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王と妾妃の愛物語  作者: 一乃松可奈
2章 王宮
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26話 帰還

 なんとか乾いて良かった。

 取り込んだ洗濯物をたたみながら、メイドとして屋敷で働き出して三年目となる彼女は思う。

 今日は朝からどんよりとした雲が空をおおっていたから、夕方までに乾くか不安だったのだ。


(やっぱり、天日干しした方が気持ちいいわ)


 天日干しした時特有の洗濯物の匂いが、彼女は好きだった。

 たたみ終えた洗濯物を片付て、機嫌よく部屋を出る。

 廊下にある窓の外を見れば、日が落ち始めていた。

 そろそろ外に出掛けている奥様が帰ってくるころだろうか。

 そんなことを考えながら、正面玄関へと続く階段を降りる。

 その時。

 ――コンコン。

 玄関の扉が叩かれた。


(こんな時間にお客様?)


 今日は来客の予定はなかったはずだが、何かあったのだろうか?

 彼女は内心で首を傾げながらも、玄関に向かい扉を開けた。

 そこにいたのは、精悍な面差しの男だった。


「この屋敷の主人に取り次ぎを願いたい」


 名乗りも上げず、不躾に要求だけを告げてくる訪問者に、彼女は僅かに眉をひそめた。


「失礼ですが、お約束はしておられるのですか?」

「いや、それはしていない」


 内心、そうだろうと彼女は頷く。

 この屋敷の主人は、今は外出中の奥様である。

 その奥様からは今日誰かが訪れる予定があるとは聞かされていない。


「今、この屋敷に主人はおりません」

「そうか。では、戻ってくるまで待たせてもらっても?」

「え、それは……」


 奥様はまだ戻られていない。

 とはいえ後半刻と経たずに戻ってくるだろうから、中で待っていてもらうべきだろうか?

 だが、今日は誰かがこの屋敷を訪ねてくるとは聞かされていない。

 約束を取り付けてもいない者を勝手に屋敷に入れてもいいものなのか。


「どうかしたの?」


 彼女が返答に迷っていると、奥の部屋から先輩のメイドが出て来た。

 それにホッと安堵の息を吐く。

 先輩のメイドは、彼女よりも二年ほど長くこの屋敷で働いて働いている。

 良かった、ここは彼女に任せよう。


「あ、あの、この方が主人に取り次ぎをと……」

「取り次ぎ?」


 彼女の言葉を聞いた先輩のメイドは、そのまま顔を動かし扉の影にいた男を視界に入れ――僅かに目を見開いた。


「あら、貴方――」

「お久しぶりです」


 どうやら知り合いらしい。

 男は先輩のメイドに向かって軽く頭を下げた。


「ラファード、貴方がここにいるということは、あの方も?」

「はい。馬車の中におられます」

「そうですか。馬車の中で待つのは窮屈でしょうし、どうぞ屋敷の中へお連れください」

「今、呼んで参ります」


 ラファードと呼ばれた男は頷くと踵を返した。

 彼女には目の前で交わされていた会話はよく分からない物だったが、どうやら奥様が戻られるまで屋敷の中で待たせることになったようだということは理解した。

 ラファードというらしい男が向かった先、門の前には一台の馬車があった。

 彼は馬車のドアを開け、中にいる人物と会話をしている。

 しばらくした後、馬車の中から一人の人物が降りてきた。

 少し癖のついた焦げ茶色の髪の小柄な女性だ。

 腕に小さな幼子を抱きかかえている。

 地面に降り立った女性は屋敷の入口に目を向け、そこに立って一連の流れを見ていた彼女と先輩のメイドにふわりと微笑んだ。




 エスタント国の王太子宮から妾妃が忽然と姿を消してから約四年。

 その日、妾妃――シシルがエスタント国に戻ってきた。


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