様子で自分の平らな腹をポンと叩いた。

後ろに控える弟子たちも、一斉にゴクリと喉を鳴らしている。


「これだけの大仕事をやり遂げたんだ。……嬢ちゃん、新調されたかまどの『火入れ式』と行こうじゃねえか。このかまどで作った最初の飯、俺たちにも味見させてくれるんだろう?」

「もちろんですよ! 今日はおめでたい日ですから……とっておきのごはんを用意してます!」


真昼は満面の笑みを浮かべ、腕まくりをして新品のエプロンの紐を結び直した。


***


「おめでたい日には、私の故郷ではこれを炊く習わしなんです」


真昼が奥納戸の押し入れゲートから運んできたのは、業務スーパーで仕入れておいた国内産のもち米、そして大粒の『北海道産小豆(あずき)』だった。

今朝のメニューは、かまど開きを祝う伝統の『お赤飯』。そして、冷えた身体を芯から温める、具だくさんの熱々な『豚汁』だ。


真昼はまず、小豆の下拵えに取り掛かった。

小豆を水でさっと洗い、手鍋に入れてたっぷりの湧き水とともに火にかける。

沸騰したら一度湯をすべて捨て、再び新しい水を張って弱火でコトコトと煮る――『渋抜き』の工程だ。これを行うことで、小豆特有の強いアクとえぐみが抜け、澄んだ上品な風味に仕上がる。

指先でつまんで、わずかに芯が残る程度の硬さまで煮上がったところで火を止める。

ザルに小豆をあけ、煮汁をボウルに受ける。

空気に触れさせながらお玉で煮汁をすくい、高い位置から何度も落とすようにして冷ましていく。

すると、煮汁に含まれるアントシアニンが酸素と結びつき、見る見るうちに鮮やかで深みのある赤紫色へと発色していった。


ボウルに洗ったもち米を入れ、この赤紫色の煮汁に浸す。

米粒が煮汁を吸い込み、ほんのりと桜色に染まっていく。

十分に水を吸わせたもち米と下茹でした小豆を合わせ、新調された萬古焼の土鍋へと移し入れた。


「いよいよ、新しいかまどに火を入れます!」


真昼は左側の火床に、ジークフリートが割ってくれた細い薪をくべ、火をつけた。

下部の吸気弁を開くと、ゴォッと吸気音が鳴り、紅蓮の炎が力強く立ち上がる。

黒鉄の天板の五徳へ、もち米と小豆の入った土鍋を置く。

驚くほど安定していた。ガタつきなど微塵もなく、土鍋の底全体を炎が均等に包み込んでいく。

やがて、土鍋の蓋の穴から、シュルシュルと勢いよく白い蒸気が噴き出し始めた。

立ち上る蒸気は、煙突のドラフトに吸い寄せられ、部屋に籠もることなく換気管へと吸い込まれていく。

そして室内を満たしたのは――蒸されたもち米の甘く濃密な香りと、小豆の素朴で力強い大地の薫香だった。


その隣、右側の火床には、大鍋にたっぷりの豚汁をセット。

ごま油で炒めた豚バラ肉、大根、人参、ごぼう、長ネギを、利尻昆布と本枯節の出汁でコトコトと煮込む。

二つの火床が同時に、それぞれの理想的な火力で音を立てている。

土鍋から香ばしいお焦げの匂いが微かに漂い始めた瞬間、左側の吸気弁を閉めて熾火にし、じっくりと蒸らしに入った。


「よしっ……お赤飯、炊き上がりました!」


真昼が土鍋の重い二重蓋を持ち上げた。


――ホワァァァァッッッ!!


純白の蒸気の向こうから現れた光景に、周囲を取り囲んでいた男たちから、一斉に「おおおおっ……!」と地鳴りのような歓声が上がった。

土鍋の中に満たされていたのは、息を呑むほどに美しい、淡い小豆色の輝きだった。

もち米の一粒一粒が、割れることなくふっくらと立ち上がり、光を浴びて真珠のように艶やかに煌めいている。

その合間に散らばる、ふくよかに煮含められた赤黒い小豆たち。

真昼は木製のしゃもじを濡らし、底から大きく空気を含ませるようにして切り混ぜた。

モチッ、モチッと、米粒同士が心地よい弾力で寄り添い合う手応え。

熱々の赤飯を大きめの平茶碗によそい、仕上げに、フライパンで香ばしく乾煎りした黒ごまと天然の粗塩を合わせた『特製ごま塩』を、パラパラと高い位置から振りかける。


黒鉄のかまどの天板の上に、湯気を上げる赤飯の茶碗と、根菜がどっさりと入った豚汁の木椀が並べられた。


***


「さあ、皆さん! 冷めないうちにどうぞ召し上がってください!」


真昼の声に促され、ウッドデッキに据えられた丸太テーブルを囲み、バルト、弟子たち、そしてジークフリートが席に着いた。

全員が胸の前で手を合わせ、真昼に倣って「いただきます」と唱和する。


バルトは待ちきれないとばかりに、塗り箸で山盛りの赤飯を大きくすくい上げた。

もち米が重みでしなり、湯気とともに甘い穀物の香りが立ち上る。

大口を開け、一気に口の中へと放り込んだ。


――ハフッ、モチッ……!


