第16話:森の迷い子と、フライパン焼き芋のぬくもり
正午を過ぎた森の空気は、朝方のキリリとした冷たさから一変し、初夏の柔らかな温もりを帯びていた。
豪快極まりないスタミナ炒め丼を文字通り胃袋へ吸い込んだジークフリートとクラウスの二人は、「午後からの全体教練に遅れるわけにはいかん」と、名残惜しそうに何度も振り返りながら宿舎へと戻っていった。
嵐のような男たちが去ったあとの広場には、小鳥の澄んださえずりと、梢を渡るさわさわという風の音だけが戻っていた。
「……ふぅ。静かになったねぇ、ベル」
真昼は完成したばかりのナラのウッドデッキの上に腰を下ろし、深く息を吐き出した。
大人十人が乗ってもびくともしない頑丈な厚板は、表面が吸い付くように滑らかに磨き上げられており、直射日光を吸ってほんのりと人肌のように温かい。
足元では、純白の毛並みを持つ神獣ベルが、真昼の足首に顎をちょんと乗せて、気持ちよさそうに目を細めていた。
真新しい木の香りと、木漏れ日の斑模様。
かつて満員電車の軋み音とオフィスの電話のコール音に神経をすり減らしていた日々が、まるで遠い前世の記憶のように感じられる。
「さてと。夕方までまだ時間があるし、ハーブでも摘みに行こうか」
真昼は立ち上がり、祖母の形見である竹編みの手提げ籠を手に取った。
カフェ『野良時計』の店主・聡美に約束した、ルミナスベリーのジャムの定期納品。その追加の試作品として、森に自生している野生のミントやカモミールに似た爽やかな野草をブレンドした、オリジナルのハーブティーを開発してみたいと考えていたのだ。
ベルが「わふっ」と短く鳴いて立ち上がり、尻尾を軽快に振りながら真昼の前を歩き出す。
小屋の裏手から続く木立の小道を、落ち葉を踏みしめながら進む。
木漏れ日を透かして輝く瑞々しい緑の葉先から、指先で優しくハーブの若芽を摘み取るたび、爽快なメントールと林檎に似た甘い香りが指先に移った。
籠の底が鮮やかな緑で満たされ始めた、その時だった。
――ガサリ。
木立の奥、深い熊笹と茨が茂る斜面のあたりから、不自然に乾いた音が響いた。
真昼はピタリと指を止め、息を呑んだ。
風の音ではない。何かが足をもつれさせ、倒れ込んだような鈍い音。
魔獣だろうか。ジークフリートから「小屋の周囲は掃討してあるが、深部の獣道には近づくな」ときつく言われていたことが脳裏をよぎり、真昼の背筋に冷たい汗が伝う。
籠を抱きしめ、後ずさりしようとした――だが。
「くぅん」
真昼の足元にいたベルが、まったく警戒する様子もなく、むしろ不思議そうに首を傾げたのだ。
敵意を察知したときの、あの背筋の毛を逆立てて雷鳴のような唸り声を上げる姿はどこにもない。
ベルは短い尻尾をふりふりと揺らしながら、トコトコと迷いのない足取りで、音がした茂みの隙間へと歩み寄っていった。
「ベ、ベル!? 危ないよ!」
真昼が小声で呼び止めるのも聞かず、ベルは前足で器用に藪をかき分け、奥を覗き込んで「わふ」と真昼を呼ぶように短く鳴いた。
恐る恐る、真昼も爪先立ちで藪の向こうを伺う。
そこに転がっていたのは、牙を剥く獰猛な獣――などでは決してなかった。
「……えっ……? うそ、子ども……!?」
思わず声が裏返った。
湿った苔と落ち葉の吹き溜まりの中に、小さな人影がうずくまるようにして倒れていたのだ。
年は十二、三歳ほどだろうか。
