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魔法特許庁ーーその魔法、違法ですーー  作者: にけ


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「リアからの連絡」

翌日だった。


サクは宿舎で休んでいた。


頭部の打撲は、検査で異常なしと確認されていた。ただ、安静にするよう言われていた。


ハルトはIMPOに出勤した。


デイヴィッドが声をかけてきた。


「昨日の件、大丈夫でしたか。知人の方は」


「軽傷でした。今日は安静にしています」


「よかったです。警察の調査は進んでいますか」


「昨日の段階では、まだ原因を調べているとのことでした」


「何かできることがあれば言ってください」デイヴィッドは言った。「IMPOとして動ける範囲で、サポートします」


「ありがとうございます」


---


午前中、通常業務をこなした。


ただ、集中しきれなかった。


昨夜、頭の中に浮かんだ名前が、消えていなかった。


確認できる根拠は、まだなかった。


ただ、記録として持っていた。


---


昼過ぎだった。


リアから連絡が来た。


メッセージではなく、電話だった。


珍しかった。


出た。


「はい」


「神崎さん、今話せますか」リアは言った。


「はい。少し外に出ます」


廊下に出た。


「話せます」


「はい」リアは言った。少し間を置いた。「昨日、佐久間さんの研究室で爆発があったと聞きました」


「はい。佐久間さんは軽傷でした。現在、安静にしています」


「よかったです。神崎さんは」


「私は無事です。爆発のときはIMPOにいました」


「そうですか」リアは言った。また少し間を置いた。「神崎さん、一点、お伝えしたいことがあって電話しました」


「はい」


「神宮寺主任のことです」


---


ハルトは少し間を置いた。


「はい」


「神崎さん、先週、神宮寺主任がサンフランシスコを訪問したとのことですね」


「はい。仕事の出張で来られていました。火曜日の夜に食事をしました」


「そうですか」リアは言った。「その件も含めて、お伝えしたいことがあります」


「はい」


「先に確認させてください。神崎さんは、神宮寺主任のことを、どう思っていますか」


ハルトは少し間を置いた。


「信頼できる先輩だと思ってきました」ハルトは言った。「ただ、最近、少し引っかかりを感じています」


「引っかかりを感じている、ですか」


「はい。先週の食事のとき、照会の内容を詳しく知りすぎているという感覚がありました。確認できる根拠はありません。ただ、記録として持っていました」


「そうですか」リアは言った。少し間があった。「神崎さんが引っかかりを感じていたなら、私が伝えることは、その確認になるかもしれません」


「はい」


「神崎さん、落ち着いて聞いてください」


「はい」


---


リアは続けた。


「先月、MPBに国際連携部を通じた照会が届きました。佐久間さんの実証実験に関連する内容でした。神崎さんからも、その件について報告をいただきました」


「はい」


「その照会の処理をする過程で、私は照会の発信元を詳しく確認しました」リアは言った。「表向きは、IMPOの国際連携部からの正式な照会でした。ただ、照会の中に含まれていた情報の出所を追いかけると、一つの経路に行き着きました」


「はい」


「魔法庁の審査連携部です」


ハルトは少し間を置いた。


「魔法庁の、審査連携部ですか」


「はい」リアは言った。「照会に含まれていた情報の一部が、魔法庁の内部記録に基づいていました。その記録へのアクセス権を持っている人間は、限られています」


「はい」


「神崎さんが魔法庁に出向していた際に、接触のあった人間の範囲です」


ハルトは頭の中で、その範囲を確認した。


堂島部長。藤本。倉田主任。そして、神宮寺主任。


「はい」


「その中で、アクセスの記録が残っていた人間が一名います」リアは言った。「神宮寺主任です」


---


ハルトは少し間を置いた。


「神宮寺主任が、照会の情報源だったということですか」


「断定はできません」リアは言った。「ただ、アクセスの記録は残っています。神宮寺主任が、該当する記録を参照していた痕跡があります」


「その痕跡が、照会と繋がっていると」


「直接の証拠ではありません。ただ、状況として繋がっています」リアは言った。「私が確認できたのは、ここまでです。ただ、神崎さんに伝える必要があると判断しました」


「はい」


「神崎さんが感じていた引っかかりと、私が確認したことが、同じ方向を向いています」リアは言った。「だから、電話しました」


「ありがとうございます」


---


少し間があった。


「白銀主任」ハルトは言った。


「はい」


「昨日の爆発について、何かご存知ですか」


「爆発があったことは、今日知りました。調査中だということも」リアは言った。「ただ、神宮寺主任との繋がりについては、今の段階では確認できていません」


「はい」


「神崎さんは、繋がっていると思いますか」


ハルトは少し考えた。


「可能性はあると思っています。ただ、根拠がありません」


「根拠のないことは、今は言わなくていいです」リアは言った。「ただ、記録として持っておいてください」


「はい。持っています」


「神崎さん」リアは言った。


「はい」


「神宮寺主任には、気をつけてください」


ハルトは少し間を置いた。


「気をつける、というのは、具体的にはどういうことですか」


「研究の情報を、主任に話さないことです」リアは言った。「佐久間さんの研究の内容も、実験の進捗も、話さないでください。主任から聞かれても、答えない方がいいと思います」