刹那、バルトの全身がビクンと硬直した。


「……………………ッ!?」


噛み締めた瞬間、まず訪れたのは、これまでに経験したことのない強烈な『弾力』だった。

普段の白米のようなサラリとした解け方ではない。

歯を押し返してくるような、力強く、それでいて驚くほど滑らかで吸い付くようなモチモチ感。

噛めば噛むほどに、もち米自身の濃厚なデンプンの甘みがじわりと溢れ出してくる。

そこへ、小豆のホクホクとした素朴な食感と、豆特有の深くまろやかな風味が重なり合う。

そして何よりも――上に振りかけられた、ごま塩の塩梅(あんばい)。

炒りごまがプチッと弾けるたびに香ばしい油の香りが鼻腔を抜け、粗塩のキリッとした塩気が、もち米の甘みを爆発的に引き立てていた。


「な……なんだこの米の弾力は……!? モチモチしてんのに、重たくねえ……! 噛めば噛むほど、甘みが泉みてえに湧き出てきやがる……!」

「う、うめぇ……! 親方、これすげえよ! 豆が柔らかくて、塩とごまの加減がたまらねえっす!」

「豚汁と一緒に流し込むと、さらにヤバいぞ……!」


若い弟子たちも我を忘れて赤飯をかき込み、出汁の染み渡った熱々の豚汁を木椀ごと煽っている。

隣では、ジークフリートが背筋を伸ばし、感嘆の息を漏らしながら赤飯を咀嚼していた。


「……美味いな。小豆の煮汁で米を染め上げるとは、なんと雅(みやび)な技法だ。塩気と甘みの均衡が見事にとれている。……このかまどの均一な火の通りが、もち米の芯まで完璧に熱を届けている証拠だな」

「へへっ、分かってんじゃねえか坊主!」


バルトは豪快に笑い飛ばすと、茶碗を両手で持ち直し、猛烈な勢いで赤飯を胃袋へと流し込んでいった。

ガツガツ、ハフハフと、無心で飯を喰らう鍛冶師たち。

もち米の圧倒的な腹持ちと満足感が、労働で乾ききっていた男たちの肉体を、芯から満たしていく。

大鍋いっぱいに炊いたはずの赤飯と豚汁は、瞬く間に空っぽになり、土鍋の底に残った香ばしいお焦げまで、バルトと弟子たちの手によって綺麗に平らげられたのだった。


***


「……ぐはぁぁぁぁっ! 食った食った! 腹がはち切れそうだぜ!」


空になった器を置き、バルトは大の字になってナラのウッドデッキへと倒れ込んだ。

弟子たちも満足そうに腹をさすり、ウッドデッキの心地よい木漏れ日の中で転がっている。

バルトは青空を見上げながら、太い笑い声を森に響かせた。


「おい、真昼の嬢ちゃん!」

「はい、バルトさん」

「こんな美味い飯を食わせてくれるんならよ……かまどどころか、屋根でも床でも、壁の補修でも何でも言ってきな! 俺と弟子たちの腕がありゃあ、この小屋を王宮よりも頑丈な城に仕立て直してやるぜ!」

「ふふ、頼もしいです。でも、今のままでも十分すぎるくらいですよ」


真昼が嬉しそうに笑うと、ジークフリートもまた、エプロンの胸元をそっと正しながら小さく頷いた。


「かまどの排煙性能、火力ともに申し分ない。……これで真昼が調理中に煙で目を痛めることもなくなったな。バルト、貴殿の仕事だけは認めてやろう」

「けっ、お前に認められなくたって、嬢ちゃんが喜んでくれりゃあそれで十分だ!」


憎まれ口を叩き合いながらも、男たちの表情にはどこか晴れやかな絆が宿っていた。

足元では、真昼から削りたての本枯節をもらったベルが、黒鉄のかまどの前で暖かそうに丸くなり、幸せそうに喉をゴロゴロと鳴らしている。


手狭だった山小屋の台所は、最高の火力を誇る「石造り二連かまど」という強固な心臓部を手に入れた。

煙の消えた快適な空間で、これからどんな料理を生み出し、どんな風に仲間たちの胃袋を満たしていけるだろう。

赤飯のほのかな甘い余韻が残る森の昼下がり、真昼の胸には、無限に広がるあたたかな日常への希望が、薪の炎のように力強く灯っていたのだった。

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