着ている粗末な麻の服はあちこちが引き裂かれ、泥と木のヤニで真っ黒に汚れている。細い手足には無数の擦り傷や引っかき傷が痛々しく走り、背中には身体の割に大きな、ボロボロの背負い籠が括り付けられていた。籠の隙間からは、萎れた薬草の束と、小さな錆びた草刈り鎌が覗いている。
浅く、荒い呼吸。
土気色の頬には冷や汗がびっしりと浮き上がり、乾ききった唇がわずかに震えていた。
「だ、大丈夫!? しっかりして!」
真昼は籠を放り出し、泥汚れも気にせず駆け寄って膝をついた。
抱き起こすと、驚くほど軽い。骨と皮ばかりに痩せ細った小さな身体は、真夏の昼下がりだというのに、氷のように冷え切っていた。
真昼の声に反応したのか、泥にまみれた長い睫毛がかすかに震え、重たげな瞼が数ミリだけ開かれた。
覗いたのは、焦茶色の、焦点の合わない大きな瞳。
「……み……ず……」
掠れた、蚊の鳴くような声。
それだけを絞り出すと、少年は力尽きたように再びぐったりと真昼の腕の中に頭を預けてしまった。
「待ってて、今あたたかいところへ連れて行くからね!」
真昼は華奢な腕に力を込め、少年をしっかりと抱き抱えた。
ベルが周囲の安全を確かめるように先導して走り、真昼は息を切らせながら広場へと戻る。
完成したばかりのナラのウッドデッキ。木漏れ日が降り注ぐあたたかな日陰のベンチの上に、古民家から持ってきた清潔な毛布を敷き、少年をそっと横たえた。
***
まずは水分だ。
真昼はステンレス作業台へ走り、ジークフリートが汲んできてくれた湧き水をやかんに入れ、カセットコンロで素早く白湯を沸かした。
冷たい水を一気に飲ませれば、弱りきった胃痙攣を起こしてしまう。人肌程度に冷ましたぬるま湯に、ほんの少しの粗塩ときび砂糖を溶かし、即席の経口補水液を作る。
少年の頭を優しく持ち上げ、木のスプーンで一滴、二滴と唇を湿らせていく。
「ん……っ……ごく……」
乾ききっていた喉が、本能的に水分を吸い上げていく。
スプーンで何杯か飲ませるうちに、少年の呼吸が次第に深く、落ち着いたリズムへと戻ってきた。
濡らした手ぬぐいで顔の泥を丁寧に拭き取ってやると、泥の下から現れたのは、日に焼けた健康的な肌と、まだあどけなさを残した利発そうな少年の顔立ちだった。
「……う……ん……」
やがて、少年がゆっくりと目を開けた。
見慣れない立派なウッドデッキ、木漏れ日の温もり、そして目の前で心配そうに自分を覗き込む真昼の顔を捉えた瞬間、少年の身体がビクッと跳ね上がった。
「ひっ……!? お、お化け……!? 天国……!?」
「お化けじゃないよ、大丈夫。ここは森のログハウス。あなたが倒れていたから、連れてきたの」
真昼が穏やかに微笑みかけると、少年は呆然と周囲を見回した。
そして、足元で大人しく座っていた純白の毛玉――ベルと目が合った瞬間、少年は息を呑んで硬直した。
「し、白い狼……!? まさか、森の神獣様……!? ぼ、僕、食べられちゃうの……!?」
「食べたりしないよ。ベルは優しい子だからね。……それより、あなた、どうしてあんな森の奥にいたの?」
真昼が優しく問いかけると、少年の大きな瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
少年の名は、ルッツ。
森の麓にある開拓村に住む、十二歳の薬草採りの見習いだった。