「はい」


「それから」リアは言った。「神崎さん自身のことも、話しすぎないでください」


「私自身のこと、ですか」


「神崎さんが魔法を使えたという件も、主任はすでに知っているかもしれません。ただ、それ以上の情報は、渡さない方がいいと思います」


「はい。わかりました」


---


「白銀主任」ハルトは言った。


「はい」


「なぜ、神宮寺主任がそういう動きをしていると思いますか」


リアは少し間を置いた。


「わかりません」リアは言った。「ただ、一つ気になっていることがあります」


「はい」


「神宮寺主任は、非適合者の問題について、公の場では中立的な立場を取ってきました。ただ、私が長年一緒に仕事をしてきた中で、時折、違和感を感じることがありました」


「違和感、ですか」


「非適合者が関わる案件で、判断が遅れることがありました。推薦する人間の属性に、偏りがあることがありました。ただ、どれも断定できるものではなかった」リアは言った。「ただ、今回の件と合わせて考えると、違和感の積み重ねが、一つの形を取ってきた気がします」


「はい」


「それが正しいかどうかは、まだわかりません」リアは言った。「ただ、神崎さんには伝えておく必要があると思いました」


「はい。ありがとうございます」


「神崎さん、一つだけ聞いていいですか」


「はい」


「神宮寺主任を、信頼していましたか」


ハルトは少し間を置いた。


「はい。信頼していました」ハルトは言った。「ただ、信頼していたからこそ、引っかかりを感じたときに、整理できませんでした」


「そうですか」リアは言った。静かな声だった。「それは、辛いことだと思います」


「はい」


「ただ、神崎さんが引っかかりを感じていたことは、正しかったと思います」リアは言った。「感じた違和感を、記録として持っていた。それが、今日の話に繋がりました」


「はい」


「これからも、記録として持ち続けてください」リアは言った。「確認できることが増えれば、また連絡します」


「はい。よろしくお願いします」


「神崎さん、気をつけてください。佐久間さんのことも」


「はい。気をつけます」


---


電話が切れた。


廊下に立っていた。


しばらく、動かなかった。


頭の中で、今の話を整理した。


魔法庁の記録へのアクセス痕跡。ソウの名前。照会の情報源。


全部、頭の中に入れた。


---


ソウとのことを、頭の中で確認した。


MPBに入庁した日から、ソウは頼れる先輩だった。


魔法庁への出向を話を通してくれた。


困ったとき、飯を食いに来てくれた。


アメリカにも、会いに来てくれた。


全部、記録として残っていた。


ただ、今日、その記録に、別の記録が重なった。


アクセスの痕跡。照会の情報源。昨夜、頭の中に浮かんだ名前。


全部が、今日、一つの方向を向き始めた。


ただ、断定はできなかった。


断定できない記録は、断定できないまま持っておく。


それが今できることだった。


---


デスクに戻った。


業務を再開した。


ただ、午後の仕事は、いつもより少し手が遅かった。


頭の中に、記録が増えすぎていた。


業務の記録と、今日の記録が、同じ場所にあった。


---


夕方、宿舎に帰った。


サクがいた。


少し顔色がよくなっていた。


「どうだった、今日」サクは言った。


「色々ありました」


「何があったの」


ハルトは少し間を置いた。


「話したいことがあります。ただ、今夜、全部話せるかわかりません」


「急がなくていいよ」サクは言った。「ゆっくり話して」


「はい」


二人でソファに座った。


しばらく、黙っていた。


「ハルトくん」サクは言った。


「はい」


「顔が、いつもと違う」


「そうですか」


「うん。何かを抱えている顔」サクは言った。「ちゃんと見たことがある顔だよ。私が施設にいたとき、弁護士経由で伝言が来るたびに、こういう顔だったんじゃないかって想像してた」


「そうかもしれません」


「話せるときに、話して」サクは言った。「私は聞く」


「はい」


---


少し間があった。


「一つだけ、今日聞いたことを話します」ハルトは言った。


「うん」


「神宮寺さんに、気をつけてほしいと、白銀主任から言われました」


サクは少し間を置いた。


「神宮寺さんが、何かしたということ?」


「確認できていることと、確認できていないことがあります。ただ、照会の情報源として、神宮寺さんの名前が出てきました」


「照会の情報源、か」サクは言った。「先週、ハルトくんが確認したいって言っていたやつ」


「はい」


「昨日の爆発とも、繋がっているかもしれない?」


「可能性はあります。ただ、根拠がありません」


サクはしばらく黙っていた。


「神宮寺さんって、ハルトくんの信頼している先輩じゃなかった?」


「はい。信頼していました」


「それが、今日、変わったんだね」サクは言った。


「変わった、というより」ハルトは言った。「記録が、重なってきました」


「記録が重なる、か」サクは言った。「ハルトくんらしい言い方だね」


「はい」


「辛くない?」


ハルトは少し考えた。


「辛い部分は、あります」


「うん」サクは言った。「そうだよね。信頼していた人間の名前が出てきたんだから」


「はい」


「ハルトくん、気をつけて」サクは言った。「私のことも気をつけてくれているのはわかってる。ただ、ハルトくん自身も、気をつけて」


「はい」


「私たち、二人で気をつける」サクは言った。「それだけだよね、今できることは」


「はい。そうだと思います」


---


夜が深くなった。


サクは眠った。


ハルトはしばらく起きていた。


今日のことを、もう一度頭の中に入れた。


リアの電話。「気をつけてください」という言葉。アクセスの痕跡。照会の情報源。ソウの名前。サクの「記録が重なる、ハルトくんらしい言い方だね」という言葉。


全部、残った。


信頼していた人間の名前が、記録の中に出てきた。


それが事実かどうかは、まだわからなかった。


ただ、記録は積み上がっていた。


繋がる日が来る。


ソウがそう言っていた言葉が、頭の中に浮かんだ。


消えない場所に、持っておいた。


窓の外に、サンフランシスコの夜があった。


サクの寝息が聞こえた。


それを確認してから、目を閉じた。


---


第八十九話 了

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