村の診療所で使う貴重な止血草を採るため、立ち入り禁止区域の境界付近まで足を踏み入れたところ、突然立ち込めた深い霧に巻かれて方向を見失い、二日二晩にわたって森の中を彷徨い続けていたのだという。
「……怖かった……っ。水筒の水もなくなって、木の葉をかじって歩いてたけど……足が動かなくなって……もう死ぬんだって思って……っ」
「怖かったね……よく頑張ったね、ルッツくん。もう大丈夫だからね」
真昼が少年の泥だらけの頭をそっと撫でてやると、ルッツは子どものようにしゃくりあげて泣いた。
その時だった。
――グゥゥゥゥ……キュルルルルルッ。
静かなテラスに、ルッツのペコペコにへこんだお腹から、切実極まりない音が盛大に鳴り響いた。
ルッツは真っ赤になって両手でお腹を押さえ、恥ずかしそうに身を縮こまらせる。
二日間の完全な絶食。身体のエネルギーは完全に底をついていた。
「あはは、お腹が空くのは生きてる証拠! 今、何かすぐ食べられるものを作るね」
真昼は立ち上がり、キッチンスペースへと向かいながら素早く考えを巡らせた。
何を食べさせるべきか。
二日間も胃が空っぽだった子どもに、先ほどの豚肉スタミナ丼のような油っこい肉料理は絶対に駄目だ。消化不良を起こして激しい腹痛に襲われてしまう。
雑炊やおかゆもいいが、今の彼に必要なのは、極限まで低下した血糖値を優しく、だが確実に引き上げ、冷え切った内臓を芯から温める、消化の良い炭水化物。
真昼の脳裏に、ある食材が閃いた。
「……そうだ、あれがあった!」
真昼は奥納戸の押し入れゲートをくぐり、古民家の土間へと走った。
昨日、業務スーパーとホームセンターへ行った際、地元の農産物直売所の店先で見かけて思わずカゴに入れておいた、段ボール箱の中身。
そこには、赤紫色の美しい肌をした、丸々と太ったサツマイモ――極上の『紅はるか』が三本、鎮座していた。
***
「よしっ、フライパンでじっくり焼き芋を作ろう!」
真昼は水道の冷たい井戸水で、サツマイモの表面の土を優しく洗い落とした。
皮には一切の傷をつけない。サツマイモの甘みを極限まで引き出すためには、皮という天然のシールドで水分と香りを完全に閉じ込める必要があるからだ。
ここからが、真昼直伝の『フライパン極上焼き芋』のテクニックだった。
洗ったばかりの水気が滴るサツマイモを、まずは清潔なキッチンペーパーで隙間なく二重に包み込む。
さらにその上から、蛇口の水をしっかりと含ませて、ペーパー全体をびしょびしょに濡らした。
そして、その濡れペーパーの上から、家庭用のアルミホイルを隙間なく、二重にピッチリと巻きつける。両端をキャンディのように固くねじり、内部の蒸気が外へ逃げないよう完全密封した。
「サツマイモの甘みは、アミラーゼっていう酵素がデンプンを麦芽糖に変えることで生まれるんだよね……」
アミラーゼが最も活発に働く温度は、六十度から七十度のあいだ。
電子レンジで急激に加熱してしまうと、この温度帯を一瞬で通過してしまい、甘みが引き出される前に火が通ってしまう。
だからこそ、濡れペーパーで急激な温度上昇を防ぎ、弱火でじっくりと時間をかけて加熱することが、蜜あふれる焼き芋を作るための絶対条件なのだ。
深型のテフロン加工フライパンの底に、大さじ三杯ほどの湧き水を張る。
その上に、クッキングシートを一枚敷き、アルミホイルで包んだサツマイモを二本、並べ入れた。
ぴったりとガラス蓋を閉め、カセットコンロのつまみを回す。
火力は――極弱火。
消えるか消えないかというほどの、極小のとろ火に合わせる。
チクタク、チクタク。
フライパンの中で、底に張った水が温まり、クッキングシートの下で微かな蒸気となって循環し始める。
濡れペーパーのスチーム効果と、フライパン内部の密閉熱。
二重の熱伝導によって、サツマイモの中心温度はまさにアミラーゼの理想郷である六十五度前後をキープし続ける。
十五分おきに、トングでサツマイモを転がし、均一に熱を当てていく。
三十分、四十分と時間が経つにつれ、フライパンの蓋の隙間から、信じられないほど甘美な香気が立ち上り始めた。
ただの芋の匂いではない。まるで上質なカラメルや蜂蜜をじっくり煮詰めたかのような、濃厚で香ばしい糖蜜の薫香。
アルミホイル越しにも、サツマイモが自身の糖分によって水分を失い、ねっとりと柔らかく凝縮されていく気配が伝わってくる。
加熱すること、約一時間。
真昼は竹串を取り出し、アルミホイルの上からサツマイモの中央へとそっと差し込んだ。
――スッ……。
抵抗など、微塵もなかった。
まるで温かいバターに針を通したかのように、竹串が吸い込まれるように奥まで通る。
「……完璧!」
真昼は火を止め、トングで熱々のアルミホイル包みを木製の角皿の上へと取り出した。
***
ウッドデッキで毛布にくるまり、ベルの頭を恐る恐る撫でていたルッツの鼻腔を、ふわりと甘い風がくすぐった。
「……ん? な、なにこの匂い……すごく、あまい……」
ルッツが顔を上げた先から、真昼が湯気を立てるお皿を両手に抱えて歩み寄ってきた。
銀色の包みからは、パチパチと微かな爆ぜる音が聞こえ、焦がした糖蜜の香りがウッドデッキいっぱいに広がっていく。
「ルッツくん、お待たせ! 焼きたてのお芋だよ」
真昼はミトンをはめた手で、銀色のアルミホイルを端から慎重に剥がしていった。
中から現れたのは、水分を吸って茶色く色づいたキッチンペーパー。それをぺろりと剥がした瞬間――。
――ボワッ……!
純白の、濃密な蒸気が立ち上った。
その中から現れたのは、皮がシワシワに縮み、ところどころから焦げ茶色の蜜がプツプツと泡を立てて滲み出ている、見事なサツマイモだった。
真昼は両手で熱い芋を包み込み、中央からパキリと二つに割ってみせた。
――ホワァァァッ……!
「…………っ!!」
ルッツの焦茶色の瞳が、驚愕のあまり限界まで見開かれた。
割れた断面から現れたのは、ホクホクとしたパサつく芋の姿ではなかった。
息を呑むほどに鮮やかな、黄金色の輝き。
繊維の隙間という隙間から、まるで上質のハチミツをたっぷりと注ぎ込んだかのように、透明な蜜がじわり、じわりと洪水のように溢れ出し、断面を濡らしている。
スプーンですくえそうなほどに、トロトロで、ねっとりとした艶やかな質感。
「あつあつだからね。フーフーして、気をつけて食べてね」
真昼が半分に割った黄金の塊を、清潔な紙ナプキンで包んでルッツの手へと渡した。
ずっしりとした重みと、手のひらを包み込むような温もり。
立ち上る甘い湯気だけで、ルッツの口の中には耐えきれないほどの唾液が満ちていた。
ルッツは両手で震えながら芋を持ち上げ、フーフーと息を吹きかけると、意を決して黄金色の断面にかぶりついた。
――ハフッ、トロンッ……!
刹那。
ルッツの全身が、ビクンと跳ね上がった。
「……………………ッ!?」
噛む必要など、どこにもなかった。
熱い黄金の果肉が舌の上に乗った瞬間、まるで極上のカスタードクリームのように、とろりと滑らかに溶けて崩れていったのだ。
そして、口いっぱいに爆発したのは――暴力的なまでの『甘み』だった。
砂糖の尖った甘さではない。大地の滋養と太陽の光を極限まで濃縮したような、どこまでも深く、濃厚で、コクのある自然の甘み。
皮の焦げた部分の香ばしい苦みが絶妙なアクセントとなり、甘ったるさを微塵も感じさせない。
飲み下した瞬間、熱い蜜が喉を滑り落ち、空っぽだった胃袋の奥底へと、温かい光となって染み渡っていった。
「あ……あっま……! な、なにこれ……!? お砂糖入ってるの……!? これ、本当にお芋なの……!?」
ルッツは目を白黒させながら叫んだ。
開拓村で食べるサツマイモといえば、灰の中で焼いた、喉に詰まるようなパサパサとした救荒作物でしかなかった。
こんな、噛まなくても飲めるほど滑らかで、高級な砂糖菓子よりも甘く、蜜が滴るような食べ物など、生まれてこの方見たことも聞いたこともなかった。
「ふふ、お砂糖なんて一粒も入ってないよ。お芋が持ってる自分の力だけで、こんなに甘くなるんだよ」
「う、嘘だ……信じられない……! うまい……うまいよぉ……っ!」
ルッツの目から、大粒の涙がポロポロと零れ落ち、黄金色の芋の上に落ちた。
ハフハフ、ハフハフと、熱さに息をつきながら、少年は夢中で焼き芋にかぶりついた。
一口食べるごとに、凍えきっていた身体の隅々まで温かい血が巡り、指先の感覚が戻ってくる。
あっという間に半分を平らげ、真昼が差し出したもう半分にも貪るように喰らいつく。
最後の一口を飲み込み、皮の内側についた蜜まで綺麗に舐め尽くしたルッツは、ふぅと長い、至福のため息を漏らしながら、ベンチの上にぺたりと座り込んだ。
その頬には、血色がすっかり戻り、健康的で柔らかな赤みが差していた。
「ごちそうさまでした……! 僕、こんな美味しいもの食べたの、生まれて初めてです……!」
ルッツは深々と頭を下げた。
そして、ふと思い出したように自分の胸元に手を伸ばすと、服の下から、擦り切れた革紐に結ばれた一枚の丸まった古びた紙を取り出した。
丁寧に鞣された、厚手の羊皮紙。
ルッツはそれを真昼の前で、両手で大切そうに広げてみせた。
「あの……お姉ちゃん。命を助けてもらったお礼に……これ、受け取ってください!」
真昼はその羊皮紙を覗き込み、思わず息を呑んだ。
そこには、精緻な手書きの線で、この広大な森の詳細な地図がびっしりと描き込まれていたのだ。
単なる地形図ではない。
『清らかな精霊の湧き水』『甘い木の実の群生斜面』『珍しいキノコの生える倒木地帯』、そして『凶暴な大角鹿の縄張り』『危険な毒蛇の沼』――。
代々の村の薬草採りたちが、命がけで森を歩き回り、身体で覚えて書き足し続けてきたという、門外不出の「生きた森のガイドマップ」だった。
「僕、薬草採りだから、森の歩き方なら誰よりも詳しいんです! この小屋の周り、すごく安全だけど、少し東に行くと美味しい木の実がたくさんあるし、北の崖下には年中澄んだ水が湧いてる場所があるんです! ……お姉ちゃん、森の果物集めてるんでしょ? これ、きっと役に立つと思うから!」
少年の純粋で真っ直ぐな感謝の贈り物。
真昼の胸が、じんわりと熱くなった。
押し入れゲートの向こうの森は、未知の危険と隣り合わせだった。だが、この地図があれば、どこに安全で豊かな恵みがあるのかが一目で分かる。これ以上ないほど心強く、価値のある宝物だった。
「ルッツくん……ありがとう! 大切に、大切に使わせてもらうね」
真昼が満面の笑顔で受け取ると、ルッツは誇らしげに胸を張って笑った。
足元で丸くなっていたベルが、ルッツの膝にぽてんと前足を乗せ、「よくやった」とでも言うように短く「わふ」と喉を鳴らす。
ルッツは「わぁ、神獣様が触ってくれた!」と大喜びでベルの背中を撫でた。
夕暮れの柔らかな光が、ナラのウッドデッキを黄金色に染め上げていく。
冷徹な騎士団長と生真面目な副官に続き、今度は元気いっぱいの薬草採りの少年が、真昼のあたたかな食卓の仲間に加わった。
フライパンで焼いた一本の甘い焼き芋の温もりから、ふたつの世界を結ぶスローライフは、またひとつ、優しく豊かな広がりを見せていたのだった。




